123話 八首の獣
いつか、ヒュドラとか八岐大蛇とか出してみたいですねぇ
sideレイン
レインは、まっすぐ白銀の騎士の元まで降りる。
その間攻撃は仕掛けて来ない。
生半可な攻撃は意味がないと気付いたのか、正々堂々と勝負する気なのか……どちらにせよ、不意打ちはしないようだ。
「汝が首領か?」
「首領……確かにそうだな」
「我らが神から聞いた。世界を消して回っているそうだな。なぜだ?」
微動だにせず聞いてくる。
剣も地面に刺したまま抜いておらず、まずは、対話をしようと言うことだろう。
兜は被っておらず、その美貌を晒している。
「なぜ?まぁ、答える必要はないが……世界の総数を知っているか?」
「何?」
「世界とは、この世界だけではない。無数にあるうちのその一つがこの世界、第168世界と言うわけだ」
「なんだと!?」
普通の人間が知りようもない事情を知り、呆然とする白銀騎士。
「それにな、この世界に限らず、全てを創ったのは、俺だ。なら、壊そうが消そうが俺の勝手だろう?」
「………」
さらに衝撃なことを言われ、口を開けたまま固まった。
レインもここまで言うつもりはなかったが、言ってしまったことは、仕方ない。
呆然としたまま動かない白銀騎士に精神安定の魔法を掛け、正気に戻す。
「は?う、嘘をつくな!お前が作っただと……?妄言も大概にせよ!?」
動揺のし過ぎで、二人称が汝からお前へと変わっている。
思わず笑ってしまったレインに、白銀騎士は耳まで真っ赤に染め、キッと睨みつける。
「信じる信じない、お前の勝手だがな……さて、無駄話はこれくらいでいいだろう?早く始めようか」
「くそっ聞きたいことはまだあるが、汝を倒してからでいいだろう!我の名は……ぐはっ!?」
「それは、いらん」
自己紹介しようとしていたため、一息で距離を詰め、アッパーよりのボディブローを喰らわす。ただ、腹に当たる直前に拳を止める。
それでも、衝撃波が発生し、面白いように白銀騎士の体が吹き飛び、地面を数回バウンドし地面へ倒れ伏す。
「しまった、力加減間違えたか?」
レインの拳は、鎧を抵抗もせずに貫いた。
防御魔法が三重にかけられていたが、全くの抵抗を感じさせず、紙のように砕いた。
白銀の鎧も神から与えられた武具の一つだろうが、レインからすれば、多少レベルの上がった程度の問題だ。レベル一から二から三程度に上がった感じだ。
その時、レインはふとおかしいと、思った。
「おーい、その程度の怪我すぐ治るだろう?」
レインの言っている通り、白銀騎士の傷はもう治っている。
衝撃波のせいで、内臓が激しくシェイクされ、内臓のいくつかが傷付き、バウンドの衝撃で、骨も何本か折れたが、鎧の力を持ってすれば、数分もすれば完全に治る。
そして、砕けた鎧も元に戻っている。
自己修復の効果があるからだ。
それなのに、白銀騎士は一向に立ち上がらない。
いや、よく見ると、僅かに体が震えている。
怒りに震えているのか……いや、あれは、恐怖からくる震えだ。まさか、騎士ともあろうものが、ただ一度の腹パンで戦意を喪失したとでも言うのか……。
「はぁーーーーーーーーーーーーー期待外れだ」
長いため息を吐き、落胆の言葉を漏らす。
だが、次の瞬間、空間を喰い破るように、一匹の獣が現れる。
その獣は、八つの頭に十六の尾をくねらせ、その鋭い牙からは、黒紫色の毒を滴らせ、紅い目に殺気を迸らせながら現れた。
『グルルルゥゥゥゥゥゥ……』
低い唸り声を上げながら、レインを威嚇する。
「おおう、まさかそれが切り札か?」
「……ク、クク、ハハハハハハハハ!!!そうだ!神から与えられし、神獣だ!これで貴様も終わりだ!!!」
「なん……だと?」
「絶望しろ!!!貴様の愚かな妄言もここで終わりだァ!!!」
レインの驚愕した表情を見て、気をよくした白銀騎士が高笑いを上げる。
だが、レインが驚いたのは、その獣の強さにではない。
その程度の力の獣が切り札、そのことに、驚愕の表情を浮かべたのだ。
だが、そのことが分からない白銀騎士は、ますます粋がり笑い声を響かせる。
