119話 もう一人の罪人
レインたちを爆風が襲う。
「なぁ、輝夜。ばれてんじゃん」
「ええ~」
レインたちを襲ったのは、ケルベロス。
地獄の番犬と言われる三つ首の獣だ。
輝夜は重罪犯罪者みたいなものだ。見張りがいない方がおかしいが、それでも、この周りにはレインが存在を隠していた。気付くはずはないのだが……。
「あの、首輪のせいか?」
「おお~ワンちゃんに首輪ですか……」
ケルベロスを『ワンちゃん』なんて言えるのは、レインたちだからだろう。
レインが前にいた世界、アリスティア。そこでも、迷宮などで、ケルベロスがいた。だが、それはあくまでもここの獣を真似て創られたに過ぎない。
三つの首に首輪がそれぞれはまっている。
「それで主。飼われているんでしょうか?」
「ケルベロスを飼うなんて物好きそういないだろうが……まさか」
レインが気付いた時、もう一体のケルベロスが現れた。その背に乗っている人物が、レインに声をかける。
「ぱぱ!遊びに来たの!」
「やっぱり、ベルか」
ケルベロスの背を蹴り、レインに抱き着く。
「そろそろここに来るだろうって思って!」
「そうか、ならベルも一緒に来るか?」
「いいの?」
「久しぶりですね、ベルゼブブさん」
ニコッと笑いかけ、ベルゼブブに挨拶をする。
この二人は、知り合い……というか、友達というか、敵というか。
友だった時期もあるが、敵として戦っていた時期もあるため、どっちでもある。
「ぷいっ」
「あはは……」
ぷいっとそっぽを向く。
ベルゼブブが輝夜を嫌っているのには、理由がある。
魔界に輝夜がいた時、ちょこっと悪魔たちを殺しまわっていた時があった。それが、ベルゼブブの領内だったのだ。
そして、それを処理するために色々としなければならなかった。
しかもその時、レインに会いに行こうとしている時だったため、なお悪かった。そのせいで、数百年会いに行けなくなり、その原因を作った輝夜に対して怒っている、ということだ。
「嫌われちゃいましたね~」
「ふん……ぱぱ、べるも一緒に行く!」
「おおいいぞ!後これをやる」
レインは掌の上に、黒い球体を出す。
「世界数兆個のエネルギーだ。いくら弱い世界でも、世界を構成する程のエネルギーだからな」
「ありがと!」
ぱくっと一口で食べる。
その瞬間、ベルゼブブの存在が一気に増えた。
さすがのベルゼブブでも、世界数兆の莫大なエネルギーを食べて無事なわけがない。人だって一気に食べれる量には限りがある。『暴食』を冠するだけあって、どれだけでも食べれるが、それでも、大きすぎた。
「さすがに強すぎたか?」
「そうですね、お嬢様でも、今回ばかりは少し辛いかと」
「そうか……」
辛そうにしているベルゼブブの頭を優しく撫でる。
落ち着くまで撫でていると、莫大な量の魔力を周囲へ無差別に放っていたが、徐々に収まり始めた。
「すっごく美味しかった!」
「それはよかったが、もう大丈夫か?」
「うん、全部吸収した」
「うへぇ、すごいですね。あれだけのエネルギーをその体内にいれるだけでも、危ないのに。自分の力とするなんて」
不死身の体を持っている輝夜でも、あのエネルギーをその身に取り入れれば、肉体は破裂し、力は暴走してしまうだろう。
『暴食』を司るベルゼブブだからこそ出来たことだ。
「ところで、あれだけ、派手に魔力を放出していたらさすがにばれるのでは?」
「それも大丈夫だ。そこんところもぬかりない」
ベルゼブブに食事をやった時から、結界を張り、冥王らにばれないようにしていた。というか、ばれたところで、あんまり意味もないが。
「あ、そう言えば」
ポンッと、輝夜が思い出したように、手を打った。
「少し前に、ここににもう一人来たんですよ」
「ほんとか?」
