168話 それぞれの決着 後
sideアシュリー
「いやん!かっこいいぃ……」
「きもいおばさん」
「おばっ!?」
レインの戦っている様子を見て、うっとりしているアシュリーへベルゼブブが言葉の刃を飛ばす。
何気ないその言葉に絶句する。
「ちょっ、訂正しなさい!対して変わらないでしょ!?」
「ふふん」
「くぅ、いつまでそんな姿でいる気?」
「べる子供だから何言ってるのか分からない」
「こんな時だけ子供みたくしないの!……はぁ、続きやりましょ」
黒い太陽をレインが対処しているのを見ながら、アシュリーは自分の戦いに集中する。
ベルゼブブがクイッと指を動かす。
アシュリーはベルゼブブが指を動かしたのと同時にその場から飛び退く。すると、今までアシュリーがいた場所がボゴンッとへこんだ。
続いてボゴンッボゴンッと立て続けに音が鳴る。
アシュリーは舞うようにステップを踏み、避ける。
「ふっ!」
アシュリーは攻撃を避けると同時に、剣を握るような動作をし、横に腕を振るう。
「喰って」
バリィィィィン!!!
と、ガラスが割れるような甲高い音が鳴り響く。
「『空域断絶・序』」
「喰らえ、『捕食』」
アシュリーが能力を使うと、ベルゼブブも対抗するために、能力を使う。
ベルゼブブの影が粘土を増し、ドロドロとした液体となる。
体積を増し、一匹の獣が現れる。
「行って」
ベルゼブブの命令で獣が動き出す。が、次の瞬間バラバラになった。
「……ッ」
バラバラにしたにも関わらず、アシュリーは攻撃の手を緩めない。
さらに粉微塵にし、さらに重力で圧し潰す。
だが、獣は地面に広がる影のようにビチョッと地面に黒い染みを作ったが、すっかり元の獣の形に戻ってしまった。
空間ごと斬り裂かれたが液体に戻ればなかったことになる。二つのコップの水を一つのコップに入れてもなんの違和感もなく一つになるだろう。それと同じだ。
獣に戻った捕食獣はアシュリーへと喰いかかる。
だが、近付いた瞬間また斬り刻まれる。
その繰り返しだ。
だが、一度たりとも同じ襲い方はしていない。これは知性のなさそうな獣が学習しているようだった。
何度目かの時、ふと獣が飛び掛かるのではないく、バックステップで下がった。
『グォォォオオオオオオ!!!』
啼いたかと思うと、全身から黒い触手を大量に伸ばす。
その触手の先端には小さな口と鋭い歯がギッシリと並んでいた。人間の皮膚くらい容易く食い千切ることが可能だろう。
それが幾千、もしかすると幾万もの触手が伸び、アシュリーに襲い掛かる。
「気持ち悪い……ッ」
アシュリーは嫌悪感丸出しで言う。
まぁ、その通りだ。ワームという魔物を知っているだろうか。ミミズのような蛇のようなとにかく気持ち悪い魔物の一つだ。
それぞれの触手はミミズ程度の大きさだが、長さは何メートルもうねうねと伸びている。それが無数に向かってくるのだ。
ゾワゾワッと鳥肌が立ちそうになっても仕方ないだろう。
「『空弾』」
アシュリーに一番近い触手から弾け飛ぶ。
次から次に襲ってくる触手を一つも残さず通さず消し飛ばす。
アシュリーからすれば、視界いっぱいに気持ち悪い触手が小さな口をめいいっぱい開きながら食らいついてくる。対処できるがそれでも、腹の底からむかむかと来てしまう。
「『空裂』……やっぱ、きもい」
若干顔が青褪めている。
「『空域断絶・終』!」
アシュリーがそう言った瞬間、世界から音が消えた。
そして、視界が開けた。概念レベルで斬り刻まれ、再生不可能なくらいのダメージを負い、それでも元に戻ろうと蠢いているが、数本触手を伸ばすだけで力尽きたかのようにビチャンッと影に戻ってしまう。
「むぅ、いけると思ったのに……」
「気持ち悪いだけで対処できるもの」
塵一つ残さず消し飛ばし、晴れやかになった空気を吸いながら会話をする。
「ぎゃあああああ!?」
その時、アシュリーの悲鳴が上がった。
チラッと視界にレインが入ったからだ。そのレインの頭が貫かれていたからだ。
「れ、レイン様!?う、美しいご尊顔に……!」
「大丈夫。普通に頭貫かれたくらいじゃ死なない」
「それもそうか」
いや、普通は死んでしまう。
だが、ベルゼブブたち悪魔は首をただ飛ばされるだけでは死なない。それに、レインたちもそうだ。
「さて、私たちもお風呂行きましょ」
「ん」
もう一度レインの方を見るが、いつの間にかいなくなっていた。
転移で移動したのだ。
「って、レイン様がいない!?」
こうしてはいられないと、すぐさまアシュリーも転移する。
「はぁ、ほんとガキなんだから」
誰もいなくなった荒野で一人誰ともなく呟く。
その言葉からは、時間の重みが感じられた。
sideレイン
カッポーーーーーーン!
