190話 ゼウスVS十神将
「『超新星爆発』ッッ!!!」
白き爆発が視界を塗り潰す。
ゼウスは目の前の男女を見た瞬間、総毛が泡立った。その瞬間、星の爆発。世界を丸々破壊することが出来る魔法を放っていた。
それは、反射だった。先制攻撃を仕掛け、防御する暇もないように。
その爆風は、ゼウスをも巻き込む程だったが、『全能世界』の効果により、爆発と爆風を受けない。無効化したのだ。
だが、次の瞬間。
白き爆発を群青色の光が塗り潰した。
ゼウスの視神経を焼き、眼球が潰れた。
しかし、すぐに再生し、視力を取り戻す。
そこで見たのは、左拳を前に突き出した状態の無傷の男と、傍に自然体で立っている女だった。こちらも無傷だ。
男の左腕が群青色の魔力を纏い、ゆらゆらと陽炎のように立ち昇っていた。
それを見、ゼウスは何をされたのかが分かった。
男がパンチを放ち、『超新星爆発を殴り飛ばしたのだ。
(馬鹿な!?世界を破壊する程のエネルギーだぞ!?)
声には出さなかったが、内心冷や汗を搔きまくっている。
益々警戒の色を濃くし、睨みつける。
「ったく、挨拶もなしか?いきなりあんな攻撃ぶちかましてくるとは」
「仕方ないと思うの」
「あん?」
「あんな殺気を向けたらつい攻撃してしまっても仕方ないと思うの」
「ククク、そうか?……んで、お前がやったんだよな?」
忍び笑いを漏らし、再度ゼウスへ問う。
「主らは何者だ?」
ゼウスは警戒いっぱいに問いかける。
「質問に質問を返すな……っと言いたいが、言うからお前もきちんと答えろよ?」
「わざわざ名乗るの?これから殺すのに?グーくん変なの」
「気分がいいからな。後、グーくん言うな」
ゼウスはそんなコントじみた話を聞きながら魔力を練り上げる。
気付かれないように、慎重に、慎重に。
たった一撃でいい。一撃で二人とは言わずとも一人は殺せるように。
「十神将が一人、グーレルだ。で、こっちがキリファ」
「勝手に言わないで欲しいの」
「別にいいじゃねぇか。減るもんじゃないし」
「……減るの」
「何が?」
「…………」
「ねぇのかよ。……それより、ラァ!」
群青色の魔力を纏わせた拳で地面を殴りつける。
すると、パキ、と小さな亀裂が入り、徐々に大きくなる。そして、ついにゼウスの創り出した『全能世界』が砕けた。
「ーーッッ!?」
声も出せない程驚いたが、すぐに異空間を創り出す。
そもそも、全能世界も神界に影響を及ぼさないために創ったものだ。疑似世界のため、この中でどれだけ暴れようと現実には全く影響を及ぼさない。それが壊されたため、練り上げていた魔力を攻撃ではなく、異空間の創造に使う。このレベルの敵と神界で戦うには影響がでかすぎるからだ。
「硬いな。世界の強度が半端ないな」
感心するようにグーレルが言う。
「よし、やるか。それで、沈黙は肯定と受け取るぞ」
そう言い、左右の腕が光る。
群青色の魔力が集まり、集束し、輝きを増す。そして、現れる一対の青銅色の籠手。
(まさかッ!?)
その籠手を見た瞬間、ゼウスは感情を隠せなくなった。その武器に思い至る物があったからだ。
それは、
「『魂装』……」
「あ?知ってんのか?」
ボソッと呟いた小さい声を拾い上げ、キョトンとした表情で言う。
ゼウスの言った『魂装』と言う言葉。その名の通り、魂を具現化した武器。己が魂の形。
「知ってるなら話は早い。お前は出さないのか?」
「クッ……」
奥歯を噛みしめ、睨みつける。
『魂装』と言っているが、もちろん自分の魂が武器として現れているわけではない。『魂装』は圧倒的魔力の塊で出来ている。
基本的に壊れることはないが、もし壊されると精神にダメージを受ける。
使い手によっては、神器より遥かに強力だ。それが分かっているからゼウスは苦々しい表情をしている。
「……『神煌樹之長杖』ッ!」
パンッと手を叩き、武器を喚ぶ。
手を開くとそこには、一本の杖が現れた。形状はゴツゴツとした長杖で先端がクルリと渦を描いている。しかし、見た目に反して、表面は滑らかだ。
長さ、約一メートル半くらいで、地面にコツンッと立てる。
神煌樹……神界が創生された当初からあった神界に生る樹。それを丸々使い創られた武器だ。決して、グーレルの魂装にすら負けないだろう。
「ほぉ、魂装じゃねぇみたいだが、いい武器だな」
ゼウスが喚び出した武器を見ながら嬉しそうに言う。
