186話 侵攻に向けて
sideグーレル
「さて、気になったことがあれば、言ってくれ」
「一ついいか?」
「どうしたグーレル?」
グーレルと呼ばれた男。
赤い髪を逆立て、整った容姿をしているが、厳つく強面と言える。
「ワシュイド。俺の部下が神界へ攻め入った。それ以前も『人間』とか言う種族が大勢いる世界を回った。その時に感じたことだ」
「何でも言ってくれ」
「弱い。それが俺が感じた感想だ」
「ふむ。グーレルそれは、驕り、とかではないと言うことであっているな?」
「ああ、そう取ってくれて構わない。確かに全ての戦力を確認したわけでも切り札と呼べる物や存在がいるかもしれない。だが、そうだとしても、我ら十神将以下だと思う」
「そうか……」
そう言うと、ワシュイドは目を閉じ思考する。
ワシュイド、十神将の実質まとめ役の位置におり、神皇にワシュと言う愛称で呼ばれていた男だ。
しばらくして、目を開け口を開く。
「ならば、慎重すぎる行動は控えてもいいだろう」
「ああ、それでいいと思うぞ」
「私もいいかな。あまり慎重になりすぎると、臆病だって言われるかも。実際、兵の間でそう言ったことが言われてるから」
「分かった。では、少し情報を纏めよう」
一度、皆を見渡す。
十神将の誰も欠くことなく出席している。
そのことにワシュイドは口元に小さな笑みを浮かべ話し始める。
「まず、敵の戦力の確認だ。最下層である神兵。それに匹敵する敵が神兵と同等、またはそれ以上いる。そして、百卒についてだが、いや、千卒についてもだな。恐らく、敵にも同格の存在が多数いる。そして、千卒を倒しうるだろう存在も確認された」
そこで言葉を区切り、再度話し出す。
「そして、貴殿らが一番聞きたいであろう存在について話そう」
十神将の全員が聞きたいこと、それは、至仙のことだ。
十神将の一つ下の位についているが、もちろん十神将に近しい力を持っているわけではない。
十神将と至仙の間には天と地ほどの差がある。
しかしだからと言って、その力を軽視しているわけではない。むしろ、認めてさえいる。
まず、十神将と言うのは単なる称号ではない。
人間でいうところの騎士団長と言う位置に位置付けられるかもしれないが、違う。
至仙以下は実力により決められている。
神兵の中から実力がある者が百卒、または千卒となり、また更に力のある者が至仙に入ることが出来る。
しかし、十神将だけは力だけではどうしようもない。
もちろん、他と隔絶した力があることは、最低条件だ。だが、十神将とは、神皇に選ばれた存在がその席に座ることが出来る。そして、十神将とは、神皇から力の一部を与えられた存在だ。その点が、他の神と違う点だ。
絶対的王である神皇に力を与えられ、認められている。
他の神と比べるにはあまりにも可哀想だろう。
そう言ったこともあり、十神将全てがとは言えないが、至仙の力を認めている者は多数いる。
「至仙の一人が神界へと直接赴いた。その結果だが、多数の強力な力を持った神と思わしき人物を打ち取った」
「それについては俺から話していいか?」
「そうだな。貴殿が言った方がいいだろう」
ワシュイドにそう言われ、グーレルは話し出す。
「俺の配下にいる至仙からの報告だ。「思った以上に楽しめた」らしい。実際、敵陣に攻め入っても傷一つ負っていないことから強がりで言っているわけではないだろうな。そして、俺らと同じ神であることも確認できた。と言うことは、我らの能力と同じ、似たような力を持っているかもしれない。それに、敵陣といっても、本当に実力者がいる場所に行ったか分からん。もしかすると、倒したと言う神が俺たちで言えば神兵に当たる存在かもしれない、と言うことだ」
「それなら、やっぱり慎重に行動した方がいいんじゃない?」
「いや、俺の考えとしてはそれはない、と思っている」
「なぜ?」
「ゼイゲンからの報告によれば、近くの敵から攻撃していった、そして、それを護るように新たに実力者が現れた、と言っている」
「なるほど。少なくとも雑兵ではないと言うことだな?」
「そう言うことだ」
弱い者を護るために強い者が出る。
至極当然のことだ。
「そこから俺なりに考察してみた。多分だが、至仙にも匹敵する敵もかなりの数いるかもしれない」
グーレルの一言でざわッとした空気が伝わる。
「そこで、次の攻撃を俺に任せてくれ」
「お前が行くと?」
「ああ。いや、正確には俺は出ない。俺に従う至仙数名を動かそうと思う」
「捨て駒にする気か?」
グーレルの考えを見抜き、ワシュイドの鋭い視線が飛ぶ。
戦争においてもただの兵士が役立つのは、兵士対兵士だからだ。ただの兵士が束になっても勝てない敵がいるのなら、無駄に犠牲を増やすだけとなる。
「一度の侵攻で敵も警戒しているだろう。と言うことは、きちんと対策が出来ていると考えていい。なら、敵の正確な戦力を計ると言う点では、何ら間違っていない」
グーレルの意見にも一理ある。
要するに、雑魚をどれだけ向けても正確には計れない。ならば、相応の実力者を差し向け、それにどう対応するかで様子を見よう、と言うことだ。
その策が有用だと理解できるがために、ワシュイドは難しい顔をしている。
「だが、至仙程の神をむやみに失えば……それに、万が一捕らえられた場合、こちらの情報が敵に渡る可能性が高い」
「いや、その点は大丈夫だろう」
「何を持ってそう判断する?」
「至仙の中の特に強力な者を送る。そして、そいつらは、戦いが生きがいと考えている奴らだ。もし、捕まるなんてことになったとしても、自害するだろうな」
捕まるくらいなら死を選ぶ、そんな者たちを送ると言う。
それなら、と納得しようとしていたが、別のところから反対の声が上がった。
「それって、敵に至仙を軽く捻ることが出来る存在がいた場合、無理じゃない?私たちみたいな存在が向こうにいないって確証はないわけだし」
「いや、それならそれでいい。俺らが優先すべきことは、敵の正確な最大戦力のみ。もし、俺らに匹敵する力の持ち主がいたなら、至仙を数名失うより有用な情報だ」
「そう言うことね」
グーレルの言っている意味が分かったようだ。
グーレルは、傍から至仙に対して何の感情も持っていない。至仙は、神の國側の最高戦力の一角。至仙を下すことが出来る存在は、十神将くらいしかいない。もし、敵にも至仙を下すだけの者がいたなら、それは、十神将に匹敵する力があると言うことに他ならない。
どっちに転がってもいいと言うわけだ。
「了解した。グーレルの案を採用しよう」
ワシュイドも最後には頷き、肯定する。
それから誰を送るかの具体的な案を話し合い、解散となった。
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