128話 絶望の八岐大蛇
未だに鳴り響いている雷鳴をBGMに、レインは、シェルターに向かっていく。
その途中で、また新たに敵兵が現れた。
今度の魔導騎士は、藍色の装甲にビームソードとアサルトライフルを手に持ち、現れた。
「いきなりか!」
挨拶もなしに、アサルトライフルを撃ってくる。
無数の弾幕を張り巡らし、徐々にレインへ近づいていく。連射速度にしては、弾の数が多い。どうやら、普通のアサルト銃ではなく、一度撃つたびに二発出ているようだ。
「それでも、抜けないがな」
レインへと到達した銃弾は、ボゥッ!と蒼い炎で燃え尽きる。
「ふっ!」
間合いまで近付いた魔導騎士は、右手に持っているビームソードを限界まで引き、弾丸のように突き出す。それも連続で。
レインの前に蒼炎の膜が現れ、ビームソードの攻撃を通さない。
全く効いていないというのに、一切の動揺を出さず、次の攻撃に移る。
「解除!」
早速、安全装置を解除し、ビームが青色に変わる。
「お前とバルフィリーネの戦いを見ていた。あいつをあそこまで簡単に倒すとは、驚いた」
「お、喋った」
口を開いたかと思うと、バルフィリーネがむざむざ殺されるのを、見ていたようだ。
仲間なのに見捨て、レインの情報を優先したようだ。
「んで、お前は、何席だ?」
「我は、魔導騎士第二席ディレスである。お前を屠る者だ」
「それは、楽しみだ……取り敢えず、こいつを倒してから言ってみろ創造・八岐大蛇」
レインは、ぐっと握り締めた拳から血が一滴流れ落ちる。
重力に逆らい、ぷかぷかと浮遊しながらレインの目前で止まる。
すると、ドクンッと鼓動の音が聞こえ、八本の首が生え、八本の大きな尻尾が生えた。
一瞬の内に神話生物と言われる、八岐大蛇が創り上げられた。
「な、なんだその化け物はッ!?」
さしもの第二席でさえ、魔物といった存在がいないこの世界で初めて見た魔物が八岐大蛇では、動揺を隠しえなかった。
八本の首が鎌首をもたげ、ギロッとディレスを睨みつける。
「八岐大蛇……っていう蛇だな。大蛇とも言うが……」
「そ、それが、蛇だと?ふざけるな!そんなでかい蛇がいてたまるか!?」
八岐大蛇の全長は、山二つ分くらいの大きさだ。
これでも、抑えて創ったのだ。本来の大きさにすれば、このサルワンド王国を丸々踏みつぶしてしまうのだから。
それでも、地面に足を付いているのに、上空にいるレインたちの所まで頭が届いている。
「まぁ、頑張れ……行け大蛇」
「クソ!」
空を蹴り、首からの攻撃を避ける。
「見掛け倒しか!」
首の攻撃を掻い潜り、首の一つを斬り落とす。
「後、七つ!……なっ!?」
「回復するぞーーー」
口に手を当て、ふざけているように、ディレスを応援する。
レインは、すでに、空中に玉座を創り、頬杖を付きながら優雅にワインを飲んでいる。完全に観戦気分だ。
また八本の首に戻った八岐大蛇を睨みつけ、再度斬りかかる。
動体視力も強化されている魔導騎士ならば、八岐大蛇により、噛み付き程度の速度ならば、避けるのはそう難しくない。
「はあ!!!次!!!」
一本を落とし、すぐ次の首を落とす。そして、次の首へ。
そして、一瞬の内に三本の首を落としたディレスは、残り四本の首を斬りにかかる。
だが、落としたはずの首がいつも間にか生え、その口に炎が現れる。
八岐大蛇が息吹を放つ。
すでに攻撃の態勢に移っていたディレスは、止められず、首を落とすが、息吹をまともに喰らってしまった。
「ぐああああああ!?」
「ほらほら、魔力で吹き飛ばせ……って、魔力使わないんだったな」
レインの声など聞こえていないようだ。
超高温の息吹により、装甲が熔けかかっている。その時、装甲に刺青のように、赤い線が入った。
「ぐおおおお!制御装置解除!」
ディレスがそう言うと、赤いオーラを纏いだす。
ビームソードの色も青から赤へと変わっている。
そして、アサルトライフルにも、赤い線が現れる。
「グゥォォおおおおおお!!!」
痛みを堪えるように、声を出し、呼吸が乱れる。
その時、乱雑に振り回したビームソードが、八岐大蛇の首を掻き斬る。
すると、グツグツと傷口が泡立ち再生を阻害している。
「ふーむ。普段の緑色の時は、70%程度の出力ってところか、それで、安全装置を解除することで、100%の出力。ここですでに、長期戦は無理だが、さらに上があったわけだ。それが、あの制限装置解除……か。あれは、出力を上げているっていうより、暴走させているって感じだな。それに、操縦者にもかなりの負担がかかるみたいだ」
