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超越神の世界旅行  作者: sena
第8章 外来宇宙編
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175話 化物の誕生

 

 陣から現れたのは、青白い毛並みに、紅い結晶が嵌った瞳、体長は二メートルあるかないかくらいだろう。その生物を既存の生物で当てはめるならば、狼と言える。だが、その牙は狼系の魔物と比べても鋭く長い。吸血鬼の牙に似ている。


「とんでもないな……」


 圧倒されたようにヨルダウトが呟く。

 ヨルダウトから見ても、圧倒的な力を感じさせ、思わず警戒する。


「ぜぇぜぇ……くっ、ほとんどの魔力を持ってかれた……」


 汗を滝のように流し、荒い息を吐きながら息も絶え絶えに言う。

 魔力は一割程度しか残っていない。しかも、ヨルダウトから引き離された瞬間、生命力まで少しだが奪われていた。


「グルルルルゥ」


 低い唸り声を上げているが、敵意は感じない。


 まず、エリーゼ程の術者ならスキルも制御できる。普段なら。

 こんなに自分の生命すら脅かされるなんてことは、本来あり得なかった。


(まさか、これも主殿が?)


 ヨルダウトがそう考えてしまうのも無理はない。

 ヨルダウトが魔界にいることも知っているし、もしかしたら視ているかもしれない、そして、面白いことが起こっているから手を出そう、とレインが手を出したのかもしれない。と、レインの性格を知っているため、否定出来ずにいる。


 答えを言ってしまうと、今回はレインは何もしていない。

 本当に偶然に起こったことだった。


 だが、何も理由がないわけではなかった。

 簡単に言えば、魔力が反発したのだ。

 ヨルダウトの魔力とエリーゼの魔力、どっちも吸血鬼だ。そして、吸血鬼とは捕食者だ。喰う側の存在。そして、ヨルダウトの制御を離れた魔力が暴れ出し、それに釣られるようにエリーゼの魔力も暴れ出した。だが、対等ではない。格が上であるヨルダウトの魔力の方が強い。そして、それに対抗するために、エリーゼから魔力を限界以上に吸い上げていた。しかもヨルダウトが引き離したため、その一瞬の内に吸血鬼特有の能力である『生命吸収(エナジードレイン)』が発動し、エリーゼの生命力を奪ったのだった。


「……これは、お前の言うことを聞くのか?」

「ふぅ、少し落ち着いてきたぞ。それで、ワシの命令を聞くかどうかだったな。魔獣使い(ビーストテイマー)と似ており、対象となる魔物と魔力のパスが繋がっているのだ」

「なるほどな。ん?命令は聞くのだろうな?」

「ああ、そうだ。じゃなければ意味がないだろう?」

「それもそうだな」


 きちんと聞き、納得する。

 この狼が全くの敵意も殺意も向けていないことに納得いったのだ。


「よし、お手」

「グルゥ」

「おかわり」

「グルゥ!」


 機嫌が良さそうに言うことを聞いている。


「ひとまずは安心か……」

「そうだな。しかもこれは、偶然が偶然を呼んで作られた産物だな」

「余の水晶の能力も持ってそうだ」

「ワシらの吸血鬼の能力もありそうだな」

「……」

「……」


 お互い無言になった。


「まずくね?」

「ああ、まずいな」


 神祖と真祖。そして、不死王の力まで持っていれば、無限再生が可能だろう。

 そして、一番が、


「こいつ、()()()()()

