99話 ヨルダウトVS現勇者 後
太樹は、氷剣を捨て魔剣を両手で握る。
首を落とした時、魔剣で一撃を与える時に、左手の氷剣で同時に斬りつけた。しかし、全くの無駄だった。なら、要らないじゃない。ということで、捨てた。
「来ないのか?ならこっちから行くぞ」
太樹が魔力を高めていると、ヨルダウトが睨み合いに飽きたのか、自分から攻めようとし、足を一歩踏み出す。
ドガンッと地面が爆ぜ、爆発にヨルダウトの体が宙に浮く。
「そう言えば、前も爆発系の罠に引っ掛かったな……」
飛行を発動しながら、思い返す。
土煙が宙を舞い、それに紛れ、氷剣が5本飛んでくる。腕を大きく振るうことにより、土煙ごと払う。
その隙をついて魔剣を振りかぶり、攻撃を仕掛ける。
両手で握っている分、単純計算で威力2倍だ。
「それっ!」
「おお!さっきより重いぞ!」
腕で受けたヨルダウトは、威力が上がったことに喜んだが、ミシッという音を聞き、腕を見ると、僅かに食い込んでいた。
そして、少しずつ刃が進んでいく。
「だが、すぐに斬れないのならば意味がないぞ?」
ヨルダウトは、引き離すために蹴りを放つが一足先に太樹は下がっていた。
そして足を上げている隙に、地面を蹴り再度斬りつける。
だが、アシュエルと戦った後のヨルダウトには、体術など武術について少し分かっていた。
左足を軸に回転することで魔剣の一撃を避け、手刀で太樹の左腕を飛ばす。
「うぐ……っ」
バックステップで下がった太樹を追おうとしたところで、地面を進むのではなく跳んで追う。
「ちっばれたか」
「お前は、魔力を視れるのだろう?それは、余も出来ることだ。それに、知覚能力を広げればこの国の全土を視ることも出来る。お前の仕掛けた罠を見つけることくらい容易い」
今までは、意識して使っていなかったが、罠を仕掛けているとなるとそうも言っていられず、使うことにした。それでも、罠にも絶対隠蔽を使い隠してしるため、容易には見つけることが出来ないが、隠しているところは、ぽっかりと穴が開いたようになっているため、逆に見破るのは簡単だ。
ヨルダウトは、指先を地面に向け魔力波を放つ。
弱い衝撃でも与えれば罠は発動する。連鎖するように無数に仕掛けてあった罠が全て発動し、辺り一面を炎で包む。
「これで、小細工は終わりだな」
爆音に紛れ、高速で斬りつけるが、その悉くを手で払う。
「む?これは………」
「これなら、ダメージを与えられるみたいだね!」
弾いた手は、ボロボロになっていた。ようやく、太樹の攻撃がまともに届いたことになる。『身体超強化』の倍率をまともに戦える最大まで上げたからだ。これだと、余分な魔法も使うことが出来ず、持って15分だろう。それまでに、決着をつけなくてはいけなくなったが、そうでもしなければ、ヨルダウトの防御を破ることが出来ないため仕方がない。
「なら、余も少し本気を出そう」
「な……っ」
漏れ出る魔力を切っていたヨルダウトは、有り余る大量の魔力を抑えず放出する。
「魔力を抑えなければ、余にまともにダメージを与えられなかったが、お前なら大丈夫だろう?」
「まじで、素の防御だったのかよ……」
太樹の頬を冷や汗が流れ、地面に落ちた。
魔力視を使わずとも分かる膨大な魔力に気圧されるが、気合を入れ直し、立ち向かう。
大きく息を吐き、全身を脱力させ、緊張を解く。
一瞬で駆けだし、腰を捻り、剣を後ろに持っていく。最大まで捻り、その反動を利用し、大ぶりの一撃を放つ。
ここまで戦って、ヨルダウトの戦い方を分かっていた。どんな攻撃でも、避けずに自分の体で受けるつもりだと。
そして、その通りになった。
渾身の一撃を、ヨルダウトは避けずに、受けようとする。
「『黒膜』」
ヨルダウトの前に真っ黒の膜が現れ、急に止まれない太樹は、その幕目掛け剣を振りぬく。
「おらぁぁぁあああ!!!」
風を殴っているような感触が魔剣を通して伝わる。
が、無視し、さらに力を入れ、全身を使い押し込む。