涎を垂らし、フゥー!フゥー!と息を吐いている。
「制限装置は、ビームソードだけの解除じゃないため、ほんとの諸刃の剣ってところだな。その代わり、出力もどんどん上がっている、もう、一万度を超えているな。大蛇の首も再生出来んくらいに焼かれているのか」
ワイングラスを傾けながら、ふむふむ、と頷きながら観察する。
「クゥーー……フゥーーーーーー。はぁはぁはぁ、二回目だが、慣れんなこの感覚だけは」
ディレスは、自分の体が熱く、血管に鉄を流し込まれたかのような痛みを感じていた。
だが、それも徐々に引いていき、落ち着きを取り戻しつつある。
「一気に全ての首を落とさなければいけないのか……それに、あの首再生しない?いつの間に斬れたんだ?そんなことはいい……すぐに終わらせて、お前を殺す!」
ビームソードをレインへと突き出し、宣言する。
返事を聞かずに、八岐大蛇に突撃する。一瞬で八岐大蛇の真上に移動し、ビームソードを振りかぶる。
赤い形を崩したソードがグンッと伸び、四度振るう。
スパッと七つの首が斬れ落ち、胴体も真っ二つにする。
ズルッと胴がズレるが、次の瞬間液状になり、元の姿に戻る。
「なんだと!?高熱で焼いたのだぞ!?」
「あー熱でグジュグジュになったとしても、液状に戻って再度創り治せば、意味がないだろう?言っておくが、再生に俺は手を貸しとらんぞ」
「なら、何度も斬るまでだ!」
とか言いながら、アサルトライフルを乱射する。
一発一発が強化されており、八岐大蛇の鱗を突き破る。
いくつもの風穴が開けられ、どろっとした血が流れ落ちる。
「それはもう効かん!」
八つの首をもたげ、口に炎が集められる。
八つの口から同時に息吹が放たれるが、ディレスは、アサルトライフルを捨て、両手でビームソードを握る。上段に構え、勢いよく振り下ろす。
抵抗すら許さず、炎を斬り裂いていく。
すると、ディレスの姿が消える。
標的を見失った八岐大蛇は、辺りをキョロキョロと見渡すが見つからない。
殺気を感じ後ろに首の一つを向けた。
だがその瞬間に真っ暗になった。落とされたのだ。
だが、今までと違うのは、何度も振り、細切れにし、熱量で蒸発までしている。
他の首も同じように、斬り刻む。
「はぁはぁはぁ……くっ、これでもう再生しないだろう……!?」
パチパチパチとレインは拍手する。
息も絶え絶えに、レインへビームソードを向ける。
「じゃあ、もう一度やってみようか!」
物凄いいい笑顔でレインは言う。
すると、レインの背後に、守護するかのように、五体の八岐大蛇が現れる。
「な……ば、ばか……な…………」
「ク、クハハハハッ!いい顔だ!その顔だよ!強敵を倒し、希望を得たと思った瞬間、さらなる絶望に襲われる!一体なら何とか出来たかもしれんが、五体同時にだ!さらに言うと、こいつらを倒したら、今度は、十体出してやろう!」
「…………」
もう、声を出す気力もディレスには残っていないだろう。
この五体を倒したとしても、十体の八岐大蛇を出すと言っているのだ。それが、戯言とは思わない。現実に苦も無く五体を出したのだから、十体も出せるだろう、と確信したからだ。
だがそれでも、ビームソードだけは、力なくも構えている。
だが、顔は完全に死んでいる。絶望に心が負けたことが、しっかりと顔に刻まれている。
眼の光は消え、全身に力は入っておらず、なのに、ガタガタと震えている。
絶望を表すかのように、纏っていた赤いオーラは、点滅している。
今にも消えそうな程弱いオーラだ。
「さぁさぁ!頑張れ勇者よ!後のほんの十五体だ!それ以上は、出さないと約束しよう!」
大声で高らかに宣言する。
だが、それが何だというのか。
例えば、ゴブリンを十五体倒せ、と言われても、余裕で倒せるだろう。
だが、龍を十五体倒せと言われても、数は同じでも全く違うだろう。
ポッキリと心が折れる音が聞こえてきそうだ。
勝てない、もう無理だ、死にたくない、逃げられない。
そう言った負の感情が混ざり合った表所をしているが、すでに諦めているのは、分かる。
「行け!大蛇共!」
大口を開けながらディレスに向け、突撃していく。
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