130話 アシュエルの過去……そして現在へ
sideアシュエル
アシュエルは強者だ。
それも、一世界の中だけの話ではなく、全世界、それも、神や悪魔など上位存在を入れて、だ。
だが、アシュエルは知っている。五帝だけに限らず、レインの配下には勝てないことを。
だからこそ訓練を強くなることを諦めたりも辞めたりしない。
目の前に目標とすべき果てがあるのだから。
道も用意されている。なら、後はまっすぐ進むだけだ。
最高の才能にあぐらをかかず、たゆまぬ努力を続けている。
そのかいもあってか、剣術に限って言えば、アストレアとも互角に戦えるようになっている。
最高の武器を与えられているため、それに見合った実力を、を日々修練に励んでいるのだった。
そして、レインに「一緒についてこい」と言われて、顔には出さなかったが、内心飛び回りそうになる程喜んでいた。
世界を壊そうとしているのだ。生半可な実力では、役に立たない。
その世界にどんな強者がいても、管理する神にすら勝る人間がいたとしても、余裕で勝たなければいけない。つまり、レインが連れていくのに、選んだと言うのは、実力を認められた、と言うことだ。アシュエルなら大丈夫、力になれる、と。
それが、配下としてどれほど嬉しいことか。
アシュエルからすれば、レインがただの人間だったとしても、敬愛することに些かの疑問も抱かず、喜んで傅くだろう。自分の才能を開花させ、それを満開にするため、手伝ってくれたのだ。
レインに会うまでの人生はお世辞にも『良い』とは言えなかった。
アシュエルは元奴隷だった。それも男にとっては最低の『愛玩奴隷』だ。
屑のような貴族に買われ、それはもう屈辱的なことも命令され続けていた。レインに会った当初も精神は壊れていた。
死を選ぼうにも奴隷の契約は、自害をすることも出来ず、なまじ有数の貴族のため護りも固く他所からの攻撃も少なく、あったとしてもすぐに制圧され、外部からの死を望んでも叶わない。
それをレインに救い上げられ、さらには、『力』まで与えて貰った。まさしく『神』のように感じたことだろう。それに、レインの性格が万人にとって喜ばしいことじゃないのは、アシュエルも知っている。
レインのことを一言で表すなら『自己、快楽主義者』と言ったところだろう。自分が楽しむためには何でもする。そのために、何十何百万と言った命が消えようとも関係がない。
だが、それがどうしたというのだ。
アシュエルが救われたことには変わりない。
あのままでは、いずれ死んでいた身、『現在』と助けて貰え、『未来』を与えてくれたことには、変わりはない。
ならば、レインの望むことを自分の持つ力、能力全てを使って叶えたい。そう考えるも必然と言えるだろう。
そして、レインの望むことは、傍から見ても『強者』だ。だからこそ、アシュエルは、より強い力を望む。
力を得るに当たってすぐに、とはいかない。
もちろん努力をしなければ、得ることは出来ない。
よくある異世界召喚では、召喚された時に、ステータスカンスト!とか自分で努力したわけでもないのに、得ている者もいる。確かに自分の物となっているかもしれないが、同じステータスでも一から努力し、得た人の方が圧倒的に強いだろう。
アシュエルは、外見的には、十代半ばの少年だ。だが、実年齢は違う。
時間が曖昧な世界の中で、約800年修練をしていた。
きちんと、自分の力で、今の実力を勝ち取ったのだ。
レインならば、ポンっと与えることも出来る。そして、実際レインは、有能な能力を与えようとした。だが、アシュエルはそれを拒否した。レインの力になりたい、貰った力ではなく自分の力で。そういったことから、力を得ることには貪欲だが、人の力は借りないのだ。
だが、レインからのプレゼントである、二振りの刀は違う。信頼された証、配下だと僕だと思って頂けている証拠。ゆえにその武器だけは、宝物だ。
そして、今は、歓喜の感情を押さえ、目的を果たすことを優先する。
アシュエルは、レインやクリスティと違い、地面を歩いていた。コンクリートで固められ、整えられた道路を。
空にも道があり、そこをたくさんの空道電車が通っている。はずだった、普段は。
今は、サイレンが鳴り響き、敵の知らせを伝えている。
都市全土に響くサイレン音にアシュエルの周りにいる住民は血相を変えて逃げ惑う。
買い物の途中でたくさんの手荷物を持っている女性も。
デート中の学生カップルも。
子連れの親も。
会社出勤の男性たち。
等しくある方向を向け走って行く。
東西南北、それぞれのシェルターに向けて。
人が少なくなってきた時、警備隊と思われる武装した人が現れ、住民を案内している。それと同時に、サイレンのなった原因、敵を探している。
その時、空が暗くなった。
「これは、クリスティ様の……さっそく始まったのかな。なら、僕もやろう!」
近くにいた人に襲い掛かろうとした時、警備隊の一人がアシュエルに近付いてきた。
「そこの君!早く逃げなさい!」
「ん?僕?」
「向こうに東側シェルターがある!そこなら安全だ!」
アシュエルの外見を見て、子供に接するように、シェルターに行くように勧める。
まさか、攻めてきた敵の一人が目の前の少年、アシュエルだとは、思わないだろう。
自分の任務を全うしようと、子供を助けようとしたことが、自分の命を終わらせることだと知らずに。
「それなら、大丈夫!だよ」
「そんなことより、早く逃げるんだ!……ごぷっ」
「ね?大丈夫って言ったよね?」
ニコッと笑い、刀を警備隊員の胸に突き刺し言う。
口から血を吐きながら呆然とした表情でアシュエルを見ながら倒れていく。
「ごはっ、な、なぜ……」
「僕が、いや、僕たちが襲撃してきた本人なんだよ!」
どこまでも自然に無邪気な子供のように、言う。
心臓を一突きされた警備隊員は、アシュエルの正体を知った後、息を引き取った。
「おい!何をしている!?」
咄嗟に刀を消したアシュエルは、良いこと思いついた、とばかりにニヤリと笑うと、すぐにその笑みを消し、瞳をうるうるとさせ、必死の形相で後からきた警備隊に声をかける。
「た、助けてください!あの人が剣を持った人に襲われたんです!僕を護って……」
「なに?そいつはどこに行った!」
「向こうに行きました!」
「分かった。くっ」
唇を噛み悔しそうな表情をする。
友人だったのだろうか。それとも仲が良かったのか。
背を向けアシュエルが指を指した方向へ向けて足を動かそうとしたところで、バランスを崩し、倒れる。
「は?……え?」
「そう、犯人はこの中にいる!」
「な、何あああ、脚がぁああああ!?」
右足を太ももから斬り落とされ、倒れた警備隊員は両手で斬れた足を押さえ叫び声をあげる。
「って、僕なんだけど」
「ぐえっ」
顔面に刀を突き刺す。
カエルが潰れたような声を上げ、脳汁を噴き出し絶命する。
「シェルター……シェルターねぇ……そろそろかなりの人数が集まっているかなぁ、それに、空中の方に戦力が集まっているみたいだし、僕は、一般人を殺していこうかな」
まるで悪役のような顔で笑いながら言う。
世界を侵略する敵となれば、あながち悪人と言うのは間違っていない。
それに、なぜかその笑いが様になっている。
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