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私の名前はサラという。
一応貴族席にあるが、準男爵という、まぁ、ないよりあった方が結婚に有利?(一般人とに限る)という感じだ。
そんな一般人と対して変わらないのに、私は大公家の息女、レイラと仲が良くなった。
レイラはいつも人に囲まれて、女王様状態で、私は接点なんてないから普通に暮らしていたのだけれど、小学校で係が一緒になったのが始まりだったと思う。
その係は、学園でも私とレイラしかいなくて、必然的にその仕事をするときは2人だった。
すごくきつそうな子だなぁと思って敬遠していたけど、付き合っていくうちになんか馴染んだ。
仲良くなるうちに、取り巻きがいるのが窮屈に感じる事があることや、つまらない妬みやキツイ物言いから我がままだとか、陰口があることも知った。
レイラは、自分が親兄弟、親類に非常に溺愛されているのを知っていたから、自分の発言にはとても力があることを知っていたし、溺愛されているからこそ、それをうまく利用して立ち回り、自制していたりもした。
思えば、まわりが甘やかし放題だったのに、レイラは本当に足るを知るという人間に育ったことが不思議でしょうがなかった。
そのことを大きくなってから聞いてみたら、あなたのように友人に恵まれたからよ、なんてこっちが恥ずかしくなるセリフを言われたりもした。
レイラと仲良くすることで、当然私にも嫉妬が来たけれど、私も勝気でレイラと負けず劣らずな性格を持ち合わせていたので、適当にあしらった。
15歳になって、レイラが殿下と婚約を結んだ。
今時、王族だってこの若さで婚約するのは珍しい。だけど、両陛下が強く望んでとのことだったし、レイラは王妃になるにはその資質をとても持っていた。
殿下と婚約してから、レイラは本音をあまりこぼさなくなった。私とか、仲のいい子たちといる時ぐらいはこぼしたりしたけれど。
それに、前以上に物事をしっかりと見据えて、凛とした対応をするようになった。
それは、多くの人間が憧れを持つほどだった。
一つ上の殿下ともうまくいっているようだったし、誰が見ても理想の2人だった。
レイラは催物をよく主催したし、殿下をいつも立てるようにしていた。いつも、内助の功だなぁと感心していた。
取り巻きたちともうまく付き合っていたし、妬みや嫉妬なんかとも折り合いと付けていた。
天は2物を与えるものだなぁなんて感心した。
そんなレイラが、私といると少し子供っぽくなったりするのがうれしくもあった。
それから数年が経ち、大学に入った頃だった。
私は、王立のどこかの施設で働こうかなぁと思っていたので、大学に通っていた。
別に大学は通う必要もなかったけれど、うちは一般家庭より、貴族席にある分少々裕福程度だったから、大学へ行く余裕もあった。給料のいいところに行きたいから大学に通うというその程度だった。
職場で同じレベルの人と出会って結婚できればいいやとか、そんな感じだった。
レイラは、王妃になるためにあれこれと勉強していた。
そんな中、子爵家のアリスが現れた。
アリスは私たちの1つ下で、高校は違うところを通っていたので大学に入るまで知らなかった。
アリスは、殿下に近づいていった。誰の目からも、殿下狙いであることは明白だった。
そんなアリスを横に並ぶことを許している殿下にもびっくりした。
でも、殿下や殿下の側近たちからすると、アリスは思慮深く、遠慮がちで、優しく、慈悲深い。とのこと。
男から見るのと女から見るのとではこんなに評価が違うのか。
レイラは当然いい顔をしなかった。何度か進言もしたようだったが、殿下がレイラよりアリスといる時間が長くなっていく。
心無い人が、レイラを陰で笑う。
そんな中、アリスがレイラに宣戦布告ともとれるようなことをした。
レイラよりもレイラの周りが黙っていなかった。特に女性陣の憤りがすごくて、抑えるのが大変だった。
いつもなら、レイラも適当にあしらうのだが、ちょっと意趣返しをするということで収めた。
女同士の戦いだ。喧嘩を売られたら泣き寝入りなどということはしない。時にはどちらが上かを知らしめなければならない時もある。
男性にだって、そんな戦いはあると思う。
上流階級では、日常のある1コマと言ってもいいぐらいだった。
だが、アリスは殿下に泣きついた。そして、殿下はレイラを責めた。アリスのしたことを「しょうがない」で収めておきながら。
「リサ。わたくし、もう疲れてしまったわ」
授業をさぼらせ、レイラを無理やり海へと連れ出したとき、レイラがぽつりとつぶやいた。
私は、正直に感想を言った。
「浮気野郎なんか捨てて、次に行けばいいじゃない」
風がビュービューと吹き荒む、真冬の海だった。
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その後、レイラと殿下の婚約が解消され、アリスが次の婚約者になった。
レイラはわがまま令嬢でアリスに嫉妬して婚約を解消されたという噂が蔓延していた。レイラはそれに対して何も言わなかった。
