121話 悪夢の楽園
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ショータスは、魔力を高め、槍に纏わせる。
一息でレインへ近づき、突きを連続で放つ。
「はあああああ!!!!」
それに対して、レインは人差し指で全て受け止める。
その様は、弟子に訓練している師匠のようだ。
つまり、ショータスは完全に遊ばれている。
「クソクソクソッッ!!!」
何度も何度も突き、大きく薙ぎ払う。
「これでもダメとか、化け物かッ!」
「突くんなら矛先に魔力を集中されろよ」
あまりに拙い魔力操作に、ついアドバイスをしてしまった。
すると、矛先に螺旋を描くように魔力が収縮していく。
アシュエルとかいう、あまりにも規格外の天才がいるため、実感がないかもしれないが、ショータスも天才だ。僅か17歳で、騎士の長を任せられるのは、努力だけでは無理だろう。才能があり、そして、努力しまくって超一流の域に達したのだ。
だが、レインと戦うには明らかに下積みが足りない。
螺旋を描いている様は、ドリルのようだ。
「うぉおおおおお!!!!」
レインは同じように受け止めるが、僅かに重さが上がった。
「おお!」
これには、レインも感嘆の声を上げる。
一つのアドバイスで物にしたようだ。
だけど、それでも、
「はあ!?」
レインが少し軽く押すと、ぐぐぐっと押され始める。
咄嗟に腕を引き、再度突く。
「また同じか……お?」
今度の突きは、レインの顔面に届く寸前に右に曲がった。
続く突きは、左に。そして、上、下。様々な方向に槍先が曲がる。
「おお、器用なことするなぁ」
「まだだ!」
そこへ、先の螺旋突きを放つ。
ただ今回は少し違う。魔力の収縮ではなく、風を纏っている。
凄まじい風が槍先に集まり、小さな竜巻が出来上がる。
「はっ!」
グッと踏み込み、腕を伸ばす。
レインの眼前に竜巻が迫りくる。
レインは魔力を指先に集中させ、放つ。ただの魔力弾だ。
「は……?」
バシュンッと音が鳴り、竜巻が消え去り、魔力弾はそのままショータスの顔を横切る。
ピシッと頬が裂け、血がたらりと垂れる。
「今回のはまぁまぁよかったぞ」
「どんだけだよ!?」
もうここまで来て、レインに勝つ、倒す、と言ったことは思っていない。
明らかに実力が違うと実感したからだ。
巨大な壁にぶち当たり、自分の全力を出してなお壊せない。そんな壁をレインに見てしまった。
自然と身が竦み始める。
全力の一撃ですら、レインをその場から動かすことが出来なかったのだから。
「まだまだ、やれるだろう?」
「くっ……!」
レインは剣を創り出し、ぶらんと脱力する。
今度は、自分の番と、レインから攻撃する。
タッタと近づき斬る。
「ぐっ!?」
「それっと」
槍を縦に構え受け止めようとするが、あまりの威力に吹き飛ばされる。
(早く態勢を……なに!?)
まっすぐ、壁に向けて吹き飛んでいくショータスは、空中で態勢を立て直そうとするが、後ろから気配がし、咄嗟に槍で受け止めようとする。
その判断は、正しかった。
吹き飛ばされるショータスよりも早く、レインは、回り込み、またもや一閃。
咄嗟に受けたが槍を離さないようにするので精いっぱいだ。
腕が捥げるかのような衝撃と痛みを感じ、顔を顰める。
「ほらっ」
腕が跳ね上げられ、がら空きの腹に蹴りが突き刺さる。
「がはっ」
吐血し、吹き飛ぶ。
地面に線を引きながら飛ばされ、ゴロゴロと転がる。
「がっがはっごほっ……!(まずいっ)」
レインの剣を受けた腕は衝撃で骨が折れ、蹴りを受けた腹は、ボコッと凹み、内臓が破裂した。
辛うじて生きているのは、魔槍により、回復の恩恵を受けているからに過ぎない。もし、途絶えれば、そこで絶命するだろう。
なんとか、腕を付き、体を起こそうとする。だが、血を吐くだけで全く上がらない。
そして、下半身に力が入らない。
(クソいてぇ……!ぐぅ、左腕も使いもんにならねぇな、クソがっ!)
