天空のコウノトリ
壮真の家に遊びに来た光希と達哉にはお気に入りの場所がある。
それは母屋近くにある蔵だ。
中には昔ながらの遊び道具があり、コマや竹とんぼ等色んな遊びに興じれる。
それ以上に好きなのが、壮真の兄である真広が蔵書を読んでくれる日だ。
真広は病弱で良く咳をしている。
だから蔵の中はホコリやらダニやら天敵ばかりなのに、本を読むと落ち着くらしく良く一緒に蔵に入ってくれる。
壮真も兄と話すのが好きらしく、椅子に座り蔵書を読む姿を3人で眺める。
蔵書は整理してもしきれないらしく、適当に手に取った本は毎回違うというミラクルが起きる。
まあ、数えきれないくらい本があるのだからそれもやむ無しだ。
似たような蔵書も数多くあり、この間はこうだったけど、こっちの本では解釈が違う……というのもあるらしい。
「今日は……天空のコウノトリの話かな」
真広の声は小さいけれど、落ち着く喋りをしていてとても聞きやすい。
そして分かりやすく話そうとしてくれているから物語の情景が目に浮かぶ。
国語の教科書もこんな感じに思い浮かべれたらテストもバッチリなのにな……と思いながら、真広の話に耳を傾けた。
***
***
天空にあるお城にはコウノトリが住んでいる。
コウノトリは毎日毎日空を飛び、他の鳥たちと話す。
ある時コウノトリは一羽の鳥と出会った。
「この先にある家で赤ちゃんが欲しいって言っていたよ」
コウノトリはお礼を言ってその家を目指す。
コウノトリが窓から部屋の中を見渡すと、元気のない男女2人の姿。
2人の姿を観察していたコウノトリは、2人が赤ちゃんを心の底から望んでいたことを知り、天空のお城に帰っていった。
そしてもう少しで生まれそうな卵を1つ取り出し、大事に大事に布にくるみ、抱えて飛び上がる。
元の場所に戻り玄関前に布にくるんだ卵を置く。
そしてドアをノックしてその場から飛び去った。
誰かしら?と扉を開けた夫婦は、ピキピキっと割れる卵に驚く。
卵から出てきたのはそれは可愛らしい赤ちゃんで、2人は大事そうに抱え上げた。
それは天からの贈り物。2人は赤ちゃんを大事に大事に育てていきました。
「おしまい」
真広の言葉にほぅっと息を吐いていると、壮真が怪訝な表情を見せている。
「人間なのになんで卵なんだよ」
「子供向けの絵本だからね」
壮真は何に疑問を持ったのか分からない。
それは達哉もだったようで、なんで卵じゃいけないの?と聞いている。
その返しは予想外だったのか、壮真がたじろぐ。
「いや、それは……」
「さあ、この話はここまでね。私はそろそろ休ませて貰うよ」
にっこりと微笑む真広は、後はよろしく……と言って帰ってしまった。
その様子を忌々しそうに睨んだ壮真は、光希と達哉の頭を乱暴に撫でる。
「お前らはそのままでいてくれよ」
「何が?」
「なんでも」
2人で首を傾げると、壮真のクツクツとした笑い声が蔵に広がっていく。
こうして蔵書を読んでもらう時間は、楽しく過ぎていった。