「ええ、顔は見てないんですけど……」
冥界の最下層。
今レインたちのいる場所は、輝夜を封印するためだけに、冥王と神王が協力して創った場所だ。
そして、ここに入れられるということは、輝夜並みのことをしでかした存在と言うことになる。
「ほぉ、会ってみるか」
「なら案内しますね」
レインは抱き着いていたベルゼブブを肩に乗せ、輝夜の案内に従って進む。
輝夜のいた場所を通り過ぎると、巨大な鉄格子が見えてきた。
いや、鉄格子と言うより、あれは鳥籠だ。
「鳥籠?鳥でも捕まったのか?」
「いいえ、違いますよ」
炎に照らされ鳥籠の中の人物が見える。
そこにいたのは、狐の女だった。
「九尾……いや、天狐か。白い狐……美しいな」
「ぱぱ!」
ぽかぽか、とベルゼブブがレインの頭を叩く。
効果音的には、ぽかぽか、だが、実際には、ボガン!ボガン!が適切だろう。人間なら首が捥げるだけじゃなく破裂しているだろう。
「そこの白狐、どうした?」
レインが話しかけても返事がない。
丸まって寝ているようだ」
「おーーい聞いてるか?」
「反応がないですね」
反応がないため、もう一度声をかけようとした時、炎が四つレインに向かってきた。
「狐火か、ってか起きてんじゃねぇか」
「『空喰い』!」
ベルゼブブが飛んできた狐火を食べる。
それと一緒に、白狐を捕らえていた鳥籠も空間ごと削り取られたため、鉄格子が一部破壊された。
すると、中から白い塊が物凄い速さで出てきた。
「……」
威嚇するように、睨む。
四つの尾が逆立ち、ゆらゆらと揺れる。
「ここは、冥界。余程のことがなければ、生者は来ないんですが……やはり何かあったようですね。どうしましょうか、主?」
「ふむ。輝夜」
「了解です。止まりなさい」
輝夜が命令を下す。
逃げようとしていた白狐の体が固まる。
動こうとしているが一向に動かず、焦った表情を見せる。
輝夜が使ったのは、『呪言縛鎖』というものだ。
レインがよく使う『神言』の呪いバージョンだ。
悪魔と言ったら呪いの言葉だろう!そんな感じで創った能力だ。
「しかし、なんでこの程度の力でここに来たのでしょう?」
「呪言もきっちり効いてるな」
「貴様ら何をする!?」
「お、喋った」
白狐が初めて喋った。
「せっかく逃がしてあげたのに、俺からも逃げようとするからだろう」
「頼んだ覚えはない!」
「はぁ、めんどくせぇ……記憶を視るか」
「お、おい!やめろ!」
白狐の目を望み見る。
「なるほどな……獣神に仕えていたのか、それで、主殺しを……ほぉ」
「なんでそれを……!?」
レインの顔が歪む。
その顔を見た白狐は悲鳴を上げる。
「主殺しと神殺し。なるほどなぁ……なんでそんなになったのかには、興味がないが、面白いな」
「見るな!」
「黙れ」
レインが神言で縛る。
「それでも、ここに入れられるはずはないが……まぁいいや、それで、お前俺のものになる気はないか?」
「むーーー!!むーーーー!!!」
「あ?ああ、そうか」
レインが指を鳴らすと、白狐にかけてあった神言が解けた。
「そんなものになんてなるか!」
「仕方ないな……『魂縛り』」
「なんだこれは!?」
「よし、セバス、輝夜。帰るぞ」
セバスと輝夜に声をかける。
レインたちが歩き出すと、白狐の体が意思に反してレインについていく。
『魂縛り』その名の通り、魂を縛る。簡単に言えば、奴隷になったと言うことだ。
「やめろ!行くな、動くな!!!」
「無駄だ。天狐如きでは破れんよ」
「くそぉぉおおお!」
「まずは言葉遣いから直さんとな」
転移門が現れ、レインたちは冥界から立ち去った。
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