178話 罰
sideダンテ
俺の名はダンテ。
第三騎士団の一員だ。俺が所属する第三騎士団は他の騎士団に比べて随一の実力を持つ騎士団だ。もちろんそんな騎士団に入っている俺も強いってことだな。
そして、今日は騎士長に呼ばれた。
もしかしたら、昇格?褒美が貰えるかもしれない。
そう思った俺は、ウキウキ気分で騎士長の部屋に向かっていた。
「騎士長、入ってもよろしいでしょうか」
ドアをノックし返事を待つ。
すると、すぐさま中から声がかかった。
「入れ」
失礼します、と言い扉を開ける。
そこには、今年40にもなる男性がいた。
くすんだ金髪を刈上げ、顔にいくつも傷跡が残っている。顔だけ見ると、盗賊にも見える。だが、その身体は限界まで鍛えられている。服の上からでも分かる程盛り上がり、鋼のようだ。しかも、40歳だと言うのに、まだ30代にも見える。そして、羨ま、じゃなくて、けしからんことにモテる。こんなおっさんの何がいいと言うのだろうか。全く疑問だ。大体結婚してないからと言って、次から次に近付く女が絶えんとはどういう……おっと、少しばかり脱線してしまったな。
「騎士長、俺に何か用でしょうか」
「……そこに直れ!」
「え?」
開口一番床に座れ、と言われた。
思わず間の抜けた声を上げてしまった。
「え、えーと、俺が何かしました?」
「分からんか?なぜ、自分が呼ばれたか……」
「は、はい。全く?心当たりが……ないのですが?」
怒りを堪えるように拳を握り、ドスの聞いた声で言う。
あまりの怒りに魔力が漏れ出ている。もちろん、騎士長の本気の威圧なら俺でも委縮してしまうが、これくらいならなんともない。と言うか、怒られる時なんてこの比ではない。
「はあ……本当にこの馬鹿垂れが……貴族の令嬢に手を出すとはどういう了見だ!!!」
「あ……いえ、それほどでも?」
「褒めとらんわ!!!……しかも、侯爵の娘に手を出して、覚悟は出来ているんだろうな?」
ここまで言われれば、さすがに分かる。
確かに、この間のパーティーで警護していた時、知り合った子がいた。貴族だろうなとは思ったけど、ちょうど一人だったため、口説いてしまった。そして、そのまま休憩室でしっぽりと。
なるほど、あの子が侯爵の娘さんだったと……いやぁ、俺としたことが失敗失敗…………あれ?やばくない?
「もしかして……首?」
「当たり前だ!と言うか、死刑だ!」
「ま、ままま待ってください!たった一度だけですよ!?」
「回数の問題ではないわ!」
確かに。
貴族の娘だと処女が大事なのだ。
しかも、一人娘らしい。それを、騎士団に所属しているとはいえ、平民出の俺が奪っていいものではない、と言うのは誰でも分かる。
「即刻拘束し、候に引き渡すべきだが、今回は罰を受ければいいとのことだ」
「へ?」
「なんでもご令嬢が猛反対だったらしい。それで、首も死刑もなくなった」
「はぁーーーーーーーよかったぁ」
ほっと胸を撫でおろす。
首の皮一枚繋がった、と言うことだろう。
ホントに良かった。俺の持っているスキルの中に『性技』系のスキルが結構ある。一時期、娼館潰しとも言われていたんだ。一度俺とやった者は虜になるってことだな。
それのおかげで今回は助かった。
「そ、それで、罰とは?」
「今から調査に向かってもらう。我らがウィステス竜国の守護竜、その眷属である竜を捕獲しようとしている集団があるらしい」
「は?マジですか?」
「ああ、マジだ。これは許されざることだ」
ウィステス竜国とは俺が住んでいる国だ。
そして、竜と共存しているとは言え、全ての人間がそうではない。
一部の者どもは、竜を殺したり、使役すると言った行為を行っていたりする。俺たちの国では、竜に攻撃をすると言うことは重犯罪だ。もちろん、竜から攻撃してきたりした場合はその限りではない。しかし、竜にも人並み以上の知恵がある。理性のない化け物ってわけじゃないため、竜から攻撃するなんてここ数百年起こっていない。
「どこの馬鹿がそんなことをしようと?」
「そいつらは、自分たちのことを『黒の教団』と名乗っているらしい」
「まさか……黒竜を信奉している?」
「ああ」
黒竜。
暴虐の限りを尽くした巨大な竜だ。この世界には、色々な色の竜がいる。我が国の守護竜様は水色だ。
赤に青、黄色に茶色、と他にも様々な色の竜がいる。だが、黒い竜は今までで一体しか現れていない。それが、黒竜と言われている。
黒竜がいた時は国が何個も滅んで、人と竜が力を合わせやっとの思いで封印したらしい。討伐ではなく、封印なのは殺せなかったからと言う理由だ。
そしてそんな黒竜を信奉しているのが『黒の教団』と言うわけだ。
「そんな危険集団がいるかもしれない中に俺だけで?」
「そうだ」
「死んじゃいますけど!?」
「ああ、かもしれんな」
「いやいやいやいや!アホでしょ!?」
「アホとはなんだ!上司に向かって!」
頭を殴られ、バゴンッと音が鳴った。
俺の頭へこんでないよね?
