161話 死
死ぬときは呆気ないものですねぇ
案外ぽっくりといきます。
結果、あれから俺は、戦うこともなく、五番と十番が死んだ。
五番は、吸収系の能力を持っていたが、エルフの魔法を次から次に吸収していたが、あまりの質量に吸収できなくなり敗北した。
十番は、赤髪の男が。これも最初の試合と同じく、近付いて殴る。それで終わり。
赤髪の男の力を見ることもなく、どんな能力を持っているのか、全く分からない。
しかも最悪なことに、俺の次の相手は、エルフだ。
もし、この試合に勝ったとしても、俺の次の相手は、赤髪の男。強敵二連続、ズキズキと胃が痛いわ。
ここまで言えば分かるだろうが、残っているのは、俺たち三人。
と、ここで、場内に降りようとしたら、アシュリー様に止められた。
「貴様ら少し待て、主が来られるようだ」
斜め上を見ていたと思ったら、急にそんなことを言った。
確かに、主が見に来るとは言っていたけど、もう最後だから、来ないのかと思っていた。と言うより、最後だから、と言うことだろう。
残ったのは、本当の強者だ。
当たり前に試合も、見物だろう。ん?自分のことを強者って?当たり前じゃないか。ここまで残ったんだ。運もあったかもしれないけど、俺の実力っていってもいいだろう。
その時、俺の全身が震えた。
「レイン様ぁ」
アシュリー様がうっとりした声で、現れた人物の名を呼ぶ。
(まずいまずいまずいまずいまずい……これは、ヤバ過ぎる!!!)
全身からベタつく冷たい汗が噴き出る。
現れた瞬間から分かった。殺気とか気配とか、よく分からなかった俺だが、これだけは分かる。このレインと呼ばれた存在は危険とかそういうものじゃなくて、存在そのものが俺たちとは違う。
体が感情が頭が魂が本能が悲鳴を上げている。
今すぐここから離れろ!!!……と。
だが、分かって入る。
逃げることなど出来ない。そして、そんなことより、跪き過ぎ去るのを待て、と。相反する二つの考えが頭の中をグルグル回る。
唇を切ってしまうくらい固く口を結ぶ。
そうしないと、ガチガチとなる歯を止めれないからだ。
そのまま、チラリと隣を見る。
すると、俺と同じ状態だった。
エルフの女も赤髪の男も、膝をつき、最大限の敬意を示した格好をしていた。もちろん俺も、レインと言う存在が現れた瞬間に跪いている。
「頭を上げろ……それに、視ていたが面白かったぞ?特に、ラグルス」
「……はっ、ありがたき幸せにございます」
ラグルスと呼ばれた赤髪の男。
深々とただでさえ下げていた頭をさらに下げる。もう地面に擦り付けんばかりだ。
しかも若干声が震えてるし。
俺から見ても圧倒的な力を持つラグルスさえも、霞んでしまうくらいの存在の密度。それも、多分だが、抑えているのだろう。
その時、俺を襲っていた圧がスッと消え去った。
アシュリー様が座っていた大きな椅子に腰かけ、見学するつもりみたいだ。
圧が消え去ったとしても、まだ体の奥底に残っている。容易には抜け切りそうにないけど、気持ちを切り替えないとな。
「そろそろ始めろ」
俺たちがまだ観客席にいるのを見て、急かすように言う。
それに対し、慌てて場内へ降りる。
「ふふ、わたくしが相手だと、あなたも可哀想ですね」
「あー、確かにな。エルフってやつだろ?」
「まぁ、少し違うけど、そうですね」
「じゃあ、始めようか」
俺は、そう言うと、武器を顕現させる。
対してエルフは、一メートル半くらいの長杖を取り出す。
(世界樹の杖みたいな?まじでそんなのあったら、シャレにならん。ファンタジーだとよくあるが……)
まずは、挨拶代わりに鎖を飛ばし、攻撃する。
高速で飛んでいった鎖がエルフに届こうとした時、弾かれた。
(最近多くね?普通、こんな早く動いているものをピンポイントで狙えんぞ?)
弾かれたとしても、剣を握っているわけではないため、態勢を崩すことはない。だからそのまま何度も攻撃を繰り返す。
その度に、弾かれ、一撃、掠り傷すら与えられない。
「なら、質量で圧し潰す」
グン!と鎌が大きくなり、エルフの頭上に振り下ろす。
今度は、前の魔法使いのように、ドーム状の結界に阻まれ止まる。
「嘘だろ?」
数百キロはあるぞ……。傷一つヒビすら入れることが出来なかった。
滅茶苦茶硬い。
ならば、と防御に徹してその場を動いていない今、結界に鎖を巻き付ける。
中が見えないくらい鎖で絡めとられ、ギチギチと締め付けそのまま締め壊そうとする。
(このエルフ相手に魔法勝負はダメ……その時点で魔力の差のせいで俺が負ける。なら、接近戦しかないが……)
接近戦しようにも、近付かないといけない。
俺が遠距離から攻撃しているから、反撃もしないだろうが、もし、近付けば即座に魔法で攻撃されるだろう。
「……仕方ない。どうせこのままだと、何も変わらん。ってか、俺の魔力が尽きる」
鎖を動かすにも鎌の大きさを変えるにも魔力が必要。
それに、エルフの方は、あれだけ強固な結界を展開し続けているのに魔力が減った様子はない。
「そのまま、締め付け……何!?」
「その程度では、壊せませんよ」
「だろうな、知ってた」
反応があったと思った瞬間、鎖が引き千切られそうになったため、慌てて手元に戻す。
「がっぐっがああっ!?」
俺の体がピンポン玉のように空中でバウンドする。
強風を様々の方向から叩きつけられたらしい。
(相性悪すぎるだろ!!!)
