184話 時間稼ぎ
地には大小様々なクレーターや底の見えない大穴がいくつも開いている。
他にも、斬撃の跡と思われる一本の深い線がいくつも刻まれている。
時間にして三十分程だろうか。
アテナは必死に戦い続けた。
神の國、精鋭である、神兵。それを率いる百卒と千卒の猛攻を。
もし、アテナ一人で敵を滅ぼせ、とのことならば、早々に負けていた。しかし、アテナが行う出来事は、時間稼ぎ、仲間が来るまで耐えきること。そして、出来れば数を減らせるならそれを行うこと。
「くっ……はっはっ……ッ」
アテナは短く息を吐く。
それは、全力疾走した後の息遣いに近い。
銀色の軽装にはヒビが入り、白銀の剣も輝きが鈍い。再生能力があるはずの盾も再生が追いつかないのか、修復できないほどまでダメージを負っているのか、欠けている部分がある。
光翼も片翼が捥がれ、光が鈍くなっている。
身体の方には目立った傷はない。
しかし、頬に薄く一本の傷が入っている。
アテナ程の神が回復を忘れている、なんてことはないだろう。と言うことは、そんな些細な傷さえも回復出来ない程疲労している、と言うことだ。
「うぅ……ッくぅ」
顔を顰め、その美貌には濃く疲労の痕がある。
肩で息をし、大きく呼吸しながら、なんとか整えようとするが、そんな暇を与えてくれる敵ではない。
サイドステップすることで、攻撃を避ける。
だが、腕を浅く切り裂かれる。
「つぅ……!」
痛みに顔を顰め、回復を図るが治りが遅い。
すでに限界に来ていることが分かる。
それが、分かっているため、敵も攻撃の手を緩めず、一層激しくなる。
アテナがここまで粘れるのも防御に徹してきたからだ。
反撃を諦め、時間稼ぎだけに全力を尽くす。それにより、ギリギリ耐えることが出来たが、それも限界だった。
徐々に被弾することが増え、避けれた攻撃も避けるのが難しくなってきている。
「はあああああっ!!!」
「かはっ……!?」
敵もあまりにも粘り続けるアテナに焦りが出始め、攻撃が乱雑になる。
しかし、その雑な攻撃でも、今のアテナには避けることは難しい。よって、攻撃を喰らってしまう。
腹に攻撃を喰らい、吹き飛ばされるが、その先にいた一人に殴りつけられる。
「ぐぅぅぅううう!!!」
盾で受けるが、盾も限界が来ていた。
その攻撃で、盾にヒビが入り、広がり、壊れる。そのおかげで衝撃は分散され、再度吹き飛ばされるが空中で態勢を整え、着地する。
ついにアテナが片膝をつく。
それを見た神兵約十人が突撃する。
本来、神兵の百や二百アテナの敵ではない。上級神未満の神など相手にならない。なぜなら、アテナは最高位の神だからだ。しかし、途中に喰らった千卒の一撃が最悪だった。神兵を囮に使い完璧な隙を作り、強大な一撃を叩き込まれた。
直前で気が付いたが、避け損ない半身が吹き飛ぶ結果となった。それを回復するのにも大量の力を消費し、再生中ですら狙われ続けた。そのせいで、敵の領域と言うアテナにとっては不利な場所に引きずり込まれた。
膝をつくまでに至り、悔しそうに自分に迫りくる神兵を睨みつける。
「がぁ……ぁ……っ」
全身にグサグサッと次から次に武器が突き刺さる。
それでも悲鳴を嚙み殺したのは、最後の抵抗だったんだろう。
大量の血を流し、意識が朦朧としている。
そして悟る。
致命傷を喰らったと、すでに、自力で回復出来るダメージではないと。
「これで止めだ!!!」
神兵の一人だ剣を構えながら突撃する。
ここまでかとアテナが諦めた時、空間が裂けた。
「何……がはっ!?」
攻撃しようとしていた神兵の胸に一本の矢が突き刺さっていた。
「助けに来たわ!」
空間を裂いて現れたのは、五人の神族。
「ある……てみす?」
グラグラと揺れる意識の中、呟く。
「アテナ!?」
身体に突き刺さり、明らかに致命傷の傷を受けているアテナにアルテミスと呼ばれた少女が驚愕の声を上げる。
急いで駆け寄るアルテミス。
「……ぁ」
「大丈夫!」
声をかけるが、これが大丈夫に見えていればアルテミスの目はおかしいだろう。しかし、そう言わずにはいられなかったのだ。
アテナの体を抱き抱えながら言葉を紡ぐ。
「しっかりして!すぐに回復を!」
現れた一人がアテナに駆け寄り、回復魔法を掛ける。
しかし、一向に良くならない。なぜなら、すでにアテナは死んでいるからだ。
最後の攻撃を喰らった時にはアテナは瀕死だった。
気力だけで体を支えていたとも言える。そんな時に、仲間が現れ緊張の糸が解けたのだろう。
「クハハハハッ!また、強ぇ奴が現れやがったな!」
その時、盛大に笑い声を上げながらゼイゲンが現れる。
ゼイゲンの獲物、薙刀に近い武器をブゥンブゥンと二度振り、威圧するように言う。
「今度は俺も出るぜ?文句は言わせねぇ」
二度は聞かないと、一方的に言い放ち、武器を構える。
そんなゼイゲンに対し、現れた神族も臨戦態勢に移る。
「アテナの仇を!!!」
「クハハハッ!来い!!!」
そうやって、ゼイゲン率いる神の國対アテナの仇に燃えるアルテミスたちの戦いが始まった。
約一時間後。
勝負はついた。
勝者は、ゼイゲン率いる神の國だ。
「ば、馬鹿な……」
神族の一人が下半身をなくしながら呆然と呟く。
ゼイゲンが出てから、戦いと呼べるものではなかった。それは、一方的な虐殺だった。いや、すぐに殺さず、遊んでいた。なまじ体が頑丈であり、再生力もあるため、そして、ゼイゲンもある程度手加減していたために、楽に死ねなかった。
ボロボロになるまで、遊ばれた。
「クハハッ、中々楽しかったぞ?神界の神がたったこれだけとは言わんだろう?」
ゼイゲンたちは神界の総数が自分たち以上だと知っていた。
だからこその言葉だ。
ゼイゲンの攻撃を耐えながら、勝てないと悟った神が防御をすて特攻してきたことにより、神兵の半分が道連れとなった。
それを見たゼイゲンは笑いに笑い、口が裂ける程頬を釣り上げた。
そんな覚悟のある神がいると、それが分かり、ゼイゲンは楽しくなったのだ。
そして、これほどの相手がまだたくさんいることに対しての笑みでもある。
それから、ゼイゲンたちは創っていた疑似世界を消し、神界へ戻ると、片っ端から、目につく神から攻撃していった。
それにより、神界の一角が吹き飛び、神界の勢力は一気に減ることになった。
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