174話 語り合い
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「ようこそ、ワシはエリーゼと言う。まずは、試練突破おめでとう」
「……」
転移した先でエリーゼと名乗った少女、いや、幼女に思わず呆然とした表情をしてしまった。
だが、この幼女が吸血鬼、それも真祖以上の存在だと、一目見た時から解った。それだけの魔力と気配を垂れ流しにしたまま名乗ったのだ。
「名乗っていなかったな。余は、ヨルダウト。吸血鬼の神祖にして、不死の王だ」
「……なんか、色々ごっちゃになっとるな……まぁ、よいか。それで、何の用でここに来たのだ?」
「力を得るためだ。そのために、ここを紹介されたが」
「あいにく、ワシにお主を強くすることは出来んぞ?」
「やはりな」
そう言われることが分かっていたかのように、ヨルダウトも返事をする。
まず、エリーゼよりもヨルダウトの方が力は上だ。魔法と言う点でも、ヨルダウトの方が極めているだろう。
「ワシはほとんど『魔法生物』を作るのに、勤しんでいるからな!」
そんなことを自慢げに言う。
確かに、試練と言う名の門前払いをしようとした時、蛇の魔物もエリーゼが作った作品だった。あれだけの高性能な魔法生物を作るのに、長い年月がかかったことは想像に難くない。
ヨルダウトが相手だったため、しかも新たな力が強かったために、対して強くないように思えるかもしれないが、それでも、上級悪魔程度なら屠れる力はある。
魔法も喰らえば喰らう程、魔法に対する耐性を獲得し、物理攻撃だったとしても、物理耐性を、しかも、『核』を壊さない限り再生すると言う不死身性。
時間が経てば経つ程、強く厄介に、最終的には普通の攻撃では殺されなくなるかもしれない。そんな可能性がある魔物だった。
「と言うわけで、ワシ自体の力はそれ程でもないぞ?」
「はぁ~、なるほど、なぜここに来させたのか分からぬが……本当になぜだ?」
「いや、ワシに聞かれても……元々、試練などお主を帰らせるための口実だ。それと、ワシの作品の試運転も込めてな」
「だろうと思ったわ。余を当て馬にしおって……」
ヨルダウトは深く長いため息を吐く。
「お、いいこと思いついたぞ!」
「なんだ?」
「ワシの作る魔物の相手をせよ!」
「ふむ。なるほど、余もまだ試していない能力もあるからな。作るところを見てもよいか?」
「いいぞ!こっちにこい!」
すぐに帰る、と言わずに、エリーゼの手伝いをすると言った時、エリーゼの顔が綻んだ。
魔界に一人ボッチだったため、久しぶりの話し相手が来て嬉しかったのだろう。
唯一の知り合い?友人?と言えるのが、あれだ。
まともな話も出来ず、会えば、ベットへGO!な奴らの住処に行くほど愚かじゃない。だからこそ、こんな場所に結界を張り、一人研究に励んでいるのだ。
だが、試す機会も中々なく、そんな中、ヨルダウト程の強者が来た。
このチャンスを逃すはずもなく、この機会にヨルダウトから色々吸収しながら、最強の魔法生物を作ろうと画策していた。
「ここがワシの研究室だ!」
エリーゼに付いていくと、ザラッと並んだ書籍と床に散らばった書類、さらには、机に散乱した実験に使うだろう物。実験部屋に期待など持ってはいけないが、それでも、これはあんまりだろう。汚部屋といっても過言ではない程、物が散らばっている。
「……ふむ。で、どうやって作るのだ?」
「ワシが作るのはスキルによるものだぞ?」
「じゃあ、それらは何なんだ?」
もっともな意見だった。
フラスコや顕微鏡もどきなど、いかにも実験に使うだろう備品も使わないらしい。
「これは作った後に使うのだ」
「なるほど」
簡素な答えだったが、ヨルダウトはその一言で理解した。
魔法生物を作るのはスキルによるものだが、それがどんな特性を持っているかなど詳しく調べるのは、作った後にすると言うことだ。そのための機器。
