158話 戦士と魔法使い
「やべっ少し意識飛んでたわ」
時間にして数十秒だろうか。
その程度ならまだよかった。このまま寝てしまっていたかと思うと、恐怖で漏らしてしまいそうだ。
「……向こうは、一人減ったか」
三人で戦っていたのに、今は、一対一の状況になっている。
俺が二人を相手にしている間に、このDエリアには俺を含めて残り三人。
「んんーーーぅん。ふぅ、決着がつくまでゆっくりしよ」
俺は傍観することにした。
今割り込んでいっても、俺も体力が戻ってないし、精神的にまだちょっと辛い。
確かに、俺は戦いが好きだ。戦闘が好きだ。殺し合いが好きだ。と分かった。
だからと言って、俺がつい一ヵ月前くらいまで、ただの学生だったことは変わらない。つまり、戦闘力は上がっても、精神も同じレベルで強くなっているわけではないってこと。
「しょーじき、もう寝たい。まじで、寝たい。能力も見る気力もないわ」
ステータスを見て、強奪した能力を確認する気力がなかった。出来れば、魔力も使いたくない。
物理攻撃が体力が減るなら、魔法攻撃は精神が疲れる。
「ま、どっちが勝つにしても、能力は知ってた方がいいか……」
と言うわけで、俺は、観戦しながら二人の能力を見て、対処法を考えようとする。
一人は、大きな斧を持っている、筋肉が盛り上がっている青年。まだ、二十歳くらいだと思う。なのに、あの筋肉。筋肉が増えるスキルでも持ってたのか?ってくらいだ。
一人は、深紅の宝玉が先端についている杖を持って、魔法主体で戦っている。こっちは、女性で、見た目からは分からないけど、三十近いと思う。分からんけど。魔女風のローブみたいな服装に、指には指輪を数個嵌めている。
「戦士と魔法使いって感じか……魔法使いは相手にしたくないな」
戦士が近付こうとすると、数が撃てる魔法を連発し足止め、そこへ、少し時間を稼いで作った強力な魔法を叩き込む。
それを戦士が斧に魔力を流すと、赤く発光し、燃え盛る。そして、魔法に向けて振り切り、魔法を吹き飛ばす。
そんな感じの攻撃が、俺が見だしてから何度も続いている。
「あの魔法……俺なら、どうやって対処する?火炎弾は焼け石に水って感じだし、鎖鎌でやるにしても……」
今度は、魔法使いが先に仕掛けた。
杖の先端の宝玉に魔力が集まり、拳くらいの大きさの炎が現れる。それが、徐々に小さく圧縮されていく。真っ赤な炎の玉が閃光となって戦士に向かう。
さすがにそれはやばいと思ったのか、戦士は斧で地面を叩きつける。
圧倒的パワーにより、地面が裏返り、それが赤い閃光を受け止める。が、少し遅らせただけで貫通してしまう。しかし、それで十分だ。その一瞬さえあれば、戦士にとっては避ける時間は稼げたも同然。
「ほぉ、しかし、あの赤い光線。強力過ぎね?あんなの超高温超高密度の炎を発射している……だろうけど、やっぱ魔法って人知を超えてるよな。多分、ダイヤモンドも貫通するんじゃね?」
今度は、水の巨大な刃が戦士を襲う。地面を裂きながら進むそれに、戦士は、魔力の刃を飛ばすことで応戦する。
「なんか迫力ある戦いだな……」
見ていて楽しいけど、こんな奴らが次に戦わないといけないとなると、少し憂鬱だ。
戦士が青いオーラに包まれた。
強化系の能力を使ったのだと思う。もしかしたら、俺の『覚醒』みたいな限定能力かもしれない。と言うか、それなら嬉しい。
戦士に対して魔法使いが、杖に魔力を流し魔法を発動する。
光の刃が無数に飛ぶ。
それを体術のみで躱していく戦士。残像を作るくらいの速さで確実に避けていく。避ける動作の瞬間は俺も目で追うことが出来ないくらい速い。
光の刃を躱しながら、物凄い速さで魔法使いへ肉薄する。
そして、ついに斧の距離まで来た。
また斧が発行し、魔法使いへその剛腕から放たれる埒外の一撃が迫る。
だが、魔法使いへ当たる瞬間、硬質な音が鳴り響く。
ドーム状の結界のような物が斧を止めていた。それでも、ギャリ!ギャリ!とせめぎ合い、パリンッと割れる。勢いをあまり殺さないその斧はまたしても硬質な音で迎えられる。二枚目の結界だ。
「うへぇ、あのバカ威力の斧を止めるとか、あの結界どんだけ硬いんだよ」
斧の威力は、周りが物語っている。
ドーム状の結界の周りの地面が爆発したかのように風圧で爆ぜ、その圧が俺のところまで届いている。
もし俺がこれを受けたら、鎖で受け止めても、鎖は多分斬れない。でも、一瞬の膠着の後には、鎖ごと俺がたたっ斬られる、と思う。
「魔法使いは、炎魔法に、光の刃。さらには、硬い結界……か。攻守ともに万能ってところか……そして、戦士は、斧の一撃はさることながら、あの速さの攻撃も避けることが出来る速さ。それに、あの青いオーラに包まれてからは、全能力が上がった。魔法は使えない、もしくは使っていないとしても、その斧と自分の肉体だけで、強力な武器。こっちは、搦め手ごと粉砕されそうだ」
戦い方を見ながら、戦略を考えるが、中々いい戦法が思い浮かばない。
今までは、実力が拮抗していたり、奇襲による攻撃が決まったり、武器の能力が強すぎたために勝っていた。
まぁ、要するに、実力で勝っていても技術では勝ったことがなかった。
剣術にしろ体術にしろ、俺はあの戦士の足元にも及ばない。見るからに、一流の動きだ。ここに来る前にも戦っていたに違いない。それを踏まえると、つい最近までただの学生だった俺に、経験で勝てるはずもない、か。
「それでも、勝たないと死ぬ。それは、絶対にダメだ。……最悪、あれを使うしかない」
鎖鎌の痣を右手で撫でる。
淡く光ったのは俺の気のせいか?
