163話 レインの望み
「それで、報告は?」
「はっ、こちらのことはまだ気付いていないようです。ですが、時間の問題、と言った感じはあります」
「……そうか」
レインは、片膝をつき、報告している男の話を聞いている。
男の名は、カルビム。レインを信仰する組織、数字付き。九華や六元と並ぶ実力者集団の一つだ。
カルビムは数字付きの『1』。実質的な取り纏め役と言ったところ。数字が小さい程実力が上であり、短時間なら五帝と斬り結ぶことすら出来る、と言えばその実力がどのくらいか分かるだろう。そして、レインの配下としているが、レインが直接創った五帝とは違う。数字付きも九華も六元も既存の世界から素質のある者を選別し、さらにそこから選ばれた者がなっている。
五帝だけが特別、と言った感じだ。まぁ、全知全能として創られた神と、そうでない者を比べる方がおかしいが。
「さて、やっぱり報告は後で聞くとして……それで、カルビム。どうだ?最近は」
「まずまず、と言ったところです。我らも強くなっているはずですが、未だに五帝の方々やあなた様には近付いている感じすらありません」
眉尻を下げ、困ったように言う。
「そんなことを聞きたいわけじゃないが、まぁ、俺の求めているのは力ある者、って言ったからな」
「はい。その言葉を忠実に守り、更なる鍛錬に打ち込んでおります」
「うむうむ」
感心したように頷くレインに尊敬の眼差しを向けている。
元々レインは自分を信奉する組織を作ろうとは思っていなかった。なぜなら、自分が創った者だけで十分だからだ。ならなぜ創ったのかと言うと、ほんのお遊びだった。レインを信仰する者が増えていき、なら、実力者の集団でも作ったらどうか、と言うアストレアの提案に面白そう、と言うだけで乗り、いつの間にか巨大な組織になっていった。
また、信仰と言っているが、それはもはや『狂信』と言うべきものにまで昇華されている。
それは、レインから創られた者は皆同じだが、数字付きらも持っている性質。レインの為なら自分の命すら投げ出し、レインのために魂すら燃やし尽くすことすら厭わない狂気の集団。だが、ガチガチに固められた規則などは全くない。ただ一つ厳命されていることと言えば、『強くなり続けろ』それだけだ。
『あり続けろ』ではなく、『なり続けろ』だ。
まず、弱い者は入ることもいることすら許されない……だから組織に入れると言うことは、人外の力を持ている。どの世界にいたとしても最強クラスではなく最強の力を持っていることだろう。上位神族、最高位の神にすら滅ぼすことが出来るくらいの。
だが、それだけの力を持ちながらそこで鍛錬をやめることも停滞することも、その実力で満足することもしない。上を見るといつも自分以上の力の持ち主がいる。そのため、留まっているわけにはいかないのだ。
「で、どうなっている?白狐は」
狐。レインが冥府にて見つけて白狐だ。
狐は狐に任せると言うことで、九華第四席である、雪那に一任していた。
なぜ、違う組織のカルビムに聞いているのかと言うと、数字付きは諜報を担当している。まぁ、実際は面白いこと(争いごとなどレインの好む物)をレインに伝える伝達屋みたいな感じとなっているが。
「ええと……それが……」
「なんだ?言いにくいことか?」
情報を出し渋るような感じにレインは少しした違和感を感じる。
レインの命は絶対遵守……なのだ。
少し口籠っていたが、意を決して口を開く。
「それが、未だに反抗するような態度は治っていないようで……申し訳ありません。我々の力不足です」
深々と頭を下げ、謝罪する。
だが、そんなカルビムにレインはむしろ嬉しそうに声をかける。
「いいじゃないか。そうでなければ、主殺しなんてことはしないさ。それが、やむを得ない事情があったにしろ、自分の益のためにやったにしろ、な」
神界では、主殺しとは最大の禁忌の一つだ。
それも、自分の使える神を殺すなど、並大抵のことではない。
「それに、雪那が本気で矯正するなら人格すら変わっているだろうからな。雪那自身も楽しんでいるんだろうさ」
「それならよいのですが……」
「なに、そんなに心配か?俺に歯向かうようなことになるかもしれないと」
「はい、御身を傷付けることなど不可能。ですが、傷付かないからと言って、自分の主を傷付ける要因をほっとく下僕がいるはずもございません」
冷淡な口調だが、その端々からレインへの忠誠が伝わってくる。
「えーでも俺はどっちでも楽しいんだが……」
「それも分かっております」
「…………」
つい、ジトッとした目で見てしまうレインだった。
主の好みを分かっているのからと言って、放置することは出来ない。万が一、そう万が一と言うことがあり得るかもしれないからだ。
「まぁ、話を戻すか。外来の連中はこちらに気が付いてはいないってことだな」
「はい。正確には、自力で気付くことも出来る、けど、それには時間がかかる、と言ったところです」
「まぁ、外来の連中は自分たちの世界だけだと思っているからな」
レインの言っている外来の連中とは、外来宇宙と言う、レインたちがいる宇宙の外側でもあり内側でもある、そんな空間のことだ。
そこにいるのは、自然に生まれた神たちと、その神に創造された生命のみだ。
