112話 (敵の)命を懸けた戦い
アストレアが剣を抜いた。
アストレアが剣を抜く時は、戦いをすると、決めた時だ。
剣を使うまでもなく、剣気で応戦可能なのだから、真剣で斬る必要がなかった。
ギリストールは、アストレアが剣を握ったことにより、ますます歪んだ笑みを浮かべる。
「キャハハハッ!!いいねぇ!そうでなくっちゃ!!」
「御託はいいから、来なさい」
どこまでも、上から目線で言う。
銀騎士の戦いと初撃の感覚からギリストール一人だと、勝てないことをギリストールは分かっていた。それなのに、笑いながらアストレアに向かっていくのは、戦闘狂だからだ。より強者との殺し合いを心から楽しんでいる。
「跳べぇ!!!」
ギリストール右腕が跳ねる。
今度は姿が消えるのではなく、腕だけが消える。
壁に一筋の線が入り、アストレアの元まで一瞬で届く。
そこから斬撃が現れる。
「ふむ。この世界は、面白い攻撃が多いですね」
「それだと、止められねぇぜ!?」
壁から伸びた斬撃は、アストレアの首に届こうとした時、斬撃が消えた。
そして、現れたのは、後ろからだった。
剣気の結界をすり抜けるように、アストレアの身に届こうとした瞬間にまた消えた。
今度は、地面から、また消え、上から。
「くっは!!!すげぇなぁ!おい!?後一センチでも斬り込めば、斬撃を斬られるな!」
「ああ、そういうことですか。どこが間合いか確かめていたのですね」
「っ!キャハハ!それもばれるか!?」
初めて動揺したように言う。
ギリストールの狙いは、攻撃ではなく、アストレアの剣の間合いを調べることだった。
ギリストールは自他共に認める戦闘狂だ。しかし、強者と戦う時は、相手を観察する癖があった。
「これは解きましょうか」
その瞬間、ギリストールが常に感じていた圧迫感が消えた。
肌を皮膚をチリチリと焦がすような気配がなくなり、幾分か心に余裕が出来る。
ギリストールは、腕を交差するように構え、腰を低くして走り出す。
その時、初めてアストレアが動いた。
無造作に剣を振り上げたのだ。
「うぐっ!」
感に従い、本気で横へ飛び、避ける。
それが結果としてギリストールを助けることになった。
今までいたところに、斬痕が出来、地面が約一m程裂ける。
だが、それに見向きもせずに、住宅の壁を蹴り、再度走り出す。
二本の短剣を重ねるように突き出す。
それを容易く片手で持った剣で受け止める。
ギリギリとせめぎ合うが、アストレアは微動だにしない。
その時、ギリストールの短剣が淡く光った。
切っ先が僅かにブレる。
「なるほど、空間を伝うんですね」
「キャハハ!バレたか!?」
首を右に捻り躱すが、アストレアの頭の後ろからの衝撃で若干前のめりになる。
「ふっ」
アストレアは、一瞬で脱力し一瞬で力を入れる。その際に地面に亀裂が入り、ギリストールは踏ん張ることが出来ず、吹き飛ぶ。
飛ばされる時、懐から短剣を三本取り出し、投擲する。
「苦し紛れですね。それとーー」
後ろを向き、一閃。
剣圧の刃が飛び、もう一人の敵を斬る。
「ぐあああああ!?」
「手を出さなければ、もう少し生きていられたものの」
カーテンがめくられるように膜が開け、背の低い男が倒れる。
「こいつも、仲間ですか?」
「ちっ……ナックに気付くとはな……」
いつもの笑いを引っ込め、苦々しく呟く。
「バルフェルクの一人だ。そいつに気付くとは、別空間まで感知出来るのか」
「我らには、異空間、亜空間、固有空間、別次元など意味を成しませんよ」
「ちっ化け物かよ……ってまぁ、真面目なのはここまでにして……キャハハハハ!!!楽しくなってきたなぁ!」
どこまでも楽しいとばかりに笑い出す。
バルフェルク。異常者集団。それぞれが凶悪犯罪者みたいなイカれた性格の持ち主だ。同じ組織の一人が死んだくらいで、心は少しも揺れ動かない。むしろ、ギリストールは、想定以上の強者だったと、余計に楽しくなるだけだ。
「そんなこたぁいいんだよッ!?地渡りぃ!!!」
地面に二本の短剣を突き刺す。
刺さった場所から、亀裂が入り、一本の短剣から三本の、計六本の亀裂に分かれる。
アストレアまで一直線に伸びる。
「『爆剣』」
目前の地面を斬りつける。
斬りつけた場所が爆発し、そこで亀裂は止まる。
「オラァ!」
アストレアの後ろに回り込み、右腕一本で短剣を突き刺す。
顔面に伸びる短剣を剣で弾き、ギリストールを蹴り上げる。
素早く引き戻した右腕で蹴りを受ける。
「ぐっおっも!」
あまりの衝撃に腕の骨が砕ける。
だが、空中で左腕を上に伸ばし、上に放り投げていた短剣を掴む。そして、空中に足場を作り、蹴る。
重力も加わり、加速する。
逆手に短剣を持ち、アストレアの頭目掛け刺す。
「中々良かったですよ」
それだけ言い、剣を下から斬り上げる。
ギリストールの股から頭にかけて真っ二つに分かれる。
綺麗に短剣すらも斬れている。
「ん?」
分かれた体が地面に落ちる時に、剣を四度振るう。
ギリストールの体が爆散し、アストレアの四方から斬撃が飛んできた。
「遅延……ですか。本当に、戦いなれている。死んだ後のことまで考えているとは」
ふふふ、と自然とアストレアの口に笑みが浮かぶ。
思っていた以上に楽しい戦いになったからだ。
戦いとは、頭でするものでもないが、感だけでするものでもない。相手の行動を二手三手を読んだりしながら戦ったりしないといけないからだ。その点、将棋やチェスなどに似ている。
戦いのためだけに人生をかけていた。
戦闘感も強者との戦闘の場数、経験も積んでいた。ギリストールは、感だけで行動を読む珍しいタイプだ。強者との戦いを望むため、いつ死んでもいいと。強者と戦い楽しんで死ぬなら本望だと。そう思っていた。そして考えていた。もし、自分が絶対に勝てないような相手なら死ぬとしても一矢報いよう、と。
それは、アストレアの予想を一度だけでも上回った。アストレアの身に傷一つ付けることは叶わなかったが、それでも、読みでアストレアを上回ったことは誇れることだ。
「歓べ、そして、死んでゆけ。私を楽しませたことを誇りながら」
バルフェルクがこのような集団ならば、アストレアがまた剣を抜く機会もあるだろう。その時のことを思うだけで自然と笑いが出てくる。
手に持った剣に目を落とす。
「だけども、耐えうる剣ではなかったか。それも仕方ないですね、ただの鉄剣ですし」
そう、アストレアが使っていた剣は、名剣でも神器でもない。ゲームとかである一番最初に手に入れる鉄の剣ってやつだ。アストレアの剣技をもってすれば壊さず振り切れる。だが、剣圧の刃を出すような使い方をすれば、壊れることは必須だ。
パラパラと砕け散る剣を見ながら思う。
「さすがに、神器はこの世界に及ぼす影響がでかすぎますね」
別段この世界は、壊してもいい。
元々消すために来たのだから。だが、主の邪魔をすることなど絶対に出来ない。
「次に向かいましょうか」
もう一度敵が現れないか期待していたが、すぐに次の敵は現れないようだ。
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