166話 本来の姿
クリスティは一人称が妾なので、「のじゃ」口調がいいですかね?それだと、シルと被るし……「ですわ」の方が……うーん、って感じです(笑)
「ふぅ、準備運動はこれくらいでいいだろう?そろそろ始めようか」
そう言ったレインの体が白く輝いた。
パッと光に包まれ、弾ける。
するとそこから現れたのは、純白の長髪が地面まで伸び、虹色の瞳を持った絶世の美女……いや、美男子……どっちともとれる美しい存在が現れた。
「あ、主……そのお姿は……」
「ん?あー、久しぶりだ。あの姿も気に入っていたがな。セバスも戻ったらどうだ?」
「そうですね」
セバスの体から真っ黒い瘴気が噴き出る。
噴き出ていた瘴気がギュッと今度はセバスの体に吸収されていく。
漆黒の悪魔の翼を四対生やした青年が現れた。先程までの初老の執事ではなく、ギラついた欲望丸出しの悪魔がそこにはいた。
金色の瞳は瞳孔が縦に割れ、蛇のようになっている。
「クフフ、久しぶりのこの姿。力を抑えるのが大変です」
「やっぱ、悪魔はそうじゃなくてはな……さて、お前たちもいいだろう?」
「ええ、いつでも」
アストレアの白い髪が銀色に輝き、剣気が増す。
アドニスは赤い髪が燃え上がり、チリチリと火の粉が待っている。立っている地面から数メートルの地面が蒸発する程の熱量を生み出している。アドニスの存在が太陽と化し、空気が焼けるようだ。
常人がいれば、この場にいただけで肺は焼け爛れ、アドニスに近づけば燃え上がり塵一つ残らないだろう。
レインが動こうとした時、セバスの姿が消え、レインが吹き飛ばされていた。
(おーやっぱ、力が跳ね上がってんなぁ)
腹に捩るような掌底を打ったセバスの攻撃を、すんでのところで左手で受け止めるが、衝撃は受け吹き飛ばされる。
吹っ飛んでいる最中、転移で先回りしたアストレアが剣を一閃する。
「はっ」
一度の攻撃で千の斬撃がレインを襲う。
障壁を展開したことで直撃は避けるが、来た道を戻るように吹き飛ばされる。
(ボールになった気分だ)
最初、吹き飛ばされた場所まで戻った時にはアドニスの終わっていた。
狂える煉獄の炎を圧縮した小さなが太陽がレインに叩きつけれらる。
「ふふ、太陽の数千倍の温度か……いいぞいいぞ。肺が焼けそうだ」
「その割には元気に見えますが……」
アドニスは汗を垂らしながら答える。
熱いから汗を流しているのではない。冷や汗、緊張しているからだ。
なぜなら、レインが魔力を纏わせた手でその太陽を受け止めているからだ。
小指からギュッと順に折り畳み、手を握り締める。
それに合わせるように、太陽が小さくなっていき、果てには消えてなくなった。
「カッ!!」
「二度も喰らわんよ」
背後に迫っていたセバスの拳を振り向きもせずに片手で受け止める。
続いて放たれた蹴りを一歩後ろに下がることにより、躱す。
そこへ今度はアストレアの剣戟が迫る。
息もつかせぬような見事な連撃だ。
一つの攻撃を避ければ、次の攻撃が。その攻撃も避ければ、また次の攻撃が。
一手一手確実に封じ込めながら、レインに攻撃させないように動いている。
「はあっ!!!」
「おっ?」
アストレアの一閃を今度は掌で受け止める。だが、それはただの斬撃じゃなかった。
剣がレインの掌に触れた瞬間、衝撃波となってレインの体を揺さぶった。
カクンッとレインの膝が折れたところへ、セバスの一撃が迫る。
「せやっ!」
レインの上を取ったセバスが殴りつける。
地中深くまでめり込んだ。
「『焦熱大地』」
そこへ、アドニスが追い打ちをかけるように魔法を発動する。
地面が真っ赤に染まり、ところどころがブクッブクッと沸騰するかのように泡立っている。そして、地面が爆ぜた。グツグツと土が沸騰し、次々と爆発を起こしていく。
マグマと化したのだ。
つまり、地面に埋まっているレインは、マグマで焼かれ、地面で蓋をされている状態なため、蒸し焼きにもなっている。
だが、その程度の攻撃ではーー
「吹き飛べ」
レインの埋まっていたところが爆ぜ、土柱が上がった。
「よっと」
トンと軽い調子で跳び上がり、地面に着地したレインは、周りを見渡す。
皆、誰もがあの攻撃で終わるとは思っていない。そのため、レインが出てきた直後に次の攻撃は始まっていた。
上空へ跳び上がっていたセバスは、漆黒の翼を広げる。
すると、そこから無数の黒い礫が放たれる。
「『反射』」
レインの体に触れた礫は全て、セバスへと跳ね返る。
今も尚降り注ぐ礫の中をアストレアは駆ける。
一瞬でレインの元まで辿り着き、剣を振るう。
「『反、おっと」
「くっ、避けられましたか」
「概念切断の斬撃に魔法は無意味だろ?」
同じように反射で受けようとしたが、咄嗟に飛び退く。
だが一度では終わらず、流れるような動作で突きを放ち、斬り払う。
