幼馴染みはヒーロー
小学校が終わって宿題を終わらせれば、夕飯の時間までは自由時間がやってくる。
光希と達哉は一緒に宿題を終わらせ、両親に許可を得たらすぐに公園へと向かった。
公園のベンチにはいつもと同じように壮真がいる。
ここは壮真のお気に入りのようで、気持ちのいい風に辺りながら小説を読むのが好きらしい。
壮真は同じ中学校の女子に囲まれているようで、煩わしそうにしていた。
言ってしまえば壮真はかなりモテる部類だろう。
頭脳明晰で成績優秀。スポーツも出来て先生からの評判も上々だと光希の両親が話していた。
小学生でも付き合う付き合わないの話が出てくる今、中学の壮真の人気は更に高まるに決まっている。
ただ、そんな壮真を見るのは2人にとって面白くない。
何せ自分が大好きなお兄ちゃんを取られるような物だ。
むー!と頬を膨らませる2人に気が付いたのか、苦笑いをした壮真は、ベンチから立ち上がり2人に近付く。
「黒川くんどうしたの?」
「コイツらと約束してるから」
2人の頭をポンポンと叩いた壮真は、あからさまに睨んでくる人や、そうなんだーと言いながら去っていく女子達を見てため息を吐いた。
「面倒くせぇ……」
その一言で2人の気分は上々だ。
同い年の女の子よりも自分達を選んでくれた。
それが何より嬉しくて、2人で壮真に抱き付くと煩わしそうに引き剥がされる。
「で、今日もヒーローごっこか?」
「うん!」
幼稚園の頃から続けているのは2人くらいだろう。
でも身近に壮真というヒーローがいるのだから、いつまで経ってもヒーローから卒業が出来なさそうだ。
最近、ヒーローには新必殺技が出てきた。
達哉がやるレッドは腕に炎を宿し、その炎が猛獣になって敵を倒す。
壮真が担っているブルーは水の操り、海の動物の力を借りて敵を倒す。
そして光希がやるピンクは、背中から翼を広げ空を飛びながら敵を薙ぎ倒していく。
よーし!と滑り台の上に登った光希は、ピンクの必殺技を叫びながら滑り台を滑り降りようとする。
でも滑り降りる寸前で転び、滑り台の上でバランスを崩してしまった。
このまま行くと落ちてしまうと、悲鳴を上げて体を縮こまらせる。
「光希!」
舌打ちをしながら壮真が駆け出す。手を伸ばして必死に光希を掴もうとしたものの、間に合いそうにない。
このままでは怪我をしてしまう……と壮真も光希も思ったが、寸前の所で滑り台を登った達哉に助けられた。
腕を引かれ達哉に引き寄せられる。
「なにやってんだよ!」
「ごめ、ごめん……っ!」
ヒックヒックとシャックリを上げて謝る光希の体は震えている。
壮真はその光景を見て自身の腕を握り締め息を吐いた。
降りてきた達哉の頭を撫で、光希の鼻をぐいっと引っ張る。
「痛い!」
「落ちたらもっと痛かったんだぞ。お前はもう基地待機だ」
「えー!やだー!」
「やだじゃない。達哉良くやったな」
「うん!だって俺ヒーローだもん」
「ああ、お前は立派なヒーローだ。これからも光希を守ってやれよ」
「勿論!」
「そろそろ帰るか。ほら、ヒーローは泣いてる奴を助けなくちゃな」
「おう!行くぞ、光希!」
得意気にふんぞり返る達哉は、光希の手を引き歩いていく。
2人が先に歩く道。べそをかいていた光希はハッと目を見開き後ろを振り返る。
壮真は2人から少しだけ離れ、2人の様子を観察しながら歩いていた。
「壮真くん?一緒に行こう」
「汚い手で触らないなら良いぞ」
「涙は汚くないもん」
「はいはい。泣き虫さんの仰せのままに」
壮真を真ん中に挟んでの帰り道。
「泣き虫さんは壮真くんが慰めてください」
「泣き虫さんには暫く静かにしておいて欲しいんで却下です」
「むー!なんでー!」
「うわ、結局うるせぇ……」
「おー、壮真凄い。1発で泣き止んだ」
「関心してんじゃねぇよ。今度はお前がやれ」
「やだー!壮真くんがいい!」
「俺も慰められるなら壮真が良い!」
「クソうるせぇ。ついでに達哉は気色わりぃ」
怒る2人を見て笑う壮真。何でもない日常がとても幸せで楽しい。