156話 強くなった弟子
閑話?みたいな感じです!
でも、一応は本編と関係あると思います。
sideレイン
第一ステージ終了二日前。
レインは、予想外のことに直面していた。
「まさか、二日も前に来るとは……また力を上げたのか?」
「当たり前ですわ!」
漆黒の剣が禍々しいオーラを出しながら、レインの方へ向けられる。
「あんな狭間に飛ばされて!死ぬかと思いましたわ!」
「その程度で死なんだろう?と言うか、死んだらそこまでだったってことだ」
「ぐぬぬ」
レインは、対して興味がないかのように振る舞う。
しかし、その顔は、この俺の弟子ならそのくらい出来る、と言う確信めいた顔をしていた。
それが分かって入るから、顔を真っ赤にして照れているのだ。
「お久しぶりね、ソフィアちゃん」
「ええ、お久しぶりですわ、アシュリーさん」
お互いが敵意剥き出しで牽制しあうように挨拶をする。
アシュリーが敬語でものを言う時は、基本的に相手を下に見ている時だ。それに、基本的に人間の名前は覚えない。覚えたとしても呼び捨てが普通だ。なのに、『ちゃん』付けしている。完全に格下に見ている証拠だ。
「そこをどいてくれません?」
「嫌です……それに……ふふ、数億年放置されていた女なんて……ふふ」
「ムッキーーーー!」
アシュリーのあからさまな挑発にソフィアが地団駄を踏みながら、涙目で睨みつける。
確かに自分から修行に出たとはいえ、数年じゃなく億単位で放置されていたんだ。事実だけに、反論出来ず、睨みつけることしか出来ない。
「ゆ、許しませんわ!」
「許さないと、どうするの?」
「くっ」
完全にアシュリーが場の空気を支配している。
ソフィアがギリギリと魔剣とも言うべき剣を握り締めている。
「ふっ」
「ッ!!」
アシュリーの挑発にも何とか耐えていたが、鼻で笑われさすがに頭に来たようだ。ソフィアの姿が消えたと同時にアシュリーの目前で火花が飛び散る。
「くっ、相変わらず硬い『空裂』ですわね!」
何度も高速で斬りつけるが、火花が飛び散るだけで一向にアシュリーには届かない。
「おお、本当に力が上がってるぞ、これは……さすが我が弟子だ」
ソフィアは、アシュエルに匹敵するかそれ以上の才能を持っている。
だけど、才能とは別に、人間には成長限界と言うものがある。
それは、これ以上は成長、強くなれませんよ、と決められたものだ。
簡単にレベルで話してみよう。
人によって上げることが出来るレベルが決まっている。
ある者は100レベルまで、ある者は、150レベルまで、ある者は、500まで。
だから、誰しもが鍛えて鍛えて鍛えまくり、レベルを上げまくっても高位存在、神にはなれない。そして、才能と成長限界は比例しない。それが意味することとは、どれだけ才能があったとしても成長限界に達してしまえば、それ以上の成長は見込めないと言うわけだ。
だが、ソフィアはその限界を突き破った。
それは普通あり得ないことだ。
人は皆、平等ではない。それゆえに、人には定められた限界と言うものが備わっている。そしてそれは、レインの弟子となっているソフィアすらも例外ではない。
決められた限界を突き破ること、それは数字では表せられない程の確率だ。例えば、生後直後の赤子に「翌日に神になれ(転生など例外は省く)」と言っているようなもの。有り体に言えば『不可能』と言うことだ。
そんな理の外に出たソフィアに成長限界はなくなった。今のアシュエルより実力は上だろう。
「『天華』!」
「ん?」
可視化する程濃密な魔力が剣に集まり、振り下ろす。
華の形の斬撃がアシュリーを襲う。
ギシギシとアシュリーの張った『空裂』とせめぎ合い、魔力が吹き荒れる。
ピキ、ピキと徐々に徐々に『空裂』が破られそうになるが、次の瞬間には元に戻す。
「『真・天華』ぁああ!!!」
「……強い、ですね。レイン様、これ以上はこの空間が壊れてしまいます」
