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負けるな、ブサメン  作者: 音子
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人というのは怒りすぎると、言葉が出ないのだという事を、私は身を持って体験した。

 もし、感情で人を殺せるならば、目の前の男は死んでいることだろう。

 「そういうわけだから、頼むよ、リサ。レイラと会いたいんだ」

 不敬罪で捕まっていいから、この男を殴りたい、と私は切に思った。


 クロード侯爵がサナトリウムに行ってから1年が経った。

 レイラは公の場にはほとんど現れず、どうしても出席しないといけない催しには兄弟の誰かか、大公閣下にエスコートしてもらっていた。

 その時々に現れるレイラが、以前の近づき難い雰囲気が無くなり、どこか儚げな印象に変わったと言われるようになった。

 私から言わせれば、レイラの根本的なところは変わってないし、レイラの雰囲気が変わったのはクロード侯爵と婚約してからだったが、まわりはそう見えないようだ。

 クロード侯爵がいないことをいいことに、レイラに近づこうとする輩がちらほらと現れ始めた。だが、レイラは大公家の厚い壁に阻まれているので、レイラの友人という立場にいる私やその他の友人につなぎを取るようなことを頼まれたりした。

 当然誰も受けなかったけれど。

 

 私は王宮の管理をする部署で働き始めていて、王宮が職場になっていた。

 だから、私に一番コンタクトを取りやすかったのだろう。ある日、仕事が終わり帰ろうとしたときに、声をかけられた。

 王太子殿下だった。

 ものすごく顔に出ていたのだろう。殿下は苦笑していたが、それでも有無を言わさず私をサロンへと誘導した。

 「折り入って頼みがあってね」

 椅子に座るなり、殿下は早々に口を開いた。

 お断りします、と言えないのが私の悲しい立場である。

 「レイラと話したいんだ」

 「・・・なぜ私に?」

 「それは、キミも知っているだろう?叔父や従兄弟たちが会わせてくれないんだよ」

 「大公家が会わせないのだから、私には無理ですよ」

 「キミが呼び出せばいいと思うんだよ」

 あぁ、なんで私は準男爵なんだろうか。

 この男を殴ったら、職を失うんだろうか。

 「レイラは殿下に会いたいと思わないと思いますけど」

 「それは・・・お互い誤解を抱えていただけだと思うから、それが解ければ、問題ないと思うよ」

 誤解?誤解ってなんだ???

 私の顔が更に凶悪になったのだろう。殿下が口早に言い訳を始める。

 「確かに、私がレイラと婚約しつつアリスに心が浮ついたのは悪いと思う。けれど、それだけで疎遠になってしまうのもどうかと思うんだ。この先レイラも私が王となったら支えてくれる人の一人となるわけだし」

 「はぁ?」

 つい言葉が漏れてしまった。

 だが、殿下には聞こえてなかったようだ。セーフセーフ。

 しかし、どんな思考回路何だろう。殿下は賢王になるとまで言われた人だった気がするんだけど???いや、殿下はきっと元からこんな人だったんだ。それを、レイラが上手に持ち上げていたんだ。

 「レイラが言ってくれれば、すべてうまく行くと思うんだ」

 何がうまく行くんだよ、と心の中でツッコミを入れる。

 「レイラには、ちゃんとした婚約者を紹介してあげるし、アリスも仲良くして良いと言ってる」

 「レイラは、クロード侯爵と婚約されているし、侯爵が戻ってきたら結婚すると思いますけど」

 「だが、侯爵は無事に戻ってくるとも限らない。今まで近くにいすぎて分からなかったが、レイラは優秀だ。その優秀さを私とアリスを支える事に注力してほしいんだよ。それに、最近のレイラは元気がない。やはりすぐそばで力になってくれる人がいいと思うんだ。バレッタ伯爵とかどうかな」

 呆れて言葉も出ないってこういうこと言うんだ。身をもって体験してしまったよ。 

熱弁してますけどね、殿下。レイラが優秀だったなんて、だれーーーーもが知ってた事よ。それにバレッタ伯爵との婚約をレイラが喜ぶとか思ってるの?なんなの?この人ホントに王になって大丈夫なの?馬鹿なの?いや馬鹿だよね?

「両殿下は何とおっしゃっているのですか」

流石に両親に進言してるよね??

