162話 勝者となった者
sideレイン
ちょうど斎藤玲音の首が飛び、体が倒れているところだった。
レインは、椅子から立ち上がり、拍手をする。
「いやぁ、よくやった。ファルシア。さて、これで、残り二人となり、勝った方の望みを叶えよう。世界代理戦、それに終幕を引くとしよう。さぁ、存分に武を披露しあい、魔法を打ち合い、殺し合ってくれ。俺を楽しませろ」
レインはニッコリと上機嫌で話す。
言っていることは、自分のために殺し合いの劇を見せろってことだが。
「ありがとうござます」
エルフの女性、ファルシアは、綺麗な動作で一礼する。
どこか気品を感じさせる物腰だ。もとより、エルフの王族だったりするのだろう。
「さて、どうなると思う?アシュリー」
「うーんと。私は、男の方な?」
「確かにな。俺も同意見だ。双方の魔力は同程度魔法の使える種類となれば、エルフのファルシアの方が多いだろうが……まぁ、見てれば分かる」
面白そうに見ていると、ファルシアとラグルスの戦いが始まった。
お互いに相手が強いことを知っているため、最初から警戒している。
ラグルスはファルシアの魔法を。
ファルシアはラグルスの身体能力を。
初撃はファルシアの魔法だった。
真空の刃を幾百も飛ばす。
それをラグルスは初めて抜いた剣で斬り払う。
見えないはずの空気の刃をさも見えているように、斬っていく。
それもそうだろう。
魔法であるため、魔力を感じればいいだけ。魔法使いが相手だと、目に見えるものだけが全てじゃない。特に、風魔法だとアニメのように色付けされているわけじゃない。緑色だったりするわけないだろう。風は目に見えないのに、なぜ、魔法なら見えると思った?
だが、特別な眼、魔力を色分けしたりすることが出来る特殊な眼を持っているなら話は別だが。
「対人戦だと、派手は魔法はいらない。確実に殺れるコンパクトな魔法がいい。あまり強力だと、地形ばっかり破壊されて、有効打にならんからな」
大規模攻撃は殲滅する時には使える。
要は、適材適所ってことだ。
「んー確かに私は大規模攻撃はしないかな」
「お前はな。基本的に空裂で終わるからな」
アシュリーは空間を裂く、空裂をよく使う。
派手さは全くない。だが、その威力は強力無比だ。空間を裂くから防御力は意味をなさない。
そんなアシュリーに対してクリスティの攻撃は派手だ。
天から降り注ぐ、神の雷は、地面に着弾すれば爆発を起こす。
どっちも威力は強力だが、周りへの被害はどちらも違う。
「お、多頭竜か。それも水の」
ファルシアが水のヒュドラを作り出し、ラグルスに突撃させる。
ラグルスは、剣で一つの首を斬り落とすが、バシャンと水に変わり、すぐに再生される。
魔法によって作られたのなら、魔力さえ与えれば再生されることが出来る。ただ、再生することも出来ない程刻んだり、吹き飛ばしたりすれば、再生出来なかったりする。
ラグルスは、抜刀のように体をぐっと丸め、一閃。
一つずつだと回復する。なら、全部一気に斬り落とせばいいだろう、と言う考えだろう。
ラグルスの思った通りに一瞬で三つの首が落ちる。
今度は、上段に構え、振り下ろす。
斬撃が飛び、ヒュドラの胴を縦に斬り裂き、そのままファルシアに飛んでいく。
それをファルシアは、結界で受け流し、氷の槍を飛ばす。
「貫通特化、でも、それは悪手だ。結界を破るならそれでいいが、剣をそれも魔剣を相手にだと意味がない」
レインの呟き通り、簡単に魔剣で壊される。
ラグルスは、剣を地面に刺す。
すると、衝撃が地面を伝い、割りながらファルシアに向かう。
ザックリと裂けた三本の裂き傷がファルシアの立っていた場所まで届く。
それを結界を張り防御するが、ザクッと三本の線が入り、斬り裂かれる。だが、斬撃はそこで止まった。元々、結界を壊すことが狙いだったのだ。
すぐに次の攻撃に移った。
今度は、剣技ではなく、魔法だった。
