183話 滅びの始まり
戦いは突然始まった。
いきなり大量の敵が神界へと転移してきたのだ。
突如、神界の一角に巨大な門が現れたかと思うと、見るからに強者だと分かる集団が現れ、間近にいた神族に襲い掛かった。
もちろん、神界側も反撃していた。
しかし、一人一人の力量は敵側が高く、突然だったと言うこともあり次々と殺されていった。
そして、ゼウスの元へ一人の神族が駆け込んできた。
「た、大変です!!!」
「どうした?」
駆けこんできた男は、右腕を抑え、右目を閉じていた。
右腕からは付け根辺りから大量の血が流れ、右目が閉じられて額に深い傷を負ったせいで、血のカーテンがかかっている。
ゼウスは起こっていることが分かっていながらもそう問いかけた。
「敵が!敵が攻めてきたのです!!!」
「戦力は?」
「敵戦力は、僅か300程!しかし、その力は想像以上です!!!先程アテナ様もいかれましたが、応援を求むとのことです!」
「ふむ。了解した。我の領域に来たのだ……精一杯おもてなししなければな?」
ゼウスの発する圧に、報告をしに来た男は痛みを一瞬忘れ、体が硬直してしまった。
「戦神らに伝えよ。敵を殲滅せよと」
「はっ!分かりました!」
決して大きな声ではなかったが、確かな圧を孕んでいた。
男は急いで部屋を出ていく。
「ぎゃああああ!?」
「助けてくれぇーーー!!!!」
「ぐあああああああ!?」
そこは阿鼻叫喚と言えるものだった。
いつもは支配者を気取っている神族が人間のように叫び声をあげていた。
「クハハッハハハハハ!!いいぞいいぞ!殺しまくれ!」
そんな敵の中で一際存在感を放つ男が言った。
その男はゼイゲン、至仙の一人だった。獲物は薙刀に近い武器だ。
コツンと柄頭で地面を叩き、命令を下す。
「そのまま来たやつから殺していけ!ただし、決して散らばりすぎるな!」
ゼイゲンはその雰囲気や姿や言葉遣いから強引なイメージを持つかもしれないが、馬鹿ではない。賢いとも言えないが、戦術を考えることは出来る。
「クハハッ、……ん?」
その時、ゼイゲン側から悲鳴が上がった。
「そこまでです!それ以上の蛮行は許せません!」
「なんだお前は?」
「私はアテナです!今すぐ兵を引きなさい!」
「それは無理な話だ」
当たり前だろう。
そもそも相手の自陣に攻め込んだのだ。そんな簡単に引き返せるわけがないし、そのつもりもない。
ゼイゲンはアテナを一目見強いと感じた。
今まで神兵が相手にしていた神族たちと比べれば桁違いと言っていいだろう。
アテナは白銀の剣と盾を取り出し、構える。
「ゼイゲン様!ここは私が!」
「クハハッ行ってこい!」
ゼイゲンに進言した男は百卒の一人だ。
今回神界に侵攻してきたのは、神兵が大半で百卒が五人、千卒が二人、そして、至仙が一人だ。この場ではゼイゲンの発言力が一番高い。指揮しているのがゼイゲンなのだから当たり前と言えば当たり前だ。
「アテナと言ったな。私の名はケルトリア。私が相手だ!」
「いいでしょう」
ケルトリアの武器は直剣。
片手で持ち、中段に構える。
「はあっ!」
先に動いたのはアテナだった。
左手に持つ盾で半身を隠しながら距離を詰める。
「やっ!」
「ふっ!」
盾に隠れながら突き出された剣を直剣で上手くいなしていく。
初動が盾で隠れるためタイミングがズラされているのにも関わらずケルトリアは確実に対処していく。
「やあああっ!」
左腕を前に突き出し、体を回転される。
回転力を加えた回し斬りだ。
「くっ……強い……」
剣を立て、左手を刀身に添え、受け止める。
ズザザザッと後ろに無理矢理下がらせられる。
ケルトリアもアテナの実力を認めた時、突然ケルトリアの剣がパキッと斬れる。それと同時に、ケルトリアの体も横に真っ二つに斬れる。
「ほう、とんでもない切れ味だな」
「まさか、ケルトリア様が!?」
神兵の一人が驚愕の声を上げ、それが伝播していく。
ゼイゲンは面白い、と笑みを濃くする。
「次は私が!ゼイゲン様が出るまでもありません!」
「お前にやれるのか?」
「当たり前です!我は奴とは違います!」
今度声を上げたのは、千卒の一人だった。
百卒がまさか負けるとは思わず、戸惑っているところへ、千卒が出ると言う。戸惑いは払拭され、殺せ殺せ、と言う声が上がる。
「さっきと同じようには行かんぞ!」
「同じです。私は、負けるわけにはいかないのです!」
アテナも負けられない理由がある。
眼に力を入れ、それでいて剣を握りなおす。
「『光翼』!」
バサッと光の翼がアテナの背から生えた。
今度は武術のみで戦う気はないと言うことだろう。