「まぁいいや、神獣っていうより、魔獣よりだが、そう信じているならわざわざ修正する必要もないな」
周りに聞こえないように呟き、
「おらっ」
『ギャイン!?」
殴りかかった。
頭の一つが吹き飛び、痛みの叫びを上げ、他の頭でレインを噛み砕こうと顎を開く。
「こういうタイプは、一つ潰しただけじゃすぐに復活するからなぁ」
噛み砕かんとする攻撃を転移で避けながら言う。
レインの言う通り、吹き飛ばした頭は、一瞬の内に再生した。
だが、傷付けられた怒りから、ますます目を血走らせ、睨みつける。
「ハハハハハッ!!神獣には、その程度の攻撃、すぐに再生するのだ!!!」
「言われんでも分かるわ……ったく、変な魔獣創りやがって」
そう、この獣は、存在しない。
つまりは、この第168世界の管理神が創り出した獣、と言うことになる。それに、かなりの力を入れられて創られているため、中々にめんどくさい。
特に、力と再生に特化しているようだ。
続けて、首を四つ手刀で刎ね飛ばすが、すぐに再生した。
「なら、今度はまっぷ、わぶっ」
四方から十本の尾が襲い掛かった。
避けれず、もとい避けようとせずに喰らった。顔面を連打され往復ビンタの要領殴られる。
全くダメージは入っていないが。
「いい加減やめんか!」
手を振り上げ、手刀を振り下ろす。
獣の体が、真っ二つに裂ける。続けて、横に手刀を放ち、四分割にする。
「ったく、人が、無防備で受けているからと、バシバシ殴りやがって……」
すると、斬れた傷口から血管の管のようなものが、うねうねと出てきて、裂けた肉体に繋がり、元通りになった。
「ああーーその感じ、無限に再生できるわけじゃないのか」
もし無限に再生するようなら、『消滅』を使うつもりだったが、どうやらそこまでは使わないでいいようだ。この獣の再生能力は、その身に内包しているとてつもない大量の魔力によるものだ。つまり、魔力に物を言わせて、無理やり再生しているわけだ。
なら、
「魔力がなくなるまで、殺し尽くしてやろう」
パチンッと指を鳴らす。
獣の体が、爆散する。そして、再生。
「潰れろ」
手をスッと前に伸ばす。
重力で押しつぶされる。
大量の魔量を放出して、相殺しているようだが、徐々に押し込まれ、ぶちゅっと潰れた。
「再生用の魔力を対抗に使ってどうするよ……」
呆れたように言うが、完全に愚策と言うわけでもない。
もし、耐えれるならば、その間に、重力圏内から抜け出せるからだ。
だが、誤算だったのは、あまりに重すぎて相殺しきれなかったことだ。
『グラァァアアアア!!!!」
叫びながら、全頭を持ち上げ、口を開く。
口内に蒼い炎が集まり、圧縮される。
『ガアアアアアアアアアアア!』
そして一斉に放つ。
とてつもない熱量の炎がレインを襲う。
それを避けもせず、受ける。
普通の人間なら骨すら残さず、溶かす熱量だ。
レインにぶつかり、爆発を起こす。
『ガァァアア!!!』
ダメ押しとばかりに、追撃する。
レインのいた場所に、囲むように六つの陣が現れ、そこから火柱が上がる。
そして、竜巻が起こり、炎の渦を創り出す。
「『置換』」
レインは、全部の魔法を獣が使ったところで、魔法を使う。
レインと獣の位置が入れ替わる。
『グラアアアアアア!?』
自分の放った魔法を自分が喰らい、痛みに絶叫を上げる。
皮膚が融け、再生し、融け、再生する。
傷は治っても、痛みを感じないわけではないため、焼け爛れる痛みにのたうち回る。
自分の魔法のため、消そうとするが、全く消えないためその場から出ようとする。
だが、
『グラアアアアッ!?』
何かに弾かれるように、出ることが出来ない。
出れないわけ、単純。
今の状態は、竜巻の中にいるのと同じだ。そして、内に巻き込むように風が吹き込んでいるため、風の防壁に弾かれている。
レインは、手を開いたまま、前に出し、ぐぐぐっと閉じる。
徐々に、炎の渦が小さくなり始める。
『ガ!グラァ!?ガアアアアアアア!?』
魔力に物を言わせ、大量の魔力を全方向に放出する。
