132話 咲き乱れろ
シェルターに向かったアシュエルは、その周りにいる軍人をどうするか考える。
「どうしよっかな。そのまま堂々と正面から行ってもいいけど……」
アシュエルの考えとしては、正面から斬り込むか、一人ずつ暗殺のように減らしていくか、の二択だ。
「他の場所はレイン様たちも行くと思うから、ゆっくりでも急いでもいいし……よし、正面から行こうかな」
どう攻めるかを決めたアシュエルは、ビルの屋上から飛び降りる。
見渡しがいい、と言うことで、高いビルの屋上にいたのだ。
地面に着く直前反重力でふわっと浮き、緩やかに着地する。
「何者だ!」
突然現れたアシュエルに銃を構え、問う。
だが、避難民だとは軍人の誰も思ってはいない。
なぜなら刀を片手に空から降ってきた人間を普通の人とは思わないからだ。
「僕は、アシュエル。頑張って抵抗して欲しい!」
「撃てぇ!」
射撃命令を下す。
雨のように降る弾丸を掻い潜り距離を詰め、近くにいる者から斬り捨てていく。
「ぐああああ!?」
運が悪いのかいいのか、足をくじき態勢が崩れたため、首ではなく手首を斬り落とされた。
「がっ!」
「それっ」
仕留め損なった者は、斬撃を飛ばし、逃げられる前に殺していく。
「護りにしては少ないなぁ」
疑問に感じながらも、見える範囲の敵を殺していく。
すると、背後にも気配を感じ振り向くと、新たな敵がヘリに乗って降りてきているところだった。
音もなく飛んでいるヘリ。
そこから現れた者は、皆が小型のビームソードを手に持っている。
「服用せよ!」
そう言うと、何かを飲む。
すると、強化されているアシュエルの耳に、メキッメキッと言う音が体の中から聞こえてきた。
苦しそうな声を上げ、中には、頭を掻きむしっている者もいる。
そして、数人がパタッと倒れる。
死んだようだ。
飲んだ薬は、『強化薬』と言われる物だ。
だが、その実態は、BDと呼ばれる正式名称『狂戦士化薬』だ。その効果は、ドーピングのように、身体能力を上げ、それでいて脳のリミッターを解除するものだ。もちろんただの強化なわけはない。副作用もある。
効果時間は、人によるが平均4時間。脳と肉体を酷使するため一日一錠が限度だ。
肉体も限界を超えて強化されるため、筋繊維もズタボロに。それに、薬に拒絶反応を起こす者も少なからずいる。その時は、ショック死をしてしまう。服用し倒れたものはそれが原因だ。
「お、はや」
一瞬でアシュエルとの距離を詰め、ビームソードを振るう。
神刀で受け止めるが、そのまま押し切られ吹き飛ばされる。
シェルターの壁に激突する。
「力つよ、まさか押し切られるなんて……」
シェルターの壁を蹴り元の場所に戻ろうとすると、上から殺気を感じた。
「があ!」
獣のような叫び声を上げ両手で思いっきり振り下ろす。
「だけど、気合を入れてれば」
もう一度神刀を掲げ受け止める。
が、今回はピクリとも動かず、逆に押し込む。
一瞬だけ脱力し、押し込ませ腹につま先をめり込ませる。
ゴキュッと音がする。
分厚く覆われた筋肉の鎧を貫き、内臓を貫いた。
「次」
回し蹴りの要領で振り払い、次に飛び掛かってきている一人に向き合う。
狂戦士とはよく言ったものだ。
確かに筋力も素早さも桁違いに上がっているが、理性を失っている。
口を開け、涎を垂らし、表情はぼーっとしているが、目だけはギラギラとギラつき殺気立っている。
無理やり力で押し切ってもいいが、それだと、そのまま吹き飛ばせなければ組みつかれる可能性があると考え、アシュエルは敵の力を利用することにした。
突きを放ってきた腕を掴み、アシュエルの後ろから攻めてきている一人にぶつけ合わせる。
そのまま仲間を貫き、固まっているところで首を落とす。
「力も早さもあるけど、こういったタイプの『再生』はない、と」
一斉に襲い掛かってくるのを、分析する。
理性がないため、攻撃は単調。だが、なぜか連携は取れている。
動きを誘導されているかのように。
(ほんと馬鹿力だね)
腕で受けた時の衝撃は、ガツンっと鉄塊がぶつかって来たかのようだ。
痺れはしないものの、アシュエルをして、衝撃を感じるくらいは強い。
「暮桜、咲き乱れろ」
少々の傷、腕や足を折ったくらいや斬ったくらいでは、動きは止まらない。痛みを感じていないからだ。だから、アシュエルは、神刀の能力を使うことにした。
突如花びらが吹き荒れる。
アシュエルは、神刀を指揮棒のように振るう。
すると、花弁が一纏まりになり、襲い掛かる。
花弁がぶつかったところが削り取られる。花びら一枚一枚が花の形をした刃と同じだ。それが、数えるのも億劫になるほど大量の花びらが速度を持って人にぶつかれば、大惨事だ。
それも視認が難しい程の速度で。
「後数人」
後ろからの攻撃は、花弁を戻し、受け、そのまま数枚の花弁を飛ばす。
目、口、喉、心臓と言った急所を的確に貫く。
アシュエルは、この花弁一枚一枚を個別に操れる。それも、一万枚までは同時に操れるのだ。数枚だけを動かすことなど造作もない。
アシュエルはこの戦闘を終わらせるべく、最大威力の攻撃を放つ。
刀を地面に突き刺すと、アシュエルの周りを回っていた花弁が竜巻のように四つに分かれ、別々に襲い掛かる。
「うがあああああ!?」
腹の中心にぶつかり、そのまま捩じ切り、そらまで打ち上げる。
「これで、終わり!」
左手を広げたまま手を上に上げ、ギュッと握り締める。
散らばっていた花弁が一つに纏まり、最後の一人目掛け頭上から降り注ぐ。
肉塊にすらならず、ミキサーにかけられるように粉々となり、地面に赤い染みを残す。
「じゃあ、そのままシェルターも」
刀をシェルターに向ける。
花弁がシェルターの上部にぶつかり、僅かな抵抗の後、ドガガガガッ!と音を出し、削っていく。
上空へ飛行し、上から見下ろす。
その中には、避難してきたたくさんの人間がぽかんとした表情で空を見上げていた。
なくなった天井に誰しもが、びっくりし体が固まっている。
そこへ、アシュエルは、陽気な声で話しかける。
「避難した諸君!さようなら」
刀を頭上へ構え、振り下ろす。
先の三倍にまで増えた花弁がシェルター中を埋め尽くす。
「ふふふ、これで、一つは終わっ……あれ?」
その時、空間が固定されるのを感じた。
「誰か来た……取り敢えずレイン様のところに戻ろうかな」
アシュエルはシェルターを後にする。
シェルターの中、そこには、血の海が広がっていた。
ぷかぷかと、肉の切れ端が浮かんでいた。
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