155話 第二ステージ 乱戦
30分が経ち、再び光に包まれた。
目を開けるとそこには、人間の他数種族がいた。
目算だが、100人くらいだと思う。それに、A~Jのエリアと言っていたから、10エリア。そして、総勢984とも言っていたから、一エリアに対して、100人くらいと考えるのが妥当だろう。
このフィールドの大きさは、東京ドーム二つ分くらいで、円形だ。その外を結界のような物で囲まれており、頭上を見ると、『D』と言う文字がでかでかと書かれていた。
俺がいる場所がDエリアと言うことだろう。
結界の向こうを見ようと目を凝らしても見えない。自分たちの戦いに集中しろ、と言うことだろうか。
それから、何も起こらずに数分が経ったが、未だに開始の合図が行われない。
(もしかして、自分たちで勝手にやれ、そう言うことか?)
そう思った矢先、俺の前方で悲鳴が上がった。
「なんだ……?」
人を避け、見える位置まで行くと、そこには血に濡れた剣を持った男がギラついた目で周りを見渡していた。そしてその男の足元には、胸をバッサリと斬られ、地面に伏している男がいた。
「まじか……って、やっぱり、開始の合図はない。つまり、始まっていると言うこと」
なら、と思い、俺も近くにいた人物から切り捨てていくことにした。
もう今更、『人殺し』に対して、忌避間はない。
と言うか、最初からなかったと思うけど……。
俺が使っているのは、そこそこのランクの鉄剣だ。
最初から主武器を使うまでもないだろう。
ちょうど六人目を斬った時、俺の、いや、俺たちの頭上に巨大な火の塊が現れた。
「何あれ……?」
その火の球体が放つ熱量は、ここまで届いている。
ジメジメと照りつける太陽のように照らしている。
だが、太陽と違うのは、それが落ちてきた、と言うことだ。
「って、こんなのどうしろと!?」
剣に魔力を流せば、魔法を斬れることはセリスから前に聞いたから知っている。
でもそれは、俺が使っていた火炎弾とか、大きくてもボールくらいだ。
しかし、この巨大な火球は、優に半径数メートルはある。
これを斬ったところで、爆風で焼け死んでしまう。
「くそ!こんな大規模攻撃されたら逃げ場がないぞ!?」
一か八か剣に大量の魔力を込め迎え撃とうとする。
だが、次の瞬間、地面から水柱が立ち昇り、火球を包み込む。
そこで、水蒸気爆発が起きるが、それすらも水が飲み込みそこまで大きな爆発には至らなかった。それでも、完全に抑え込めたわけじゃなく、水飛沫が飛び散り、俺の体を濡らす。
「水も滴るいい男ってか……まぁ、誰か知らんけど、この水柱のおかげで助かったな。それはともかく……」
「ぐぎゃあああああ!?」
「や、やめろ!やめてくれ!?」
続けて近くの者から斬っていく。
斬って斬って斬って……。至る所から悲鳴が上がり、凄い勢いで人数が減っていく。
だが、忘れてはいけない。
この場にいるのが、剣や槍と言った物理攻撃を主として使う者ばかりではないと言うことを。
あのサバイバルな状況で生き残ったと言うだけあり、第六感とも言うべき感覚が鍛えられていた。それに、ここでも常に『探索』を使い続けている。
俺が第六感だと思っているのは、『魔力の気配』だ。魔力を使い続けていたため、魔法を放たれたら分かるようになっていた。だからこそ、俺の後ろから魔法が飛んできているのにも気が付いた。
「はっ!……っぶね、なんだこれ?」
剣で斬り払うが思いの外『硬く』次の攻撃に遅れ、思わず直撃を喰らうところだった。
しかも飛んできたのは、氷の剣。氷剣が数本俺に向かって高速で飛んできたのだった。
「って、またか!」
続いて二本の氷剣が飛んできて、一本を斬ったところで鉄剣が砕けてしまった。
慌てて、横に飛び躱す。
「チッ……少しずつ冷気によるダメージを剣に蓄積されていたのか……」
魔力を纏い、強化と耐久性を上げていたとしても、纏っている魔力以上の攻撃なら当然負けてしまう。そもそも、そこまでの耐久性がこの剣にはないのだから、仕方ないと言えば仕方ないけど。
「『乱戦』とは、よく言ったものだわ……どんどん減っているけど、人と人が重なったり、はっ!魔法による爆風とか土煙で見えないところもあるし……」
途中飛んでくる氷剣を鎖鎌を出現させ、斬り裂いていく。
「まさか、こんな早く使うことになるとは……しかも、どこから飛んでくるか分から……くっ」
首を横に傾け、飛んできた氷の短剣を躱す。
普通の鉄剣の大きさの氷剣に紛れ、果物ナイフ程度の大きさの短剣が飛んでくる。
(くそ!何とか躱してるけど、そろそろ被弾するぞ……!)
