187話 至仙出陣
sideレイン
『そこ』には、巨大なチェス盤があった。
ただ、普通のチェスとは違う。
駒となっているのは、きちんとした『人』だ。
ポーンは、自軍の色をした鎧騎士。
ナイトは、馬に乗った騎士。
ビショップは、魔法使い。
ルークは、質の良い鎧騎士。
クイーンは、ドレスをきた女性。
キングは、王冠を被った男性。
ルールは通常のチェスと同じだが、少し改良してある。
そんな魔導チェスとでも言えるチェスをしているのは、レインとアストレアだ。
それぞれの指令席から命令を飛ばす。
「ポーンをGの5へ」
「ナイトをCの6へ」
それぞれの命令に従い、駒が動く。
そして、このチェスの一番の醍醐味は、相手の駒を取る時だ。
ちょうど、レインのポーンがナイトを取るところだった。
騎士剣を抜き、ナイトに向けて振るう。
ザクッと馬が斬られ騎士が転落する。血を撒き散らし、悲鳴をあげながら絶命した。駒が死ぬと、血と死体が盤上に吸い込まれ、綺麗さっぱり消え去る。
駒と言っても意思があり、肉体がある。
斬られれば血が溢れ、痛みに叫び声をあげる。誰だって死にたくはない。だから、逃げようとするが、縛られているため、逃げられず動けない。
悪趣味なゲームと言えるだろう。だが、もちろん何の罪もない人を駒として使っているわけではない。レインへと歯向かった愚か者がこうやってレインの遊びへと無理矢理付き合わされている。まぁ、レインは相手が罪人だろうとそうでなかろうと気にしないが。
そんなこんなで進んで行き、ついに初のチェックがかかる。
「……」
ここにきて、アストレアの初の長考。
お互い最善手しか指しておらず、このままだとレインが勝つ。能力も何も使っていないただのお遊びなため、レインも完全に最善手のみを指し続ける、とは言えない。だが、致命的なミスなどは一度も犯さない。
長考の末、導き出した答えを指す。
それに、三秒とかからずレインが指す。
それから、約一時間に及ぶ勝負の末、勝敗が決まった。
「俺の勝ち、だな」
「そうですね。主にこの手のゲームは勝てた試しがありません」
苦笑い気味に答えるアストレア。
「まぁ、楽しかったしいいじゃないか。能力も使わないゲームなんて俺らからすれば珍しいだろ?」
「確かに、基本的に、誓約した上で、ですので」
遥か昔、レインも武力ではなく、ゲームにて勝敗の行く末を決めていた時期もあった。その時は、魂に誓いを立て、行う。最悪、命を失うことも珍しくない。と言うか、戦争をゲームでしていた。
「そんなことより、決まったな」
「はい」
レインの「決まった」と言う言葉。それは、神界対神の國の策が、だ。
作戦が決まったのなら、次は実行だ。
「普通にぶつかったら神界は負けるが、そこはゼウスも知っているだろうしな」
「なので、何かしらの対処はしているかと」
「アストレアは何だと思う?」
「……私なら、転移してきた瞬間に吹き飛ばしますね」
中々過激なことを言った。
確かに、有効な手段ではあるだろう。転移する範囲を限定し、狙った場所に門を創らせる。そして、そこを丸ごと吹き飛ばす。もちろん神を相手にするため威力は必然高くなる。それも神界に影響を及ぼすかもしれないが、神界が滅ぶことになるよりはいいだろう。
「じゃあ、質問を変えようか。敵が強大ならどうする?」
「逃げますね」
「おい……」
思いっきり逃亡を選択した。
「じゃねぇよ。ゲームでもそうだろ?デバフだよデバフ。弱体化だ。敵の能力を下げればいい。自分たちのレベルまで」
「なるほど。確かにそうですね」
納得したかのように、二度三度頷く。
「爆破してもいいが、確実性に欠けるからな。向こうも警戒しているだろうし、喰らってくれるは限らんだろ。限定空間に誘い込んで、その内部だけ、敵の能力を著しく下げて総攻撃をかければいい。そしたら基本的に誰が相手でも大丈夫だろうな」
「しかし、ゼウスはそうしますかね?」
「しないだろうな。弱体化はかけるかもしれんが、総攻撃はしないだろうな。多分、一人で戦うとか言い出すんじゃないか?」
レインは神界での会議も神の國での会議も内容は一切知らない。知ろうとすれば知ることが出来るが今回は一切そう言ったこともしない気でいた。しかし、動き出す予兆だけは感じているため、策が決まったと分かったわけだ。
そして、レインの予想通り、ゼウスは一人で戦う気でいる。
「どっちにしろ、後何度かの戦闘で決まるだろうな」
「長くは持たない、と。確かに、いくらゼウスでも二度三度となれば、相手がどこから来ているのか分かりますね」
「そう言うことだ」
今のところゼウスは敵の位置を分かっていない。
外来宇宙と言う、管轄外の場所だ。自分の力が及んでいないため知ることが出来ない。だが、それでも、何度も門を開かれれば分かる。
そのため、神の國側からしても、少なくとも後二回程で決めきるか、神界側も情報を得てからの総攻撃をかけるしかない。
「まぁ、俺たちは見せて貰おうじゃないか」
レインはいつでも自分が楽しめることしか考えていない。
どうすれば面白くなるか、どうすれば暇をしないか、と言うことを考えて動いている。そのためのお膳立てをしたり、どちらかに手を貸したりなど、魅せを狙っている。
動画を見る時も面白くなければ見ないだろう?それと一緒だろう。え?人が死ぬのに面白さを求めるなと?そんなこと、レインに関係ない。自己中でもそれが許されるのがレインだ。
「よし、セバス!」
「何でしょうか」
ぬっとレインの背後に現れる。
「ポップコーン持ってこい!」
「畏まりました」
映画気分で豪華でふわふわの椅子に座り足を組みながらセバスからポップコーンを受け取る。ん?創造で創ればいいと?野暮なことは言うものじゃないぞ。
sideゼイゲン
「クハハハッ!今度は俺たちだけか!」
「ゼイゲンうるさいぞ」
「同意だ。少し静かにしろ」
ゼイゲンの他に三人の神がいる。
至仙のメンバーだ。
「うるせぇ!俺の敵を取るんじゃねぇぞ?」
取ったら殺す、とでも言いたげな視線を向ける。
そんなゼイゲンの殺気交じりの視線を真正面から迎え撃ち、言う。
「ゼイゲンも私の邪魔をするな」
「あ?お前から殺すぞ!」
「やってみろ」
濃い殺気が充満する。
常人ならこの場にいるだけでショック死するだろう。
「そろそろ時間だ。行くぞ」
「チッ……命拾いしたな」
「こちらのセリフだ」
フッと殺気は霧散したが、睨み合っている。
「はぁ、いい加減落ち着け。敵は多い。なら、お前たちも楽しめるだろう?」
「それもそうか。前行った時も次から次に来てたからな」
「私の分もあると言うことか。なら、いいだろう」
ここに集まった、いや、集められた至仙の全員が戦闘狂と言える性格だ。
しかも、至仙の中でも最上位に位置する実力者なだけに始末に負えない。
「敵陣に乗り込むぞ」
「おう!」
「分かった」
「……」
門を出し、その中を潜っていく。
評価、ブックマーク登録、感想、ありがとうございます!
励みになりますので、入れて貰えると嬉しいです!!!