「ああ、そのようだな。前より格段に強化してあるが、それでもそこまでの圧は耐えれん」
レインがパチンと指を鳴らすことで、急速に高まっていた魔力が霧散していく。
「相変わらず出鱈目な……っ」
「ったく、酷いだろ?我が弟子よ。俺の楽しみを邪魔するとはな。そんな子に育てた覚えはありません!」
「育てられた覚えもありませんわ!」
「まぁ、せっかくだ。アシュリー、ソフィアと戦いなさい」
「いいの?」
「ああ、空間の隔絶はした。思う存分戦え」
「分かりました」
「それで、勝った方に褒美を与えよう」
「ご、ご褒美、ですの?」
「ああ、お前の望んでいることをな」
「べ、別に何も望んでいませんわ!!!」
首まで真っ赤にして反論するソフィアにレインはニヤニヤとした笑みを浮かべる。
褒美と言われ、ソフィアが真っ先に思い浮かべたこと、それは、今まで放置されされていなかったこと。アシュリーが散々虐めていたことだ。
「んじゃ、始め」
レインの雑な合図と同時に、アシュリーが先制を仕掛けた。
ソフィアは、バックステップで避ける。
空間が縦に裂けた。もし、避けなければ、幾十にも張り巡らしている防御結界ごと裂かれ、そこで、決着がついていただろう。最初から全力のようだ。
「………………ぅび……ほうび!」
「ちょっ!何ブツブツ言ってますの!?」
どうやら、アシュリーも褒美が欲しいらしい。
「ご褒美は私が!!!」
「そんな色に狂った顔して何言ってますの!?」
次々に裂かれる空間を避け、剣で斬り払っていく。
「ん?どんな顔?」
「どうせ、ずっとやってたんでしょ!!!」
「あ、分かる?」
「ッッッ」
アシュリーの艶やかな表情に冗談で言ったことが、本当だと知り、キッと睨みつける。
つい数時間前のことを思い出し、アシュリーがぼへぇとした顔をする。
そして、益々ソフィアが怒りを募らせる。
「『真空爆破』」
「うくっ『極・天華』!!!!」
『真・天華』の十倍の威力の斬撃が放たれる。
アシュリーの魔法にぶつけ相殺するが、完全には消せず爆風を喰らう。
物凄い勢いで吹き飛ばされ、突如、ガクン!と地面に叩きつけられる。それは、あたかも重力に潰されているかのようだ。実際その通りだが。
「喰らい尽くせ!」
魔剣を地面に突き刺し、魔法を喰う。
重力が弱まり、すぐに元の重力に戻る。
その時、ソフィアの持っている魔剣に口が生えたようだが、気のせいだろうか。
「ほぉ、『暴食』と言うより、『悪食』か?中々面白い剣だな」
レインは、関心したように言う。
「それなら、喰らい尽くせない程の威力でやればいいだけ……!」
アシュリーはどこから取り出したのか、一本の透明の剣を握り、その場で振るう。
剣に透明化をかけているわけではなく、剣そのものが透明なのだ。
「やっぱり、それを使いますわね!」
アシュリーの得意技、空間を裂く攻撃を昇華した技がこの透明な剣だ。
間合いも大きさも形も何も分からない。だが、その強力さだけは、知っている。
ソフィアは、一つの魔法を使う。
暖かな光に包まれたソフィアが急に吐血する。
「がふっ……」
「あれ?耐えたの?」
「こふっふふ、防御不可能な攻撃。即座に回復させればいいだけ、ですわ」
口から垂れた血を拭いながら言う。
だが、実際は、言うは易く行うは難しってやつだ。
体内を直接攻撃するアシュリーの攻撃は防御不可能。そこで、ソフィアがとった対処は、傷を受けたら即回復!と言う、脳筋思考だが、対処としては正解に近い。だけど、それは、身を裂かれ、ぐちゃぐちゃに裂かれる激痛に耐えなければならない。それも、痛みを増幅された状態で、だ。
並みの人間どころか、英雄の精神を持っていても到底耐えることが出来ない痛みだ。
「んぐっ!?」
「ふふ、心臓が三枚におろされる痛みはどう?」
「ぐぅ!?この程度……どうってことないですわ……」
悲鳴も上げず、耐えているが、痛みを感じていないわけではない。必死に頑張って耐えているのだ。