ファルシアの周りを灼熱の炎が包み、台風のように巻き上がる。
「あれは、竜の炎?」
「そうだ。そろそろ、ラグルスも正体を現すんじゃないか?」
エルフは基本的に炎の魔法は使わない。
なぜなら、森にいるためそして森を守護しているため、森を破壊するような炎魔法は使わない。使えるが使わないのだ。世界によっては、炎魔法を使っているエルフは異端とさえ言われる程に。
ファルシアは、自分を水の膜で覆って、熱から守る。
高圧の水流を表面で回転させているため、少しの熱も中では感じない。
水の膜の表面から水刃を全方向に飛ばし、炎の竜巻を斬り飛ばす。
炎が散り、水の膜を解いたファルシアが見たのは、竜だった。
その竜の正体はラグルス。紅い深紅の鱗に身を包んだ威厳に満ちた姿だ。
その姿にファルシアが驚いている間に、ラグルスの口に灼熱の炎が集まっていた。
それを放つ。
ファルシアは、咄嗟に水を飛ばすことで、対抗する。
杖により増幅された魔法により、竜の息吹に対抗出来ている。だが、いつまでもは持たない。
徐々に、水が押され始め、炎は消えるどころか益々強くなっている。対して、水は炎に近い所から蒸発していっている。
さらに魔力を込めるが、息吹を防ぐには至らない。
水の膜で守らないのは、この熱量なら意味がないことが分かって入るため。
後少しで息吹を受けるところで、用意していた竜巻を指向性を持たせて息吹にぶつける。
周囲の風を巻き込み、炎を押し返す。
そこで、息吹が止まり、竜巻も散らされた。
どちらも攻防一体の激戦だ。
だが、ファルシアの劣勢が変わることはない。竜化した今は、竜の筋力、竜の耐久力、竜の防御力を持っている。その竜麟は容易には傷付けることさえ叶わない。
「さて、ファルシアはどうする?竜を相手に魔法戦をしてもいいが、殺しきる程の威力はあるか?」
実に楽しそうだ。
竜化したラグルスの大きさは、十メートル程の巨体。
それに赤い鱗と言うことは、炎竜だ。
「あ、エルフの方も本気でやるみたい」
アシュリーがそう言った瞬間、ファルシアの背後に巨大な樹が現れた。
淡く光り神々しい雰囲気を醸し出している。
「世界樹を創れるとはな……単なるハイ・エルフじゃないないのは知っていたが、あまり深く視てなかったからな。ふふ、面白い」
この空間は、レインの創った異空間。
膨大な魔力に満ち、レインたちがいるため僅かながら神気もある。それを含んだあの世界樹は、普段以上の効果があるだろう。
と言っても、世界樹とは、世界に巣食っている大きな樹だ。
ファンタジーとかで世界樹の護り手なんてものが、エルフの役割としてあったりする。
大体が、世界樹はそこにあるだけ。
だが、そんな世界樹の雫には、万病に効く万能薬などの素材となりえる。
そんなものを個人で創り出せれるとしたら、それは、魔力を半永久的に回復させ続けることも出来る、と言うことでもある。
だからこそ、世界樹をめぐって戦争が起きたりする。
世界樹が光り、一滴がファルシアの頭に落ちる。
それだけで、消費した魔力が全回復する。
受けた掠り傷も全て完治している。
「またブレスか、でも」
世界樹を燃やし尽くさんと、再度息吹を放つ。
が、何かに護られ、半透明の結界のようなもので防がれる。
これ以上放っても意味がないと悟り、攻撃対象を世界樹からファルシアに移した。
息吹ではなく、今度はその身体を使っての攻撃。
羽を羽ばたかせ、飛びながら近付き、鉤爪で引っ掻く。
真空の刃を無数に放ち、鉤爪だけじゃなく、竜の全身へ攻撃を喰らわす。
だが、ほとんどがその硬い鱗に弾かれる。しかし、中には、鱗の間などに運よく入り攻撃を喰らわすことが出来ている。だが、それは、竜からすれば掠り傷。すぐに治ってしまう。
「竜とエルフでは、存在として違うからな。さすがに、ハイエルフといってもそこは覆せん」
