180話 賭けをしよう
ダンテを殺した男は、背後の虚空に向けて声をかける。
「いつまで隠れているつもりだ?そろそろ出てこい」
その声は森の中に消えていった。
「出てこないなら引きずり出すだけだが?」
そう言うと、男の目の前の空間に影が差し、広がる。
「見つかっていましたか」
「いや、私も少し前に気付いた。驚いたぞ、この世界に私の感覚を誤魔化せる奴もいるとは」
「いえいえ、本当は最後まで隠れているつもりでしたが、まさかバレるとは……別の次元に隠れていたのに、さすがは、神と言うべきですか」
「……貴様、この世界の人間じゃないな?」
現れた男の言葉を聞き、余裕のあった態度を消し、表情を険しくする。
「ええ、ついでに言えば、人間でもありません。そうですね、エイト、とお呼びください」
「エイト……なんの用だ?」
「あなたと同じですよ……偵察。それが、私の任務ですよ。しかし、失敗しましたね。主にもあまり関わらないようにと言われてたんですが……」
「ふっ」
すると、突然男が動いた。
エイトの首で、バシィィィイイン!!と音がし、風圧が近くの木を倒す。
「危ないじゃないですか」
「私の一撃を防御もせずに受け止めるとはな」
「防御はしてますよ?ほら」
と言い、見やすいように首を傾ける。
そこには、申し訳程度の魔力が纏ってあった。
「その程度の魔力で受け止めれる攻撃ではないが?」
「ふふ、そこは秘密です。それに、なるほど。神兵は、中級神、上級神未満と言ったところですか。他の仲間も別の場所にいるようですね」
「なんだそれは?」
男はエイトから聞きなれない言葉を聞き、聞き返す。
「そうか、理の外、いや、ステータスという概念すらないようですね」
「ステータス?」
男も一度攻撃を受け止められ、二度目の攻撃をする様子はない。
エイトから情報を引き出すことを優先するようだ。
だが、警戒は怠っていない。
「あなたの力を見るに、あなたの上官は上級神以上と言ったところですか。そして、まださらに上がありそうですね。やはり……」
続いて言おうとしたエイトだったが、口を噤む。
「なんだ?」
「いえ、危なかったです。怒られるところでした」
あはは、と苦笑する。
「さて、私はそろそろお暇させてもらいますね?」
「待てっ」
逃がすか、と駆け、蹴りを繰り出す。
「それではーー」
だがその攻撃はエイトの体をすり抜ける。
ゆらゆらと炎のように姿が消えていく。
「逃がしたか……何者だ?」
蹴りの威力は相当なもので、木々が吹き飛ばされる。
情報源のエイトを逃がすが、すぐに気持ちを切り替える。
「エイト……この世界の神か?……何にしろ、また会うだろう。それより、このことを報告せねば」
続いて男の姿も消える。
そこに残ったのは、暴風でも吹き荒れたのかと思う程の惨状と、地下の拠点に大穴を開けられた、『黒の教団』のアジト。それから、ぞろぞろと集まってきた『黒の教団』の構成員たちだった。
sideレイン
「やり合ったのか?」
「はい、すみません。思いの外感覚が鋭く、見つかってしまいました」
『神の國』の兵士、神兵の男の相手をしていた、エイトと名乗った男は、レインと話していた。
「しかし、エイト、か」
「それは言わないでください」
照れたように言う。
「いや、中々いいんじゃないか?くふふ、ナンバーズの8。嘘ではないからな。それで、どうだった?カゲヌイ」
「そうですね、下っ端の神兵が中級神以上と言ったところで、その上官と思わしき人物は上級神以上と言うところでしょうか」
「そうだな、それ以上は……」
「はい、確実に最上級神以上の実力者、そして、我らと同格の力を持つ者もいるでしょうね」
「ああ、お前たちは情報を集めるだけだぞ、今回のように姿を見せるのは出来る限りでいいが禁止だ」
「分かっています。我らの存在を今はまだ知られるわけにはいかないですから」
「そうだ。しばらくは傍観していようじゃないか。追い詰められて覚醒する奴も出てくるかもしれないだろう?」
ククク、と悪役のように笑っているレインに、エイト、もといカゲヌイは苦笑する。
「そんな都合よく起こりませんよ」
「それもそうだが、起こる可能性はあるだろうよ。限界まで力を出して届かないならば、限界を超える鹿ないからな」
長い白髪を指先でくるくるとしながら話す。
足りない力は全身からかき集め、それでも足りないなら命を燃やす。
命懸けの戦いとはそういうものだ。誰も死にたいとは思わないのだから。
「それで、候補者が現れるのを待っておられるので?」
「いや、それは、アシュエルがなりそうだからな」
「なるほど、ですが、まだのようですね」
「そうなんだよな、アシュエルの才は計り知れん。何かきっかけさえあれば……まぁ、それは、置いといて、カゲヌイ、賭けをしよう」
「賭け、ですか?」
「ああ、神界が滅ぶまでどのくらいの期間がかかるか、だ」
「滅ぶのは確定なのですね」
「正確には、全神族が滅ぶことはないだろうが、滅茶苦茶にはなるだろうな」
「そういうことですか」
「そういうことだ。俺は三ヵ月」
「って、主に有利すぎませんか?未來視を使えば分かることですし」
レインは未来を視ることが出来る。
まぁ、当たり前だろう。しかし、そういった能力は基本的に制限している。
「使わんさ。知っているだろう?」
「念の為です……そうですね。私は、二ヵ月と言ったところでしょうか」
「ほう、一ヵ月も早いか。さて、賭けに負けた方は、なんでも言うこと一つ聞くと言うことでどうだ?」
「それは、女性たちが喜びそうな褒美ですね」
カゲヌイは嬉しそうだが、仲間の女性たちにこの賭けのことが知られれば、どうなるか予想できるため、素直に喜べない。
「俺たちだけの秘密だぞ?」
「分かっております」
評価、ブックマーク登録、感想、ありがとうございます!
励みになりますので、入れて貰えると嬉しいです!!!