俺は、魔法も使えるが基本的に対人戦、つまり一対一での戦いが向いているステータス構成だ。
それに対して、エルフは、複数人、一対多を得意とする、大規模魔法の使い手だ。
ただの生身の人間が災害に向かっているようなもの。な?勝てないだろ?
魔力をふんだんに使って体を強化しているため、打撲程度のダメージで済んでいるが、地面に叩きつけられれば、骨折くらいはするだろう。当たり所が悪ければ死ぬ。
「あがっ!?(まずいっ)」
「終わりにしましょう」
最悪の予想が当たってしまった。
地面から十メートルくらい上空に打ち上げられ、さらに、大量の大気が押し寄せる。もはや、重力魔法と同じ効果が起こっている。
「し、障壁!!!」
魔力障壁を三重にして展開する。
魔法使いが二重にしていたのを思い出し、咄嗟にやる。
一枚目は一瞬で砕け、二枚目は一秒持った。
最後の砦三枚目は二秒くらい。多少減速はしたが、それでも、叩きつけられる力は強い。
「がっはっ!?」
胸から落ち、肺の中の空気が全て吐き出される。
と、同時に肋骨でも折れたのか、肺が傷付いたのか血も吐く。
(ぐぅぅぅぅ……ちくしょう……相性がまじで悪すぎる……!)
体に力を入れるが、突如頭に痛みが走った。
「あぅ……」
「中々頑丈ですね、でもこれで終わりです」
ちょっとは休憩させろ!
と思いながら、魔力で強引に動かす。
エルフの背後に一瞬、巨木が視えた。かと思ったら、地面を貫通し、根が現れた。
たくさんの木の根がうねうねと動き、俺を拘束しようと蠢く。
「くっ……ってぇ」
強引に体を動かし、避ける。
避けきれないものは、鎌で斬り裂いていくが、ガキン!と言う、硬質な音が鳴り響いた。
(嘘だろ!?ただの木の根が俺の鎌と同じ硬度だと?あり得んだろ!?)
この鎌は斬れないものはない程の切れ味だ。
もし、斬れないなら同じランク、同程度の武器類と言うことだ。
しかも俺と同じって言うのが、ただの木の根だと言う。
「斬れないなら払うだぶっ!?」
いつの間にか背後を取られ、根で殴られる。
鈍器で殴られたような衝撃を感じ、頬骨が折れる。そして、続けて往復ビンタの要領で左右から打たれる。
「がっぶっばっちょっまっがふっ!?」
最後に、腹に喰らった。
思わず貫通するかと思ったが、障壁を部分的に出し、強化した状態だったため、貫通されずに済んだ。
「がばっ……かはっ、(クソ血が……)」
顔は漫画のように腫れあがり、腹には大きな衝撃を。そのせいで、背骨にダメージを負ってしまった。歯も折れ、口の中は血だらけだ。
「本当に頑丈ですね……」
「はっはっはっ……」
もはや、呆れた表情で俺を見ているエルフの女性。
俺は、犬のように息を吐き、呼吸を整えようとするが、鈍痛が響き、頭もクラクラする。
視界も霞み、エルフが三重に見える。
(もう、末期じゃねぇか)
魔力をバケツに穴の開いた水のように大量に使ってなんとか生きていられるが、もう二割くらいしか残っていない。それも、もって数分だろう。
「す『水獄』」
時間稼ぎをして、回復しようとするが、水の檻に閉じ込められた瞬間に弾け飛び意味をなさない。
(クソッ!物理も魔法も効かない!!)
起死回生の一手。
そんなものがあるなら教えて欲しい。
物語みたく、ピンチに覚醒!なんて都合よくあるわけない。
(ん?覚醒?……あ、そう言えば、覚醒ってスキルあったな)
今更ながら思い出した。
『覚醒』と聞こえないように呟く。
その瞬間莫大な力が沸きあがる。
第一ステージの時に見た時は全ステータス二倍だったが、能力の制限を解除された今は、全ステータス五倍にまで上げることが出来る。
だが、傷が治るわけじゃない。
こんなボロボロの体でこれだけ強化されれば、命の危険があるが、死ぬよりマシだ。
「奥の手?ですか……」
「ああ、さっさと終わらせるぞ」
「そうですね。なら、わたくしも本気で行きましょうか」
エルフが杖でコツンと地面を叩くと、木の根がさらに太くなり、増えた。
捕まるわけにもいかないため、一瞬で懐に入り込む。
(接近戦なら俺に分があるだろう!?)
鎖鎌だが、鎖を直線に固定すれば、戦鎌としても使える。
両手で握り振りかぶる。
「『生命の、あれ?……」
一撃で終わらせようと、『乙女と悪女』の能力、『生命の収穫』を使おうとした。
しかし、次の瞬間に俺が見たのは、自分の首なしの体だった。
(死ぬ時は、呆気ないな……)
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