どうにかして術者を特定したいが、全くそれらしき人物を見ていない。
さっきから、俺ばっかり狙っているらしく、どっからか俺を見ているんだと思うが、こっちからは見つけれない。
「邪魔!」
俺に重なるように、現れたおっさんを蹴り飛ばし、火炎弾で追い打ちをかける。能力による制限を解除されたことにより、火炎弾も強力になっている。それは、吹き飛ばされているおっさんに一瞬で近付き、頭を貫通、そして燃え上がる。
「お前も邪魔すぎ!」
近くにいたお姉さんの顔をアイアンクローのようにして掴み、『強奪』を使う。
「いやあああああああ!?」
今までの『強奪』は自分で殺した場合のみ使えた。
だが、制限を解除された今では、生きている人間に対しても使えるようになった。ただし、自分の手で触れないといけないが、『生命力』『魔力』それから『能力』に至るまで全て、触れれば奪える。ただ、『生命力』と『魔力』は、少し面倒なことがある。俺の数値が減って入れば、それを補充するように回復し、満タンならば、最大値が上がる。そして、同時に奪えるのは一つまで。リチャージなどはいらないけど、『生命力』や『魔力』を全て奪おうとすると、それなりの時間がかかる。つまり、触れ続けないといけない。
それでも、自分の中から奪われる感覚はあるわけだ。
その結果が、このお姉さんの悲鳴だ。
「『火炎弾』×10!」
魔法を使って減った魔力と、氷剣と氷の短剣で減った生命力を回復するために奪う。
(だけど、まだ制限はかかっていると見ていいだろうな。腕力や速力と言った直接的な力は奪えない)
このお姉さんの力を奪いながら、辺りに火炎弾を飛ばしまくる。
これで、出てきてくれればいいが……。
「そこか!行け!」
一人だけ、こっちに手を向けているフードを被った小柄な姿が見えた。目深に被っているせいで顔は分からず、男か女かも分からない。それでも、俺に対しての敵意は分かった。
俺は、具現化した鎖鎌の白い鎌『乙女』を飛ばす。
この『乙女と悪女』も一段階強化させたおかげで、また能力が追加されていた。それは、念じるだけで動かせる、と言うものだ。もちろん、動かすにいたって魔力は必要だが。
人の合間を縫うようにクネクネと飛んでいき、目的の人物の所まで到達し、その首目掛け飛んでいく。そして、ついに首を引き裂いた。だが、次の瞬間その姿がユラユラと陽炎のように揺らめき、元のフード姿に戻った。
「何?(あれも何かの能力か……?)」
俺に同化しているだけあって、この鎖鎌で斬った感触は俺にも伝わる。
なのに、今回は斬った瞬間に空を斬っているかのように何の手ごたえもなかった。
その時、フードの人物に気を取られ、『強奪』していたお姉さんが懐に手を忍ばせていたのに、気が付かなかった。
気付いた時には、切っ先を俺の心臓に向け、突き刺そうとしていたところだった。
「うぐっ……ってぇ、くそ!」
すぐに顔から手を離し、体を横に向ける。
だが、避けきれずに、肩に深々と突き刺さる。
「ぐぅ……(あの変態から受けたダメージよりかなりマシだが、クソッ焼けるように痛いぞッ)」
「はぁ、はぁ!よ、よくも……やってくれたわね……!」
生命力と魔力を奪われ続けていたため、肩で息をし、顔が青白くなっているが、その戦意は些かも衰えていない。逆に憎しみを込めているせいで、より殺気立っているとも言える。
こんなやつに構っている場合じゃないのに、こいつを無視したら今度こそ後ろからグサッといかれそうだ。なら、先に始末しないといけない。
「鎖よ!」
肩に突き刺さっている短剣を抜き、投げ捨てる。
そして、鎖に命じる。
今度は一本だけじゃなく、二本を飛ばす。
地面を縫うように進み、お姉さんの所まで到達すると、鎌がグン!と大きくなり、その命を刈り取ろうとする。それを、どこから取り出したのか、盾を構える。小型の丸盾だが、高ランクなのは見るからに分かる。しかし、☆3の『乙女と悪女』が一段階強化されたおかげで、今や☆2となっている。☆3以下の武器ではほとんど合わせることすら出来ないだろう。
結果は決まっていた。
盾ごと白い鎌が斬り裂き、後ろに回り込んでいた黒い鎌が心臓を突き刺す。
「があああああああああ!?……あ……」
獣のような声を上げながら叫び、事切れる。
「クソッ使った分だけ回収しようとしたのに……まぁいい、回復は出来た。後は、いない?」
お姉さんを倒し、フードの人物を探そうとするが、見当たらない。
かなりの人数が減り、だいぶ見晴らしもよくなった今、見失いわけないはずだ。
「どうせ、一人になるまで、やるんだ。早いか遅いかの違いでしかない、か」
胸に嫌な予感を感じながらも、見つけられないならしょうがない、と別の人物に狙いを定め、攻撃していく。
もうすでに、武器の能力を隠したりすることは、頭になかった。
どうせ、全員殺すんだ。なら、早い方がいい。
その考えに基づいて、素早く、丁寧になるべく一撃で殺しながら、フィールドを走り回っていった。
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