171話 水晶の武器
1500ものポイントがあり、ビックリしています!
最初は、数百人くらいに見て貰え、数十ポイントくらい貰えたらいいかな、くらいに考えていたんですけど、ほんとに嬉しく思っています!
こんな自己満から書き始めた作品に、これだけの人に見て貰えるとは……
これからもよろしくお願いします!
ヨルダウトが部屋に入った瞬間に女悪魔の視線がチラリと向けられた。
(やはり、気付かれていたか……)
最初から気付かれると分かっていたため、そこまで驚きはしないまでも、それでも、若干プライドが傷付いたヨルダウトだった。
ヨルダウトが来る前にも激しい戦闘が行われていたようで、勇者一行は息を乱していた。
勇者の鎧はところどころ砕け、しかし、聖剣の光は眩いくらいに輝いていた。
対して、『色欲』の王は、息も乱していないどころか、退屈したような視線を向けている。
「おおおおおおおおおお!!!!」
勇者が雄叫びを上げ、突撃する。
一瞬で距離を詰め、聖剣を振り上げる。
いきなり急所を狙うのではなく、少しづつ削っていこう、としているようだ。右肩に向け、勢いよく振り下ろす。
だが、次の瞬間、勇者が目にも止まらぬ速さで吹き飛んだ。
「があ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!」
絶叫を上げ、吹き飛び、壁にぶつかることで止まる。
慌てたように、後ろにいた女性が回復魔法を掛ける。
勇者一行、と言うのだから、回復している女性は聖女なのだろう。
「大丈夫!?」
「あ、ああ……ああ……」
視点の合わない瞳を向け、回復魔法を受ける。
(いや、あれは物理ダメージは喰らってないはず……なのに、なぜ?)
『色欲』の王がやったのは、飛び掛かってきた勇者に一歩近づき、腹を軽く殴った。それだけで、三十メートルは吹き飛んだ。
だが、殴ったと言っても、物理ダメージは皆無だったことをヨルダウトは気付いていた。
そして、その証拠に回復魔法をかけているのに、一向に勇者が正気に戻っていない。「ああ、あああ」とうわ言のように呟いている。目はとろんとなっており、口からは涎が流れている。その様子はエクスタシーを感じているかのようだ。
(なるほど。痛みを快楽に変換しているのか)
『色欲』の王の攻撃は、痛みを快楽に変換する。
つまり、ダメージが大きければそれだけ感じてしまう。
要するに勇者は殴られて絶頂したのだ。
「え……」
呆けた声を上げたのは、勇者一行の一人、魔法使いだった。
その視線は勇者の股間に向けられていた。
何度も嗅いだことのある匂いを感じ、目を向けると、信じられないものを見てしまい、勇者の状況を把握してしまった。
その間も聖女は回復魔法を掛け続け、ようやく勇者が正気を取り戻した。
「あ……ララ、お、俺は一体……」
「ああ……よかったです。勇者様!」
「はっ!魔王は!?」
聖女の顔を見、安心したような顔をしたが、今の現状を思い出し、バッと上体を起こす。
茶番……もとい、友情を『色欲』の王は、黙ってみていた。
不意打ちなどするつもりはないようだ。
「あ、あの勇者……」
魔法使いが言いにくいように、口籠り、視線で伝える。
魔法使いが見ているところへ勇者も視線を向けると、急いで隠した。
羞恥で顔を赤く染め、手で隠す。
言われて分かったようだ。漏らしたような湿りを下半部に感じ、その原因に思い出したのだ。
「ねぇ、もういーい?」
「クッ!」
『色欲』の王をキッと睨みつけ、立ち上がって聖剣を構える。
今は、恥ずかしがっている場合ではないと分かっているのだ。
(それにしても、恐ろしいな……ただでさえ、この場には情欲を煽る効果があると言うのに、あのレベルの攻撃を喰らえば、よくて廃人だな)
勇者が耐えられているのは、その身に纏っている鎧と、聖剣、それから指輪などの魔道具に護られているからだ。
『色欲』を相手にするのだから、『魅了』対策は万全を期していると言うことだろう。だが、それでも、完全ではない。相手は、人知を超えている正真の化け物なのだから。
「俺が隙を作る、ララは溜めて高威力の魔法を叩き込んでくれ!リスシアは俺の回復を頼む!」
「了解よ!」
「分かりました!」
簡潔に作戦を伝える。
「そろそろいーい?」
「ああ、待たせたな!はああああああっ!!!」
今度は馬鹿正直に正面から向かうのでなく、高速で移動しながら、壁を蹴り、天井を蹴り、立体的に動き回っている。