それを見たキリファは呆れたようにため息を吐き、同じく魂装を呼び出す。
「来るの……」
右手を前に出す。
深碧色の魔力が溢れ出し、形を成す。
現れたのは、深い緑色の短杖。その長さ僅か48センチ。ハリーポッターに出てくる杖に似ている。それか、指揮棒のようでもある。
「お前もやる気じゃねぇか」
「仕方ないと思うの。グーくんやる気だし」
「あったりまだ。久々の強敵。俺らじゃ本気の勝負は出来ねぇしな」
十神将同士の私闘は禁じられている。
それに、十神将が出張る必要があるほどのなりそこないは頻繁には現れない。つまり、基本暇なのだ。
ガツンッガツンッと籠手をぶつかり合わせ、
「まずは、場を整えるかッ。『荒ぶる大海』」
両の手を空に掲げ、唱える。
ゼウスは何か能力を使ったと身構える。
すり足で移動しようとした時、ピチャッと音がした。水溜りを踏んだような音。
意識は目の前の二人に向けながら足元に目を見る。
すると、そこには、地面の上に水溜りが出来ていた。
いや、水溜りと言うには小さすぎるだろう。見える範囲全てに水が浮き出てきているのだ。
しかも、水はどんどん水嵩を増していく。見た時は数ミリだったが、今は数センチにまで上っている。それも最大ではない。勢いは激しくなり波打ち、すでに数メートルになっている。それでも、水量は増えていく。三十秒経つころには、海が出来ていた。
(ッ!これは、権能……ッ)
相手が神の時点で分かってはいた。
すぐに浮遊し、上空へ浮かび上がる。
水深百メートルは優に超えているだろう。地面が海に沈んだ。そんな表現が適切な程。
海を創ったのだ。
水面から十メートル上に浮かび、水の上に立っている敵を見据える。
グーレルは、自分で創り出した海水だ。接地する水面を固定化し、その上に立っている。
キリファは、魔力を足場とし、その上に立っている。
グーレルは挙手するように手を挙げる。
すると、グーレルの前の海面が盛り上がり、手の形を取る。そして、グーレルが手を振り下ろすと、同じ動作をするように水の手も振り下ろされる。
水の手の大きさ、三十メートルはある。
水面から十メートルしか離れていないゼウスは、向かってくる巨大な水の手を睨み、長杖を横に振るう。
凄まじい威圧感を放ちながら迫っていた水の手がピタッと止まり、次いで弾け飛び、海の一部に戻る。
「海なら丁度よい。照らせ……『昇龍万雷』」
ゼウスは、長杖を上に掲げながら魔法を放つ。
晴天の青空が曇り出し、雷雲立ち込める黒雲が生まれる。杖を中心とし黒雲が渦を巻き始める。
そこから、一筋の光が落ちる。それは、雷だ。さらに次から次へと落ちる。
だが、これが魔法の効果ではなく、この稲妻は副産物でしかない。
黒雲の中に光が生まれ、バチバチとゴロゴロと音を鳴らしながら、『それ』は姿を現す。
『それ』は、無数の龍だった。体が雷で出来ている龍。とぐろを巻くように落ちてくる。それは、文字通りの雷の速さで、だ。
チカッと光ったかと思うと、グーレルとキリファへと落ちる。それも、一度ではなく、幾度も、幾度も。それこそ、万に届くだろう数の雷の龍が。
辺りを轟音が包む。
落雷が落ちる音が連続して鳴り響き、目も眩むような閃光が飛び散る。
「オラアアァッ!!!」
気合の声が聞こえると同時に、グーレルへ当たる瞬間に掻き消えた。それから、左右の拳を振り、落ちてくる雷龍全てを殴り飛ばす。
「オラオラオラオラァッッ!!」
ラッシュをする度に、海水が呼応するように激しく揺れる。
「わわっ……ちょっと、揺らさないの!」
立っている海面が揺れ、バランスを崩し倒れそうになりながらもギリギリで倒れないようバランを取り、グーレルへ杖を持っていない左腕で殴りつける。
「浮かべばいいじゃねぇか」
と言うグーレルの言葉を聞き、一度強めに殴ってから、浮かび上がる。
「最初からしろよな?」
キリファには目もくれず、自分目掛けて落ちてくる雷龍を殴って殴って、殴り続ける。
どれだけラッシュしても息一つ乱れていない。
「最後、だッ!!」
最後の雷龍を殴り飛ばす。
そして、腕を引き戻し、構える。
「次は俺だな。『巨水の平手』」
今度は、ゼウスの左右に巨大な水の手が現れる。
そのまま手を叩くように動き出す。
巨大と言っても、速度を失っているわけではない。音速とまではいかなくてもかなり速い。だが、その程度の攻撃、ゼウスが避けれないわけがない。
