170話 そこで見たのは……
ヨルダウトは男悪魔の言われたように進んで行った。
すると、数分もせずに、建物が並んでいるのが目に入った。
「ふむ?特に悪魔が見えんが……」
そう、建物はあった。
だが、人……もとい悪魔がいなかった。
「これは……結界か?」
もう少し近付くと、建物全土に渡って強固な結界が張ってあることに気付いた。
「ここまで近付かんと気付かないとは……もしや、なるほど」
結界を視て、解析していくと、いくつか分かったことがある。
一つは、『認識阻害』だ。
ヨルダウトはレインから魔界がどういったところか少し聞いていた。
魔界には、基本的に法はない。
誰を殺しても、奪っても、犯してもいい、そんな無法地帯だ。
だが、そんなことを許していては、国を築いているところはやっていけない。ゆえに、魔界の王は自国に対してはいくつかの法を作っているところもある。
しかし、悪魔は自由だ。
自分の好きなように行動するため、一人で国に喧嘩を売ったりする奴も当然出てくる。そして、もし、その悪魔が高位悪魔、力の強い存在だった場合、国が滅茶苦茶にされることなど、ざらにある。
そんなこんなで、自国に結界を張り、周囲から守ったり、干渉出来ないようにしている者もいると言うことだ。そして、『色欲』の王もその一人だ。
「ふむ。どうやって入ったものか……」
外敵から守るためのもの。
だからと言って、全方位、隙間なく結界で覆っていれば、誰も中に入ることが出来ない。
それに、全部を解析したわけではないが、迎撃する機能がないことは解った。しかし、結界を通り過ぎれば、結界を張った術者にヨルダウトの存在がバレることも解った。
「まぁ、入れなくなるような物じゃないようだが……色欲の王に会いに行くのもいい……か?」
うーん、うーん、と考えているが、あまりいい案は浮かばない。
そもそもヨルダウトが魔界に来た目的だが、特にない。
だからと言って、観光と言うわけでもない。魔界まで来て、観光が目的とか阿呆すぎる。
一応、目的と言えるものはあるが、それは相手次第なのだ。
ヨルダウトは、ベルゼブブと会って、どれだけ悪魔が理不尽な存在かが解っている。それも、王クラスになると、今のヨルダウトでは敵わない。だから、慎重に事を運ばないといけない。
王がレインから創られた存在だとしても、ヨルダウトにまで便宜を図るかと言うと、それも違う。そもそも悪魔には神界のように制約などないのだから。ただ一つ、魔界から自力で出れない、と言うだけであり、好き勝手生きることが、レインから許されている。つまり、ヨルダウトを消滅させることも許されていることになる。
「うーむ……ま、大丈夫だろう。そもそも『色欲』だからな。『憤怒』や『強欲』なら逃げろと言われていたが……」
一応、レインから注意されていた。
『憤怒』は喧嘩っ早いため、戦いを出会った瞬間に挑まれる。もし、そうならなくとも、沸点が低いため、怒らせればどっちにしろ戦いになる。そうなると、手加減をしない、と聞いているため、ヨルダウトが死んでしまう。
『強欲』も同じく、怒り安いと言うわけではないが、ヨルダウトが気に入られれば何が何でも手に入れようとするため、死ぬ。手に入れるとは、ヨルダウト自身ならまだいいが、もし、魂が欲しいとなれば、殺されるため、どっちにしろ死ぬ。
「余では王クラスには勝てない……戦いになれば負けるのは必至。負けるだけならいいが、魂を喰われれば……」
古来より悪魔とは人間に契約を持ち掛け、魂を求める存在として言われ続けていた。
そして、その通りでもある。
なぜなら、魂を得れば手っ取り早く強くなれるからだ。
「よし、行くか」
決意を固め、結界を通り抜ける。
抵抗もなくすり抜けた。
「何?」
結界を通り抜けると、人っ子ならぬ、悪魔っ子一人いなかったのが嘘のように、ガラリと変わった。
そこには、怪しい雰囲気の建物がズラリと並び、至る所から矯正が聞こえる。
まだ、国へ入ったところだと言うのに、その人口の多さが分かる。
「外からは中の様子が見えないようになっているのか。……しかし、これは……」
人間の国にも『色街』と言うのはある。
その上位互換とも言うべき場所だった。特に、人間とは違い、悪魔は欲に素直過ぎる。犯りたければ犯る、それが許されるため、しかも、魔界に通貨なんているものはない。要らないからだ。
欲しいものがある時は、基本的に、物々交換や奪うことで手に入れることが出来る。
「ふむ。アンデットになってから、欲と言うものは一部はなくなり、それ以外も薄れていたが、ここに来ると、性衝動が溢れてくるな」
今のところは耐えるまでもない程だが、それでも、ふつふつと性衝動が沸きあがってくるのを感じていた。ヨルダウトはアンデットでもあるが、吸血鬼でもある。つまり、吸血衝動はあるのだ。そしてそれは、人間でいうところの性衝動に似ている。
