159話 第二ステージ終了
戦闘の跡が色濃く残っているフィールドにたった二人だけが生き残っている。
様々な殺され方の死体が転がり、血を地面が吸収していく。
そんな中俺は、悠然と進んでいき、死闘を制した魔法使いの女性の元に行く。疲労困憊、満身創痍、そんな言葉が自然と浮かび上がる。それでも、手を抜いたり、可哀想と思ったりはしない。
服も破れ、大量の汗をかき、息の荒い可愛い、と言うより、綺麗な美女に近づく怪しい人物。まぁ、俺なんだが。
お互いの声が届く程度の距離まで近付いた時に、魔法使いは俺の存在に気が付いた。そして、喉から引き攣った声を上げる。
「ひっ……!」
尻餅をついたまま後退ろうとするが、足も震え、腕にも力が入ってないのが分かる。
魔力もほとんど残っておらず、撃てても弱い魔法数発程度だろう。思わず、ニヤッとしてしまい、その顔を見た魔法使いがさらに顔を青褪めさせる。
「さて、このDエリアに残っているのは、俺たちだけだが、早く始めようか」
「ま、待って……」
「いや、待たんよ」
待って欲しい、そんなことを言われて止まる奴はいない。
これは命を懸けた戦い。どちらかが死ぬまで終わらない……多分。
「じゃあ、バイバイ」
「まっぎゃ!」
鎖鎌を飛ばし、サクッと首を狩る。
残りを振り絞り、防御しようとするも、やはり魔力が足りないのか形成されず、簡単に首を刈り取られる。
「……あっけなかったな。万全なら苦労しただろうけど、死に体だったからな」
万全だったなら俺が死んでもおかしくなかった、そんな実力をこの魔法使いは持っていた。でも、魔力を体力を削がれた状態になるまで待ち、戦うのも戦略の一つ……つまり、正しいのだ。
大体『正々堂々』なんてもの、殺し合いをするのに使えない。そんなものがまかり通るのは、実力差があり、自分が優位に立っている場合のみだ。実力が拮抗した状況でそんなものを掲げている奴は甘すぎる。ただの阿呆だ。
「あ、結界が解けていく……終わったからか?」
上を見ると、フィールドを囲っていたドーム状の結界が上の方から徐々に解除されているところだった。
しばらく様子を見ていると、完全に解除された。
どうやら、この地面も地面から盛り上げられ作られた場所のようだった。ここの他にも9個の同じフィールドがある。これだけの大きさのものを作るとなるとどれだけの魔力がいるのか、想像も出来ない。やっぱ、『神』なんだろうな。
「俺のとこ以外にも解除されているのは、四つ。かなり多いな。まだ、始まって一、二時間くらいしか経ってないはずだが……ま、関係ないか」
第一ステージ、第二ステージとあるなら、第三ステージももちろんあるだろう、と俺は思っている。多分、第一ステージと第二ステージは篩いだったのだろう。大人数から数人選ぶにも何回かに分けて試験を行うところなんて多いからな。
「最初は、平等なところから力を得て、次の乱戦で複数人を相手にする視野の広さや体力魔力の分配、戦闘の面での総合的な能力が必要。それを見るのが乱戦ってところかぁ……じゃあ、次にあるのは、試合で言うなら決勝戦って感じだな」
これまでのことから多少考えてみるが、あっていると思う。
特段頭が言い訳ではないけど、少し考えれば何を狙ってこの『ゲーム』が行われたのかは分かる。
一言でいうなら、選別、と言ったところだろうな。
「お、また一つ決まったな」
ゴロゴロとしながら、残りのエリアが終わるのを待つ。
隅っこの方にいるため、地面が見える。
何十メートルもの高さがあり、高所恐怖症だったなら、動けなくなりそう。
「落ちたら、死ぬかな?」
暇すぎてそんなことまで考えてしまう。
俺の場合は、消費した体力や魔力の回復にそんなに時間って必要ない。
と言うより、俺は殺せば殺すほど強くなるし、回復する。半永久的に戦い続けることが出来る、と思う。したくないけど。
そんなわけで、魔力は満タンどころか増えているし、体力はそもそもそこまで減っていない。精神的な疲れの方が多いくらいだし。
「傷は治っている。生命力ってやつは上がれば上がるほど、撃たれ強くなるな」
生命力が上がったからと言って、防御力が上がったり、攻撃力が上がったりってことはない。多少身体能力にも補正がかかるかもしれないけど、微々たるものだろう。まぁ、要するに、皮膚で剣を受け止めるなんてことは出来ないわけだ。まぁ、そう言った能力があれば別だろうけど。
「でも、痛いんだよなぁ」
そう、回復するっていっても痛みを感じなくなったりするわけではない。普通に痛い。腕を刺されたり、腹に穴開けられたりすればもちろん、死にそうなくらい痛い。
防御力が上がるような能力が欲しい所だけど、すでにガチャの機能は使えなくなっているし、強奪でしか増やすことが出来ない。つまり、殺して殺して奪いまくるしかない。
「能力の整理でもしたいところだけど、今更使い慣れてないスキル使ったとしても使いこなせるか分からんし」
俺は、自分のことを天才なんて思ったことはない。
普通の人よりは物覚えや運動神経はいいかもしれないけど、一部の本当の天才のようにはなれないことも知っている。誰でも手に入れたからと言って、ゲームとは違う、熟練度ってのが必要になる。
「そろそろ終わる」
