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セラヴィー  作者: 零時
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日本家屋の縁側で通信対局の碁を打つ


鱗雲のかかった薄青のそら

風が吹いてふわっと前髪が上がる


いやー、平和だね


なんか空気、いや時空的なものが裂けて黒い羽と角を生やした人間的なものが出てきたけど



「.......で、キミ何なのカナ?」


語尾が自然とぎこちなくなるのも仕方ない。


何もクソも化け物の類いにしか見えない、突然俺んちの庭に現れた不審者は問いに対しひょいと眉をあげた


「.............」


「...........」


「....................」


言葉通じない、喋れない、喋る気が、ない?


唇を吊り上げるのをやめれば、後はスゥッと細めた目がのこる



「.....飼育費月でどれくらいかかるかな..」


「...いきなり何を言っているんだ」


「へぇ、喋れるんだ」


にやにやする俺に悪魔(仮)の顔面の筋肉が動く


(言葉に表情の変化もか....)


異様な容貌だけれどキチンと“人間”だ


これは飼えないだろう


こんなモノを本気で欲しいとはその実一ミリたりとも思っていなかったが、ストンと落とされたようながっかり感に普通に舌打ちした、



ゴッと全身に音が響く

キー...ン耳鳴りがとまらない

頭で知るより全身が叫んだ


あ、死ぬ


全て静止した。



「.....何故、動かない」


「.......はぁああァ」


「何故.....」


「生きてることを実感するのに忙しいから話しかけなるな」


体制が変わっているが、これはオレが動いたからではない。文字通り、オレはせいぜい目を見開く程度しかできなかったはずだ


ビシャァッと赤い染みのはねた天井を見つめながら呟く


「っ即死.........」


「の直前に回復させた」


「わぁ、イミフ」


人智越えていやがる

もうね、喉の奥から笑いが込み上げてきた


「.............?」


「感覚的にはからだ爆発してたんだけどさぁ復活させたの?」


「いや、生き返らせることはできないから、その直前に」


「直前も直後もなく0時間差で死んだと思ったよ」


「.........障害でもあるのか」


??どういう? ああ、そ。


「ねーよ。そもそも“何故動かない”ってさ....動かないんじゃなくて動けないんだ。何が起こったのかもすらいまだにつかみきれない。」


「......おまえに戦闘能力はないのか」


「そういう表現使う?あ〜ないね。ない。あきれられても困る。鼻からそういうの無理」


知らないけど、多分コイツに取って戦闘能力がないとか、咄嗟に防御する反応ができないやつは、普通じゃないんだ



「.........おまえは気持ち悪い」


ずっと寄った悪魔の白目の部分は真っ暗だった


「死にかかり、いや、一度殺されたのにそこから何も考えていない。身を守ろうとする必死の意思が感じられない。生き物なのか?」


言わんとすることはとてもよくわかる


「今時オレみたいな無気力系の若者なんて沢山いるさ。オレみたいのは珍しくもない。子供は必死にならなくても、夢も目的もなくても衣食住まわりが用意して生かす、そして大人になる。生きようとするよりもただなんとなく生きている方が当たり前なんだ。」


ぶっちゃけ今更命のピンチが来てもどうしたらいいか分からない。オレの場合それだけじゃないけど


「それだけじゃないとは」


「オレのこと気持ち悪いのに、そんなに聞いて不愉快にならないわけ?」


「怖いもの見たさだ」


(.........あ、ヤバイ説明するの面倒になってきた)


簡単にいえばオレがお金持ちすぎて、本来汗水たらして働く年齢でもグダクダ暇過ぎていろいろな感覚が呆けているだけなんだけど


オレは取り敢えずにっこり笑った


「ヒ・ミ・ツ(はぁと)」


「........(イラッ」


「ははっ俺ミステリアスしてるから、ごめんね」


しかし、オレの目の前にいるこの生命体は何処から来たのだろう。



(........気持ち悪いねぇ、鋭いな)


はっきり言って己をふくめ人間は醜悪だとオレは思っている。


生態ピラミッドの一番上を占めながら増長し、全てのバランスを崩して関係ない生物と母体である世界を破滅させようとしていることに、根っ子では罪悪感すら抱いていないのだから。


沢山の屍を足蹴に自分こそ世界で一番苦しんでいると哀れむ姿は他の誰よりも驕り高ぶっている。


しかしそれは、豊かさを追求していった結果で、生きるものから欲望が尽きることはないのだから知能を持つ生物が登場した時点で、いつかこうなることは運命だったのかもしれない


ともあれ日々努力し、その豊かさを享受している人と違い、オレは何もせずに生きてる。


そうしてオレが生きるだけで知らずに世界の一部が消費され消えていく。



金は存分にあるから生きることにはこれからも困らない。


金はある、喜びはない

金はある、好きな人はいない

金はある、日々の刺激もなく退屈だ


ワケもなく言葉にしきれない喪失感がまとわりついてオレの一部になった。


そんな人間だからコイツの“気持ち悪い”という感想も的をついてるな、としか思わない


いきなり悪魔(仮)がガシッとオレの頭を握った


え..、殺されるカンジ?


悪魔は囁いた


「......取引しろ」


「は......」


「オマエは、生きることに執着もなくただ何となく“何か起こればいいのに”と思っている」


「その情報は何処から?」


「見れば分かる」


断言。


人間だったら冗談か心理ゲームっといったかんじだか、悪魔は本気....事実を言ったみたいにさらりとしていた。


「俺とオマエの中身を交換したい」


うわぁスゴイ怪しくて意味わからん。


「ファンタジー急転直下すぎてとてもじゃないけど付いていけない」


「....いいや、オマエは言葉をかわす印象より頭がいい」


嗚呼。


本当は...感覚でだけどなんとなく理解できるしドキドキしている

怪しすぎて愉しいと思っている。


未知への興味で言い知れぬまとわりついていた空白が消える



薄く口角を上げ、刀みたいに鋭く長い爪の生える指の隙間まから、ツ..と目線を動かす。


「その羽って飾り?ホントに飛べるの?」




取引は成立した。




 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄



 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄



 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄



「.......って経緯があってね。オレは二重人格とかそういうアレじゃない」


「ぴゃ〜〜!!!」


カラスのヒナのような小さい生き物が興奮したように鳴く。とても可愛らしいがその嘴は鋭く魔物らしい。将来は立派な子に育つだろう。


「今のオレの体?ああ元気にしてるらしいよ。オレの財産を元に起業したらしい」


「ぴゃ〜?」


「ああダメ。お話を聞いたらねんねする約束だろ」


そういって浮かべた“笑顔”は普通の悪魔が顔に浮かべるものとは違い...そう人間の表情の作り方に近い


「....お休み」



彼らが眠るその傍らには黒い羽が落ちていた

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