収縮するのが僅かに止まる。
さらにレインは、ゆっくり閉じる。
止まっていた収縮が再開する。
『ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!』
盛大に声を上げ、さらに大量の魔力を放出する。
可視化出来る程までになった、魔力が空間を震わせる。
「ぐぐっと、ぐぐぐっと」
一気に閉じてしまわないのは、ちょっと楽しくなったからだ。
『グラアアアアアアアアアアアアアアアアアア!?』
気合の叫びの中に、痛みの声が混ざっている。
獣の身に、炎が当たりだしたためだ。
「それっ」
そして、一気にぎゅっと握り締める。
ギュインッと回転しながら、極小サイズになる。
空気に溶けるように、炎の渦が消え去る。
そこに残ったのは、肉の塊とかした獣の姿だった。
所々、炭化している。
「両手サイズまで小さくなったな……ん?」
すでに、かなりの魔力を使い、ほとんど残っていないというのに、肉塊が動いた。
ぼこっぼこっと膨れ上がったが、シュウゥと勢いをなくすように動かなくなった。
肉塊が光になって消えた。
「死んだ……か。どんだけの魔力を与えられてたんだ?滅茶苦茶な威力で削り続けてたんだが……」
呆れたような口調だが、その顔には笑みが浮かんでいる。
「そ、そんな…………馬鹿な…………」
後ろの方で、呆然とした声が聞こえた。
「あ、忘れてた。そう言えば、いたな」
完全に忘れていたようだ。
うーむ、と考え込む。
白銀騎士の切り札は、あの獣一つだけだったのだろう。まさか、倒されるとは思っておらず、レインを見る目が、恐怖一色に染まった。
「ひっ……く、来るなぁ!」
尻餅をついたまま、後退ろうとするが、腰も抜け、全身の力が抜けているため、身体が動かない。
恐怖に引き攣った表情を浮かべ、涙ながらに「来るな」と言う。
その時、レインの鼻にアンモニア臭が漂った。
「み、見るなぁ!見ないでくれ!!!」
恐怖に失禁したことが、恐怖心に上回り、羞恥に顔を真っ赤に染める。
こんな時でも、お漏らしは、恥ずかしいようだ。
だが、レインの表情が一切変わっていないのを見て、またもや恐怖に見舞われる。
顔の筋肉は強張り、歪な笑みを浮かべ、助けて、と懇願する。
「騎士ならば、最後まで貫き通せ」
騎士とは、名乗ってないが、騎士甲冑を着ていると言うことは、そういうこと。と、思い、軽蔑の言葉を投げかける。
騎士が命乞いとはみっともない、と。
「死ね」
「たすーー」
白銀騎士の目からレインの姿が消え、斬られた、という感覚すらないまま、意識が闇に沈んでいった。
この騎士にとって、幸運だったのは、死ぬ瞬間に痛みを感じる間がなかったことだろう。
その分、失禁する程恐怖を感じていたから、あまり意味はないだろうが。
「主、あの獣は一体?」
その時、アストレアの声が聞こえた。
転移でレインの横に現れ、疑問に思ったことを聞く。
「さぁな、ここの管理神は、豊穣神。厄獣を創る能力はないはずだがな」
「やっぱり、神界で何か起こったようですね」
エレインが、穏やかに言う。
と、言っても、大体の予想はしている。
レインの予想としては、次々に消失する自分の世界。何か起こっているはずだ。対策をしなくては!っとなった神界の神が話し合って、何かを決めた、ってことくらいは、今回の対応を見れる分かる。
「次の世界は、どんな感じの歓待が待ち受けているんだろうな?」
わくわくとした表情で言う。
レインを神が人間と協力して、立ち向かう。
魔法を技術を持って、全身全霊で迎え撃つ。
なぜなら、負けた場合に待っているのは、『死』だけではなく、『世界の消失』だから、神も本気になって手を貸すだろう。
そのことを考えるだけでも、楽しい。
決死の覚悟で、文字通り世界を守らんがために、武器を魔法をスキルを使い、殺すために向かってくるのは、レインからすれば、ご褒美にしかならないのだから。
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