「うん・・・まぁ、いい返事が来ないから、直接レイラと話したくてね」

あ、そうですか。はーそうですか。

「レイラは、クロード侯爵を裏切らないと思います」

「だから、クロード侯爵とは結婚しなくていいんだよ。あれはちょっとした誤解で」

「誤解など無いと思います。レイラはクロード侯爵と相思相愛です」

「あんな男、レイラに似つかわしくないだろ」

うわー。

「あの男との結婚はちょっとした悪戯で私が言い出したことなんだ!だから、結婚なんてしなくていいんだ!それが分かれば、レイラだって私に感謝をする。レイラは責任感が強いから、父の命令に従っただけだ!」

「それこそ誤解だな」

第三社の声に、私と殿下は声の方へ顔を向けた。

そこには、大公家の三男リカルド様がいた。レイラと同じ碧の瞳が呆れと怒りに揺れている。

「アレックス、良く考えて見ろ。レイラの意に沿わないことを、叔父上伯母上父上母上がするわけがないだろう。ましてや、俺の家やリオル大公家、レベイ大公家を含めだ」

「だ、だが・・・。それなら、なぜレイラはあんな男と婚約なんか・・・」

「レイラが望んだからだよ」

「え・・・なぜ・・・・」

「お前がアリスとかいうアホ女と結婚したいとレイラとの婚約を解消した時、どうして誰も何も言わなかったと思う?」

「それは・・・私が王太子だから・・・」

「あほか。お前の他に継承権を持った奴があと何人いると思っている。その中で紅一点だったレイラがどれだけ可愛がられていたか。そんな中で、お前が何もなくいられたのは、レイラが望んだから、なんだよ」

「望んだ?」

「そうだ。レイラが、何もするなと。自分が引けばいいからと。醜聞からお前らが始まるのはよくないから、と。それなのに、お前とバカ女は罰だとか言ってクロード侯爵との縁談を持ち出した。その時、お前ホントに存在消されるところだったんだぞ」

ヒュッと殿下が息をのんだ。

「けれど、レイラはそれすらも受け入れた。レイラはクロード侯爵を以前から知っていたんだそうだ。お前とバカ女が何事もなくいられたのは、すべてレイラのおかげだ」

「でも、次はきっともう、ないでしょうね」

私のちいさなつぶやきが、部屋に響いた。

「あぁ、その通りだ。アレックス。お前達がレイラが関わることは金輪際ない。まわりが許さない」

「だけど、今のままではアリスは試験に受からない。それだと私は王になれない。レイラなら、どうにかしてくれるはずなのに」

あぁ、と私は王位継承の条件を思い出した。

これは、法律の授業で習う。


一、王位の継承権は現王の長子から第一位とするが、条件を満たさなければ継承を次の者に移す。

一、王位継承権は男子を優先とし、その後に女子とする。

一、王位継承する者は、伴侶もしくはそれに準ずる者が王族に連なる為の試験に受かっている事。

一、王位継承権を持つものは、伴侶に試験を受かった者しか伴侶にしてはならない。

一、現王が退位する際、伴侶もしくはそれに準ずる者が試験に受かっていない場合、その者は継承権から外れる。


だいたいこんな感じだったかな。

あとは継承する人が全然いない時にイレギュラーなところとかも細かくあったけど、今は継承権持ってる人たくさんいるしね。ってか、アリス、どんだけ頭悪いんだろう。もう何度も試験受けてるよね?

 「陛下は来年退位なさるそうだ」

 えっ、と私と殿下が声をあげた。

 「お前が次の王になるためには、あのバカ女が試験に受かればいいだけだ。お前が選んだんだろう?最後まで面倒みろ」

 殿下は顔を青くし、口をパクパクとさせたが、何も言わずに足早に去って行った。

 十中八九、王位は別の人が継ぐだろう。だけど、自業自得というものだ。

 まーもしかしたら?アリスが受かるかも?しれないしねー。あはは。

 「ありがとうございました」

 私は立ち上がるとリカルド様に頭を下げた。

 「最近あいつの動きがおかしかったからね、キミに目を配るよう言っていたんだ。まぁ、アホだと思ってたけど、ホントにアホだったな」

 そうですね、とも言えないので、私は曖昧に笑っておいた。

 誰にでも、間違いはある。

 だから、殿下がレイラを振ってアリスを選んだことは、まぁ、若気の至りなどとか言えたかもしれない。

 だけど、その後の対応が悪すぎた。

 もしかしたら、ただアリスを選んだだけで、円満に婚約を解消していてレイラに敬意を払っていたら、その後もレイラは2人を助けたかもしれない。

 全ての物事には結果がある。

 選んだのは、殿下なのだ。

 