その速度は圧倒的で、足場にした場所から爆音が響いてくる。
「らあああああ!!!!」
聖剣が光を放ち、加速しながら一撃を叩き込む。
「がっはアアアアアア!?」
勇者の背後からの一撃に振り向き、撫でるように叩く。
それだけで、面白いように勇者の体が吹き飛び、支柱にぶつかる。
勇者が命を懸けた攻撃により、僅かに出来た隙を見逃さず、魔法使いが攻撃を放つ。
極限まで圧縮された炎の閃光を『色欲』の王に放つ。
それを、掌で受け止め、握り潰す。
「うそ……でしょ?がっ」
人生で最大の攻撃だと思っていた魔法を片手で握り潰され、呆然としているところに『色欲』の王が近付き、ポンッと肩に手を置く。
ビクンッと激しく痙攣し、小さな痙攣を起こしている。
「うふふ、中々面白かったわぁ」
「ひっ、悪魔……!」
「うふふ、悪魔ですものぉ」
勇者と魔法使いが引き続き倒されたことで、勝てないと悟り、急激に恐怖が全身を支配する。
尻餅をつきながら後退る。
「じゃあね、聖女ちゃん」
「ひぎゃっ!?」
五指を聖女に向けると、その爪が伸び、聖女の頭を貫く。
「うふふ、いつまで隠れておくつもりなのぉ?」
「いや、余は観戦していただけだ」
「それでぇ、何者なのかしらぁ?」
「余は、ヨルダウト。不死の王であり、吸血鬼の神祖だ。そして、主殿の下僕」
「主殿ぉ?」
「ああ、今は、レイン、と名乗っている。貴殿ら悪魔の王の創造主と言えば分かるだろう」
「まさかぁ!」
ヨルダウトが自分のことを伝えると、即座に理解し、驚きに顔を染める。
「しかし、ベルゼブブ殿で分かっていたが、改めて悪魔とは理不尽な存在だな」
「ベルちゃん?あらあら、あの子魔界にいないのぉ?」
「ああ、主殿に引っ付いているため、アシュリー殿らと喧嘩している」
「本当見たいねぇ。それで、坊やはどうしてここへ?」
「更なる力を求めて……魔界には、強者が多いと聞いたのでな。それで、稽古をと思っていたが、どうやら我らとは根本的に違うらしいな」
「そこまで解っているなら大丈夫よぉ。あの方の傍にいるなら、自然と強くなるものぉ。ただ、付いていければ、だけどねぇ」
凛とした声音なのに、情欲を煽りに煽りまくる声だ。
この声を聞いているだけで、ヨルダウトは性欲が沸きあがってくる。それを意思の力で抑え込む。
「それで、いいのか?そこに転がっている勇者と魔法使いは。まだ生きておるぞ?」
「いいのよぉ」
「それで聞きたいのだが……」
「いいわよぉ。何でも聞いてぇ?」
「なぜ、ここは人間界に近い?それと、なぜ、魔界に人間がいる?」
「悪魔って魔界から出れないでしょぉ?なら、人間を魔界に呼べばいいじゃなぁい、ってなったのよぉ」
「そんなことが……?」
「もちろん、普通はそんなこと無理よぉ?でも、なぜか出来ちゃってぇ……それから、数百年時々、人間界に下級悪魔を送り込んでこちらに来るようにしてるのぉ。ゲートを開いておけば、勝手に人間が攻めてくるしぃ、中には勇者なんて言う強者個体も現れるのぉ」
「……なるほど。主殿によく似ている」
「あらぁ?嬉しいことを言ってくれるわねぇ。褒めたところで何も出ないわよぉ?」
うふふ、と手を頬に当て、いやんいやんと体をくねらす。
「それでぇなぜ人間界に似ているかと言うとぉ、そうしないと人間が魔界で生活出来るわけないでしょぉ?」
「それは、そうだな」
言われてみればその通りだ。
人間を暇つぶしのために呼ぶのに、暇をつぶす前に死なれては意味がない。そのための環境作りを行ったと言うことだろう。
「にしても……この部屋は凄いな……」
改めて室内を見渡す。
ヨルダウトが感心しているのは、あれだけの魔法や高威力の聖剣の攻撃を行ったのに、室内には傷一つついていないのだ。
勇者がぶつかった壁や支柱。それに、部屋の中央にある深紅の絨毯。それすらも破けてすらいないのだ。普通の壁ならめり込んだり、破壊されたりするはずだが、全くの無傷。勇者には衝撃の全てが降りかかったことだろう。
「不壊の付与がされてるのぉ。わたしたちクラスじゃないとぉ、傷一つ、つけれないわよぉ」
何気に凄いことをサラリと言う。
王クラスじゃないと壊せない壁に絨毯にその他。とんでもない代物だ。
「それでぇ、どうするのぉ?」
「ふむ。余は強くなるために来たが……その方法もないのであれば、魔界にいる必要はない。余は主殿の元に戻るとしよう」
「あらぁ、もう行っちゃうのぉ?あ、そう言えばぁ、武器ぃ、ならあるわよぉ?」
「武器?」