だけど、婚約者が他の女にうつつを抜かしているのを責めて何が悪いのだろう。本当に腹が立つ。レイラが黙秘してるから、私も友人たちも黙秘したけど。
それから殿下は卒業をして、私たちは一つ進級した。アリスは、同じ大学が嫌だったのか知らないけれど、殿下の卒業と同時にいなくなっていた。中退したのか、別の大学に行ったのか。どうでもいいけど。
まぁ、女友達もいなくて、かばってくれる殿下たちがいないなんて、耐えられないものね。
それから少しして、王宮へ王立機関の書類案内を取りに行った時だった。
殿下の取り巻きの一人、グリッドと会った。グリッドは私を見ると、お茶でもどう?と聞いてきた。こんな奴とお茶など、と思ったが、なんか何かを言いたそうな、面白くてたまらないというような、そんな顔をしていたので、お茶をすることにした。
こういう王様の耳はロバの耳と言いたい奴は情報を得るには丁度いい。
言い方を変えると、こんなのが殿下のそばをうろちょろしてるとか大丈夫なのか、とも思うが。
「ねぇねぇ、知ってる?」
「何を?」
もう、言いたくて言いたくて仕方ないって顔をしているのに、えーどうしようかなー教えちゃうのもなーとか言っている。
ものすごくいらっとくる。
「内緒にしてくれるなら言ってもいいかなー。ふふふ」
イライラするのをこらえて、話を促す。
「公女がさ、クロード侯爵と婚約決定だってさ」
「クロード侯爵・・・」
言われて最初に思いついたのが、クロード侯爵家の長男、リヒト様だった。でも、確かリヒト様は爵位を放棄したはずだけど。
私が思いを巡らせていると、グリッドが嫌な笑顔で言った。
「リヒト殿じゃないよ。次男の方」
次男と言われてまったく思いつかない。いたっけ、次男。ってか侯爵ってことは爵位ついでいるってことよね。でも全く見たことが無い。
「俺らの2個上で、大学では一応一緒だったんだよ。もーすんげー不細工なやつで。太ってて、暗くて」
面白くてたまらないとでも言いたげなグリッドにどこがおもしろいんだと、睨んでしまった。
だいたい、大公様がその縁談を受けるわけがないじゃない。
「そんな怖い顔するなよー。もうこれ、王命らしいよ。ははっ。意地の悪いことばかりするからこんな事になるんだよ。あーかわいそ」
私は紅茶をグリッドの頭から飲ませてあげると、席を後にした。
その後、本当にクロード侯爵との縁談がまとまったとレイラから聞いた時にはなんと言っていいかわからなかった。
だけど。
「ねぇ、リサ。男の人ってやっぱりかわいい感じが好きよね。ふわふわのドレス、私は似合わないのだけれど、どうしようかしら。こっちの方がまだ優しい印象を受ける?」
「ねぇ、リサ。はちみつパンを買いに行きたいんだけれど、知ってる?」
「ねぇ、リサ。閣下を怒らせてしまったわ。私ってやっぱりダメなのかしら・・・」
「リサ!今度デートすることになったの。でも、デートってどうしたらいいの!?」
「教えてリサ!アニメで流行っているのは何?」
「うふふ、聞いてリサ。最近閣下ととても仲良くなったの」
レイラが、会うたびにクロード侯爵の話をする。
しかも、嬉しそうに。頬を染めながら。まるで、恋する乙女のように。
正直、最初は自暴自棄になってるのかと思った。私も、友人たちもどうしていいかわからなかった。
だけど、レイラがあまりにも楽しそうで。それに、どんどん雰囲気がやわらかくなっていって、もしかしたら、これはこれでよかったのかもしれない。そう思うようになった。
友人の一人が、後の王妃という重役を降りたのも良かったのかもしれないと言っていた。
確かに、レイラほど王妃という役に当てはまる人はいないだろう。王妃教育を受けていたからというのもあるけど、それ以上のものが無いと王妃などやっていられない。
王を支え、王が倒れた時には自らが立たなければならない。
レイラはきっと完璧に王を支える。殿下を今まで支えていたように。
だけど。レイラは完璧であろうとする人だった。その為の努力を惜しまなかった。きっと、それは知らず知らずのうちにレイラを追い詰めていたのかもしれない。
友人はそれに気づいていたのかもしれない。
友人の言葉に納得して、レイラが幸せならそれでいいのだと思った。
ある日、いつものように集まったとき、話題は王家主催の夜会の事になった。
みんなのところに届いていて、王家主催と言っているが実態はアリス主催のようだった。
必ず行かなければならないわけでもない。みんなの心の中には、欠席の文字が浮かんでいた。
「わたくしと、ヨシュアのところにも届きましたの。わたくしの招待状には『新しい婚約者を是非紹介してくださいね。 アリス』とありましたわ」
全員が、片眉をピクリと上げた。
「わたくし、参加致しますわ」
紅茶を置いて、微笑んだレイラを見て、私たちはごくりと唾をのんだ。
艶やかに、そして不敵に笑うその顔は、私たちでもほとんど見たことが無い。
背中がぞくりとした。レイラは受けて立つのだ。
「守備は?」
「もちろん、上々でしてよ?」
戦の準備をしないといけないわね。誰かがそういうと、戦闘の準備に取り掛かかるため解散した。
レイラは優雅にお茶を飲んで、微笑んでいた。
あぁ、夜会が楽しみだ。