185話 たったひとつの勝機
神界は重ぐるしい空気を醸し出していた。
つい先日行った神合会議。
だが、再度行うことになったが、誰も疑問を持つことはない。
なぜなら、誰しもが、情報を得なければと、対策を立てなければと思っているからだ。
そんな重圧の中、ゼウスは口を開く。
「由々しき事態だ……」
そんなの言われるまでもなく分かって入る。
しかし、言葉にしないわけにはいかない。
「アテナに続き、アルテミス。他、最高級神三名に上級神以下の神は三十を超える被害だ。神界の戦力も大幅に減ってしまった。突然の襲撃とはいえ、全く抵抗できなかった……それに、敵の戦力が思いの外圧倒的であった」
事実を述べていく。
奇襲、と言う襲撃を受けたとはいえ、神界の神が何の抵抗もしなかったわけじゃない。
よく戦ったと言える。急な対応に見事応えた。しかし、それを敵が上回っただけのこと。
「そこで皆に問う。こちらの場所が敵に知れ渡った以上、敵はこちらにいつでも戦力を送れることとなった。意見があるもの、手を挙げよ」
ゼウスの問いかけに、しばらく誰も手を挙げようとはしなかった。
しかし、数十秒後、ポツポツと手が挙がる。
「私は、次に現れた瞬間総攻撃をすべきかと」
一人が言うと、「確かに」「そうすべきだ」と言うことが増える。
そんなところは人間と変わらない。誰かの発言力の強い人が意見を述べると、それに追従する。
「他に意見のあるものは?」
再度、問いかける。
「こちらから攻めるべきかと!」
手を挙げると同時に立ち上がり、強く宣言する。
だが、今度はあまり反応が芳しくない。
それもそうだろう。敵の居場所が分からないのだから、攻めるも何もない。
「だが、敵の座標が分からん。どうする?」
「それは、ゼウス様にやってもらいたいと思っております!」
どうやら、他力本願らしい。
この神族の考えとしては、『全知全能の権能』を持っているゼウスに、その権能を駆使し、敵の居場所を探し出してほしい、と言う考えが透けて見える。
(いや、無理なんだが?……と言うより、もうやったわ)
思わず、心の中でツッコんでしまった。
ゼウスもすでに試していた。
と言うかすぐ試すに決まっている。
そして、ゼウスは自分の権能の及ぶものじゃないと分かった。だからこそ、この会議を開いているとも言えるが。
場所が分かれば、今度はこちらから攻め入るのは当たり前、そうじゃないから開いたと数人は気が付いているが大半がゼウスに期待を寄せる視線を向ける。
「それは出来ない」
「なぜですか!?」
率直に告げたゼウスの言葉に、即座に声を荒げ反論する。
「すでに試した」
「はい?……試した?」
「ああ、敵の存在が分かった瞬間にやった」
「ば、馬鹿な?ゼウス様の権能が通じない、と?」
よろよろと椅子に崩れ落ちるように座る。
嬉々として語り、その意見に自信を持っていただけにその反動は大きい。
ゼウスの力を信頼し、その強大さを知っているが故の反応だろう。他にもその意見に対し有効だと思っていた者も大勢いた。
「どうやら敵は、我の力の届かない所、または通用しない相手、と言うことだろう」
もちろんそれは、敵の場所が探知出来ない、と言うだけで、権能そのものが効かないわけではない。
(我ら神の権能……そして、敵の権能。自分らを神兵と呼んでいる、つまりは、敵も神、と言うことだ)
敵も単なる武力集団と言うわけではない。
同じかそれ以上の神、と言うことは今回の接触で分かった。身体能力、特殊能力、魔法、権能、そのどれをとっても、強力な相手だと言うこと。生半可な力では太刀打ちできないことも理解していた。
そしてゼウスは敵の正体にも大方の当たりを付けていた。
「敵も我らと同じ神だと言うことだ。それも、我らより強力な神が大勢いる組織」
「そ、そんな!?で、では勝てないと言うことですか!?」
次々と悲観する声が上がる。
「だが、勝機はある。それは神界で迎え撃つことだ」
誰かが言葉を発する前に続けて言う。
「神界へ敵が次に攻めてきた時が最大の好機だ。我々の領域で戦えば勝率は上がる。全戦力をこちらに差し向けることはほぼないと言える。もう一度、先と同じ戦力か、それ以上かは分からぬが、それでも、その程度だ」
確かに、先の奇襲は神界の戦力、対応力を見るためのものだと考えることも出来る。