「だが、ワシのスキルとて完璧じゃない。長年この魔力の多い魔界で実験していたが、陣を使った方が効率のいい物を作れると言うことが分かってな……ほら、そこを見よ」
床に散乱している書類で見えにくいが、その隙間から魔法陣が見える。
ヨルダウトは邪魔になっている書類や本をどかし陣の構成を見る。
ヨルダウト自身も多少魔法陣に詳しいこともあり、何となく解るがここまで複雑なのは見たことがなく、感嘆の息を吐く。
「……綺麗だな」
それが、率直な感想だった。
効率を求め、綺麗に纏まり、しかも複雑なのに一つ一つが相乗効果を及ぼすように組まれている。
「そうだろう?ワシの長年の成果だ。だが、まだ完璧には完成していない」
「これでか?」
「ああ、お主にやられた蛇がワシの最高傑作だった。無限成長を組み込んだわけだが、それにも抜け穴があったようだな」
「動きを止めたり、全身を吹き飛ばせば、取り敢えず『核』は壊せる」
なら、『核』を作らなければいいじゃないか、と思うかもしれない。
だが、そんなことは出来ない。電気機器が『電気』がなければ動かないように、あの魔法生物も『核』と言う動力源がなければ動かすことが出来ない。
「そうだな。強くなる前に『核』ごと吹き飛ばされれば、そこで終わる」
「余のように、高威力の魔法や細切れにするような剣撃なら楽に攻略できる」
「全くだ……」
今までの成果を否定されたと言うのに、素直に認める。
悪い点は素直に認め、改善する。それにより、よりいい物を作る。それが、エリーゼの方針だ。
これが、弱者、それも魔法陣に対して理解のない者のアドバイスなら受け入れることは容易ではないだろう。しかし、ヨルダウト程の実力者から言われ、実際に最高傑作を倒して見せた者からのアドバイスとなれば、信用も出来ると言うものだ。
「前に防御力だけを最高まで引き上げた魔物を作ったことがある」
「どうなった?」
「防御力は上がった。それもとんでもなく。最上位の悪魔の攻撃にも耐えたのだ。しかし……」
「攻撃力の問題か」
重々しく頷く。
ゲームでもあるだろう。
防御力はとても高い敵が、攻撃力が低かったり。
攻撃力がとても高いが、素早さが低かったり。
全てにおいて、高水準の敵と言うのは、あまり現れないだろう。
何かにおいて、『弱点』と言うものはあるのだ。
それをどう補うか。または、長所を伸ばすかと言った方法で自分の弱点を補おうとする。それは、エリーゼが作る魔法生物に限らず、誰しもが突き当たる壁だ。
剣術を極め、さらには魔法を極める。
確かにどっちも極めれば弱点なんてない、と思うだろう。しかし、どっちも極めるなんてことは、当たり前だが難しい。
ヨルダウトの場合は、魔法に特化している。
体術にも秀でているが、体術のみを極めた者と比べれば劣る。
対して、アシュエルは、剣術に特化している。
魔法も使えるが、ヨルダウト程には使えない。
と、こんな感じで、何かは劣っているものだ。
「他にも攻撃力だけに特化した魔物を作ったが、下級悪魔の攻撃で死んでしまった」
「それは、使えないな」
「本当にその通りだ。攻撃力だけなら、最上位悪魔に匹敵する。だが、一撃すら耐えれないのならば、使えない。なら、バランスが良いように作ってみたが、どれも特化型には劣る」
「ふむ。一つ聞いていいか?」
「何でも聞くがいい」
「その魔法生物を作る、と言うのは、何を媒体としている?」
「基本的に魔力さえあれば出来る。ワシの魔力は豊富だからな。しかし、素材を媒体としてすれば、その素材を元に作られる。例えば、竜の鱗などを使えば、竜の特性を持った魔物を作ることが出来る」
「なるほど……あの蛇も竜の素材を媒体としたのだな」
「そうだ。鱗も硬かっただろう?」
「余の攻撃を一度も耐えてなかったがな」
「ぐぬ……ま、まぁ、お主が例外なだけだ」
ヨルダウトとエリーゼは魔法について、それから魔法陣について、そして、どうすれば完璧に近い魔物を作れるかについて、話し合った。