そこへ、燃え盛る炎の槍が飛んできた。
アドニスの攻撃だ。それを、レインは素手で掴み、アストレアに投げ返す。
「ぬぅぅ!?」
それを剣で斬り払うのではなく、巻き取るようにして逸らす。
遠くの方で着弾し、レインたちのところまで爆風が届く。
もし、剣で斬り払っていたりしたら、その爆発を直で喰らっていただろう。
「ん?」
ふとレインは上空を見上げる。
すると、漆黒の球体がレインに影を落としていた。
「くく、ククク……久しぶりに見たな、暗黒天」
「落ちなさい」
漆黒の球体が術者の命を受け、レインへと落ちていく。
sideアシュリー
「うおおおおおお!ゼロ様の御神体!やっぱり美しいぃ」
アシュリーが息を荒げながら言う。
「早く始めよ」
「ええ、私たちもやりましょう」
そう言い、アシュリーとベルゼブブは睨み合う。
じーーーっと睨み合った状態で数分が過ぎた。
その間何もなかったかのように見えるが、そうではない。人の理解が及ばない高次の戦いが繰り広げられていた。
アシュリーもベルゼブブも干渉の仕方は違うが、どちらも空間に作用する能力だ。
アシュリーが空間ごとベルゼブブの胴体を切断しようとして、その攻撃をベルゼブブが喰ったり、空間を圧縮し潰そうとして、その攻撃を喰ったり。そんな目では見えない攻撃が幾度となく繰り出されていた。
もちろんベルゼブブも受けていただけではない。
空間ごとアシュリーの腕を喰おうとして、防がれたり、体を喰おうとして、防がれたり。
炎や水のような目に見える攻撃が行われているわけじゃない。だが、見えないからと言って大したことがないわけではない。むしろ、凶悪だ。空間と言う、目に見えない攻撃が行われている。
「『重力球』」
アシュリーは掌を上に向け、魔法を発動する。
黒い球体がポツポツといくつも現れる。
高速で動き回り、ベルゼブブを囲むように回転する。
「ッ……」
重力球に捕らえられたベルゼブブは、重力力場に晒された。
ズン!と小さな体が低くなった。それは、耐えていた地面が重さに耐えられず、若干埋まったからだ。足が少し埋まり、重力をかけ続けられ、その場から動けない。
喰ったとしても、重力球が一つ消えるだけで、まだまだある。力場が消え去るわけではない。
「『空喰』」
ベルゼブブが能力を使う。
すると、突然アシュリーの視界が真っ黒に染まった。
それは、ベルゼブブの足元から影が広がり、立ち昇ったからだ。
その影には、無数の口が付いており、空間を喰っている。
「ほんっと厄介だよね」
アシュリーは吐き捨てるように言う。
力場ごと喰い尽くされ、同時に重力球も消えた。
「喰い尽くして」
影が蠢き、一匹の蛇のようなものになる。
形状は蛇だが、その身体はドロッとしており、スライムのようだ。
大口を開け、アシュリーを喰い殺そうと迫る。
「『空断』」
噛み付かれると思いきや、縦に真っ二つに割れた。
「潰れなさい」
真っ二つに裂かれても、くっつき再生しようとしていたが、次の瞬間には、パシャンと音を立て水をぶちまけるように影が破裂した。
だが、そもそもがこの影は、生物ではない。
ズズズズッと影が蠢き、ベルゼブブの元に戻る。
「同じ空間使いとしては、やりにくい……」
「あしゅりーしつこい」
「それはこっちのセリフだよ!」
アシュリーが再度指を鳴らす。
すると、ベルゼブブの右肩辺りで、バシュン!と言う弾ける音が鳴る。
「直接干渉は私たちには効かない」
ベルゼブブが左腕を前に突き出す。
その腕が怪物と化す。正確には、蛇のような怪物。それが伸び、アシュリーへと迫る。
アシュリーは顔を顰め、飛び退き避ける。
一度攻撃したら、シュルルルと戻っていく。
今回、『空断』で攻撃しなかったのは、強度の問題だ。
最初の影ならばすぐさま切断できた。だが、今回は、ベルゼブブの腕が元となっている。と言うか、腕そのものだ。空間ごと切断したとしても、弾かれてしまう。なら、より強い干渉力を用いたらいい、かもしれないが、その場合は避けられる可能性の方が高くなる。
「喰って」
今度は右腕も前に突き出す。
ドラゴンの首のようなものが現れ、アシュリーを睨みつける。
「ふふ」
「ッ!?」
アシュリーが笑ったかと思ったら、ベルゼブブの右腕が落ちた。
「座標指定……」
ベルゼブブが忌々しく呟く。
座標を指定することにより、より強力な攻撃をピンポイントで当てることが出来る。アシュリーのような強い術者が制限もなく使えば、いくら強化されてあるとしても、空間が崩れてしまう。だから、一部だけに効果を及ぼした。
ベルゼブブの切断された断面からは、血の一滴すら流れない。
それは、生物ではないかのようだ。
そしてそれは間違っていない。
そもそも悪魔とは何だろうか。
精神体?魔力体?負の塊?負のエネルギーの密集体?悪の体現者?