手がぶつかる瞬間、衝撃波が海を押し上げ、小さな津波が出来る。
だが、そこにゼウスはいない。
「落ちよ。『雷剣』」
それは、『雷帝』クリスティが近接戦でよく使う雷の剣だ。
だが、その大きさが違う。ゼウスは、グーレルの頭上に転移すると、全長300メートルはある巨大な剣を創り出し、振り下ろす。
放電しながら上空から重力による加速も加わりとんでもない速さと化す。
グーレル目掛けまっすぐ、一直線に落ちる。
対してグーレルは腰を落とし、左手で抑え込むようにしながら右手を多い、右腕を限界まで引き絞る。右拳に群青色の魔力が集まり、眩いばかりに輝く。
キィィィンと金属がぶつかり合うような音を鳴らしながら、さらに魔力を集まる。
そして、巨大な雷剣がグーレルまで後一メートルとなったところで、拳を打ち上げるように、アッパーを喰らわせる。
「ハアアッ!」
拮抗は一瞬だった。
雷剣がぶつかった瞬間、衝撃波を撒き散らし、ガラスが割れるようにヒビが入り、粉々に砕け散る。
ゼウスの一撃はとてつもない攻撃力を誇っていた。
その魔力密度、上空から落ちる速度も相まって、強力な、強力過ぎる一撃だった。
しかし、グーレルは、右拳にその雷剣以上の密度で魔力を纏わせ、雷剣とぶつかった瞬間に指向性を持たせて爆発させたのだ。もちろん、パンチの威力も加わっている。
ザバァァァァァアアアッッッ!!!とグーレルを中心に半ドーム状に海水が干上がる。
「中々の一撃だったぞ!」
グッと足に力を入れ、海水を蹴る。
上空にいるゼウスの元まで一瞬で辿り着き、右を振るう。
「ぐぅぅッ!」
咄嗟に長杖を前に出し、障壁を展開する。
グーレルは構わず、幾重にも張られた障壁の上から殴りつける。
今度は拮抗すらしなかった。
あたかも紙でも破るかのように、障壁をぶち破り、ゼウスの心臓目掛け拳を叩き込む。
だが、当たる瞬間、ギリギリで転移し避ける。
「逃げんなッ!」
が、すぐさま転移先を特定され、追撃される。
再度、長杖を振り、魔法を使おうとしたところで、ゼウスの体が海水へ落ちていく。
飛ぶのをやめたのではない。
海水から水の触手が何本も現れ、うねりながら進み、ゼウスの足首を掴んでいたのだ。そして、そのまま海の中へ引きずり込もうとする。その力はとんでもなく、ゼウスは踏ん張ることも出来ずに、海へ落ちていく。
「オラァッッ」
海水へぶつかるすんでの所で、上空から落ちながらグーレルがゼウスを殴りつける。
「ガッ、ハァァァァアアアアア!?」
ゼウスの体が、海の中に沈んでいく……のではなく、地面にでもぶつかったかのように、海面で止まっている。沈むことで衝撃を緩和できず、ダメージが全てゼウスの体に叩き込まれる。
海の表面を固定化し、硬くしたのだ。
体が爆散するような衝撃を喰らっても、内臓が弾け、骨が砕け、血反吐を吐き、それでも、人の形を保っているのは、さすが、と言うほかないだろう。
(ま、ずいっ……!)
そこへ、さらに追撃をかけるようにグーレルが拳を振り上げる。
ゼウスは滲む視界の中でそれを見ながら、何とか逃れる術を考える。
「これで、終わりだァ!!!」
「『超新星爆発』ッッッ!!!」
苦し紛れに放った、自分諸共巻き込む、大爆発。
ちょうどゼウスへ近付いていたグーレルは防御もままならず、もろに喰らう。
海面の固定化も解かれ、爆発の衝撃で海へ沈んでいく。
「グボボォォオッッ……!」
何とか障壁だけは張り、直撃を避けようとしたが、気休めにもならず吹き飛ばされる。
海の一番下。地面の場所まで飛ばされ、その頃には勢いも落ち着き、ゆっくりと叩きつけられる。
暗く、光が一切入らない場所で、しかし、神王の眼が視えていた。
ゼウスの体は悲惨な状態だ。
白き爆発を受けた正面は焼け爛れ、杖を持っていた左腕は黒くなっていた。ただ、杖だけは少しの傷も出来ておらず、それは救いだった。今、この状況でこの『神煌樹之長杖』がなくなるのは、死活問題。
海底に足を付き、立つ。
そして、コツンッと杖で海底を叩く。
すると、ゼウスの周りの水が渦を巻き始め、徐々にゼウスの体を上へ上へと昇らせていく。
数秒後には、海面へと到達した。
海水の中から出て、感覚を研ぎ澄ましながら辺りを見渡す。
そこには、
「なん……だと……?」
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