翁と『まり』
ある一人の孤独な老人がいた。
名前は早川裕二、75歳。二人の子供とは既に縁を切り、そして20年前に妻が他界してから、天涯孤独に暮らしている。
身長は160cm程で、顔は眉毛が長く、目は垂れ目、口ひげも上下伸ばしており、関羽さながらの髭の長さになっている。
髪、眉毛、髭の色はともに白色である。
そしてどうも人を寄せ付けない、そして寄せ付けにくい性格であるらしい。誰も彼には近寄らない。
ある一人の若い女性を除いて。
ある日のことである。
早川翁が杖をつきながら、スーパーで昼ご飯の買い物をして歩いていると、一人の女性とぶつかった。
「ちゃんと前を向いて歩きなさい」
翁は怒ったが、
「貴方こそしっかり前を見なさいよ」
そして、彼女は対抗した。そんな彼女は160cm程で翁とさほど身長は変わらず、髪は綺麗な黒で背中まであり、目はぱっちりとしており、鼻は通っていて、口は小さく、容姿端麗であり、誰がどう見ても美人である。
「なんだと!?」
「何よ!」
二人はがみがみ言い合った。
「君、名前は何という?」
「なんで貴方に名乗らないといけないのよ!?」
「仕事は何してる!?」
「仕事探しよ!?悪い?」
「そうか……」
「何!?」
「儂のとこで働かないか?」
「えっ??」
暫く彼女は止まった。
「な、なんで?」
「儂は今天涯孤独の身でな、年が来て家事がたいそうでな。家事をしてくれる家政婦みないな人を雇いたいのだ」
「……」
「儂に対抗するなんて、女房以来だ。気に入ったから声をかけたが、嫌ならいい」
翁は立ち去ろうとしたが、
「待って」
彼女は言った。
「分かったわ。雇って、いえ、雇って下さい」
「そうか。分かった」
「但し条件があります」
「なんだ?」
「家政婦はおばさん臭いので、メイドとして雇って下さい」
「何?」
翁は暫く考えて、笑った。
「冥土相手にメイドとは。良いだろう。メイドでも構わん」
「有難うございます」
「もう一度問う。名は何という?」
「林真理です」
彼女の名を聞くと、翁は目を見開いたが、
「真理……そうか、真理。いい名前だ」
そして彼は納得した。
そうして真理は彼の家でメイドとして働くことになる。
最初は彼女は失敗ばかりして、翁とは喧嘩ばかりしていたが、段々仕事が慣れてきて、メイドらしい振る舞いになっていった。
それから、三年の月日が経った。
「少し外出してくる。」
翁は出て行き、
「いってらっしゃいませ。ご主人様」
と真理は返した。
そして、5時間後に翁は帰宅した。
「ふう、今日も学会で疲れた」
「お疲れ様です」
翁はある大学の天文学の名誉教授である。
名誉教授なんてのは名ばかりだ、とよく口にしているが、お金のために講演や学会には時々出る。
「真理よ。少しこっちに来なさい」
「はい」
「もう、お前を雇って三年になるな」
「はい。そうですね。ご主人様」
「子供達とは縁を切っているから、もう儂を見知っているのはお前だけだ」
「はい」
「儂の財産を全てお前にやる。だから……」
「はい」
「儂の妻にならないか?」
「……」
「儂にもう一度夢を見させてくれ」
「はい」
そうして、二人は結婚をした。時に早川翁78歳。林真理25歳である。
「済まない、真理」
「いいえ、大丈夫ですよ」
翁は少し足腰が弱くなっていた。
そして、結婚後、初夜。
「真理」
「はい」
「儂と一発しないか」
「もう、御奉仕ですね。いつまで経っても若いんだから」
「ふっ」
そして、二人の夜が始まった。
暫くして、
「ふぅ、ふう」
「はぁはぁ、大丈夫?」
「有難う。真理……おお、『まり』か。今からそっちへ向かうか……」
「有難うなんて柄にもない。それに私はここに……あなた、あなた?あなた!!」
後日。翁の葬式が身内のみで行われた。
享年78歳。
そして、6年後。真理は一人の少年と手を繋いで歩いていた。
「お母さん。お父さんは?」
「ん?お父さんはね、今もおそらで私達のことを見守っているわ」
有難うございます。
宜しくお願いします。