172話 力を求めて
「……よく寝た」
ヨルダウトは魔界で一日を過ごしていた。
不死者であるため、睡眠は必要ない。
しかし、今は吸血鬼の姿を取っているため、睡眠を取ることは出来る。そして、新たに手に入れた力のせいもあって、ぐっすりと眠ってしまっていた。
その時、扉がコンコンと鳴った。
「入れ」
「失礼します」
入ってきたのは、一応メイド服を着た淫魔だった。
一応、と言うのは、とんでもなく露出激しめな衣装だったためだ。
「何用か?」
「城主様がお呼びです」
「ふむ。分かった」
見た目に反してしっかりとメイドをしているらしい。
口調もしっかししており、ふざけた様子など微塵もない。
ベットから下りメイドについていく。
「アスモデウス殿はどこに?」
「城主様の寝室におられます」
それから、アスモデウスのことを色々聞いたりしながら、移動の時間を潰していた。
(昨日の勇者も中級悪魔程度なら余裕で屠れる力はあった。状況によっては上級クラスにも勝てるだろう)
ヨルダウトが聞いたのは、アスモデウスの力や性格など。
それから、魔界の情勢などだ。
昨日の勇者もアスモデウスが強すぎるために大した実力がないように感じるが、勇者と呼ばれる実力はきちんとある。仲間の聖女も四肢欠損すら容易く再生出来、魔法使いも最上級魔法すら使いこなせる。
そして、武具も整っていた。
ただ、相手が悪かっただけで。
しかも外傷ではなく、ただ快楽を増幅しただけなのだから、普通の回復魔法は意味がない。
通常の絶頂の千倍の快楽を感じさせられた勇者がアヘアへしちゃうのも仕方ないと言うものだ。
痛みには耐性があっても、快楽に対して耐性を得るのは難しい。
「着きました」
「ん?ああ……」
そんなこんなでアスモデウスの自室に着いた。
「城主様、お客人をお連れしました」
「どうぞぉ」
中からアスモデウスの了承を得、メイドが扉を開く。
その後に続くように、ヨルダウトも入っていく。
「ようこそぉ、わたしのお部屋へぇ」
「ふむ。思った以上に簡素な部屋だな……悪魔の部屋ということで、儀式めいたものがあるかと思ったが」
「うふふ。そんな物は人それぞれ、でしょぉ?」
「それもそうか」
アスモデウスの部屋は、思いの外女の子していた。
天蓋付きのベットに、ふっかふかのソファーが三つ。壁が一面ピンクだ。
ここだけ見ると、少女趣味の女子高生の部屋みたいだ。
「もぅ、下がっていいわよぉ」
「失礼します」
アスモデウスはメイドを下げ、ヨルダウトを呼んだ理由を説明する。
「今日呼んだのはぁ、力が欲しいと言っていたでしょぉ?なら、知り合いを紹介してあげようと思ってぇ」
「知り合い?それはありがたいが……」
「いいのよぉ。その子も吸血鬼なのよぉ」
「魔界に吸血鬼が……?」
「まぁ、色々あるのよぉ」
「ふむ。深くは聞かんが、紹介してくれるのはありがたい」
ちょっと待ってねぇ、と言い机に向かい一筆紙に書いている。
「はいこれをぉ。これを見せれば多分大丈夫と思うからぁ」
「感謝する」
「じゃぁ、ほいっとぉ」
軽い掛け声と同時に転移陣を出す。
それにヨルダウトは驚いた。
ここの結界には転移阻害の効果がある。
しかも、中からも外へ転移出来ないようになっている。それは、勇者を城に招き入れているため、転移で逃げられないようにするためだ。
そして、ヨルダウト自身も転移を試してみたが、ジャミングされ、上手く転移が発動出来なかった。辛うじて数メートル、眼で見える範囲のみなら出来たが。長距離となると、発動すら出来なかった。
「ここを通ればぁ、後はまっすぐ行くだけよぉ」
紫色の陣に乗り、転移する。
転移した先は果てしなく続く荒野だった。
「またここか……魔界とはここまで何もない所なのか?いや……」
何もないからこそ、魔界から出ようとするのかもしれない。
そのための契約だろう。人間の望みを叶え、そして、自分の欲も満たせる、これ程利用できる存在はいないだろう。
「まぁ、仕方ないのか……さて、まっすぐだったな」
先を見ても、果てしなく続く荒野。
肉眼でも魔力感知でも、先に何かあるとは思えない。
と言うことは、
「また、結界か……」
魔界で静かに暮らす。
なら、他の悪魔に見つからなければいい。それは、結界などで身を隠すのが簡単だ。
「グギャアアアアア!!!」
さて、行こう、と足を出したところで、上空から悪魔が急降下してきた。
「うるさい」
長い鉤爪での攻撃を避け、すれ違いざまに頭を掴み、地面に叩きつける。
「グギェ!?」
晴れ、時々悪魔、みたいな感じで、空を飛んでいた悪魔がヨルダウト目掛けて急降下してくる。
そんな悪魔を殺しながら、進んで行く。
中には中級悪魔もいたが、ヨルダウトには関係ない。
殺して殺して、潰していく。
その数、30を超えたところでさすがにめんどくさくなった。
「いい加減鬱陶しい……」
周囲を威圧するために、魔力を常に解放した状態にする。
圧倒的なまでの魔力が放出され、力の弱い悪魔は近付くのを怖れ、それからは襲撃がなくなった。
「ふむ。魔力も強く、その質も少し変化したか……」
『落墜の霊剣』と融合したことにより、ヨルダウト本来の質も少し変化していた。
今まではどろっとしたような魔力だったが、今はサラッとしている。だが、禍々しさは増した。
「これについては追々調べるしかないか……ん?これは」
約一キロ進むと、空間の揺らぎを感じた。目の前には何もないのに、何かがあるような、そんな気配を感じる。
しかも、魔力の弱い存在はこの場所に近付くことすら無意識にしないだろう。そういった認識阻害の効果もあるようだ。
「これは、壊していいのか?」
右手に魔力を集め、殴りかかろうとしたところで、突如脳内に声が響いた」
『何をやっとるか!!!』
「ッ!」
バックステップで距離を取り、警戒する。
『念話』と言うのは、声を出さずとも遠い距離でも脳内で会話が出来る、と言うものだ。
しかし、簡単ではない。
強者になればなるほど、外からの干渉を受けないようにしているからだ。
作戦や機密情報を『念話』で話している時、傍受されれば駄々洩れになるだろう?それだと、『念話』している意味がない。
ヨルダウトも、魔力によって外部から干渉出来ないようにしている。それを貫通して『念話』を届かせているのだから、警戒するのも当然だ。
「余は、アスモデウス殿の紹介でここに来た」
『あの色情狂か!』
この声の主の感じからして、どことなく嫌な予感を感じたヨルダウトだった。
『また厄介なものを寄こしよってからに……!コホン、つまり、あの女の紹介で来たと言うことだな?』
「ああ、そうだ」
『なら、入ってまいれ』
すると、ヨルダウトの目前の結界だけが解け、中に入れるようになった。
『今から試練を行う。無事クリアすれば、話を聞いてやろう』
入った先で見たのは、地面がなく、代わりにマグマの海が広がっていた。
「は…………?」
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