そして、いくら敵の場所がバレていないとはいえ、全戦力を差し向けることはないと言う。もちろん何の根拠もなく言っているわけではない。奇襲とは相手に悟られていないから意味を成すのであり、二度は成功しにくい。なぜか、馬鹿でない限り、また攻めてくることが分かっている状況で罠の一つも仕掛けないなど、あり得ない。
そして、一番の理由。
それは、
「そして、次は我も出る」
「ゼウス様自身が!?」
驚愕の声が至る所で上がる。
まさか、ゼウスが自分から戦うと言うとは思わなかったからだ。
よく異世界物のラノベであるだろう。
魔王軍がいて、そして、四天王がいるとする。その時、勇者に攻撃を仕掛けるのは、四天王からではないだろうか?それも、弱い順から。勇者に強くなってくださいと言っているかのように。
誰しもが思ったことはないだろうか。
いや、魔王が出れば確実じゃない?と。それも、序盤に。勇者召喚などで呼ばれた勇者などであれば、成長していないその時に総攻撃をかければいいはずだ。でも、それをしない。
なぜか、理由は多々ある。
だが、一つ理由をあげるとすれば、王としてのプライド、だろう。
わざわざ王である自分が動くまでもない、と言う格下に見る傲慢な態度。
そして、王が直接動くとなると、配下に示しがつかないとの理由もある。
もちろんゼウスにも『神王』としてのプライドがある。
王はいつの時代、如何なる者であろうと、どっしり構えている必要がある。それだけでも、配下にとっては勇気を与える。王がいたずらに動揺していれば、配下にも動揺が伝わる。だからこそ、ゼウスは如何なる時も、動揺を表に出さない。
だが、今回は自身のプライドよりも神界の王として、神族の王として動くことを決めた。
生半可な力の神では無駄に犠牲が増えるだけ。
なら、ゼウスが前に立ち、敵を殲滅する。
最も効率が良く、最善の策だろう。
「我が出ることで、九割は勝つことが可能だろう。しかし、もしもと言うことがある。そのために、『アレ』は完成しているな?」
「は、はい。完成はしていますが、それには大量の魔力が……」
「それも我の魔力を使えばよかろう」
神族として膨大な魔力を持っている。
そんな神族でさえ、大量の魔力が必要と言う。一体どれほどの魔力が必要か。
だが、ゼウスが魔力を提供するとなれば、話は別だ。ゼウスの魔力は実質無限だからだ。
「次の襲撃がいつ来るか分からぬ。だが、『アレ』を使えば勝率は100%に近いだろう。しかし、それも絶対とは言い切れぬ場合もある」
「それは、神王様が敗する可能性があると……?」
不安そうに問いかける。
「いや、次の襲撃は殲滅、そうでなくとも、迎撃するには成功するだろう」
「では、何に問題が?」
「次で襲撃が終わる保証がどこにある?」
「そ、それは……!」
「我の予想だが、次の襲撃を撃退すれば、また次。それも撃退すれば、また次と。次から次へと来るだろう。敵の全戦力も分からぬのだ。どれだけいるのかすら、我らは分からぬ」
「な、なら、同じように撃退すればよろしいのでは!」
当たり前のように言う。
一度撃退出来るのなら、二度も三度も同じだと。
しかし、ゼウスは首を横に振る。
「何度もそう上手くいくものではない。敵を一人でも逃がせば、こちらの戦法に対応されるだろう。だからこそ、一人も逃がすことがないようにしなくてはならない」
「……なるほど。確かにその通りです。して、ゼウス様はどうお考えなのですか?」
「うむ。襲撃が起きた時、我の領域に引き込む。我の相手をしながら無理矢理出ることはほぼ不可能だろう。しかし、もし、我の領域から抜け出る者もいるかもしれない。その時の対応を任せたい。よいか?」
「お任せください!」
次々と、自身のある声を上げる。
だが、誰も深く理解していない。
次からの襲撃をゼウスただ一人で対応すると言うことの重さを。
自分が戦わなくていいからと、ゼウスが戦うのなら安心だと、深く考えようとしていない。
もし、ゼウスが破れることがあれば、そこで終わりだと言うことに気が付いていない。いや、心の何処かでは気が付いているかもしれない。ただ、気が付きたくない。そんなことはあり得ないと考えないようにしている。
たった一人の希望に縋った結果、どうなるのか。
それは、意外と早く分かることだろう。
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