134話 空間固定
sideレイン
アシュエルが空間に異変を感じる少し前。
「ここが、王城……と言うか屋敷?豪邸って感じだな」
レインは、サルワンド王国の君主が住んでいる家に来ていた。
よくある金持ちの豪邸、みたいな、大きな庭があり、通路を花で囲い、噴水がある。
だが、綺麗な庭園と言うわけではない。
レインの眼には、数々の罠が視える。
地面の下に隠されている侵入者捕獲用のトラップ。
花壇の中に埋もれている、赤外線センサー。
そして、侵入者殺害用のトラップ。
赤外線は、至る所にあり、少しでも触れれば、至る所に隠されている銃などの遠距離武器で撃ち抜かれる、と言ったところだ。
だがレインの場合は、それを素通りしていく。
赤外線センサー?ならそれにかからないようにすればいい。
トラップ?何かしらのアクションを起こさなければ作動しない。『霊体』などの実態を持たなければ発動すらしない。
「そこまで、警備員はいない……けども、なるほど、魔導騎士が数人ついているな」
対して強くないものを傍に大量に置いておくよりも、強者を数人置いていた方がいい。
当たり前だ。一定のレベルを超える強者に数は意味をなさない。強者を雑兵のように集めているなら話は別だが、そんなにいるのなら『強者』とは言わない。そんなゴロゴロいるなら平均レベルになるからだ。
それに、魔導騎士。
この世界では、国も最終防衛の要として認識されているらしい。
「たのもーーーー」
この扉の向こうにサルワンド王国の王がいる。
礼儀として、きちんとした物言いをし、扉を蹴破る。
重厚な扉が粉々に吹き飛び、続いて殺気がレインを襲う。
別段気配を消して豪邸の中を歩いていたわけでもないし、監視カメラにも映っているのだから、レインが来たというのは、分かっていたのだ。
左右から迫りくる、黒塗りのナイフを指に挟むことで止める。
そしてそのまま投げ返す。
すると、次は天井が落ちてきた。
いや、正確には天井ではない。天井に付けられていた鉄板だ。
レインは、上を見ようともしない。
なぜなら次の瞬間には、鋭利な刃物で斬られたように、斬り刻まれたからだ。
レインのやっとことは、風刃を放っただけだ。
「挨拶にいきなり殺そうとするとはな……」
肩を震わせ、怒っているかと言えば、
「素晴らしい!」
歓んでいた。
そこで、レインは初めて相手の顔を見る。
一人は、三十代程度の細身でスーツを着ている男。
細いと言っても、痩せているわけではなく、高密度の筋肉の鎧を纏っているのが服の上からでも分かる。
一人は、とにかく筋肉に目が行くだろう。
肥大化しまくった筋肉は、現役のボディビルダーよりも大きい。完全に何かやっている。と言っても魔導騎士になるための肉体改造のせいだ。
一人は、ピタッとした戦闘服に身を包んだ女性だ。
ブロンドの髪が腰まで伸び、拳銃を手に構えている。
この三人が、サルワンドの王を護っている者たちだ。
魔導騎士とは、ロボットに乗り戦う、と言うのが一般的だが、それは正しくはない。
機械に乗ると言うことは、確かに力も耐久性もあるかもしれないが、小回りと言った点は効きにくい。そこで、魔導騎士の中には、『特殊改造』を受けた者がいる。
魔導騎士、あれ程の重量の物体が空を飛んだり、ビームソードのような大量なエネルギーを使う武装を使えるのかと言うと、それは、魔導騎士を動かす動力源にある。通称『コア』と呼ばれるものだ。人と同じ心臓部にあり、そこを壊されると、動かなくなる。
そして、『特殊改造』とは、その動力源を体内に植え付けることだ。
人の身のまま魔導騎士を超える力を手に入れている。
だが、もちろんその成功率は、普通の肉体改造より大幅に下がる。その確率僅か0.2%。ガチャの最高レアが出る確率とほぼ同じだ。
そして、この手術は成功か失敗の二択のみ。
つまり、失敗すれば死ぬ。
そんな肉体改造手術の成功作がレインの前にいる三人だ。
ロボットは強いが幅を取る。とても室内で戦うには不向きだ。だからこそ、この三人が王の護りをしている。
「我は、第一席カゲミツ。侵入者よ、何が望みだ」
スーツ姿の男、カゲミツが言う。
奇襲、不意打ちでの攻撃を避けられ、仕留め損ねたから今度は対話で情報を得ようとした。
「間引き、それも世界ごとだ」
レインは、正直に言う必要がないにも関わらず言った。
そのことに三人プラス一人は顔を顰める。
