160話 邪眼
試合は呆気なかった。
赤髪の男と青髪の男の戦いが始まると、赤髪の男は剣も抜かずに、トコトコとゆっくり歩いて行った。それに対して激昂しながらも冷静に魔法での牽制を行おうとした。しかし、その瞬間に、赤髪の男の姿が消え、青髪の男の姿も消えた。
俺が見えたのは、行動の一連が終わってからだった。
何が起こったのかは、分かった。
赤髪の男が右腕を伸ばした状態で止まっていたからだ。
単純に、近付いて殴った。
それだけだ。
それに、青髪の男も決して弱いわけじゃない。
ただ、赤髪の男が強すぎるだけ。
試合が終わると、上空に『2』とでかでかと表示された。
(赤髪の男は二番か。しかも、何の能力も見せなかった。ただの身体能力だけであそこまで……いや、強化系のスキルが大量にってこともあるか……)
どっちにしても脅威すぎる。
「次だな」
アシュリー様の声が聞こえると、次の対戦番号が表示された。
「俺の番だな」
表示されたのは、三番と六番。
その時、隣から声をかけられた。
「あんたが俺の対戦相手か?よろしくな!」
「ん?よろしく……?」
思わず怪訝な顔をしてしまった。
こいつ分かってんのか?どっちかが死ぬんだぞ?だから誰も声をかけあったり話し合ったりしていない。それなのに、しかも自分の対戦相手に声かけるとか、馬鹿か?
「俺はハル。君は?」
「俺は玲音だ。それじゃ行くか」
「おう!」
明るい声で返事をする。
そして、観客席から飛び降り、場内に降り立つ。
「さて、合図はどうする?」
「ううん。じゃあ、始め?」
曖昧な開始の合図をするハルに若干戸惑うが、まぁ、すぐ終わらせよう。
「俺から行く……ぞ?」
ハルが腰を下げ、走る態勢に移った瞬間、その首が落ちた。
一瞬だけ鎖鎌を出し、伸ばして首を斬り落とした。そして、鎖鎌を消した。
(まぁ、見えた奴もいるみたいだけど。さすがに全員は誤魔化せないか)
あまり自分の手の内を見せたくない。
今までの試合と違って、観客席にいる奴らに見られているから。
さっさと席に戻る。
それから、数十分経った。
二試合が行われ、四番と八番が死んだ。
九番がエルフの女だった。
何か突風が吹いて対戦相手だった四番が吹き飛んで終わり。
(やっぱ格が違いすぎる。生半可な強者じゃ太刀打ちすら出来ないなこれ……)
次の試合は、一番と……俺?
「また俺か」
一番は、女の剣を差しているから剣士か。
「合図はいらない。早く始めようか」
「あ、ああ。それはいいが……」
凛とした声音で早く始めようと言う。
剣を抜き、ぶらんと手を下げた状態で右足を少しさげ、腰を低くする。
「ッ!?(か、体が動かない!?」
俺も動こうとすると、急に金縛りにあったように動かなくなった。
指一本動かせない。
「全く動けまい。この邪眼の前では、何人も動けるものはいない」
「ッ……ぁ……」
声も出ない。
『邪眼』と言われ目を見ると、確かに光っている。
(いや、そんなのあり?まじでそんなのあるの?どうしろと?俺、体が全く動かないのですけど?)
馬鹿な考えが何個も頭に浮かぶ。
ぶっちゃけ、現実逃避していた。
だってこのまま、近付かれて斬られたら終わりなんだもん。
「……ぁ……ぐぁ……」
「今楽にしてやる」
警戒しながら近付いてくる。
(せめて、なめてかかってくれるとやりようはあるかもしれんのに……あ、そう言えば、体は動かんけど、武器なら動くんじゃね?)