 それから半年後、即位式が行われた。

 次に即位されたのは王位継承権第5位だったレベイ大公家の次男、エリオット様だ。エリオット様には既にお子がいらっしゃるので、そのお子が王太子となった。

 戴冠式が各国の招待客と自国の高位貴族が見守る中行われる。

 その様子はテレビ中継され、新たな王が挨拶するのを国民は見守っていた。

 私はというと、王宮管理の職場なわけだから、それはそれはもう死ぬほど忙しくて。戴冠式の2か月前から不眠不休の状態だ。

このあと、晩餐会が行われ、祝賀パーティーへと移行する。

正直ボロボロだったが、来賓の方々にそんな様子を一ミリとも見せられないため、同僚

一同栄養剤を飲んで黒いスーツを身にまとい、きっちり仕事をこなす。

ようやく祝賀パーティーへと会場が移り、どうにか私がいる部署の仕事は一段落ついた。

「リサ、祝賀パーティーの準備をしなさい」

上司がようやく腰を下ろして茶を飲んでいる私に言った。

「え、そっちは別の部署の仕事かと」

「出席の準備ですよ」

えー・・・・。なんで知ってるの、招待状来てたこと。隠してたのに。

「でも、ドレスも何も準備してないのでー」

「大丈夫、準備しておいたから」

リカルド様登場的な。

何この展開。

「ほらほら、早くしなさい」

上司に促されてしょうがなくリカルド様についていく。

通された部屋には侍女が待機していて、着せ替え人形になった私。

するとまぁ、なんということでしょう!無理やり隠していたクマとかが、綺麗に消えました!髪もつやつやしてます!バストもアップしてます!!大公家の侍女さんたち、仕事ができますねぇ!!

なーんて現実逃避してましたよ、はい。ビフォーアフター素晴らしいです。ははっ。

そんなこんなでパーティーに引きずられていく私。

ちなみに、リカルド様のパートナーを務める事になってしまったのは、元王太子を追い払ったお礼をよこせとのことで。でも私仕事なのでーって逃げた気がしたんだけど。しょうがない。 

リカルド様はまだ決まった相手がいないから、他国の女性からも人気が高い。まー女除け的な感じよね。こうなったら壁ぐらいにはなろうと思いますとも。

 

 そんなこんなで会場に行くと、すでにパーティーは和やかに始まっていて、ワルツを踊る人や談笑を楽しむ人たちで溢れていた。

 「レイラにダンス申し込んでる奴がいるな」

 リカルド様の言葉に、私も同じ方向を見る。

 大公夫妻と一緒にいるレイラにダンスを申込む男の背中が見えた。

 顔は見えないが、この国の人ではないだろうと思う。大公夫妻の前でダンスを申込むとか、命知らずすぎる。それに、レイラはクロード侯爵がサナトリウムに行ってから家族以外の人とダンスを踊らないのは、今やこの国の貴族は誰もが知っていた。

 レイラが断ったらレイラのところに行こう、とその様子を見ていると、レイラはダンスを申込んだ男の手を取ったのが見えた。

 「!!」

 私もリカルド様も衝撃の光景に驚きを隠せない。

 「あの人誰ですか」

 「わからない」

 「リカルド様、行きますよ!」

 私はリカルド様を引っ張ってダンスフロアと向かった。

 普通、男性から申込んで女性はエスコートされるんだけど、そんなの関係ねぇ!とばかりにリカルド様よりリードしてダンスを始めた。

 リカルド様もレイラのダンス相手に興味があるらしく、踊りながら2人近づいていく。だが、私たちと同じ思いの人が少なからずいるようで、中々近づけない。

 目がいいのが取り柄な私はリカルド様そっちのけで男を凝視した。

 背が高い。顔は・・・普通。少し気弱にも見える。酷く緊張しているのか、変な笑いを張り付けている。

 髪はダークブラウンで目は橙、だろうか?その辺に居る人すぎて特徴がない。

 「誰かわかったかい?」

 リカルド様に聞かれて私は首を横に振る。

 一応、招待客の中で偉い人たちは頭の中に入れている。だけど、その中に居なかったと思う。

 そうこうしているうちにワルツが終わり、踊っていた人は一度解散となる。

 私は速攻レイラのもとに向かって、相手が誰かを聞こうとしたのだけれど、更に衝撃の光景を目にすることとなった。

 レイラが男と二人で庭園へと出たのだ。

 そこから私は素早く会場を抜けると二人の後を追った。

 リカルド様はどうしたのかって?知らないわ!


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