残っていた二つの結界が解除され、全てのフィールドから結界が消える。
突如、ゴゴゴゴゴゴッと地面が震えだす。
端っこの方にいたため、思わず落ちそうになる。
「あっぶねぇ!?こんな死に方、間抜けすぎる……」
ダサすぎる死に方をしそうになって本気で焦る。
そんなことをしていると、地面が揺れ出した。
どうやら、動いているらしい。
俺がいるところ以外も動き出し、近付いていく。
エリア同士がくっつこうとしている。
エリアとエリアがぶつかると、音を立てるでもなく、とぷんっと水に落ちる水滴のように溶け合い、フィールドとフィールドが融合しだす。
「なんか変な感じだ……」
一つに融合していく。
大きかったフィールドも東京ドーム一つ分に収まる。
周りを見渡すと、第二ステージを勝ち残った人たちがいた。
人間にエルフに獣人に魔族にあれは、竜?頭に竜のような角の生えた人もいた。
離れていても感じる。
全員が『強い』それもとてつもなく。
特にあの赤髪の男。浅黒い肌に赤い剣を背に背負っている大柄ではないが、その筋肉は限界まで引き絞られており、その威圧感は凄い。
そして、エルフの女性。金色の髪に日にあたっていないように白い肌。線はやはりエルフってだけあって細い。でも、そこじゃない。その身に内包されている巨大な魔力。滅茶苦茶だ。俺より多いぞ。
「ったく、これでも魔力には自信あったんだけどな……」
奪って奪って奪いまくっている俺は、魔力も化け物クラスだ。
とんでもなく多い。なのに、あのエルフはそんな俺を超えている。
うん。魔法勝負はしたくないな。
Dエリアにいた魔法使いより高位だろう。そんな相手とは戦いたくない。
「他にも、全く威圧感を隠してない奴もいるし、すぐにでも人を殺しそうな奴もいるし……はぁ、どうなることやら」
勝ち残った人を見ていると、上空にアシュリー様が現れた。
相変わらず美しい。
「さて、ここに残った10人。その中から一人だけを決める。トーナメント式だ。これから一対一で戦ってもらう。試合が終わり次第、前回までさせる。腕がなくなったり、半身が吹き飛んでいても試合に勝ち生きていれば勝者として回復させる」
そこで一度言葉を区切り、
「1番から10番までの札を渡す。それから、戦う者の番号を上に映す。そしたら、ここに来て戦え。それと、能力を全解除した」
ん?ここに来て?ってことは、一人……二人で戦うから二人ずつが呼ばれ、それ以外は観客ってことになるのか?それと、全解除?
その時、魔力の爆発とでも言える現象が起こった。特に、さっき警戒していたエルフ。さらに魔力が増えやがった。鳥肌が立ちそうなくらいの圧がある。が、すぐに収まった。
言葉の意味を考えていると、アシュリー様がパチンと指を鳴らす。
すると、この融合したフィールドの端に観客席のような物が出来た。
椅子は、十個。一つ一つが豪勢なものだ。ゆったりと寛げる仕様になっている、っぽい。
「場内の周りには結界を張らない。だが、落ちたとしてもたかが数百メートルでは死なないだろう」
いや、死にますけど?
「だから、特別だ。落ちた者は、死ぬ仕様とした。喜べ」
いや、喜べないんですけど?
「よって、ルールは単純。相手を殺すか場外へ落とせば勝ちだ」
確かに単純なルールだけど、ルールだけだ。
どちらにせよ、絶対に誰かは死ぬ。死なないと終わらない。
「そして、今回は私もここで見よう。後から我らが主が見に来られるかもしれない。その時は無礼のないようにしろ」
我が主?あ、あー確かに最初の方で言っていたような言っていないような……アシュリー様も人知を超えた力を持っているのは、分かる。その主、アシュリー様よりヤバい感じがする。それに、主のことを話すときのアシュリー様が一瞬頬に赤みが差し、うっとりしてるんだよなぁ。何というか、乙女の表情?みたいな。
「では、まずは、今受けているダメージを回復しよう」
俺たちの体を暖かな光が包むと、受けた傷も魔力も全快に。欠損のある人も回復しているようだ。そして、今度は目の前の景色が変わる。観客席に転移させられたみたい。
「それでは、第一試合を始めよう」
アシュリー様は、一人だけ別に、俺たちの後ろ、その上空に一際豪華長椅子、と言うよりソファーを作り出し、座っている。
組んでいる足が艶めかしいぞ。
いつの間にか、俺の手には、番号の書かれた札があった。
(三番……か。って、ちょっと待てよ。十人。それってつまり、全員が同じ試合回数ってわけじゃないよな?)
そう、八人ならば、一人ずつ戦っていき、決勝までその調子で行ける。
でも、十人だと、一人が二試合しなくていい結果となる。
そこんところどうなっているだろう。
「あ、二番と……七番、か」
誰だろ?と思っていると、観客席から二人が飛び降りる。
一人は、あの赤髪の男だった。
「開始の合図はしない。自分たちで決め、行え。地面へ降り立った瞬間から始めてもいい、二人で決めてからでもいい。それは、任せよう」
上空にいるのに、声が綺麗に聞こえる。
透き通るような美しい声音が、風に乗って届く。
これも魔法だろうな。
おっと、始まったようだ。
(さて、赤髪の人。どんな能力をもっているんだろうな)
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