167話 それぞれの決着 前
死んだら転生とか……ないですよねぇ
sideレイン
アシュリーたちが黒い太陽を目撃する数分前。
セバスが黒い球体、『暗黒天』をレインに落とすところまで遡る。
セバスの命を受け、レインへと落ちる球体。
表面は艶々と光沢を放ち、たぷんっと波打っているのを見ると、液体にも見える。
「おお、おもっ」
レインは片手を上に上げ、受け止める。
ズシンッと体に響く衝撃を正面から受け、ついでに地面に埋められないように強化もしている。じゃないと、地中深くまでめり込んでしまいそうだからだ。
その時、セバスがパチンッと指を鳴らした。
黒い球体が水風船のように弾け飛び、その黒い液体がレインへ降り注いだ。
「つぅ……」
黒い球体の正体は瘴気の塊。
いや、呪いの塊とも言える。そんなものをもろに喰らったレインは、まぁ、意外とダメージを受けてしまっていた。インフルエンザの十倍程の辛さ、と言えば分かるだろうか。体が熱く、重く、怠い。そんな症状に陥っていた。
「本命はそれか……!」
「『虚ろな太陽』」
地獄の業火の如く、黒い太陽が上空に創り出されている。
セバスの暗黒天を囮とし、さらにその上に創られていたため、視覚的にも見えていなかった。極限までその存在を隠していたため、レインも実際に見るまで気が付かなかった。
「あっつ……ッ」
すでに『虚ろな太陽』の効果範囲外に脱出しているセバスとアストレアは、それでも全てを燃やし尽くす炎の熱を感じてしまう。
そんなものを直に喰らったレインは堪ったものではない。
今度は両手を掲げ受け止めるが、触れた瞬間からジュウゥゥと皮膚の焼ける音が聞こえる。
「これは……アドニス中々凶悪なもの創るじゃないか……」
纏っている魔力も片っ端から燃えていき、防御結界も熔けて意味をなさないため、囲おうとしても役目をはたしていない。
「って、どんだけ力込めてんだよ……」
掌から手首にかけて墨となっている。真っ黒だ。
再生も追いつかない程の熱量で焼き続けられていく。
「仕方ない……魔力だけで押し返せない程の威力だからな……『分解』」
触れているところから徐々に原子にまで分解されていく。
「うっそ……って、仕方ない。『天鎖』」
分解された端から回復しており、意味がなかった。
そのため、違う方法を取ることにした。
真っ白い鎖が虚空から現れ、黒い太陽を縛っていく。
それもただ縛るだけじゃなく、太陽に突き刺さり、串刺しながら喰らっていく。正確には、吸収している、と言った方が正しいだろう。
今度は目に見えて縮小していく。
グン、グンッ、グンッ!と小さくなっていき、ものの数秒で綺麗さっぱりなくなった。
「あちぃ、うおっ」
仰け反るようにして迫ってきた剣を躱す。
「主なら破ると思っていましたよ」
「ああ、俺もびっくりしたぞ。そのせいで腕もこんなだ」
ふふふ、と楽しそうに笑いながら、焼け焦げた腕をアストレアに見せる。
「回復する暇は与えません。四ノ型・裏斬」
上段に構え右袈裟斬りを喰らわす。
だが、レインの取った行動は、左への防御だった。
「バレてましたか……」
「まぁね」
裏斬とは、動作が全て裏になる。
右からの攻撃なら左から。上からなら下から。刺突をしたなら後ろから。
一撃一撃なら簡単だ。
反対と分かっているなら、見えている攻撃と逆に防御すればいい。だが、それは普通の相手だったなら、だ。
アストレアは秒間、数千回剣を振るっている。しかも、全てが裏になるわけじゃなく、フェイントを入れるかのように中には通常の攻撃も入れている。
要するに、とんでもなく防御するのが難しい。常人には無理だろう。達人にだって無理だ。その証拠に、五帝でさえ、難しく、辛うじて出来るのはセバスくらいのものだろう。
だが、今アストレアの相手をしているのは普通の相手ではない。
防御魔法も結界も間合いの外に逃げるわけでもなく、ただの技術のみで受けきっていく。
「破ッ!」
それでも長くは続かない。
挟むように、後ろに来ていたセバスの手刀を首を傾け避けるが、次のアストレアの刺突を躱すことが出来ずに、頭を串刺しにされる。
