ヒーローごっこ
公園内で小学生くらいの男の子と女の子が騒ぐ声が聞こえる。
声の主は山のような形の滑り台の上に立ち、指を天に向けた。
「俺たち!」
「私たちがいる限り!」
「悪には決して屈しない!」
ふん!と鼻息荒く告げると、小学生2人は勢い良く階段を降りる。
途中、ジャンプした男の子は正拳突きをして目の前にいるであろう敵を倒した。
同じくジャンプした女の子は、足蹴りをして敵を倒す。
「よぉし!これで最後だ!」
2人がいそいそと取り出すのは玩具の剣。女の子はカードを取り出した。
そして目を輝かせながらベンチに座っている人を見た。
ベンチに座っていた中学の制服を着た男の子は、ため息を吐きながら近寄る。
恐らく2人が入れたであろう玩具の剣をカバンから取り出し、男の子の剣と合わせる。
男の子がボタンを押すと、チャラララーっと電子音が鳴り出した。
女の子がカードを上に翳すと、チャージ完了!と剣が声を発した。
ブンブン!と剣を振るだけで、空想上の敵はやっつけられようだ。
男の子は満足そうに笑っている。
「大切な街を守る!」
「それが私たちの使命!」
「………3人力を合わせれば、向かうところ敵なしさ」
眉間の皺を深くして不機嫌そうな中学生は、少し恥ずかしそうに呟く。
キメポーズをする小学生2人と、恥ずかしそうに額を押さえながらも2人に付き合う中学生。
なんとも異様な光景だ。
一通り楽しんだのか、小学生2人は中学生の男の子に抱き付く。
「こら、達哉に光希。制服が汚れるだろ」
達哉と呼ばれた男の子は素直にはーいと言って離れたものの、光希は素直に離れない。
「壮真くん。ちゅーしてくれたら、離れるよ?」
「は、ガキにするわけないだろ?」
鼻で笑った壮真と呼ばれた男の子は、光希を抱き上げベンチに座らせた。
「ほら、そこ擦りむけてる。仮にも女ならキズ付けんな」
ポケットからハンカチを取り出し、カバンから取り出したペットボトルの水をハンカチにかける。
軽く絞り光希の膝にハンカチを当てた。
「あ、光希は基地のお姉さん役でいいんじゃね?」
「やだ!守られてる人なんてやだもん!2人と一緒に戦うの!」
現在流行っている戦隊物は、男2人と女1人の3人組が、警察と協力しながら街を守る為に奮闘するストーリーだ。
基地にいるのは新人警察官の女性で、いつも3人に守られている。
それなら戦うヒロインが良い……と思った所で、膝の手当てをしてくれている壮真を見る。
「壮真くんが守ってくれるならヒロインでも良いかも!」
「じゃじゃ馬がヒロインだって?達哉どう思う?」
「えー、無理だろ」
呆れたような声を出した達哉と、クツクツと笑う壮真に頬を膨らませ怒るものの、2人が楽しそうに笑っている光景が嬉しくて、光希も次第にニコニコと笑顔を見せる。
「絆創膏はねぇし……帰るか」
まだ帰りたくないと思っていても、壮真に手を引かれれば着いていくしかない。
左手を光希が繋ぎ、右手には達哉が。
3人並んで帰る帰り道は幸せ一杯だ。
公園から歩いて五分ほどで各々の家が見えてくる。
光希の家は達哉の家の隣……お隣さんだ。
そして壮真の家は……と自分の家の前に立ち前方を見る。
これぞ昔ながらの日本家屋と言うべきか。
広々とした家と庭が広がっている。
平々凡々な光希の家とは違い、達哉の家もそれなりに大きい。
更に大きいのが壮真の家で、蔵には秘蔵の書が沢山眠っていて、大事にしてくれるなら自由に読んで良いぞと、壮真の両親からも許可を得ている。
それを壮真の兄に読んで貰うのが大好きな2人は、週に二回ほど壮真の家に遊びに行っている。
年は違えど幼馴染み。
2人は壮真のことが大好きで、壮真も何だかんだで2人の面倒を見てしまう。
そんな関係が2人が生まれてからずっと続いている。