189話 超新星爆発
『全能世界』。
物事全てがゼウスに都合の良いように動く。そんな世界の影響をほぼ受けないミルだったが、元々『全能世界』を発動しなくとも、ゼウスは強いため、油断なく牙を剥き出しながら威嚇し、隙を伺う。
ミルに対し、ゼウスは一本の槍を創造し、片手で持つ。
武器創造の上位互換となる、神器創造だ。
神は自分の魔力を具現化した武装を使うことが多い。『武器創造』のスキルがなくとも、魔力を具現化することで武器を創ることが出来る。
ゼウスは、今回は槍を創った。
その槍は、神槍と言えるだろう。
その神槍は、シンプルな槍だ。持ち手は二メートル程、刃は、三十センチ程だ。
剣を創らなかったのは、単純にリーチと武器の特性を考えたためだ。
剣は、突くことより斬ることに重きを置いている。対して、槍は、突くこと重きを置いている。
『合成魔獣』と言うより、『合成神獣』とも言うべき、ミルの攻撃を避けながら思ったこと……それは、その攻撃力があり得ないくらい高いことだ。そして、スピードも。
その攻撃は、ゼウスでさえまともに受ければダメージを免れない程。
だからこそ、リーチの長い槍を創造した。
「……ッ」
突如、ミルが消えた。否、消えたと錯覚する程のスピードで動いたのだ。ゼウスの動体視力では捉えることが出来ない。
しかし、『全能世界』の特性のおかげで、見えなくとも視えている。
その場で軽くステップを踏むことで見るの攻撃を避ける。
ビュッ!!!と風を切る音がゼウスが避けた瞬間に聞こえる。
紫色の魔力を身に纏っているため、その軌跡が後を引く。
それからもミルの突進は続いた。その数、十や二十ではきかず、百にも昇っている。その悉くを避け続ける。
「ガアアッッ!!!」
このまま突進を続けていても意味がないと悟り、地を蹴り、一瞬で近付いたミルが、ゼウスの正面に現れ、口を開く。
口に集まる大量の魔力。ブレスを放つ。
紫色のレーザーが至近距離でゼウスにぶつけられる。
「ふんっ!!」
神槍に魔力を纏わせ、下から斬り上げる。
ブレスが真っ二つに割れ、ゼウスの左右の脇を通り抜ける。
ゼウスは神槍を正面に突き出し、未だに放たれるブレスを突きながら走る。
ゼウスの視界が紫に染まる。そして、開けた。
「ーーッ」
ブレスを斬り開きながら進んだゼウスだったが、視界が開けた時、ミルはその場にいなかった。そして、感じる殺気。
前に飛び、クルリと後ろを振り返りながら、飛んできた魔力球を薙ぎ払う。
一息つき、ミルを見ると、その周囲に無数の優に百を超え、千はあるだろう紫色の魔力球だった。
その一つ一つに膨大な魔力が込められている。斬り払った瞬間の手ごたえでどれほどの威力かが分かったのだ。
そして、発射される。
音速を超える速度で飛び、ゼウスへ降り注ぐ。
それを、神槍で逸らし、斬り、払い、防御していく。だが、全く数が減らない。それは、発射した先から次々と新しい魔力球が現れているからだ。
グググッと腕に力を込め、大振りで横に振り切る。
「ッッ!?」
向かってきている魔力球、ミルの周りに浮遊している魔力球諸共吹き飛ばす。
風圧だけで吹き飛ばしたのだ。
「ーーーッ!?」
ミルが驚いている隙に、ゼウスがミルとの距離を詰め、突きを放つ。
その瞬間、炎のように魔力が噴き出し、弾かれる。
「なッ!?」
驚いたのはゼウスだ。
神槍と言うだけあり、もちろんその切れ味などは鋭い。しかも、一点集中の突きだ。貫けないものはない、と言って過言ではないだろう。だが、その突きをミルは、魔力だけで弾いて見せた。ミルの魔力の防御をゼウスは突破出来なかったと言うこと。
だが、驚いてばかりもいられない。
一瞬で槍を戻し、突く。今度は、先の攻撃より鋭く纏っている魔力も倍以上は多い。
「ヒヒヒッ!!!ォォオオッ!」
神速の突きを、尻尾の蛇で巻き取るように掴む。ギチギチィ、と締め付けられ、ピクリとも動かせない。
ならば、と、
「ぬぅぅんッ!!!」
ゼウスは、全身に力を入れ、槍を持ち上げる。