「ようするに、だ。この世界は必要ない。だから消すそれだけの話だ」
「そんなことはさせん!」
「その通りだ!この国は私の物!お前たち、敵を撃て!」
筋肉男が憤り、王が初めて口を開いた。
「俺を楽しませろ?そしたら気が変わるかもしれんぞ?」
「ほざけ!」
ただでさえ大きかった筋肉が一回り大きくなる。
ムキッ!ムキッ!と聞こえてきそうだ。
筋肉が盛り上がり、まさしく筋肉マン。そして、意外と速い。
レインとの距離を詰め、丸太のような腕がレインの顔面を潰そうと伸びる。
それを、片手で止める。
「ぬぅッ!?」
「弱い」
虫でも払うように、手を振る。
一瞬で姿が消え、サルワンド王の横を通りすぎる。
レインはそのまま掌を横に向ける。
「粒光剣、か……」
カゲミツが粒光剣でレインを斬りつける。
が、レインには軽く片手で受け止められる。
レインには簡単に受け止められているが、その威力は尋常ではない。ソニックブームとなった斬撃が、強化されているはずの壁に斬痕を入れる。
「ミレリー!」
ミレリーと呼ばれた女の魔導騎士が、床を蹴り跳び上がる。そして、重力と自重を乗せた一撃を放つ。
巨乳……軽くGカップはあるだろう胸は全く揺れていない。
それも戦闘服のせいだろう。
一点集中の攻撃を顔を横に向けるだけで避け、レインは前に踏み出す。
レインは人差し指を出し、突き出す。
「あ、がっ!」
腹を貫かれる。
指の長さはせいぜい10CM弱だが、易々と鋼鉄を組み込まれた戦闘服と突き破って腸まで届く。そのまま、指をクイッと曲げ、引き抜く。
「あああああ!?」
長い腸が全て引きずり出される。
「ミレリー!?」
「まず一人……」
右足を軸に左足を高く上げる。その時、頭は下を向いている。
顔面を狙ってきた粒光剣を避け、同じく顔面を狙ってきた拳を上げた足で蹴り砕く。
そして、軸足を百八十度回転させ、回し蹴り。
「ぐげっ!?」
筋肉達磨の太い首を折る。
だが、レインは初めて少し驚いた。
「アボガァア!」
首が捩じれた状態でレインを拘束しようと組みついてきたのだ。
「ほぉ、魔法も世界で、この状態で生きているとはな、いや、正確には生きていないか。ほぼ意識はないだろうし、もうすぐに死ぬだろうな」
人間は脆い。
心臓を貫かれれば当たり前だが死ぬし、首を斬られても折られても死ぬ。片腕飛んだだけでも、時間が経てば失血死で死ぬ。頭蓋を割られればもちろん死んでしまう程脆い。
だからと言って、首を斬られてすぐ死ぬわけではない。完全に命が尽きるまで数秒の猶予がある。それでも、その状態で体を動かせるかと言うと、それはまた別の問題だ。
それを知っているため、レインは避けずに敢えて捕まる。
「その執念やよし、だが」
「破あああ!!!」
その瞬間、カゲミツの粒光剣がレインを斬り裂く。
「これで……おわっ何だと!?」
仲間の筋肉男ごと斬る覚悟で振りきった。
それなのに、倒れたのは、筋肉男だけだった。
「確かに斬ったはずだ!?」
「いいや、それを見てみろ」
確かに決まったはずの攻撃で、全くの無傷のレインに驚愕の声を上げるが、レインはいたって冷静に言う。
レインの言っている『それ』とは、粒光剣のことだ。
本来なら暗闇の中でも輝いているだろう刀身が今は、黒く染まりきっていた。
「どうして……!?」
「粒光……つまりは、光だ。なら、闇に閉じ込めれば光は届かない」
「馬鹿な!?その程度で、この剣が斬れなくなるはずはない!」
その通りだろう、本来なら。
魔導騎士第一席の武装ともあろうものが、自分の武器の弱点くらい対策している。真っ暗な夜でさえ、使うことが出来ると言うのに、今は一滴の光すら漏れていない。
それよりも闇に包まれている刀身はない。
闇に包まれた瞬間から消え去っていた。
「なぜかは教えんが、この程度で取り乱してどうする」
呆れたように言う。
普段なら危機的状況でもカゲミツは冷静だっただろう。
だが、今までの戦いで「負けてはいけない」とは思いながらも、心の底では「勝てない」と理解していた。だからこそ、死んだ後ですらチャンスを作ってくれた仲間のために、決めなければいけない。そう思っての一撃だったのに、絶好の機会を逃してしまったのだ。
三人いた魔導騎士も今や自分一人。
武器も封じられなすすべもない。
これまでの戦いでは、カゲミツは、肉体能力で敵の全てを打ち破ってきた。
