97話 不死王に挑む者たち
ヨルダウトに向け、2人の男女が立ち向かう。
気合十分、気迫十分、練度、連携、意気十分。
ただ足りないのは、ヨルダウトと戦うための実力のみ。
だが、それが一番重要だ。
この世の中、力が全て、弱ければ強いものに奪われる。財も命も。
強者にのみ許された特権だ。
「はああ!!」
副団長、チャイリーは剣に炎を纏わせ、攻撃する。
それを無視でも払うかのように、手で振り払う。
甲高い音が鳴り、剣を弾かれるが、チャイリーの後ろから現れた団長による、槍による三段突き。
頭、喉、心臓を同時に突く攻撃だ。
だがそれも、ヨルダウトの骨に弾かれる。
そう、今は漏れ出る魔力を一切外に出していない。つまり、魔力による防御を切っている、ということだ。だから、今なら直接ヨルダウトの体に攻撃が通る。
「くっ!なんなんだあいつの骨はっ!?」
「私の魔法剣は、鉄をも焼き切るのですが……」
「俺の槍だって、ミスリル程度なら貫くんだが……防御魔法とか使った気配はしなかった。純粋に俺たちの攻撃が聞いてないってことだろ」
「なんんですかそれ!」
嘆きたくもあるだろう。
自分たちの最大の攻撃を防御もせずに受けきられたのだ。
「『六陣結界』!!!!」
「へ?」
チャイリーが間の抜けた声を出す。
ヨルダウトを起点とした封印結界が張られた。
「ああいう、倒せない化け物は封印するに限りますね」
「え、……とあなたは?」
「申し遅れました。私は、ダイタンと言います」
「これは、どうもご丁寧に。私は、チャイリーです。それで、封印、というのは?」
「あそこを見てください」
ダイタンに言われ、ヨルダウトの方を見ると、ヨルダウトを囲むように六つの槍が刺さっていた。
「私は、結界魔法が得意でして、その中でも強力な魔法です。ただ、発動までに時間がかかるので、あなたたちのおかげで助かりました」
「あ、」
チャイリーたちが頑張って戦っている間に、せこせこと結界を張るための準備をしていた。
だが、そのおかげで結界内に閉じ込めることが出来た。
「それで、その六陣結界?というのはどのくらい持つのですか?」
「さぁ?」
「さぁ?って!」
「まぁまぁ落ち着いて……私の全魔力を使ったので、分からないんですよ」
そう言われ、ダイタンの顔を改めてみると、青白く、今にも倒れそうだった。魔力欠乏の症状だ。
もう完全に空なのだろう。
「少し、横になります」
「あ、どうぞ……しかし、主が封印されたというのに、動きませんね」
「それだよな」
「あ、団長」
急に話に入ってきた団長に、返事を返すが、チャイリーは嫌な予感が拭えない。
「まさか……!?」
チャイリーが気付いた時には、すでに、結界がパラパラと剥がれ落ち、結界を発動している槍が震え、地面から抜ける。
「いやいや、余を数秒と言え、動きを止めるとは中々やるではないか!」
それはもう楽しそうに言う。
だが、渾身の結界を軽く破られたことに、魔力欠乏も相まって気絶してしまった。
「それで、褒美だ。受け取れ」
ヨルダウトがぐぅっと手を握りしめると、ダイタンの頭が破裂した。
「だい、たんさん?」
「何を呆けている?次だ、次の相手は誰だ?」
すると、三人が同時に攻め入る。
「ほう、お前たちか」
息のあったコンビネーションで果敢に攻める。
右からの攻撃を避ければ、左から。左からの攻撃を避ければ、後ろから。後ろの攻撃を避ければ、前から。どこに避けても、次の攻撃が来る。だが、それは相手が、避けることを前提とした攻撃だ。避けることを考えていないヨルダウトには、意味がない。
その証拠に、三人の攻撃が僅かな時間差を持って、全て当たる。
「お前たちの強みは、逃げることの出来ない連携か。もうよい、死ぬがよい」
魔力を瞬間的に開放し、吹き飛ばす。
強化された壁にぶつかり、ぐじょっと潰れる。
「しっ!」
その後を狙ったかのように、短剣を持ったフードの小柄なものが、ヨルダウト目掛け、その短剣を突き刺す。
「おぉ、これは……」
「いくら強くても、これなら効く」
「ぬぉぉーー」
ヨルダウトから苦しそうな声が聞こえる。
声からして、短剣を刺したのは、少女のようだ。
ヨルダウトに効く武器。短剣には、魂を直接傷つける効果があった。下位の下位だが、神器と言えなくもない武器だ。つまり、ほんの少し。ちょびっと。ちょこっとだけでも、ヨルダウトに効く。人間が爪に針で擦り、ほんの少し傷がつく程度に。
「おお、素晴らしい!余に効く武器を持っているとはな!」
「これで、約束通り皆を解放して貰う!」