痛みに呻きながら、内心で毒づく。
なんとか腕に力を入れることくらいは回復したが、まだ動かせない。
そんなショータスに向けて、レインは歩みを進める。
恐怖心を煽るように、ゆっくりと。
それを、睨みつけることしか出来ない。
だが、その目には、戦意以外にも恐怖がチラついているのをレインは感じ取っていた。
「ごほっ……動けっ!動けぇ!」
声を張り上げ、立とうとする。
このまま動けなければ、死ぬ。そう直感した。レインの眼を見て。
レインの眼には、愉悦、痛みを感じ恐怖しているショータスを見て心底楽しんでいる。それが感じられた。だからこそ、痛みを我慢し、無様でも体を引きずりながらでも立ち上がろうとしている。
ショータスとレインの距離が5mになったところで、レインは立ち止まる。
そして、足で地面を突く。
すると、ショータスの顔面の土が盛り上がり、穿つ。
「うがあっ!!!!」
放射線を描き、また吹き飛ぶ。
鼻が潰れ、前歯が折れる。
「あが……が……があ!はぁなあ!?」
数メートル吹き飛ばされたショータスに近づいていく。
もうすでに、観客は静まり返っている。
あまりにも惨い悲惨な決闘とも呼べない、一方的な暴力に顔を青褪めさせている。
席を立ち、決闘から目を背け、出ようとしているが、席から腰が上がらない。誰一人として、その場から立つことが出来ないでいた。
もちろんレインの仕業だ。きっちりと、これから起こることを見てもらおう、と思って優しさからくる、レインの仕業だ。
「さて、もう終わらせようか。『悪夢の楽園』」
レインはショータスへ魔法をかける。
痛みに呻いていたショータスが急に大人しくなる。意識を失ったからだ。
『悪夢の楽園』文字通り、悪夢を見せる魔法だが、普通の悪夢と違うのは、その人物の一番の幸福を見せることにある。
ショータスの場合は、シェダルハーダと付き合い、結婚し、幸せな家庭を築く。そんな、状況を見せられる。そして、幸せの絶頂で、その最愛の人物に裏切られる。その絶望は計り知れないだろう。
だが、まだ終わらない。
一回だけではない。何度も何度も何度も……計一万回見せられる。つまり、一万回の人生を歩み、一万回殺される。
幸福な状況から最愛の人に殺され続ける。しかも、いやらしいことに、一度たりとも同じ殺され方をしない。剣で殺されるにしても、心臓を一突き、首を落とされる、細切れにされる、など、同じ武器を使われたとて、同じ殺され方はしないのだ。指先から斬り刻まれるなど、拷問じみた殺され方をされることもある。
突然だが、皆考えて欲しい。
夢とはどんなかんじだろうか。
今聞いているのは、『時間』のことだ。夢の中だと、数ヵ月経っているといったことがあるだろう?それって、実際に寝ているのは、6時間から9時間程。そして、その中で夢を見ている時間はさらに短いだろう。つまり、夢の中の時間という概念は曖昧なのだ。
そして、ほんの短い時間の中でショータスは変わった。その時間とは僅か5秒。
一秒経つと、髪の毛先が少し白くなった。
二秒経つと、七割程色素が落ち、白く、少し髪が抜け落ちた。
三秒経つと、完全に色素が落ち、真っ白に、髪が全部抜け落ち。
四秒経つと、肌が乾燥したように渇き、腕や足は少し細くなった。
五秒経つと、もう老人のようにしか見えなくなった。
たった5秒、されど5秒。
現実時間では5秒だが、ショータスからすれば、いっそ殺してくれとでも願ってしまう、そんな膨大な時間を体験していた。
傍から見れば、若者が老人に変わる様がよく分かったことだろう。
5秒経った頃、現実に戻ってきたショータスは、変わり果て、もはや若い頃の見る影は残っていない。
目の焦点は合わず、うわ言のように、「殺してくれ」と呟いている。
口の端からは涎を垂らし、痙攣している。すでに、老人と言うか、死人にも見える。
「精神も壊れたか」
つまらない物を見る表情でショータスを見るレインの眼は冷たい。
レインからすれば、たかが人生一万回。それだけだ。
「ああ、ああ、あああ」と呟くだけになったショータスは実質死んだも同然だろう。
「セバス」
「はっ」
シュタッとレインの後ろに現れる。
「こいつの記憶を覗いたが、王子なんだって?」
「そうです。私が制圧しましたこの国の王子……であり、騎士団長です」
「だからか、俺に対しても上からで物を言ったのは」
王子とは、普段は敬語を使わない。なぜなら自分が一番に偉いからだ。逆に下の者に敬語を使えば舐められること間違いなしだ。
だから、仕方ない。なわけがない。意外とレインはそのことに腹を立てていた、と言うことだろう。
「そんなことは、どうでもいい。それより、この世界も飽きた。早く滅ぼし次に行くぞ」
「了解しました」
レインに一礼し、天に手を向ける。
「取り敢えずは、ここにいる観客を殺しましょうか」
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