125話 可愛いペットのワンコ(ガルム)
sideレイン
蟲型の魔物。
ゲームでは、防御力や素早さが高く、某黒光りしたあの蟲見たく数が多い。
そして、紫色や黄色や黄緑色の体液を撒き散らす、とにかく汚いのだ。
そして、今レインの前に、蟲型の魔物……バッタのような頭に、胴体は丸っこく太い。脚は六本ではなく四本。翅は一対。羽ばたくたびにブゥンブゥンとなっている。
「こんな奴いたか?」
レインが今どこにいるかと言うと、零の世界に戻ってきていた。一人で。
別に配下の者どもに会うつもりで戻ってきたのではなく、ここの階層で獣を数匹捕まえようとしているところだったのだが……。
「昆虫はいないんだけどな」
その通りだ。零の世界には、虚無のエネルギーを内包した獣がいる。
というより、獣型しか創っていない。
そのはずだが、今蟲型の魔物が羽音を鳴らしながらレインを威嚇している。
しかもこの昆虫、防御力も高くとても素早く、攻撃力も高い。レインの体が、一メートル程度とはいえ、まともに受け止めたのに、動かされたのだ。それに、ムッときたレインが消し飛ばす勢いで殴り、液体すら気化させる威力で殴り消し飛ばされたのに、体が黒い霧に変わり、一つに纏まり元の形に戻った。
ゲームバランスを崩すように、ステータスが満遍なく高いのにも関わらず、蟲の特性……数の多さも失われていなかった。
その数、100匹くらいが、一斉に跳び上がり、とても羽音がうるさい。
「ふむ、虚無を吸収したのか、キモいから昆虫は創らなかったのに、なんでいるんだよ。突然変異?」
獣から蟲へ突然変異した……なわけがない。
全く違うものになるには、外部からの干渉がなければあり得ない。
それに、可愛いペットとして、獣を連れて行こうとしたのに、蟲がいたので、連れ帰って来ました。では、いけないだろう。全く持って可愛くない。あるアニメに出てくるような、デフォルメされた蟲ならば、可愛いだろうが、実際に現実だと、キモいとしか言いようがない。気の弱い人が見れば、卒倒するだろう。
甲殻はなぜか黒く艶々としているし、バッタの頭だから口がガチガチと咬み合わせているその動きも気持ち悪い。
消し飛ばす時に、チラッと見えた体液は、紫と黄と黒のブレンドされた色で、凄く汚かった。手につかないように、甲殻に当たる直前に止め、寸勁の要領で攻撃したため、つかなかったが、それでも、うへぇ、となるのを止められない。
「まぁ、取り敢えず殲滅が先だな。蟲はいらん」
パチンっと指を鳴らすと、蟲たちが体液をぶちまけながら破裂する。
その時、ブクブクと膨れ上がったため、余計に気持ち悪くなってしまった。
「きっも……再生しないように、燃やし尽くすか」
蒼い炎が、蟲の数と同じだけ出現し、飛んでいく。
一瞬で燃え上がり、焼き尽くす。
「蟲如きが俺の力を吸収出来たことにもびっくりだが、やっぱり突然生まれた奴じゃないな、これは」
殴った(当たってはいない)感触からして、何かが体内に入っていたことに気付いた。それが、虚無のエネルギーを吸収するのと同時に、吸収しても耐えうる体にしていた。
「大体誰がやったのか、見当がついているが、後でちゃんと言っておかんとな」
一応探知し、他に蟲系がいないか探ったが、他にはいなかった。
一安心し、ここに戻ってきた目的を果たしに行く。
「ふむふむ、獣と蟲は一緒に暮らしてはいないが争ってもいないってところだな。なら、干渉しあわないよ離れていただけ……っと、あっちだな」
そこにいたのは、レインを見つけ涎を垂らしながら、牙を剥き出しに唸り声をあげていた。
久々の獲物が来たと、ニヤケているようにも見えなくはない。
「ガルム……犬だが、これは持っていっていいのだろうか?まぁ数匹ならいいよな」
「グルゥゥ」
低い唸り声をあげ、威嚇する。
だが、次の瞬間。
「しぃーー」
唇に指を当て、静かに、とジェスチャーをする。のと同時に、笑顔で殺気を放つ。
「キャイ~ン!」
耳をペタンとし、お腹を見せるように裏返った。
腹を見せ降伏したことを行動で示したのだろう。犬がするあれだ。
ガルムとは、狼なのだが、その行動は完全に犬だ。
「よしよし、お前一匹か?」
「キャウキャウ!」
高い鳴き声を上げ、前足をちょいちょいと動かす。
こっちにいる、と言うことだろう。
「よし!案内するのだ、ワンコ!」
「キャウ!」
エッヘン、と胸を張っているようだ。
ガルムが前を走っていく。
軽く音速を超える速度だが。
レインも後を付け、しばらく走っていくと、ガルムの群れに遭遇した。
三匹程で固まっていた。
唸り声を上げられる前に、殺気を放つ。
「伏せ!」
重力魔法でも使われたかのように、頭を低くし、ごろんっと裏返り、腹を見せる。
「このくらいでいいかな……取り敢えず、こっちにこい」
手をクイクイとして、呼ぶ。
すると、周りを見やり、「どうする?」「行って大丈夫か?」「でも、行かないとやばくない?」的な会話を目でして、ゆっくりと足を前に出し、レインの前まで進む。
よしよし、と頭を撫で徐々に首裏、喉を撫でる。
グルグル、と唸り声ではない気持ちよさそうな声を上げる。
「はーい、も一度腹見せて」
獰猛な獣が服従するように、裏返り腹を見せる。
プライドはないのだろうか……いや、あるはずだ。だが、恐怖に負けただけだ。獣としては、強者には従わなければ生きていけないのだから、ある意味仕方ないとも言える。
「これをポンッと」
掌に手のひらサイズの隷属陣を出し、ガルムの腹に当てる。
焼き印のように、シュゥと音をし、陣がガルムの体内に入っていく。
それを後三回繰り返し、全員に行う。
「これで終わり。取り敢えず、隷属と召喚、送還は組み込んだけど、まぁ、他に必要ならその都度追加すればいいか」
その時、草をかき分けながらもう一匹のガルムが唸りを上げ現れた。
「もうお呼びじゃない」
指をクルリと回す。
ガルムの腹の下から風が吹き上がり、竜巻が起こる。
回転しながら真上に打ち上げられる。
断末魔の如き鳴き声を上げなら打ち上げられた花火……もとい、ガルムの声が徐々に小さくなる。
「さて、名前は付けた方が……いいけど……めんどいなぁ、いちにさんよん、じゃダメか」
ガルムたちが頭を勢いよく横に振る。
嫌なのだろう。
零の世界にいる獣は総じて知性がある。人の言語を理解することも出来るのだ。話すことも出来なくはない、『念話』や『神通』を使えば、意思疎通が出来るからだ。
「ふむ。名付けはいいや、いいよな?」
ブルブルと震えながら今度は頭を縦に振る。
恐怖が心に刻まれたようだ。
「お前たちは、喚ぶまで今まで通り、ここにいろ」
レインがそう言うと、やっと離れれるとばかりに、散り散りに走っていく。
「これでいいか…………よしっと、今度行く世界は面白そうだからな、楽しみだ」
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