そして一番重要なことは、神界は外来宇宙のことを、外来宇宙の神々は神界のことをお互い知らない、と言う点だ。
ん?ならなんでレインは知っているのかって?レインたちはそこに含めてはいけない。
だからこそ、レインは待っている。お互いがまたは、片方が気付くことを。
気付いてしまいさえすれば、必ず戦争になる。宇宙の、世界の広さや多さはこちらが圧倒的。だからこちらの存在を知れば、それを奪おうとするため戦争を仕掛ける。神界は基本的に受け身のスタンスで自分たちからは攻めることは多分ないが、それでも、黙って奪われるなんてことはない。
だから戦争が起こる。
勝った方がその世界を全て自分の物に出来るのだから。
「そうです。だからこそ、楽しみにしているのでしょう?」
「ああ、もし……もし、俺と同じ存在がいるなら、それほど面白いことはないだろう?」
「……出来れば、私は嫌ですね。御身と同じ存在ならば、我らでは盾にすらなれないのですから」
唇を固く結んで、実力不足を嘆いている。
「その時は俺の邪魔をするなよ?それに、実際に同じ存在なら、気配を悟らせるようなことはしないだろうしな。……クヒィ、おっと、そっちが出てしまった」
「あ、主……」
「すまんすまん。あまりに楽しそうだったからな」
突如レインから漏れ出たどろっとした混沌の気配にカルビムの体が委縮する。
カルビムの声に、ハッとなり、抑えられた。
「ふふ、いい、凄くいいな。それに、面白い竜も見つけたしな。あいつは死なないで強くなって欲しいものだ」
力を追い求める者のする行動は大きく分けて三つ。
一つ、自分で鍛える。だが、その場合はいずれ限界に突き当たる。
二つ、外部に頼る。例えば、聖剣魔剣、神器などの武器防具類など。だが、この場合は装備する物にもよるが、武器類がなければ、当人にそこまでの力はあまりない、と言う場合が多い。
三つ、邪道に走る。よくあるのが、悪魔との契約だ。人外と契約したり、憑かれたり、融合したりなどが入る。
「最近は才能豊かな者たちが多く自信を無くしそうです」
「確かにな。遥か昔、お前が黄金期と呼んでいた時代にも匹敵するかもな」
「ですが、埋もれる者も多いです」
「そうだ。どれだけ圧倒的な才能を持っていても開花出来なければ、それは無いに等しい。少し前のアシュエルのようにな」
「アシュエル……新しく仲間となった元人間ですね」
「そうだ。会ったことはあるか?」
「いえ、私はありません。けど、数字付きの中には会ったことがある者もいるみたく、又聞きとなりますが、とてつもない逸材だと」
「ああ、すでにお前を越しているかもな」
レインの楽しそうな笑い声に、少しむっとした表情をする。
新参が長い時間を生き、弛まぬ努力を続けてきた自分より上かもしれないと、言われたのだ。それも、敬愛する主に。
面白くないのは当然だろう。
才能と言うのは、ブースターだ。
才能のある者とない者がいる。
凡人がよく言う言葉がある。それは、「天才に追いつくためには、何倍もの努力をすれば追いつける」と。確かにそれも本当だろう。
才能はブースターと言った。
普通自動車とレースカー。当たり前だが、レースカーの方が速い。だが、レースカーが三時間走り続けたとする。同じだけ普通自動車が走ったとしたら、もちろん勝てないだろう。だが、倍の六時間、さらに十時間走り続ければ追いつける。要するにそれは、才能で負けていても追いつき越せることもあり得るということになる。
だがそれは、人間の短い時間の中だけの話だ。
じゃあ、才能のある天才が同じだけ努力を積めばどうなると思う?それは、圧倒的な差を広げるだけだ。
そこで問題となるのが、成長限界。
人間と言う弱く短い生しか生きられないならば、成長限界なんてもの気にしなくていい。なぜなら、そこまで達することなどほとんどないのだから。
だが、そうでなければ、とても重要となる。
才能がブースターなら、成長限界は道だ。
どれだけ速く走れる車でも、道がなければ走れない。凡人だとしても、道が続いていれば、走れる。
速く走れても道が短ければ止まる。
遅かったとしても道が長ければ走れる。
だからこそ、レインの求める基準と言うのは、まず第一に成長限界だ。その次が才能だ。まぁ、だからと言って、凡人を入れることはしないのだが。誰だって、才能もあり成長限界がない、そんな人物が望ましいだろう?
その点アシュエルは素晴らしい逸材なのだ。
限界には未だにほど遠く、さらに超特大の才能がある。と言うか、限界なんてあるのかすら分からない。もしかすると、本当にないのかも知れない。
「カルビム、また進展したら情報を持ってこい」
「はっ、我らは主の陰でございます。如何様にもお使いください」
「分かっている。俺のために働け、そして、俺の願いの成就のために命を燃やせ」
「はっ、全ては御身の為に」
レインの最終目的、いや、望みと言った方が正しいだろうか。
それは、己と同じ存在を探すこと。
もしそんな存在がいるのなら、レインが本気で遊べる。そのために今まで生きていた。
さて、そんなレインだが、望みは叶うのだろうか…………。
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