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哀しみの向こう側  作者: たい焼きと宝石
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8.シバという少年


(暇だな。)


戦闘中のシバをよそにそんなことを思う。

王都アルキリアに着くまで外の世界での戦いに慣れてもらおうと考えていたディオだったが、現状に既に飽きてきていた。

原因は同行者のシバにある。

彼は必要最低限のことしか話さない。

ここ数日は同じことの繰り返しの為必要性を感じていないのか一切言葉を発していない。

恐らくディオが話しかけなければずっと黙っていることだろう。

ディオはシバの戦闘を見ながらシバ本人に焦点をあてる。

髪は長い白髪で、今は紐で後ろに一括りで結っている。

白い肌の線の細い体に白い着物というゆったりとした布地の服で包んでいる。

履いている足袋はほとんど音を立てることはない。

しばらく5匹の狼とまるで一緒に踊っているように攻撃を躱していたシバだが、手に持っていた武器を横に一閃すると演武を終えた。

5匹の狼はその命を同時に散らしていた。

シバはしばらくその死体を見つめた後ディオのところまで歩いてくる。

戦闘後はいつもこうだ。

死体を見つめるシバは相変わらず無表情だがどこか悲し気に見える。


「前から思っていたんだがお前ってカッシュと全然似てねえな。

年も結構離れてるよな。」


「里でもよく言われた。

理由がないこともない。

兄上は俺と妹とは母親が違う。」


興味を持ったディオは暇だったこともあってシバに自分のことを教えてくれと言った。

意外にもシバはすんなり了承し、二人は道を進みながら話をする。


「俺たちの家は代々魂鎮めの技を受け継いできた。

里のまとめ役でもある。

理由は里の創設者の子孫だからだ。

とはいっても外の世界での身分みたいなものはない。

有事の際には俺たちの家が皆をまとめて対処するというだけだ。

大半の里の者は写魔と親和性が高い。

魂鎮めを行う者は親和性が低い者が選ばれる。」


「逆じゃねえのか。」


「親和性が高いと暴走した写魔と同調する恐れがあるからといわれている。

親和性については遺伝であるため、魂鎮めを行うのは家単位になる。

魂鎮めを行う家は定期的に管理の任につく者を外の世界に送る。

俺の家も例外ではない。

父上は当主を引き継ぐまでは外の世界で管理の任についていたんだ。」


「カッシュがこっちにいたのもそういう訳か。」


「そうだ。俺の家は幼少の頃から写魔のこと、魂鎮めの技その他いろいろなモノの教育を受ける。

基本父上と兄上から教育を受けたが、魂鎮めの技だけは父上からしか教わらなかった。」


希薄ながらも感情こもった表情をはじめてディオに見せつつ、シバは懐かしげに語る。


「父上は厳格な人だったが里の者に慕われていた。

笑顔を見たことはなかったが俺はそんな父上が誇らしく、そして好きだった。

だが兄上のことも好きだった俺は兄上からも魂鎮めの技を教わりたかった。

そこで父上に聞いてみたんだ。」




<父上。どうして兄上からは教えてもらえないのですか?>


<うむ。あ奴は外の世界で生を受けた。

外で育ったせいか、はたまた母親が違うせいか、魂鎮めの技がヘタクソだ。

あんなんではとても任せられん。

情けない奴だ。>


<兄上は母上から生まれたのではないのですか?どうして母 >


<シバよ!男にはやらねばならん時があるのだ!>


<あなた。ちょっと。。>


<う、うむ。シバよ。

今晩の夕飯は一人で食べなさい。

儂はカグラと話があるのでな。>




(ダメ親父じゃねーか。)

遠い目をしながらディオは思った。


「俺は本当は兄上に剣を教わりたかった。

断った時の兄上は絶望したような表情を浮かべていた。

剣を習おうとしたのもそんな理由もある。

アンタの話はよく兄上から聞かされた。

いつも嬉しそうに話をしてくれたよ。」



「そうか。」


「ちなみに管理の任につく者は外の世界で使われる名前を名乗る。

兄上の本名はカズマという。

でもこれは忘れていいと思う。

アンタが剣を教えた男は紛れもなくカッシュなのだから。」



「そうだな。」




「兄上に似てないという理由の心当たりがもう一つある。

兄上どうこうというよりおそらく俺の問題だ。

兄上が管理の任で外の世界へ行った後、俺は家でとあるものを見つけた。

当時の俺にはそれがなんなのかわからなかったが、兄上のいない寂しさからそれを遊び相手にしていた。

それは封印された一体の写魔だった。

写魔は人の感情を食べる。

普通であれば食べた感情を何らかの形に変換して食べた相手に戻して繋がりを作っていく。

しかし封印された写魔は俺から感情を食べれても戻すことができなかった。

そのことに気づいた時には感情が希薄になってしまったらしい。

黒かった髪も肌も白くなってしまった。」


シバは手をかざす。


「!」


「やはり見えているのか。模様の影響なのかな。」


「なんなんだ?そのちんちくりんは。」


シバの手のそばに妖精に似た黒髪の幼女が浮いている。


「ねえ、ねえ、この人エルのこと見えてるよ。

すごいね。シバ今どんな気持ち?

びっくりした?あたり?ひょっとしてあたり?」


「彼女はエル。封印されていた写魔だ。

里を出る時見に行ったらいつの間にか封印が解けていたんだ。」


「ってことは」


「ああ、食われた感情が少しずつ戻ってきている。」







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