「本当か!?」


 ヨルダウトは知覚を広げ、視てみた。

 すると、エリーゼの作る魔法生物には絶対にあるはずの『核』がなかったのだ。

 慌てて、エリーゼも確認する。


「まさか……初めてだ。こんな完璧な生命を作り出せるとは……」


 エリーゼが作る魔法生物は魂のない生物だ。

 そして、もちろんこの狼にも魂はない。だが、肉体だけは完璧だと言えるだろう。


「実際どの程度の力を持っているかは分からぬが、それでもあの蛇よりは確実に強いだろうな」

「……ああ、ワシの最高傑作がこんな簡単に負けるとは屈辱だが、認めないわけにはいかないだろうな」

「それで、この狼の名前は何にするのだ?」

「名前……名前か。ポチではダメなのか?」


 思いっきり真面目な顔で言い放った。

 それに対して狼も心なしか嫌な顔をしているように見える。


「ネーミングセンス皆無なのだな」

「いいではないか、ポチ……可愛いだろう?」

「可愛いではなく、可哀想だ」

「うぐっ、アスモデウスにも言われたぞ……なら、何ならいいんだ」

「そうだな、そもそも余が考えていいものではないと思うが……ウル、でいいのではないか?」

「ウル……いい名だ!」


 ヨルダウトが言った名に対して、高い唸り声を上げる。

 どうやら、気に入ったようだ。


 狼、改め、ウルが、ヨルダウトの足元に頭を擦り付ける。


「ちょっ、ワシが主なんだが!?」

「ガルルッ」


 自分の方に引き寄せようとしたエリーゼの手を前足でペシンッと叩き落す。


「余の方がいいらしいな」

「だから、ワシの!ワシのだろうが!!!」


 この犬め!と叫びながら、捕まえようと飛び掛かるが、素早い身のこなしで軽々と避ける。

 その動きには体術を少し齧った程度の実力しか感じさせないが、それでも吸血鬼の身体能力で速い。だが、ウルの身体能力はエリーゼ以上らしい。


「ぐぬぬ、止まれ!」

「グルゥ!?」


 命令を下すことで、強引に動きを止める。

 逃げようと動こうとするが、命令の強制力は強く、抗えないようだ。


「はーっはーっ、疲れた……命令は聞くようで安心した」

「そうだな、本気で抗われたりでもしたら、効かないかとも思ったがこれなら大丈夫だろう。それより、そろそろ解除したらどうだ?」

「それもそうだな。もうよいぞ、動いて」


 一瞬でヨルダウトの後ろまで下がり、隠れる。

 そして、エリーゼに威嚇の声を上げる。完全に嫌われたようだ。


「力の程は自分で確かめてくれ。魔界には相手に困らんだろう?」

「それもそうだが……上位以上の悪魔だと、それぞれが誰かに仕えていたり、逆に配下を持っていたりする。簡単に手を出せば、集団で襲い掛かられる場合もある。ワシに戦闘能力はさほどないからな」

「確かに、危険ではあるな」


 悪魔などの高位存在に限らず、強者とは見た目は関係ない。

 ロリだろうと、女だろうと、地盤を砕く程の力を持っている者もいる。では、どうやって実力者かどうかを判断するのかと言うと、魔界の場合は魔力だ。高位になればなるほど魔力が膨大だ。


 そして、エリーゼも魔力だけは膨大だが、その力はほぼ全て、魔法生物創造に使われている。要するに、自分で戦うことは出来なくはないが、作る魔物より弱い。なら、作った魔物を戦わせた方がいいと言うことだ。


「さて、余はもう行く」

「もう行くのか?」

「ああ、魔界に来て意外と時間も経ったしな。それに、新たな力も得た。十分な成果だ」

「感謝するぞ。数百年は進んだ気がする。また、ここ(魔界)に来た時は寄っていくがよい。歓迎するぞい」

「うむ。その時は、よろしく頼む」

「グルルゥ!」


 ヨルダウトの裾に噛み付き、何かを訴えようとしている。

 その様子は「行かないで」と言っているように見える。


「すまぬな。ウル、お前の主はそこのエリーゼだ。余ではない」


 膝をつき、頭を撫でながら、子供に言い聞かせるように優しく言う。

 自分からグリグリと頭を手に擦り付ける。


「きちんと主を護るのだぞ?……もし、エリーゼが死ねば、作った魔物はどうなる?」

「消える。当たり前だ。魔力の補給が必要だ……いや、待て。『核』がないとなると、もしかすれば、その供給すら要らないかもしれん」

「ふむ。このようなパターンは初めてと言ったな。なら、今までとは根本的に違うのかもしれんな」


 作る時、一応自分の好きなように作れる。

 例えば、力を上げたり、速さを上げたり、特殊能力を付与したり、姿形もほぼ望み通りに作れる。今回のように獣系や竜系、さらには、スライムのような粘体生物まで、多種多様だ。


「まぁ、吸血鬼なら寿命は無いに等しい。これからゆっくり調べていけばいい」

「それもそうだな。ワシもウルと仲良くならねばな」


 作る魔法生物には基本的に知性を持たせない。と言うか持たない。なぜかと言うと、もし知性を持てば、それは一つの生命だからだ。作るが創るになってしまう。

 だが、このウルには完全に知性があるように見える。自分で判断し行動している。主であるエリーゼに対して、反抗しているのがいい例だ。


「ガル!」


 フンッとそっぽを向き、ヨルダウトにくっつく。

 エリーゼとは逆にヨルダウトは気に入られたようだ。と言うより、完全にヨルダウトの方が主だと思っているようでもある。命令の強制がなければ、エリーゼの命令など一つも聞こうとしないのが、目に見える様だ。


「ではな。余は帰るとする」

「外に転移をさせようか?」

「結界の解析も転移のところは済んだ。ここからでも外へ転移出来るだろう」

「っ!そうか」


 それだけ言うと、ヨルダウトは結界の外へ転移する。


 また、広大な荒野を見ながら、レインの元へ帰ろうとする。


「…………ふむ。帰り方が分からん」








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