「えぇ、あの方から貰ったのだけどぉ、わたしには使えなくてぇ」
「ふむ。もし、よければ余が貰ってもよいか?」
「いいわよぉ」
ついてきて、と言い、スタスタと歩き始める。
玉座のところまで歩いて行き、立ち止まる。
すると、玉座に魔力を流し始めた。
(っ、隠し扉……か)
玉座の後ろの壁が、ガコンッと音を立て、開く。
地下へと続いているらしく、階段を下りていく。
ボッボッボッと灯りが灯る。
「ふむ、また魔力が濃くなった」
「うふふ。わたしでは使うことが出来なくてぇ、でも強力な武器で大量の魔力を放出しているのぉ」
「なるほど……」
それから数分階段を下りていく。
降りる度に可視化する程の魔力が襲い掛かる。
その濁流の如き魔力を受けて無事でいられるのはさすが王と言うところだろう。ヨルダウトすら思わず二の足を踏みそうになってしまった程だ。
「ここよぉ」
厳重に封印されているようで、扉にも何重にも渡り封印術が施されている。
「あ、そう言えばぁ、わたしはアスモデウスよぉ、覚えておいてぇ」
「了解した。アスモデウス殿」
目を瞑り、封印を解いていく。
パキンッと何かが壊れる音がすると同時に、扉が開いていく。
「これが……?」
そこにあったのは、巨大な水晶だった。
透き通るような青色で、圧倒的存在感を放っている。
「そうよぉ、これが武器……意思を持っていてぇ、所有者を選ぶのぉ」
詳しく聞くと、この水晶は意思を持っていて、水晶自身が認めた相手ではないと扱うことが出来ないようだ。そして、認められる条件とは、欲を抑えられる者。悪魔の天敵とでも言える物だった。
悪魔は、欲の塊だからだ。アスモデウスは『色欲』の王、『色欲』の概念そのものだ。土台無理な話、ということになる。
「ふむ。欲……主殿が面白がって与えたのが目に見える様だな」
「でしょぉ?わたしたちにぃ、こんな物与えるなんてぇ、人が悪いわぁ」
困ったように笑い、ため息を吐く。
ヨルダウトは魅入られたように近付き、水晶に手を添える。
ーードクン
ーードクン
ーードクン
心臓のように脈打ち、触れた所から紅く染まっていく。
「余の物に……」
ーードクンッ!!!
一際大きく脈打ち、パキ、パキと水晶にヒビが入る。
そして、壊れる。すると、壊れた水晶が光となり、一本の剣が地面に突き刺さっていた。
「これが……」
「ええ、これは『落墜の霊剣』と言うらしいのぉ。本来心の清い者しか扱うことが出来ないようなのだけどぉ、坊やを気に入ったみたいねぇ」
ヨルダウトは控えめに言っても心が清いとは言えない。
言うなれば『相性』と言うものだろう。
「うっ……くっ」
突如、ヨルダウトが苦しみだした。
剣を持った右腕が焼けるように熱いのだ。
刀身は紅い水晶、柄までも水晶で出来ている。燃え盛るような真っ赤な紅だが、驚くほど静かだ。
だから、剣が燃えているから熱いと言うわけではない。
「ぐぅぅ……」
小さく呻きながら耐える。
ヨルダウトがなぜこんなになっているのかと言うと、大量の魔力がヨルダウトに流れ込んだからだ。暴れ狂う魔力をこのままにしていれば、腕が吹き飛ぶだろう。
それを自身の魔力で抑え込みながら耐える。
それからどのくらいだろうか。
額にびっしりと汗をかき、息も荒い。憔悴している。
それだけで、どれだけ大変なことかわかるだろう。
「あらぁ、耐えましたねぇ」
アスモデウスがビックリするようなことを言った。
どうやら、ヨルダウトでは扱えないと思われていたようだ。
「はぁはぁ……治まったか」
すると、剣がキラキラと剣先から消えていき、ヨルダウトの体に吸収されていった。
「認められたみたいですねぇ」
「……そうか。ならば、よかったが……」
「使い方は追々分かると思うわぁ」
「了解した。余は、これで失礼する」
「分かったわぁ……それじゃぁ、部屋を用意させるから止まっていきなさぁい」
「感謝する」
思った以上に疲れているようで、今すぐにでもベットに倒れ込みたい気分だった。
「うふふ、夜伽はいるかしらぁ?」
「いらん」
流し目で聞いてくるアスモデウスに、いたって真面目な顔で言う。
やはり、『色欲』を司るだけはあるらしい。
頭の中には常にピンク色の妄想が広がっているみたいだ。
それから、用意された部屋で横になっていると、淫魔が来て襲われそうになったとか、なってないとか……。
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