『色欲』に関する欲が増幅される国。
まさしく、『色欲』の悪魔が治めるに相応しいとさえ思える。
「それで、あの大きい城が王の住処か」
この国がどれだけ大きいのかは正確には分かっていない。
だが、見る限りかなり多いのは分かっており、中央だと思われる場所に、大きな城が建っているのが見える。
「しかし、娼婦、いや、淫魔と言うのか……主殿と会う前ならば、こ奴らと同じになっていただろうな」
淫魔を抱いている悪魔に目をやり呟く。
どの悪魔も色に狂った目をしており、一生懸命励んでいた。
淫魔とは弱い悪魔だ。
だが、それは『戦闘力』と言う面でだ。ベットの上では強者だ。エロいことをするためだけに生まれてきた悪魔だから当たり前だろう。
「しかし、城に近付くたびに強くなるのは何とかならんのか?」
強くなるとは、このエロい波動みたいなものだ。
入口付近なら少し割り増しされるくらいだったが、近付くにつれて、しっかりと意識して抑えなければならない程高ぶっていた。
このままならば、近くの悪魔に喰らいつき、死ぬまで血を啜ってしまうだろう。
もしくは、他の悪魔と同じで抱かなければ収まらないだろう。
「ん?また、結界?」
ついに城の目前まで来た。
すると、またもや結界が張ってあることに気が付いた。
「これは…………」
ヨルダウトは眼を凝らし、険しい表情で見つめた後、
「全く分からん」
そう言い放った。
「なんの効果がある?余でさえ、少しも分からんぞ」
魔法については理解がある。
だが、どうやって張られたものか、どういった効果があるのか、全くと言っていい程、解析できなかった。
と言っても、ヨルダウトが馬鹿だ、と言うわけではない。
普通、外から見ただけでそんな分かるものじゃないのだから。
「まぁ、行動を阻害するような感じではなさそうだが……本当に危険はないのか?」
ここまで結界が張ってあると思っておらず、警戒してしまうのは仕方ないだろう。
「ここで足踏みしていても仕方ない」
城と言っても、門兵がいるわけではなく、城門には誰もいなかった。
勝手に入って下さい、と言っているかのように。
「何!?」
中に入ると、冷静になるよう努めていたヨルダウトが声を上げ、驚いてしまった。
また、ガラリと空気が変わったのだ。それも、ヨルダウトも感じていた、いや、魔界に来る前に感じていた空気、人間界の空気に酷似していた。
思わず、人間界に来てしまったかと錯覚してしまう程に。
だが、それは違うとすぐに理解した。
なぜなら、魔力が人間界とは比較にならない程、満ちているからだ。
城の内部は、よくあるもの。
特に、変わった物などはない。
「向こうで魔力の爆発?」
右手の方に、膨大な魔力を感じた。
それに釣られるように、城内を歩き出した。
通路には、使用人と思わしき、悪魔が行ったり来たりしている。ただ、人間と違うのは、メイド服ではなく、露出の多い服を着ている点だ。それでも、使用人と分かったのは、掃除道具だったり、明らかに、使用人として洗練された動きだったからだ。
ヨルダウト自身も昔は王だった時期もある。
使用人が身の回りの世話をしていたこともある。だから分かった。
「戦闘力はそこまでないようだな。だか、魔力の高い奴もちらほらと感じる」
重厚な扉の前まで来た。
使用人に会釈されたりはしたが、侵入者と呼ばれたり、警戒されているようすはなかったことに、拍子抜けしたくらいだ。
「さて、この扉の向こうでさっき感じた魔力の持ち主がいる……はずだな」
扉の取っ手に手をかけ、グググっと力を入れ、押していく。
ゆっくり開けているため、扉の開くスピードは緩やかだが、徐々に開けていく視界に魔法が見えた。
どうやら、戦っているらしい。
それも、殺し合いレベルの激戦だ。人間界なら、英雄や勇者と持て囃されるくらいの実力者だろう。
と、そこで、戦っている人物を見て、ヨルダウトは違和感を感じた。
「人間じゃないか……」
そう、戦っていたのは、人間だった。
対するのは、この城の主だろう悪魔だった。
女悪魔で露出過多どころか、大事なところが隠れればいい程度の申し訳程度の布切れしか着ていなかった。胸など、たぷんっと動くたびに揺れ、衣装が意味をなしそうになかったりしている。
人間の方は、三人のパーティーで、先頭に立っているのは、聖剣を持った勇者だろうか。
この場面だけ見ると、悪魔を倒しに来た、勇者一行に見える。
実際そうなのだろうが。
「余は、どうするべきか」
そんな、戦いを見ながら、扉を自分が通れるくらい開け、すぐさま閉じ、それから、戦いの邪魔にならないように、部屋の端っこに座りながら呟く。
じーーーっと見ながら、出した結論は、
「よし、決着がつくまで観戦しておこう」
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