違ってはいない。
魔界を治めている王、七つの大罪の一角、ベルゼブブは『暴食』を司っている王だ。
『暴食』の能力を持っているからではない。
『暴食』と言う概念そのものだ。『暴食』と言う概念が、人の形を取り、人格を持ったのが、『暴食』の王ベルゼブブだ。
悪魔とは悪を行う存在。
欲望のままにそれを行う存在。
まぁ、だからと言って全員が欲望丸出しで好き勝手生きているわけじゃない。中には、愛情を持っている悪魔もいる。
それに、魔界は弱肉強食だ。強者には従わないといけない。自分の欲を抑えながらでも。
「んっ」
「くっ」
ベルゼブブの姿が消え、その小さく細い腕がアシュリーの腹に突き刺さっていた。
空間を喰って現れた先が、腹に突き刺さった状態だったため、そのような現象が起きている。
だが、血の一滴も流れていない。
一応今は肉の体となっているアシュリーだ。腹に穴が開いているなら当たり前に血が溢れ出る。そうなっていないのは、実際には、腹に突き刺さっているわけじゃないからだ。よく見ると、腕の周りが黒くなっている。突き出ている背中に繋がっているのだ。
「離れなさい!」
「わっ」
重力を逆にかけ浮き上がらせる。そして、今度は横にかけ、吹き飛ばそうとする。
だがすでにそこにベルゼブブはいなかった。
アシュリーはバンッと地面を叩く。
ゴゴゴゴゴゴッと地面が振動し、地割れが起きる。砕けた地面が浮き上がり、ベルゼブブ向け放たれる。
「単純……」
こういった攻撃はベルゼブブには効かない。
黒い影が横切ったかと思うと、迫っていた岩が突如消える。
だが効かないのは分かりきっていた。
だから大きな岩を目くらましとして使い、アシュリー自身は、転移でベルゼブブの後ろにいた。重力剣を創り出し、斬りつける。
だが、ベルゼブブは後ろに目でもあるかのように反応した。
足元の影が蠢き、剣を受け止めた。
「効かない!」
しかし、ただの剣ならいざ知らず、重力剣が相手では意味がない。
そのまま叩き斬られてしまった。
「むぅ……めんどくさい」
影飛び散り、もう一度ベルゼブブの元に戻り、再度蛇のような怪物となる。
だが、今度は数が違う。
五つの怪物が思い思いにアシュリー目掛け喰らいつこうとする。
「『空裂』!」
空裂を張ることで防御し、そのうちに斬りつけていく。
「なに!?」
「ッ!?」
その時、アシュリーたちを爆風が襲う。
「あれって……」
アシュリーの見たものは、ドス黒い炎の塊。黒い太陽だった。
「え……っと、ほんとにあれ使うの?」
「……」
「こらっ!逃げないの!」
「むぅ……」
アシュリーが驚愕していると、コソコソと逃げようとしているベルゼブブの首根っこを掴む。
猫のようにぶらんとなっている。
「って、『空裂』……っとこれでいいかな」
空間を断絶すれば、こっちにまで被害は来ない。はず。
と言うわけで、張ってみたもの、なぜか嫌な予感が拭えない。
「まぁ、もしもの時は、ベルが食べてしまえばいいかな」
「他力本願」
ムスッとした表情でアシュリーを見ているが、実際喰える攻撃ならベルゼブブには効かないため、信頼ともとれるその言葉に、否定はしていない。
案外、仲は悪くないのかもしれない。
そしてついに、黒い太陽が落ちてきた。
面白い!
続きを読みたい!
と思ってくれた方評価して貰えると嬉しく思います!
☆☆☆☆☆を貰えるととても喜びます!お願いします!!!
そして、評価してくださった方ありがとうございます!