取られたくない
最近壮真の様子がおかしいと思った光希と達哉は、本を読んでもらった後に真広に相談すると、何やら思う所があったのか苦笑いを見せた。
これは何か重大な隠し事が……!と2人で対策を立てる。
結果、壮真くん探偵団なるものを結成し、中学が終わった後の壮真を尾行することとなった。
放課後宿題を終わらせ、お気に入りのポシェットにハンカチとティッシュと、困らないように……とお小遣いの500円を小銭入れに入れる。
両親には壮真くんの所に冒険に行ってくる!と言えば、夕飯までには帰るのよなんて呑気な言葉が返ってきた。
家の前で達哉と落ち合い、中学までの道のりを歩く。
小学校と公園以外あまり出歩かない2人にとって、中学までの道程は冒険に等しい。
駅前を通って暫く歩いた所が壮真の通う中学だ。
バスロータリーの横を歩いていると、駅近くにある本屋から壮真が出てきた。
パアッと目を輝かせ壮真の元に急ごうとしたものの、隣に壮真と同い年くらいの女の子がいたことに気が付き目を瞬かせる。
達哉に腕を引っ張られ、帰ろう……と言われるまで、光希は2人が並んで話している光景をじっと見つめていた。
トボトボと帰り真広に今日のことを報告すると、困ったような表情で2人の頭を撫でてくれた。
ポシェットを握り締め泣くまいとしていた光希は、その温もりに思わず涙が溢れる。
「やだぁ!壮真くんは光希と達哉のなの!」
「うん、そうだね。壮真も2人のことを大事に思っているよ」
大事に思ってくれている。それは分かっていても、それは幼馴染みとしてだけだ。
あんな風に2人で出掛けてくれる素振りなんて見せたことがない。
小学生と中学生の壁を感じ光希が泣いていると、連鎖したのか達哉まで泣き出してしまった。
「壮真は他、いっちゃうの……?」
「……大丈夫」
ポンポンと撫でてくれる真広は、一瞬目を伏せ2人に笑いかけた。
「2人が壮真を思ってくれてれば、大丈夫。ね?」
真広の言葉が静かに胸に響いていく。
うん……と頷き涙を拭っていると、玄関の扉を開き壮真が入ってきた。
泣いている光景にギョッとしている。
真広を見て、どうしたんだ?と問い掛けながら靴を脱ぐ。
そんな壮真に2人でしがみついた。
「おい、2人ともどうした?」
避けることなく2人の後頭部を撫でる壮真がやっぱり大好きだ。
そう思ってぎゅーっと抱きついていると、達哉が壮真に突っ掛かる。
「壮真!今日駅で女の子といただろ!」
「ああ」
「俺たちよりソイツが良いのかよ!」
「……は?」
意味がわかんねぇ……と呟く壮真の腕を叩き見つめると、おでこをピンっ!と弾かれた。
「少なくとも、俺が誰といようと関係ねぇだろ」
「むー!」
達哉みたいに突っ掛かりたい。
それか悪口の1つ2つでも言ってみたい。
そうは思っても、何のボキャブラリーもない光希が必死に考えて出てくる言葉は精々バカとかだ。
「バカじゃないし……お間抜けでもないし……」
成績優秀な人にとってバカやお間抜けなんて言葉は似合わない。
格好悪くないしたまに優しいし……と突っ込める所があるか探し、ハッと目を見開く。
「壮真くん!」
「なんだよ」
「この、靴下穴あきめー!」
「……っ!」
全員で下を見ると、壮真の靴下の片方の親指に穴が開いていた。
どうだ、悪口を言ってやったぞ!と意気揚々と壮真を見つめたものの、がしりと頭を掴まれ、思い切り締め上げられる。
「痛い痛い痛いー!!!」
「うるせぇぞ泣き虫光希!」
「泣いてないもん!」
「さっき泣いてただろうが!」
まあまあと宥める真広も達哉も、何だか笑ってしまっている。
罰が悪そうに光希を離した壮真は、靴下を脱ぎ恥ずかしそうに舌打ちをしていた。
女の子のことは全く解決していないけど、やっぱりこの距離感が大好きだな……と思えた1日だった。