ファルシアが曲がりなりにも戦えているのは、世界樹の恩恵があってこそだ。
魔力の強化、回復。それがなければ、息吹を防ぐだけで、魔力の大半を失い、よくても腕の一本は失うだろう。
ラグルスは、上空を旋回しながら、息吹を放ち、同時にその巨体で圧し潰そうと圧し掛かる。
ファルシアは、防御に徹し、結界を何重にも展開し受け止めようとする。
炎と物理攻撃。その圧力は半端ないだろう。それでも、恐怖を押し殺し、冷静に対処しようとしているのは、今までの場数や経験によるものだろう。
一、二枚は紙のように破られ、残りも僅かしか耐えれず割られる。
それでも、最後の結界は一番硬く、ラグルスの飛び掛かりを耐えている。
球体の結界にラグルスは抱き着くようにして、割ろうとしている。それだけじゃなく、結界に噛み付き、噛み砕こうともしている。
攻撃を受ける度に、ガツン!ガツン!と音が鳴り、いつ割れてもおかしくない。
と、その時、最後の結界も割れてしまった。
「勝負あり、だな」
「レイン様!見てください!」
アシュリーが指を指したところを見ると、ラグルスの脇腹ーー竜の脇腹だがーーに一本の剣が刺さっていた。それは、竜殺しを付与された竜殺しの剣。ただ、その一撃のためにファルシアは命を懸けたが。
ラグルスの腕で、圧し潰され、ぺしゃんこになって地面に赤い染みを作り出している。
竜殺しの剣と言うだけあり、脇腹に刺さっただけだが、致命傷となりえる。
「よくやった、ラグルス」
『はっ』
竜の姿のまま、頭を下げる。
「さて、望みはあるか?何でも好きなことを言ってみるといい」
『我は、強さを求めていました。更なる強さを求め、世界を回っていました。でも、我以上の強者とは巡り合えず、その時、このゲームに呼ばれました。我が望は一つ。更なる力。それのみです』
「なるほど、力、か。どうする?今すぐに与えてもいい。どんな力が欲しい?無限の魔力か?神に匹敵、いや、超える力か?新しい能力か?それとも、もっと別の……」
『我は、降ってわいた力はいりません。それに、我には限界が近い。なので、その限界を取り除いて欲しいのです』
自分の成長限界に気付くものはもちろんいる。
これ以上レベルを上げることも強くなることも出来ないことが、限界に達した者は自然と理解する。「ああ、これ以上強くなれない」と。
ラグルスもそれを感じていた。
成長に限界がないと言うことは、無限に成長出来ると言うことだ。もちろん、それには果てしない時間がかかるだろう。だが、ラグルスは竜だ。半不死の存在だ。時間はまだまだある。
「分かった。なら、その限界をなくそう。他には望む物はあるか?」
『いえ、いりません。力を求める、それが我の存在意義ですので』
「ふふ、いいぞ、実にいい。これから、もっと力を付けろ。その世界の神すら殺せる程に強くなれ」
レインが指を鳴らす。
すると、ガラスが割れるような音が鳴り響いた。
「これで、理の外に出た。後はお前次第だ」
『感謝します、神よ』
深く頭を下げ、礼を言う。
ラグルスの体を光が包み、転移した。
「これで、終わったな」
「うん。次は何するの?」
「次……か。俺はずっと待ってるんだが、全然来ないんだよな。外来のやつら」
レインはかなりの力を隠しもせずに使っている。
例えば、転移だ。
異世界転生や転移など、世界を渡るには、かなりの力を使う。
それは、管理神でさえ、容易には出来ない程に、だ。だからこそ、勇者召喚なんてものもそんなポンポン出来ないのだ。
一世界からたった一人を転移させるだけでも結構な力がいるのに、レインは、数万と言った世界から転移をさせている。
転移自体に神族ともなれば、息をするように出来る。だが、世界と世界の間、次元の壁を破るのに力がいるのだ。
「全く……まぁ、気長に待つとするか」
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