192話 レイン始動
sideレイン
「ん、ぁ……?」
レインの眼が薄く開かれる。
眠っていたのだ。
勇神と言う神の襲撃のせいで吹き飛ばされ、見るも無残な部屋となっていたが、今はすっかり元通りになり大きなキングサイズのベットに一人優雅に微睡んでいた。
レインが起きたのは、神界の滅びを感じたからだ。
「んんぅーーーッふぁ」
背伸びをし、軽く欠伸をする。
上体を起こし、顔にかかっていた純白の髪を払う。そして、後頭部へ手をやり、手櫛で梳き整える。
「ふぅ……」
もう一度背伸びを眼を神界の方へ向ける。
すると、そこは海底神殿と言える光景が広がっていた。
溺れ死んだ者、水により潰された者。神界が水で埋め尽くされていた。
レインはそんな光景の中、視点を動かし、隅々まで見渡す。
異空間を創り、そこへ逃げ込んだ者もいたようだが、効果はなかったようだ。異空間に亀裂が入り、ダムが決壊するかのように流れ込んでいる。
「ふむふむ。生き残りは……多少いるが、もう終わりだな」
『全視』を使い、神界を見る限りほぼ全滅だ。
ほぼ、と言うのは、生き残った、逃れた者もいると言うこと。
禁を破り、己が世界へ逃げ込んだ者、水神など水を己が領域とする者は辛うじて逃れていた。神界は滅亡したと言っていい程だ。
何万、何十万と言う神族が一夜にして滅ぼされた。もはや、勝敗は決した。
そもそもが、ゼウスに全ての望みを懸けていた。
確かに神王として、全神族の頂点として、君臨してきた。それは、まずその実力があってのものだ。誰もが、最初からゼウスに対して傅いていたわけではない。中には、ゼウスを殺し、自分が神王になろうと目論んでいた者がいなかったわけではないのだ。その辺は人間と何ら変わりない。
だが、そんな者共を退け、圧倒的な力を持って打倒してきた。
よって、尊敬され畏怖されている。
それほどゼウスの力は信頼されていた。
だが、そのゼウスが負けた。
負けるはずがない、と思われたいたゼウスの死。それは、どれだけの絶望だっただろうか。
ゼウスが勝てないのに、自分たちが勝てるわけない。それでも、戦わなければただただ殺されるだけ。だが、歯向かっても敵わない。それでも……そう言ったぐちゃぐちゃとした考えも全て水に流されることになった。
「ふふ……神界を喰わせてやったんだ。それなりにはなってるよな?」
眼を飛ばし確認している内にぼーっとしていた頭は冴え渡り、続いて気分が高揚しだす。
『犠牲』と言う魔法がある。何かを犠牲にして使う、どの世界でも『禁忌指定』を受けている魔法だ。一般的に人の命を贄にすることが多いことから、禁忌と言われている。
そして、レインは神界にいる神族全てを見殺しにした。
「それに、ゼウスも奥の手を使ったみたいだしな」
奥の手。それは、『神煌樹之長杖』のただ一つの能力。『創命樹』と言うとにかく巨大な樹を創り出す、と言うもの。これの本当の特性は、周囲のエネルギーを吸収し、成長する、と言うものだ。水は言わずもがな、魔力、呪力、霊力、その他もろもろ……果てには、魂させも。魂とは、簡単に言えば、高純度のエネルギーの塊だ。
そして、『創命樹』を発動した瞬間、ゼウスを喰らい、グーレルの権能によって生み出された海を魔力を喰い、もし気付くのが遅れていたら、そのままゼウスの創った異空間を砕き壊し、神界へと浸食。神界へ根を伸ばし、さらに下界へと干渉していたかもしれない。その間、様々なものを吸収しながら。
「神族も雑魚とはいえ、それなりの魂だからな。美味しいだろうさ」
しかしその侵攻は十神将の二人の機転により防がれた。
「よし!世界は管理者を失ったが、それでも、すぐに何か起こると言うわけでもないしな。俺は待っとくだけいい」
神界を滅ぼしたのなら次は様々な世界へと移るだろう。
戦争も王を殺したのなら、次はその王が治めている国を掌握しにかかる。それと同じだ。
その時、『神の國』はレインと言う存在に気が付くだろう。
と言うより、気付くよう差し向けている。
これからは、少しずつ表舞台へと上がっていくつもりだ。
「循環は滞るが、それもいい。後は、十神将とか言う奴らと、神皇と言う奴に期待するとするか」
レインが大量発生した世界を黙認してきたのにも理由がある。
世界が出来ればそれだけ、生命も生まれると言うことだ。ならば、突然変異した生命が誕生しても不思議ではない。例えばアシュエルしかり、ソフィアしかりだ。
強い存在が誕生する確率が上がれば、レインと互角とまではいわずとも、片腕程度は落とせる者もあらわれるかもしれない。それを望んでいた。
だが、『神の國』と言う外来宇宙の神が干渉してきた。
レインはそこへは手を出すつもりはなかったが、向こうから手を出してきたなら話は別。なら、精一杯手を貸し、力を、存在としての格を上げてもらい、自分と戦えるようになってもらおうじゃないか。と言うレインの考えのもと、哀れにも犠牲となった神界諸君だった。
「愉快愉快……感情と言う面では人も神も変わらん。欲とは際限なく沸きあがる泉。一つの目的が達成されれば次が。次から次へと沸きあがってくる。統治者を倒せば、その者の全てが手に入る。実際、全世界と言う破格の戦利品が手に入ったしな。後は、完全に自分たちのものになるようにするだけ。そこで、待っていようじゃないかっ」
レインは手を大きく広げ言う。
今までただの下っ端に過ぎなかった神兵さえも、一世界支配する権利を与えられるかもしれない。そうなってくれば、必然とレインたちの存在に気が付くだろう。一度、支配する快感を得れば邪魔になるであろう敵を排除するのは当たり前。
だが、そこまで待つつもりはない。
そんなに待っていれば優に数年、数十年は過ぎ去るだろう。
ならどうするか。
気付くのを待つ、のではなく、気付かせる。
「さて、九華、そして、六元の出番だ。下っ端共を殺していけば自然と俺に辿り着くだろうさ」
自分が動かず、九華や六元を向かわせるのは『選別』のため。
自分と戦う資格がある者のみを選ぶための作業。後は、いつも通り、待っていればいい。報告が上がってくるのを。
ご飯でも食べて、温泉にでも入って、娯楽を謳歌し、そうやってゴロゴロとしていればいい。
「ふふ……やっと面白くなりそうだな。……さて、俺の願いは届いているか?俺に傷を付けれる存在。俺に一太刀浴びせれる存在。挙句には俺を殺せる存在……」
上体を倒し、ベットに倒れ込む。
ぽふっとレインの体を受け止める。
レインの顔は緩んでいた。これから起こるであろう事を想い。
せめてもの望みとして、血沸き肉躍る、そんな戦いにならんことを。
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