116話 何でも望みを叶えてやろう!
sideレイン
レインはまっすぐと自分の相手向けて、歩いていく。
城に向けて。
配下とはすぐに分かれた。
レインの意を汲んで自分の役割をこなすために。
「俺は俺の敵を……ね。少しは楽しめるといいけど」
レインの今の心中は、狂帝と呼ばれる人物が面白い人物かどうか、それだけだ。この世界の人物に『強さ』を求めていない。ヨルダウトの足元にすら及ばないのだから、たかが知れている。
「それでも、新具をいくつか持っているのだから、少しは楽しませて欲しいよな」
神具……神の力の宿った装飾品などのことだ。
四狂聖やバルフェルクが持っている剣がそれにあたる。
『起動』とは、剣の力を身に纏う、ことだ。
身体能力も向上するし、自分の特性に見合ったスキル、魔法を得ることが出来る。
あちこちで魔力が爆発する。
激しい戦いが起こっているのが伝わってくる。
だがそれは、狂帝側のことだ。レインの配下は遊んでいるだけだ。
「さて、セバスとシルには、やってもらうことがあるし、あいつらは、楽しんでいるみたいだな。アシュエルは、舐めプしてるな」
レインには、この国の中で何が起こっているのか手に取るように分かる。
今まさに、アストレアも楽しめる相手を見つけたことも……アドニスが、中々面白い趣向の炎を使っていることも。
『浄化の炎』と名ばかりの拷問用に使える魔法だ。
痛みだけ感じないとなればそれだけで、使いどころがある。恐怖心を煽るにはうってつけだ。
「斬姫、使ったな」
呪いの神、レインに創られた神。限定すれば、五帝にすら匹敵するだろう。
そして、まだその域に達していないアシュエルがその身にその力を宿せば、それはそれは悲鳴を上げるだろう。だがそれも、その痛みもアシュエルはすぐになれるだろう。
アシュエルの才能は飛び抜けている。
全世界を見渡してもどれだけいるか。一桁、もしかしたらアシュエル入れても二人。その程度しかいないとしてもおかしくない。
後、数年もすれば、十分五帝にも匹敵する力と精神を手に入れるだろう。
世界を思い通りに出来る力を持ちながら、どうするのか。
そのままレインに仕え続けるのか……レインの元を離れ、好き勝手するのか……レインに歯向かおうとするのか……レインにしてみれば、どれでもいい。
「おっと、思考がズレたな……そろそろ……あ?」
目的の城まで、残り数メートルと言ったところで、城が吹き飛ばされ消えた。
「なんかデジャブだな」
前にも、誰か同じようなことが起きていた。
「さすがにこれで、死んでくれるなよ?」
レインの思いは杞憂だとすぐに気付いた。
大きな城がなくなり、その広大な土地に、ぽつんっと座っている人物がいた。
玉座に座り、結界に守られたその人物が狂帝だろう。
「お前が狂帝?」
そこにいたのは、まだ青年と言った風貌の男だった。
退屈そうにレインを眺め、まるで生に退屈しているかのようだ。
だが、レインの思ったこと違った。
その目を見て、レインに近しいものを感じた。
魂を見、姿そのままの年齢じゃないことはすぐに分かった。
「何者……いや、俺の国に攻めてきている侵略者か……で、俺に何用だ?」
「いいね、いいね……」
唇を舐め、
「退屈な日々に飽きているのだろう?まぁそれも終わる。せめて、俺の役に立ってから死ね」
「貴様程度が勝てるとでも?」
「ん?……ああ、俺に勝てると思っているのか……ふふ、俺にかすり傷でも与えられれば、何でも望みをかなえてやる」
「望み……だと?」
こうまでしなければ、レインが楽しめない。
それに、狂帝も興味を持ったようだ。自分の優勢は変わらないとでも思っている顔だが。
「例えば、別の世界に行き、全てを思い通りにしてもいい。他にも今以上の力を願うなら与えよう。神になりたいなら神格を与えよう。神王の座が欲しければ与えよう」
「神……貴様がそこにいるのか?」
「クク、興味を持ったか、いいぞ。なんでも、だ。情報を聞き、力を求め、神の座を求める全部を求めればいい。そのために、何をするか」
「ああ、貴様に傷一つ付ければいいのだろう?」
初めてレインの瞳をしっかりと見ながら、玉座から立ち上がる。
虚空に手を入れ、武器を取り出す。
宝石が四つ、柄の部分にばらまかれ、全身が金色の剣だ。見るからに神器と分かる。