「あの斧の一撃で二枚目の結界もヒビが入り、いつ壊れてもおかしくないって感じだな」
後少しで割れる、と言うところで、魔法使いが杖で地面をトンと叩く。
すると、地面が揺れ始める。
戦士を囲うように五つのヒビが入り、火柱が立ち昇る。
五角形を形成するように立ち昇った火柱がゴォォオオオオ!!!と燃え盛り、大爆発を起こす。
あれだけ近い距離からあの威力の攻撃をするとなると、自爆技に近い。
まともに喰らった戦士もだが、魔法使いもかなりのダメージを負っているだろう。
魔法使いの結界は吹き飛び、戦士は爆発で姿が見えない。
徐々に土煙も収まって、状況が見えるようになる。
そこには、頭からは血を流し、着ていた鎧は砕け、斧を盾にし急所は護ったようだが、斧を持っていた手は焼け爛れている。髪も一部燃え、装備はボロボロだ。
対して魔法使いは、結界は吹き飛んで護るものがなかったようだが、ローブがボロボロに破け、片乳は丸見え、下の方もほぼほぼ燃え尽きている。それに髪の毛先もチリチリと燃え、肌が露出していたところは、戦士と同じく焼け爛れている。ただ、戦士に比べれば軽度だろう。指に嵌めていた指輪の効果だと思う。それもあってあんな自爆技を使ったんだろう。
「あ、戦士の奴、オーラが弱弱しい……」
戦士の纏っていた強く輝いていたオーラも吹けば飛びそうな程、弱々しくなっており、肩で息をしている。もうすでに、体力も魔力も残っていないのだろう。魔法使いも痛みに顔を歪めながら、杖を持っていない方の手で、胸を隠しながら、同じく肩で息をしている。
だが、お互いの目から戦意は失われていない。
次の攻撃で決着が決まる、そんな雰囲気を醸し出している。
「やっぱ次で決まるな」
俺の体力もだいぶ戻って来たし、いつ戦いになっても動ける。
でも、まだ対処法が見つかっていないんだよな。だけど、それももういいか。
「だって、あんなに疲れて満身創痍って感じだしな。回復した今なら十分勝てる」
勝ち筋は見えた。
後は、決着が決まるのを待つのみ、そして、休ませる間もなく最大威力の攻撃を叩き込んで、それで終わり。
「お、やっと最後の一撃か」
魔法使いの魔力が。
戦士の気迫の高まりが。
俺のところまで届く。誰が見ても次で決着が決まると分かるだろう。
最後の力を振り絞り、攻撃する。
戦士の斧が残りの魔力を全部注ぎ込まれたのか、今までにないくらい輝き、魔法使いは杖に魔力を集め、赤い閃光を作り出す。前に放った一撃より、さらに濃縮された閃光だ。こっちも余っている魔力全部使い切るつもりなのだろう。
「でも、それだけ力を使い切れば、もう動けまい」
俺は、思わずニヤケてしまう。
より、楽に殺せるようになるからだ。
戦士が先に攻撃に出た。
発光した斧を焼け爛れた両手でしっかり握りしめ、走る。
青いオーラを纏っていた時よりは遅い。疲れているはずなのに、その動きはキレている。
数秒で吹き飛ばされ開いた距離を詰め、魔法使いへと詰め寄る。
魔法使いは、殺気を出しながら、凄い気迫で走ってくる戦士をしっかしと見ながら、集中を途切れさせることなく、閃光に意識を注ぐ。
後少しの距離で、ついに魔法使いの攻撃が完成した。
「これを避ければ戦士の勝ち。当たれば魔法使いの勝ち」
ついに決まる。
発射された閃光をギリギリのところで避けた。躱しきれずに片耳を焼かれたが、命にまでは届かない。
躱され、焦った魔法使いは、咄嗟に次の魔法を作ろうとするが、魔力が底を突き、魔法を発動出来ない。戦士はそれを好機と捉え、益々、一歩一歩を踏みしめながら、近付いていく。
そして、斧が届く距離まで近付いた。魔法使いは、焦りに焦り、躓いて尻餅をついてしまった。
斧を振り上げる。それは、普段なら絶対にしない、隙がとても生まれる大振りだ。背を逸らすようにして放たれようとする。
が、途中で止まった。
なぜなら、戦士の胸に杖から伸びている光の刃に貫かれていたからだ。
口から血を吐き、その巨体が倒れる。
魔法使いも杖を杖にして立ち上がろうとするが、そもそも力が入らず座り込む結果になった。
「ふふ、もう立てない程弱っているなら、楽勝だな」
そう言い、俺は、弱っている女性に近寄っていくのだった。
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