誰よりも強い筋力、誰よりも速い速度、誰よりも巧い技術。
伊達に一席にいるわけではない。
だが、レインには全てに負けている。
ステータスはお互い同じだ。権能の力が働いているのだから。
だが、そもそもの土台が違う。
もしもレインが普通の子供程度の力しかなくても、戦い方は変わるだろうが、この『結果』は変わらないだろう。レインの勝ちでカゲミツの負け、と言う形で。
「なにを……がっ」
スッと手をカゲミツの頭に伸ばし、親指で中指を押さえる。つまり、デコピンだ。
デコピンを受けたカゲミツは、首が捥げるような衝撃を感じ吹き飛び……はしなかった。レインが足を踏んでいたからだ。
だが、その衝撃が消えたわけではない。
確かに首は後ろに吹っ飛んだが、足を踏みつけられているため、その足を軸に地面にめり込む。
「これで、警護はいなくなったな」
パンパンと手を叩き、サルワンド王へと話しかける。
「ひっ!?」
短く悲鳴を上げ、後退る。
もはや、最初の威厳などなく、そこにいるのは、涙を流し失禁している醜いおじさんだ。
王に直接的な戦闘能力はない。
だから警護に魔導騎士が数人、いつもついている。
最大の国の王と言うことで、いつ暗殺されるか分からないからだ。
「お、おれにこんなことしてただで済むと思っているのか!?」
一人称が『私』から『俺』へと変わっている。取り繕うことも出来ない程、取り乱しているのだ。
だが、何も助かりたい一心で言っているわけではないようだ。
「俺を殺せば、我が神が許さないぞ!」
「我が神ぃ?」
レインは頭の片隅のごみ箱のところへ押しやっていたが、この世界の上層部の人間は神から直接神託を受け取ることが出来る。つまり、神の存在を知っているのだ。
バックにいる神の威を借りる人間……虎の威を借りる狐のようだ。
「だから?と言うか、俺は待っているんだ。そのお前の神とやらを」
「は……?」
心底レインの言っていることが分からない、いや、分かりたくないと言ったような感じだ。
「出会い頭言っただろう?間引き、世界ごと、だと。国を壊すではない。世界を消すと言ったのだ。文字通りな」
「なっ……!?」
「消すとは、無に還すと言うことだ。何も残らん。その前に邪魔しに来るであろう神を待っている、と言っている」
「なんっじ、自分が何を言っているのか分かっているのか!?」
「当たり前だろう?それより、お前ら戻ってこい」
逆にレインは、王の言っていることが分からないと言った感じで、言う。
話は終わりだ、とでも言うように話をきり、配下に命令する。
声は絶対に聞こえないはずだが、数瞬後には、クリスティ、アシュエル、ハクが現れる。
「ん?ハク、お前かなり喰ったな」
『はっ主人』
いつも通りハクの真っ白い毛並みに血の一滴もついてはいない。
だが、『死の匂い』『血の匂い』と言ったものは濃く残っている。
これだけの匂いを残すとなると、何十何百万と殺さなければならないだろう。
「いい、いい。どうせ消す世界だ。めいいっぱい楽しめ」
『感謝しまう主人』
「うむ。で、お前の家臣は全て死んだようだぞ」
「ぐっ……」
怒りに不安に恐怖。
色々と負の感情の混ざり合った表情をしている。
そこへ、
「レイン様」
「ああ、分かっているさ。少し前に、空間固定がかけられたな」
アシュエルの無言の問いに、応える。
魔導騎士の三人と戦い、一人を仕留めた時にすでに感じていた。
「ああ、徒党を組んで来たようだ」
舌なめずりをし、歪んだ笑みを浮かべる。
美しい顔はどんな表情でも美しいらしい。
ゲス顔のような歪んだ笑みでも、美しいのだから。
「お前はどうするか……」
サルワンド王をちらりと見てすぐに視線を外す。
なぜなら、屋根から光が室内へ入り込んだからだ。
丸い穴が開いている。
その理由は、槍が投擲され、レイン目掛け高速で飛んできたためだ。
その槍は、レインの目前で止まっている。空気の膜に邪魔され勢いを殺されたのだ。
「楽しみ、実に楽しみだ。お前ら俺の邪魔をするなよ。呼ぶまで待機していろ」
『了解しました』
恭しく頭を下げ、了解の意を示す。
それを横目で見やり、転移する。
面白い!
続きを読みたい!
と思ってくれた方評価して貰えると嬉しく思います!
☆☆☆☆☆を貰えるととても喜びます!お願いします!!!
そして、評価してくださった方ありがとうございます!