綺麗に眉間から入り、脳を通り、頭の後ろから刃が出る。
「クフフ……久しぶりだな。俺がまともな攻撃喰らったのは」
「ええ、大技を何個も囮にして、やっとまともな一撃、ですから」
「あれもあれも全部囮だったとはな……」
「もちろん、直撃するように持っていきましたが、多少ダメージを与えられていればいいかな、程度でしたね」
大技連発で決めに来ているのも一つで、だけども一番の理由は足止めと、レイン相手の一瞬の虚をつくこと。二段構えどころか、三段も四段も構えながらでなければ、まともな一撃すら入れることが出来ない。
「ふぅ、今回は俺の負けか」
「いえ、私の腕もこうなってますし」
苦笑しながら言ったのは、セバスだ。手刀をレインが躱した瞬間その腕を砕いていた。アストレアも突きを出した瞬間に腹を貫手で貫かれていた。今回あまりダメージを喰らっていないのは、遠距離攻撃に徹していたアドニスくらいだろう。
「大浴場にでも行くか」
「いいですね。私なんて、最初地面深くにいましたし」
「それは、俺もだ。あんなグツグツ煮やがって……」
すでにセバスはいつもの初老の姿に戻っている。
その姿の方が執事って感じがするらしい。
「それにしても、髪、長いんだよな」
地面まで届く白髪を一房手で取りながら言う。
「いいのではないですか?」
「ふふ、この時は俺じゃなくて私がいいか?」
ふふふ、と微笑んでいるレインはもはや妖艶な美女みたいだ。
魅了魔法使っているかのように、周囲を魅了してしまっている。
「さて傷も治したし、行くか」
額の傷も腕の焼傷も綺麗なシミ一つない処女雪かのような白さを取り戻している。
こうして友情が深まったのであった。
なんてね。
sideアシュエル
呪力を纏ったアシュエルはそれ程余裕があるわけじゃなかった。
明乃斬姫から送られる呪力が自分の持っている魔力と反発しあい凶暴な力となって荒れ狂っている。
それをどうにか抑えながら魔力を極限まで抑えることで呪力のみに集中している。それでようやく自分で扱える力になっている。
どれだけ強力な力でも自分で扱えなければ、意味がないどころか害悪となりえる。
「シッ!」
「くっ……」
ソフィアの目には全くアシュエルの初動が見えなかった。
消えた、と思った瞬間にはアシュエルは、ソフィアの目の前におり、刀を振り抜いていた。
ギリギリで受け止めるが、想像以上の力でガードごと吹き飛ばされる。
「さっきのお返しだよ!」
「力も速さも上がりましたわね……!」
ガードを崩せなかったとしてもガードごと……と言うのは出来る。
「また速さが……!?」
さっき以上の速さで動いたアシュエルにソフィアは追うことが出来ず感のみで対処していく。
流れるような連撃を避けて受け流しながら、カウンターまで行っているのは、まだソフィアの方が強いという証だろう。
アシュエルは徐々に速くなっている。だが、ソフィアはその速さにすら慣れてきている。ギリギリだった対応も危なっかしい所はありながらも余裕を持てるようになっている。
『呪力だけしか使わんのかえ?』
「え?」
『呪力と魔力、その融合』
「はあっ!」
「うぐっ!?」
またもや突然話しかけてきた明乃斬姫に意識が逸れ、その隙をついたソフィアの攻撃を喰らってしまう。
『ほほほ……何も一つに絞らんでもよかろうて』
「でも、猛獣みたいなんだもん」
『馬鹿者、呪神の力を容易く使えるようになるわけなかろう』
「それもそうだけどさ……水と油って言うの?」
そう、アシュエルも一度試していた。
呪力が溢れた時、魔力とのブレンドを。
だが、アシュエルも言った通り、水と油のように混ざりあわない。S極とS極のように、簡単にはくっつかない。
『それでも混ぜよ』
「むぅ、無茶な難題を……分かった、やってみる」
スッと無造作に放出していた呪力を引っ込める。
そして、またその隙を狙われるが、今度は結界で受け止められた。
「斬姫さん!?」
『ほほほ、防御は任せよ……あの小娘程度の攻撃を防ぐ程度には干渉出来るゆえな』