それは突如降ってわいた可能性だった。
早速行動と、魔力を流し、出現させる。
周りにこの武器のことが分かるが、そんなこと今は考えても仕方ない、か。
「一撃で終わらせる」
剣を振り上げ、勢いよく振り下ろす。
その瞬間に、鎖鎌が顕現し、剣を弾きそのまま斬りつける。
「くっ!まさか、そんなものを隠し持っていたとは!」
バックステップで下がり、いつでも動けるよう構える。
それと同時に動けるようにもなっていた。
「チッさっきのでやりたかったけど、いきなり首は狙いすぎたか」
首に手を当て、流れた血を拭う。
首に一撃を入れたが浅かった。もう少しで大動脈を斬り裂けて勝ってたのに。
「もう一度!『邪眼』!!」
「うくっ……ッ」
またかよ。
目から外れれば、解けることは分かったけど、そもそもの対処法がない。視られれば終わりとか、どうしろと?
「はっ!」
もう、近付かないようにしたのか、斬撃を飛ばしてくる。
(そんなことも出来んの!?クソッ弾け!)
鎖鎌を動かし、いくつも飛んでくる斬撃を弾き飛ばしていく。
今のところは、全てを弾いている。数個程、弾いたのが、顔の横を通って掠ったりとかもしたけど、なんとか大丈夫だ。
「はああっ!!!」
今度は、線ではなく、点の攻撃に移った。
(突きも飛ばせんのかよ!?ちょ、ま……)
目の前に鎖を回転されて防御する。
(ふう、あぶねぇ。こいつ対人戦だと危なすぎるだろ。自在に動かせる武器じゃなければ、すでに死んでるぞ)
だけど、これには、弱点もある。
目の前で回転させると言うことは、俺からも敵の姿が見えないと言うことだ。
その時、ガキン!と鎖が弾かれた。
(俺まだ動けん!!!視界は遮られているはずなのに、動けんとはこれいかに?)
そんなことを考えていると、もう目の前に女の姿があった。
(待て待て待て!クソッ!こうなったら……)
魔力を全力で放出する。
「魔力障壁……だと!?」
ガキンと半透明の壁に剣がぶつかり、火花を散らす。
(助かった……)
第一ステージの時に、セリスから魔力の扱い方を学んだ。
その時は、魔力で身体強化することは出来るが、魔弾と言う、魔力の弾丸は出来なかった。正確には、体の外に魔力を放出すると、霧散していく。よって、放出する系の魔力攻撃や防御は出来なかった。今回俺のやった魔力障壁などだ。
(ぶっつけ本番だったけど、上手くいって良かった。やっべ、初めてで勝手がわからんかったから、滅茶苦茶に魔力使ってしまった)
魔力を一万以上も使って、ただの魔力障壁を作ってしまった。
急速に抜けていった魔力のせいで若干体がだるい。
(ん?動ける?)
邪眼の効果が薄れたのか、まだ動かしにくいが四肢はきちんと動く。
ならば、と、全身に力を入れ、無理矢理動かす。
「っらああっ!」
「なに!?」
魔力障壁のことに戸惑っていた女は咄嗟に剣を盾にするが、俺の鎖は自在に動かせる。
剣をすり抜けるように曲げ、体に巻き付けながら、斬りつける。
巻き付けるのは、念の為だ。
これで決められなくとも、巻き付け自由を奪えば次の攻撃に活かせる。
だが、その必要はなかったようだ。
すでに、首にグッサリと突き刺さっており、大量の血を流している。
ピクピクッと痙攣しているが、時期に死ぬだろう。
「邪眼とか、せこいっつうの……」
吐き捨てるように言う。
その時、大量の魔力が流れ込んできた。
使った分の魔力は回収し、それ以上の魔力を得ることが出来た、と考えれば、まぁ、よかったんだが。
「死んだし、戻ろ」
ジャンプし、席に戻る。
残っているのは、二番、三番、五番、九番、十番、の五人だ。
(二番と九番は要注意、それ以外にもスキルによっては危険な奴もいるだろうし、さて、俺は生き残れるかね?)
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