と、漫画なら背景に出るだろう。そんな大きな大浴場でのびのびと肩まで浸かり、寛いでいた。
「はぁ、戦いの後は熱い風呂だよなぁ」
「ふぅ、そうですね……それで、レイ様は戻らないのですか?」
アドニスが疑問を口にする。
レインは、未だに元の姿に戻ったままだった。だから、戻らないのか、と言う問いは些か見当違いかもしれないが、レインが前の姿を気に入っていたから出た疑問だった。
「んー?ああ、もう、このままでいいかなって……じゃなくて、いいかと思いましてね」
「……凄く違和感が……」
「なぁに?アストレアちゃん?」
「…………いえ」
確かに今のレインの姿は美女だ。それもとんでもなく。
だからと言って、今までの姿と口調に見慣れて聞きなれていたため、いきなり変わって戸惑ってしまうのも仕方ない。
それに、レインはいろんな世界に転生、または転移して遊んでいた。その時に使った姿は様々だ。
時に少年。時に少女。時に老人。時に美女。
様々な姿で遊んでいた。だが、本来の姿になったことは数える程しかない。
と言うのも、レインのこの姿を見れば、常人なら発狂してしまうからだ。理由は伏せるが。神も顔を人間如きが見るなどおこがましい、とだけ言っておこう。
「ふふふ、気にするな。口調は変えん。しばらくはこのままだ」
「主にはそちらの方が合いますよ」
「そうか?」
セバスの言葉にご機嫌に答える。
「さて、久々の配下との戯れ、中々に面白かったぞ?」
「それはようございました。ですが、主はあまり能力を使っておりませんでした」
「まぁ、それはいいじゃないか。体を動かせればよかったんだからな……」
ふぅ、と息を吐くレインは色っぽい。
一応、性別的には男だが。
「レイ様は鎖系の魔法をよく使うようになりましたね。前までは、攻撃系が多かったのに」
鎖系の魔法は、攻撃にはあまり向かない。
なぜなら、形状から分かるように、捕縛用だからだ。鎖の先に武器を付けたりする鎖鎌など、攻撃にも使えるが基本は捕縛がメインだ。
なぜそんな武器をレインが使っているかと言うと、
「少しでも楽しむためだ」
戦い。
それは、勝った方が勝者じゃなく、生きている方が勝者だ。死ねば敗者。
前のような直接高威力の攻撃をしていては、人間などゴミのように死んでしまう。わざわざ権能まで使い、ステータスを同じにしても、それは能力値のみだ。スキルも魔法も同じになるわけじゃない(同じにも出来るがそれだと、レインが楽しめないと言う意味で能力値のみにしている)。
少しでも長く、戦いを続けるために、普段戦う時も受け手に回っているのだ。
「思いっきり体を動かせるのは、お前たちが相手だけだからな」
「九華や六元もいますよ?」
「馬鹿言うな……理から外れても俺の子たるお前らと同格なわけないだろうが」
「ふふ、そうですね。ぱぱ、と呼んだ方がよろしいので?」
「きもい、やめろ。そう言っていいのは、ベルだけだ」
可愛い愛娘から『ぱぱ』と呼ばれるのは可愛いだろう。
だが、美男子やイケメンから言われても、まぁ、いい歳した男から言われても何も感じないどころかきもいだろう。
「そう言えば、なぜベルゼブブだけ、溺愛しているので?」
アストレアが言った何気ない質問に場の空気が凍った。
それは、誰も聞かなかったことだからだ。自然とレインとベルゼブブの関係を聞いたりしない雰囲気があったと言うのも一つだ。
「あ?知らなかったのか?あーそう言えば、あの時は誰も傍につけてなかったな」
「ええ、一時期我らの誰も傍にいない時がありましたから、もしや、その時に?」
「ああ、その時魔界にいてな?ベルの傍に付きっきりだったんだ。アシュリーたちには言うなよ?」
一応、口留めしながら続けて言う。
「数百年程一緒に遊んでたんだ。魔界の探索に、攻めてきた神族やその眷属を相手に戦ったり……」
「それで、抱かれないので?」
「……お前もか……」
そんな意地悪な質問をしてくるのは、セバスだった。
「あいつはまだ子供だぞ?」
「年齢的には我らと大差ないですが……見た目の問題で?」
「……」
「見た目も我ら悪魔には意味がないので……なぜです?」
「まぁ、色々あるんだ……色々とな」
そっぽを向きながら答える。
その時、隣にある女子風呂の方から声が聞こえた。
どうやら、アシュリーたちも入って来たようだ。
「あいつら、こっちに来ないよな?」
「それは大丈夫かと」
「だといいがな……」
アシュリーたちのことだ。壁を突き破ってでも入って来そうな感じはする。
そして、レインが湯から上がり、背中を洗ってもらっている時、それは当たり前のように起こった。
突如、レインの体が消え、女子風呂の方からポチャンと言う音が聞こえた。
「レイ様!?」
『こっちは大丈夫だ。やっぱ予想通りだったぞ』
反響するように、声が響く。
女子が男子風呂に来るのではなく、逆にレインを女子風呂に転移させたようだ。
「全く、よくやるわ」
「えへへ、レイン様!流しっこしましょ?」
「はぁ」
再度ため息を吐きながら、やれやれと頭を振る。
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