お互いが、かなりの知恵者だったため、盛り上がり、対策を練っては弱点を言い合い、それぞれの案を模索していった。構想は練りに練られ、これ以上ないくらいの完成度となった。
と言っても理論だけだ。話し合ってはいたが、実際に作りながらやっていたわけではない。それは、これからだ。
「よし、とにかくやってみるか」
「そうだな。ワシが持ってる素材はもう少ない。何かないか?」
「それなら、余の腕を使ってみたらどうだ?」
「ッ!なるほど、確かにそうだな。それは考えつかなかった……」
ヨルダウトは不死王で神祖だ。エリーゼも吸血鬼の真祖だ。
その血肉少量だとしてもとても貴重な価値がある。
それに、吸血鬼には再生能力がある。
真祖ともなれば、体の一部が残って入れば、再生可能だ。腕の一本くらい傷と言うのもおこがましい程だ。
「ワシとしたことが、竜の方が価値があると思い試したこともなかった」
それも間違いではない。
時には吸血鬼より、竜の方が上の場合もある。真祖より格上の竜などたくさんいるのだから。そして、エリーゼが持っていたのは、そんな高位竜ばかりだった。そのため、自分を素材とすると言う発想が思い浮かばなかったのだ。
「まずは、余の腕だ」
魔法陣の前に立ち、左腕を手刀で斬り落とす。
ポトンッと魔法陣の上に腕が落ち、大量の血が陣に流れ落ちる。
「このくらいでいいだろう」
小さなバケツ一杯分流すと、腕は一瞬で再生した。
「なら、ワシもだ」
エリーゼもヨルダウトを真似るように、斬り落とし、腕と大量の血を流す。
「では、早速作ってみるとしよう」
「余は何をすればいい?」
「そこで見ているだけでよい。創造はワシがやるのでな」
「了解……いや、待て」
「なんだ?」
「これも入れてみてはどうか?」
そう言って、掌を見せる。
そこには、拳程の紅い結晶があった。
「それは!……確かにそれも」
「ああ、これ以上の鉱石、と言ってよいのか分からぬが、実際どのような性質があるのか、どれほどの硬度があるのか一切分かっておらぬが、それでも、使ってみた感じからすると、かなりのものだ」
「ああ、見ていたから分かる。ワシの傑作たちを悉く砕いておったからな」
そして、紅結晶を加え、魔力を大量に注ぎながら、エリーゼがスキルを使う。
すると、紅く、青白い光を放ちながら、大量の魔力が渦を巻く。
あまりの膨大な魔力に風を生み、物理的な圧力まで加わった。床はヒビ割れ、散乱していた本や書類は吹き飛ばされ壁際に溜まる。
「これは!?」
そこで、エリーゼの様子がおかしいことに気付いた。
「どうした!!」
ヨルダウトは急いで駆け寄り、見る。
そして、魔力が魔力視を使わずとも見れる程密度が高まったことで、何が起こっているのかを悟る。
「ま、魔力を吸い取られる!?」
そう、エリーゼは膨大な魔力を持っているが、何も全てを注ぐつもりはなかった。普段は、多くても三割を限度としていた。
だが、今回は五割、半分も注げば、それだけで上級悪魔十体分にも匹敵するだろう魔力を注いでいたが、五割を切り、六割七割となっても魔力が流れ続けている。
エリーゼはいきなりの魔力が失われたため、額にびっしりと汗をかき、顔が若干青白くなってきている。魔力を一気に使いすぎた時の症状だ。陣に付いている手もプルプルと震えだし、体もふらついている。
このままいけば、全魔力を奪われてしまうだろう。
いや、まりょくだけならいい。もし、全魔力を注いでも止まらない場合、生命力さえも吸い取られる可能性もある。
「そこから離れろ!」
ヨルダウトは言っていて、それが無理だと分かっていた。
だから、口ではそう言いながらも、引っ張るようにして陣からエリーゼを引き離す。
すると、陣を中心として、魔力の爆発が起きた。
「ぐっ!」
咄嗟に結界を張り、爆風と魔力から自身とエリーゼを護る。
そして、そこから現れたのは……
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