脂汗を額にびっしりとかき、体が小刻みに震えている。
サッサッと透明の剣を振るうと、ソフィアの体が一際大きく震える。
「これは?内臓が掻き回され、細切れにされる気分は?」
「ああああ……あ、あ……」
ついに悲鳴を堪えることが出来ずに、声を上げてしまう。
相性がソフィアとアシュリーは悪い。もちろん、ソフィアがアシュリーに対して、だ。
アシュリーがカギを回すように、グルリと空中に刺した透明の剣を回す。
「あがああ……!がっはっ……!!」
今、ソフィアの体内では、捻れに捻れ、惨い惨状になっている。だが、外見は口から血を流している以外いつもと変わらない。内臓だけじゃなく、骨まで洗濯機に入れたようにボキボキと渦を巻いている。
立っていられるのが奇跡に近い。
傷付いた瞬間に元に戻っているため、感じているのは痛みだけ。
「……『……』」
「ん?何か言った?こぷっ……あれ?」
今まで一方的に攻めていたアシュリーが血を吐く。
透明な剣を出した瞬間、『空裂』を解いていた。それは、反撃されるなんて考えていなかったからだ。それでも、生半可な攻撃では、アシュリーの防御結界を破れない。しかし、ソフィアはアシュリーの防御結界を破るのではなく、すり抜けることで、成功させた。
時空が歪むようにして現れたのは、今までソフィアが握っていた魔剣だった。
「喰え!」
「うぐぅ」
アシュリーの存在がドンドン喰われていく。
だけど、
「その程度の魔剣で喰える程、軟じゃない」
レインの言う通り、物凄い勢いで喰い尽くさんばかりだった魔剣が急に大人しくなり始めた。それでも、所有者の命を遂行するため無理して喰っていく。だがやはり、負担が大きすぎたようだ。
「ふふ、結構持っていかれたね……でもまさか、この程度で神を喰えるとは思ってないよね?」
「ッ……」
まだ残る幻痛に顔を顰めながら、睨みつける。
「ふふふ、ほら、もう。あなたの剣はぼろぼろ」
アシュリーの言う通り、魔剣に亀裂が入っている。
これ以上酷使すれば、砕け散るだろう。
ここで言っておくが、ソフィアの使っている魔剣は、強力だ。それも強力過ぎる程に。神族すら食い殺せ、世界を丸々喰ってもなお大丈夫な程だ。ただ、相手が悪かっただけ。
「返すね」
腹に突き刺さっている魔剣をズプリと引き抜き、ソフィアの方に投げる。
「はい、そこまで。アシュリーの勝ち」
「やった!レイン様ぁ!」
「くっ……」
「でも、ソフィアも頑張っていたから、褒美はお相子だ」
「え……」
ソフィアの間抜けな声が空間に消えていった。
アシュリーは分かっていたかのように、反論せず、レインの腕に抱き着いている。
「ほらいくぞ。後二日。ゲーム終了まで可愛がってやる」
「べ、別に期待なんてしていませんけど……師匠が?どうしてもと?言うなら仕方ありませんわ!」
「そんなに言うなら来なくて結構だよ」
「行かないとは言ってませんわ!!!」
もうすっかり、痛みは感じていないのか、これから起こることに思いをはせる。
レインはそんな可愛い弟子の頭を撫でる。
久しぶりのレインの手を感じ、体の余分な力が抜けていくのを感じる。
これまで、レインに対してツンケンとした態度を取っているが、レインのことを尊敬し、敬愛し、崇拝している。ただ、それを直接伝えるのがすこーーーーしばかり苦手なだけだ。
「し、師匠ぉ、寵愛をください」
甘い声を出しながら、吹っ切れたように、レインへしな垂れかかる。
数億年の月日は、何兆と生きているからと言え、人間だったソフィアにはとても長い。それだけ、誰とも寝ず、レインのことだけを想い続けていた。それが、これだけ甘えれる状況を作られれば、こうなるのは必然だろう。
「愛いやつめ」
レインも久しぶりの弟子との交わりに慈しむ顔で応える。
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