なまり万力のような力で槍を締め付けているために、ミルの体ごと持ち上がる。
そして、背負い投げの要領で地面に叩きつける。
「ガアアッ!?」
頭がグシャァ、と潰れる。
しかし、次の瞬間、潰れた顔が霧となる。そして、潰れた個所へ霧が集まり、元の形へと戻る。
(あの再生の仕方。霧化に近い……いや、霧化そのものか)
身体が肉の体ではなく、魔法そのものだったり。
例えば、炎の体。水の体。雷の体など。『炎化』『水化』『雷化』などと言われるものだ。そして、霧になるのは、吸血鬼が有する能力でもある(もちろん、吸血鬼だけの能力と言うわけではない)。
ミルのこの身体の構成は、昔融合したなりそこないのものだ。
霧の魔物、とでも言うべき獣。物理攻撃が意味をなさないため、その霧を吸い込み、全身と融合した。それによって獲得したこの霧の身体。
(だがーー)
ゼウスは、再度駆け出す。
地面を蹴り、高く跳び上がる。そして、神槍を片手で持ち、腕を引き、投げる。
高速で飛んでいく神槍。金色の魔力が渦を巻きながら一本の矢となる。
「グアアァアアアアアアッッ!?!?」
再生した頭部を貫き、心臓をも貫く。
断末魔の如き悲鳴を上げ、のたうち回る。
魔力を放出しながら再生しようとするが、槍が突き刺さったままの為、阻害され再々できない。それ以前にも、ゼウスは再生阻害の効果を付与した状態で、突き刺した。もし、槍が貫通していたとしても、その槍で出来た傷は簡単には再生できないだろう。
「もう一度ッ」
神器創造で、同じ槍をもう一本創り、投げる。
「もう一度」
再度創り、投げる。
「もう一度」
また創り、投げる。
「もう一度」
そして、淡々と創っては投げ、ミルの身体に無数の槍が突き刺さり、針の筵状態だ。
「ァァッ……ァ」
呻くような声をあげながら、巨大な体躯が倒れる。
ついに力尽きたのだ。
「面倒だったな。再生能力があるなら使えないようにすればよいが……。手加減出来る相手ではなかった……とはいえ、身体能力は予想外なものだった」
ゼウスは敵を倒したとは思えない程、険しいものだった。
それは、これからのことを思い浮かべたからだ。もし、このレベルがたくさんいたら。もし、このレベル以上の存在がいたら。など、考えだしたらキリがないが、それでも考えないことには始まらない。これで、終わりじゃないのだから。
「むぅ、やはり、我が出るしかないな。この世界の中ならば、我が負けることは、ほぼない」
『ほぼ』、『絶対』と言わないのは、レインが相手ならば、この世界も意味がないからだ。
それに、この手の能力は、格上の存在は効果が薄い。だが、ないよりはましだ。直接害する。例えば、即死させるなどは効かない。だが、能力を制限したり、動きを鈍らせる程度のことは出来る。
その時ーー
「何ッッ!?」
ゼウスの緊迫した声が響いた。
なぜなら、ゼウスが創ったことの疑似世界の空間を震わせながら、大きな門が現れたのだ。
なぜゼウスが驚いているのかと言うと、この『全能世界』には、ゼウスが許可しなければ入ることが出来ない。それは、絶対だ。
それなのに、転移門が現れたと言うことは、このゼウスの世界すら意に介さない存在が現れたことになる。
ゼウスの顔に焦燥が浮かぶ。額に浮かぶ汗が頬を伝い地面に落ちる。
険しい視線、睨みつけるように現れた転移門を見る。
「あ?ククク、ハハハハハッ、おいおい、威勢の割には情けねぇなァ!」
転移門から出てきたのは、二人。
一組の男女だ。
男は、無数の槍で貫かれているミルや、ミルに喰われたゼイゲン。さらには、神界に来た瞬間に潰され、地面のシミとなった場所を見て、面白いとばかりに笑い声を上げる。
「お前か?こいつらをやったのは?」
ピタッと笑い声が止まり、冷たい視線をゼウスへ投げかける。
その時、目の前の男が危険だと、ゼウスの直感が告げた。
言葉を交わすことはせず、最大攻撃を見舞わせる。
「『超新星爆発』ッッ!!!」
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