「うん」
「くっ!なんですの!?この頑丈な結界は!」
ソフィアは何度も何度も斬りつける。
対してアシュエルは、目を閉じながら集中する。すでの周りのことは意識の外だ。
『深く……深く……さらに深く……意識を潜り込ませよ』
「……」
『ほんの少し呪力と魔力を引き出し混ぜよ』
「……」
『まずは少しだけやってみよ』
真っ暗な意識の中で、明乃斬姫の声だけが聞こえる。
その声を道標に言われたように、少し、少しずつやってみる。
明乃斬姫から送られてくる膨大な呪力を制限し、ほんの少しだけ引き出す。魔力は扱いなれているため、意識せずとも出来るが、それでも呪力と混ぜ合わせるのは困難だ。だからこそ少しずつ、一滴ずつしっかりと融合させていく。
何度も失敗しながらも諦めず試行錯誤しながら行っていく。
すると、ついに合わさった。
歯車が嚙み合うように。
すると、ほんの少ししか合わせていないのに、数倍、いや、数十倍にまで力が膨れ上がる。
『ほほほ、やりよるわ。アシュ坊でも数日はかかるかと思ったがな?僅か数分で成功させるとはの』
「体が悲鳴を上げてる」
『それはまだ慣れていないからよ……時間が経てば自然と良くなる』
「うん……さて、待たせたね姉弟子。斬姫さん結界解いて」
「な……?力が上がってる?」
結界が解かれ、そのまま斬りかかろうとしていたソフィアだがアシュエルを見て動きが止まった。
力の桁が跳ね上がっていたからだ。
そう、今もアシュエルは送られてくる呪力と魔力を合わせながら爆発的にその力を増大させている。
「なら、本気で行きますわ。『天華』」
「くっ……まだ慣れてないから……」
華の魔力が弾けるように、アシュエルに圧しかかる。
刀で斬り裂きながら対応するが、あまりの密度に中々削れない。
「でも……!はっ!」
「『極・天華』」
「なっ!?」
さらに厚くなった魔力に押し返される。
「『終・天華』」
「がっ!?」
視界一面に露草色の魔力が見え、ついで全身を斬り刻まれる感覚を感じるとともに意識がなくなっていった。
「んぅ……あれ?いつの間に……?」
「十分ってところですわ」
「負けたのか……」
「ええ、終まで使わせられるとは思ってませんでしたわ」
「結局のところ負けたんだ……はぁ、強いなぁ」
最後の攻撃、何をされたのかすらアシュエルには分からなかった。
ただ高密度の魔力がぶつけられた、と言うこと以外はほとんど理解できていない。
「いつか、分かるようになりますわ。あなたは師匠に選ばれたんですもの。自信を持ちなさい」
「うん、それは分かってる。レイン様も才能があるって褒めてくれるし、手伝いまでしてくれるし、環境も整っているけど、期待に応えられていないんじゃないかって」
「まぁ、傍にいるのがあれらですものね、自信を無くすのも分かりますわ。でも、レイン様は少しの期待も持ってない相手にはとことん興味がありませんわ。むしろ、そんなつまらない相手なら即消してますわ」
「確かに」
レインといた時間はソフィアに比べるとアシュエルは短い。
それでも、その趣向は理解しているつもりだ。そして、つまらないからと言う理由でアシュエルの生まれ故郷の世界を消されたのだ。だからこそ、興味のなくなったものは消される、それが自分かもしれない。そんな不安がアシュエルの胸の内に生まれている。
「大丈夫ですわ。師匠はあなたを切り捨てたりしませんわ」
「そうかな?」
「ええ、あ!師匠が入浴するみたいですわ!行かねば!」
「え?ええ!?」
シュバ!と一瞬で姿が消え、取り残されるアシュエル。
「はぁーーーーーーつっかれたーーーーーー」
『坊や、妾たちも入浴するかえ?』
「うん、疲れた。でも、斬姫さん実体化出来ないでしょ?」
『もっと頑張れ、妾を顕現されることが出来るくらいにはのぉ』
「頑張るよ、じゃ、僕も行こう」
そう言うと土埃塗れになっていた体を払いながら立ち上がり、自分も大浴場へ向けて足を進める。
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