頭を撫でながら頭蓋が割れてないか確認しながら、涙目で謝る。
「すみません……でも!一人は死んじゃいますって!」
「大丈夫だ。お前一人で潰せ、と言っているわけじゃない。調査をしてこいと言っているのだ。接触することが危険だと判断すれば、外から監視を。規模と目的だけでも分かれば今のところはいい」
「そういうことですか……いやいや、それでも危険ですって!」
俺がここまでごねるのには意味がある。
『黒の教団』は、頭のおかしい集団だ。だが、その実力は侮れない。なんでか知らんが強いんだ。とてつもなく。それもそうだろう、竜を捕まえようなんて考える奴らだ。実力がなければ出来っこないからな。
「そして、この任務には報奨はでない。完全にタダでやってもらう」
「ますます嫌なんですけど!?」
「これを断るなら処刑だが、いいのか?」
「うぐっ……」
処刑は嫌だ。でも、狂った奴らにも関わりたくはない。
本当にやりたくない任務だ。
頭が痛くなる程考えて、答えを出す。
「分かりました。俺がやります」
「そうか、分かってくれたか。もう、貴族に手を出すんじゃないぞ」
「それは、もうこれで懲りましたから……」
すっごく疲れた表情で言う。
確かに全ての元凶は俺の軽率な行動だ。相手を確認もせず、めちゃくちゃドストライクだと言うだけでやってしまった。そして、このご時世、貴族に手を出したら即殺されても文句は言えない。そんな中、いくら娘からの懇願があったとはいえ、見ず知らずの男を罰を与えるだけで許すなんて、親バカなのかなんというか。いやね?俺としては嬉しいよ?すっごく。
でもさ、よく考えたら、任務にかこつけて殺そうとしてない?大丈夫だよね?
「明日には出発してくれ。南の森林の中央部にそれと思わしき拠点があるらしいからな」
「了解しました。はぁ、嫌だなぁ」
「そう言うな。こんな機会なんて滅多にないんだぞ。さすがの俺でも庇いきれん」
騎士長も伯爵家の人間だ。
そんなこともあり、コネで騎士長にまでなったなんて言われていた時もあったけど、それを実力だけで黙らせてきた。
「申し訳ないです」
「全くだ」
「それでは、俺はこれで失礼します」
「ああ、もう戻っていいぞ」
再度頭を下げ、部屋を去る。
廊下を進んで行き、騎士長の部屋からだいぶ離れたところで、壁に背を預けため息を吐く。
「はぁ、しくったなぁ……まさか、ここまで大事になるとは」
でも、やってしまったものは仕方ない。
『黒の教団』関わり合いに絶対になりたくない奴らだが、この際そうも言ってられないらしい。死にたくないし。
「はぁ、明日か~。行きたくねぇ、逃げていいかな?」
再度ため息を吐く。
気分が沈む、鬱になりそうだ。
「ダメだよねぇ~、知ってた」
やるしかないなら、行動するのみだ。
しっかり、任務を全うして、許してもらうとしよう。
「我らが先陣だ。これまで相手にしてきたなりそこないとは違うだろう」
話しているのは、20代に見える男だ。
その男の目前には、百の兵士がいる。神兵と呼ばれる者たちだ。
「我らが失敗するわけにはいかない。各々注意しながら行動せよ!」
『はっ!』
声を張り上げ、鼓舞する。
一室が震える程の歓声が上がり、男の気分もよくなる。
男にも目的があった。
今回の命令を受けた時に思ったのだ。
(これを成功させれば、我の評価も上がる!そうすれば、昇格間違いなしだ!)
男がそんなことを考えているとは神兵の誰も思っていない。
表情には少しも出していないからだ。
「では、行くぞ!」
拳を振り上げ、門をくぐり抜ける。
これにより、『神の國』の侵攻が始まった。
下っ端とはいえ、『神の國』は文字通り、神しかしない。
自然に生まれた神、神同士が子をなし、生まれた神。それらが、集まり、神皇を王に置いた国が『神の國』だ。
人数では百人と一人。
だが、その戦力は計り知れない。
これからどんなことが起こるのか、ある者の筋書き通りなのか、はたまた予想を覆すことになるのか、まだ、誰も分からない。
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