「我が名はスーデン!」
名乗りを上げた瞬間、アテナが攻撃を仕掛けた。
翼をバサッと広げるとそこから、光の礫が飛ばされる。
「すぅーーー、カッ!!!」
大きく息を吸い、目を見開く。
それだけで、光の礫は弾き飛ばされた。
だが、それは囮であり、背後に回っていたアテナはスーデンの背目掛けて突きを放つ。
「ッ」
それをギリギリで避けるが、少し掠る。
しかし、その程度の傷とも言えない傷を放置し、踏み込む。
突きを放った態勢のままだったアテナは盾で受け止めるが、衝撃が増幅し、吹き飛ばされる。
「我が剣を受け止められるとは思わぬことだ!」
光翼を羽ばたかせ、空中に留まる。
だが、その顔は険しい。
(あの剣、当たった瞬間に衝撃が広がった……まともに受けるのは危険ですね)
冷静に分析するが、先程の敵とは明らかに違うことが分かっているための表情だ。
ケルトリアはアテナを舐めていた面もある。そのため、隙を巧くつくことが出来たが、一度力のほどを見せてしまったため、スーデンには隙はない。
(あの剣は衝撃を広範囲に放つものですね。そして、スーデンの能力が『増幅』……)
相性が良すぎる。
スーデンの能力、権能と言えるだろう。『増幅の権能』、剣の威力もさることながら、切れ味も剣の能力も増幅される。単純な攻撃力と言う面では最高頂だろう。
盾で受けたとしても、広範囲に衝撃を行き渡らせるなら、効果は薄い。
今度攻めたのはスーデンだった。
一歩二歩と進み、三歩目でグンとスピードが上がった。
「くっ!」
ゆらゆらと刀身を揺らしているのも相まってタイミングをズラされ、肩を狙った斬撃を盾を無理矢理ねじ込むようにして受け止める。予想していたため、力を入れていた。しかし、左腕が吹き飛ぶような衝撃を感じ、一瞬腕の感覚がなくなった。
態勢を立て直す間もなく、次の攻撃が迫っていた。
(盾は使えない!なら……!)
左腕を戻す暇はない。態勢も大きく崩されている。なら、取れる行動は防御しかない。
迫りくる剣をギリギリまで見て軌道を読む。剣を合わせるのではなく、添えるようにして薙ぐ。
「なに!?」
それでも、広範囲の衝撃波を避けることは出来ないが、剣を振るうと同時に後ろに飛ぶことで衝撃を分散させることに成功した。
(衝撃もいなせばダメージ自体は少ないようですね……しかし)
スーデンも武に通じている。
同じ手が何度も通じるとは思っていない。アテナの取った手はタイミングが命だ。少しでもズレれば、自分が大ダメージを受けてしまう。そんなギリギリの勝負はアテナの精神を削っていく。何度も行う以前に、集中が途切れ、ミスしてしまうだろう。
「やあ!」
「くっ!?」
アテナはスーデンが動揺している隙に距離を詰め、剣を振るう。ダメージを受けていた左腕も回復していた。
連続で剣を振るい、スーデンに反撃の暇を与えない。
「はあああっ!!!」
「グハッ!?」
巻き取るようにして剣を弾き、ガラ空きになった腹に盾で殴りつける。いわゆるシールドバッシュと言うやつだ。
一瞬スーデンの意識がとんだ。その隙を見逃さず、剣を振るう。
スーデンの右肩から左脇腹にかけて斬り裂く。
「はあっはあっ……次は誰ですか……!」
アテナもギリギリの戦いをしたり、大ダメージを受けたりしたせいで、かなり疲労が溜まっている。強力な敵との連戦は思った以上に精神的にも辛いようだ。
「クハハハハハッ!面白いぞ!アテナよ!次はーー」
「次は俺が!!!」
ゼイゲンの言葉を遮るように言う。
せっかくのいい気分に水を差されイラつきながら告げる。
「なんだ?」
「ここは俺らで攻めた方がいいかと!」
「なぜだ?」
「ゼイゲン様が破れるとは思いません!しかし、我らも上官を殺され黙っているわけにはいかないのです!」
発言をしたのは、ケルトリアとスーデンの指揮下にいた神兵だった。
その言葉を受け、ゼイゲンは少し考える。
このまま、自分の意を通すか、部下の進言に耳を貸すか。部下の発言にも理があるため、一蹴にはしない。
しばらく考え込み答えを出す。
「いいだろう。だが、次は俺も出る」
「ありがとうございます!行くぞ!」
ゼイゲンたちが話している間にアテナも回復に努めた。しかし、全快には程遠い。肉体的なダメージは回復している。問題はこの状況を自分一人では対応できないと言う、精神的なダメージだ。
(このままでは……!)
アテナは焦りだけが募っていく。
それから、神兵の総攻撃とも言うべき攻撃が始まった。
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