確かに、少しでも傷を付けれたら、開放するとのことだった。
だがそんなことをヨルダウトが守るかは別の話だ。
「ふむ。確かにそんなことを言ったな」
「なら!」
「だが断る!余は楽しい!人間という弱い種族ゆえに群れ、知恵を振り絞り持ちうる力を持って余に向かってくる。普通の者がそんなことをやったとしても、余には届かんからな。オーウェンよくやった」
「はっ、ありがとうございます」
壁際に控えていたオーウェンがその場で跪き礼を言う。
しかし、そんな茶番と言えるやり取りに付き合ってやるほどここに集められた者たちは余裕がない。間近でヨルダウトの力を見てしまったからだ。
「そんなことより!」
「確かに言った。言ったが断わるとも言ったぞ。お前たちは、勇者の前にもう少し遊んでもらうぞ」
「くっやっぱり嘘だったか……!」
バックステップで、後ろに下がり、魂砕きを構える。
「ただの人間ならその短剣一刺しで死ぬだろうが、余は、不死王ぞ!その程度の攻撃痛みすらも感じぬわ!」
苦しそうな声は、ただの演技だった。
人間に少しでも希望を感じてもらうためだ。
希望を感じてからの絶望は別格の味だ。
「はあ!」
壊れない壁を使いながら、移動する。壁を蹴り、徐々に速さを上げ、最初の頃の約3倍の速さにまで到達した。
「これで!」
「これで、どうした?」
逆手に持った短剣を指で摘まむように止められた。
動きが止まったその腹に貫手を喰らわす。
「ごぷっ」
「人間とは、脆いな」
後ろに回ったチャイリーが剣を振り下ろす。効かないとしても、攻撃し続けるしかないのだから。
「そろそろ、うざいな。雑魚はもうよい。『黒糸千陣』」
黒いとても細い糸が右手の五指から飛び出る。一本一本が意思を持っているかのように蠢き、チャイリーに触れる。
「くっ……この程度ッ……」
「チャイリーッッッ!!!」
黒糸の一本に触れ切れたところから、パックリと真っ二つに裂ける。
次の瞬間には、他の黒糸が無尽に動き、残りの肉を裂く。
そのまま、人差し指をクイッと動かす。糸が地面を伝い、団長の体を切り刻む。
「残り、4人……か。お前たちはどうした?来ないのか?」
「俺は、周りに人がいると邪魔で本気が出せないからな」
「俺もだ。それに、お前を倒すには、生半可な魔法では無理と見た。なら強力な魔法で一撃で沈める!」
一人は格闘家。一人は、剣士。残り二人は、魔法師だ。
「御託はいい。かかってっ」
「はっ!」
正拳突き、手刀による斬撃。ヨルダウトの体だからこそ出来る攻撃。背骨を掴みぐっと力を入れる。空いている手で、肋の一本を執拗に殴りつける。
「おらあああああああ!!!!!」
最後に、回し蹴りを首に喰らわす。
ドスンッと蹴りではあり得ない音がし、少し、5mm程ヨルダウトの立ち位置が最初の場所からずれた。
「おお、中々の攻撃だな。次は、余の番か」
「うぐっ、がはっ……んなろっがっ!?」
ヨルダウトは全く同じ攻撃をする。
されたことをそのままやり返された格闘家は、あまりのステータス差に反応出来ず、肉を削がれ切り裂かれ、砕かれる。そして、最後の回し蹴りで、首を蹴り砕かれる。
「ふぅ、こんなものか。体術か……アシュエルもやっていたが、体の動かし方が分かっていれば、真似するのは容易い」
「『炎の爆発』!」
爆発がヨルダウトの顔面を覆う。
「なんだこの温い温度の炎は……炎とは、こういうものだ」
ぽっぽっぽっぽと、白い炎が現れ、魔法師に飛んでいく。
魔力障壁を張るが、僅かな均衡すらなく、熔けてなくなる。
「うわあああああ!!!熱い!あつ……い……」
一瞬で肉が溶け落ち、骨も残らず少量の煤を残して消えた。
「火力が低かったか。まぁよい、次だ!」
それから、残った二人も攻撃しだしたが、あっさり殺されだ。
その時間、30秒。
魔法も派手なだけで、中身が伴っていない。ヨルダウトからすれば張りぼてのような魔法だ。振り払うまでもなかった。
「我が主、楽しかったでしょうか?」
「ああ。途中の連携はよかった。余の魂に直接攻撃出来る武器をもっていようとは、驚いたぞ」
「それは、よかったです」
人間は弱いからこそ、強者に勝つために策を弄する。その努力は尊敬に値する。が、必ずしも努力が報われるとは限らない。
「次は、勇者だな。あいつとどっちが強いか、確かめるとするか」
面白い!
続きを読みたい!
と思ってくれた方評価して貰えると嬉しく思います!
☆☆☆☆☆を貰えるととても喜びます!お願いします!!!
そして、評価してくださった方ありがとうございます!