地を蹴り、レインに近づく。
「ふっ!」
レインの頭蓋目掛け振り下ろされる抜き身の刃を見ながら、二歩後ろに下がる。
剣が腰辺りまで来たところで、すぐさま切り返し、レインの一歩前を掠る。
それだけでなく、何回も隙なく連撃をレインに叩き込む。
レインはそれを紙一重で掠りすらさせず全て避ける。
突如、狂帝が後ろに飛び距離と取る。
「『強奪』」
「あ?」
左手をレインに向け、スキルを使う。
「なるほど、そのスキルのおかげで、圧倒的ステータス、スキルを手に入れていたのか。楽しむため視ていなかったから分からんかったぞ……だが、残念。それは効かん」
「なぜっ!?」
「『格』だ。自分より強者と会ったことがないから知らなかったか……」
レインの見立てでは狂帝の『強奪』は文字通り全てを強奪するようだ。ステータスもスキルも、そして、魔力も体力も。その力は7大罪の強欲に似ている。
「残念だったな。俺からは何も奪えんぞ」
「ちっそそうみたいだな。『鋼墜』」
レインの頭上に黒い空間が現れ、そのまま落ちた。
「それも効かん」
人差し指を上に向ける。
当たった所から、パシュンッと消えた。
「だから言っただろ?かすり傷、ってな。魔法は効かん。スキルも効かん。なら残るは、物理のみだ」
「それも効かんかったがな……!」
「じゃあ剣術で勝負しようか」
白い光がレインの手に集まり剣の形をとった。
「ただの魔力剣だ。それと、打ち合えるよう合わせた、ただの剣だ」
武器による優劣をつけないため、レインなりの配慮だった。
最初に動いたのは狂帝だ。
眼前に構え、突きの態勢から走る。
レインも一歩踏み出し、狂帝と同時に突きを放つ。
キーンっと低い金属音が鳴った。
切っ先に切っ先を合わせ受け止めたレインは、そのまま押し込む。
「ぐっ……はあっ!」
狂帝は、負けるものかと、力を入れ、押しとどめる。それでも、力を少しでも入違えば、剣が欠けてしまう。
狂帝は、剣を横にずらし、体もずらすことで、レインの剣を避け、レインの心臓目掛け腕を伸ばす。
「いつの間に……!」
いつの間にか腕を引き戻してしたことで受け止められる。
ギリッと押し込む。
弾き飛ばされた狂帝は、空中でまた突きの構えをとる。
剣の間合いではなく、腕を伸ばしても剣はレインには届かないだろう。
それなのに、魔力を込め、突く。
「魔法が効かないから魔力ときたか……」
レインを囲むように金色の陣が現れる。
そこから、金色の光線が放たれる。それも、一つの陣に対し一つではなく、次から次に、総数幾百もの光線が撃ち込まれる。
「これで、終わりだ」
数秒の間に最大の威力を放つため溜めていた力を解放する。
剣先をレインに向ける。先にバランスボール大の黄金の光が三回に分け、ビー玉サイズまで圧縮される。
圧倒的なエネルギーを内包した黄金球がレインに向け放たれる。
土煙を裂き、吹き飛ばしながら進む。
レインのいたところで、止まる。
レインの無造作に突き出された右手に止められていた。
「ククク、クハハハハハ!!!凄いな!ただの人間がこれ程の威力を出せるとはな!闘神の力を使っているとはいえ」
「なっ……に?」
片手で受け止められた衝撃よりも、その一言が狂帝により強い衝撃を与えた。
魔力の他に神気と闘気が込められていた。
「そんな闘神の気バリバリ放ちながら俺が気付かないとでも?」
「クソっ!」
「というわけで、ここまでやれば、来そうなものだが……」
レインは待っていた。
「やっぱこいつ殺さないとだめか?」
レインは待っていた。
「なら、ここで殺すか。……行け」
狂帝が使った魔力球をレインも使う。
ただそれは、狂帝のそれとは違う。
ドス黒く、それでいて神々しい。相反する二つのことが感じ取れるそれを狂帝と同じビー玉サイズに圧縮し、飛ばす。
「クソがっ!!!」
剣であまりの速さに避けられそうになく、剣で斬り払う。
だが、
「あっ………」
魔力球に当たった剣は、エネルギーに耐えることが出来ず壊され、まっすぐ狂帝の心臓を貫く。
目から光が消え、狂帝の体も崩壊しだす。
「………やっとか、待ちくたびれたぞ、闘神」
レインは待っていた、世界消滅、その危機に管理神が現れるその時を。
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