すると、ぶわっと風を撒き散らし、横に裂け、その攻撃がヨルダウトまで届く。
「この一撃は……っ」
ヨルダウトが驚く声を上げる。
咄嗟に右手を出すが、僅かな拮抗の後、サクッと横に斬られ、腕を半ばまで斬られる。
だがそこで止まる。
「くっ抜けないっ!」
「今の一撃はよかったぞ!」
斬れた腕を闇が多い修復する。
魔剣を食い込ませたまま。
この剣以外まともにダメージを与えられる武器を持っていない太樹は、必死で引き抜こうとするが、ビクともしない。
「くそっ、っぐっ」
「『空縛』」
蹴りを何度も放つが、やはりダメージを毛ほども与えられない。
その間に、ヨルダウトの魔法で、拘束される。両腕両足首を空気の輪が囲い、空中に張りつけにされる。
抜け出そうと一生懸命足掻くが、太樹のステータスをもってしても全く抜け出せない。
「これで、終わりだな。お前の魔力ももう底を突くだろう」
「ぐっ」
ヨルダウトの言う通り、無理して強化し続けたため、太樹の魔量は後僅かしか残っていない。
『黒膜』を破る時、また強化倍率を上げたからだ。後先考えずに強化しなければ、破れなかったからだ。
時間に表すと、後1分くらいだろう。
「お前の再生能力は、魔力由来。肉体が残っていなければならず、魔力が切れてもいけない」
「…………」
確かに、頭を潰されても心臓を破壊されても、大量の魔力があれば、再生は出来るだろう。ヨルダウトのように一瞬でとはいかずとも。
それが分かって入るため、ヨルダウトは闇を纏った手を太樹の体に突き刺す。
すると、液体に沈むように体の中に入っていった。ずぷり、と突き刺さるが太樹の体には、傷一つ付いていない。
「なん、っだ、これはっ………」
「肉体には全く影響がないが……」
腹に手を突っ込んだまま、質問に答える。
「魂を直接触ることが出来るのだ」
「まさかっ………!?」
思いもよらない攻撃に、太樹の顔が青褪める。冷や汗も引き、顔が引き攣る。
それもそうだろう。肉体のダメージは、スキルによる耐性で感じないが、魂への攻撃など喰らったこともなければ、鍛え方も耐性の獲得も出来ない。
ヨルダウトの眼には、太樹の中に炎のようにゆらゆらと揺らめく魂が視えている。
それを、ぎゅっと軽く握る。
「ッッッッ~~~~ッッッッ!?!?!?!?!?」
声にならない絶叫を上げ、体の孔という孔から液体が流れ出る。
白目を剝き、激しく痙攣する。
「不死同士の戦いは基本的に長期戦だ。だが、終わらせる方法は、ある。封印もその一つだ。その他にも、精神を破壊するのも一つの手だ。そして、今のように魂を壊すのもその一つだ。ほとんどの不死は、肉体のみ。魂まで回復出来るものは、ほぼいない」
そう、魂まで壊され再生するのは、神の領域だ。
そして、神ですら、魂を壊されれば戻ることは、難しい。高位の神ですら出来ない者がいるくらいだ。
今度は、ぐっと潰す。
「が………………」
パリンと割れ、太樹の体が大きく痙攣したかと思うと、次の瞬間には、パタンと動かなくなる。
太樹を固定していた空気の輪を解く。どすっと地面に落ち、動かない。
「魂まで壊し戻るなら、概念まで使わなくてはならなかったが、そこまでではなかったか」
ヨルダウトは、それを望んでいたような口振りで言う。
「たいき……?」
「ん?ああ、忘れていたな。こいつももういらんか」
「ぐぎぇっ」
鎖で締め上げていた光輝に、声を上げたことで気付く。
頭に血が上り、顔を真っ赤にしている光輝を、鎖を締め上げることで絞め殺す。
「中々楽しかったな。しかし、この勇者の力はなんだ?まさか、黒膜を斬るとは思わなかったぞ」
ヨルダウトでも、あの一撃は生身(骨だけの体だが)で受けられるとは思っていなかった。それ程の思い威力だったからだ。だからこそ、黒膜という衝撃を吸収する魔法を使ったのだが、吸収出来ずに斬られるなど予想外だった。
「やはり、勇者とは特異な存在だな」
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