多分ただのハンバーガーじゃないと思う
道を行く度、全ての罪なき男たちが振り返る。
緑茶ぶち撒け事件の後、幸か不幸かお互いに無かったことにしたいという思惑が重なり、平常を装いつつ、現状維持の体制を貫いて迎えた入学式。
二人並んで寮から高校へ向かうことになり、すれ違う男子生徒から二度見、三度見されていた。
桜舞う季節。
大抵の新入生は、どんな奴とこれから学生ライフを送るのだろうかと周りを見渡し、背高ノッポ、デブ、チビ、メガネ、平凡、あぁアイツはサッカー部、あれは野球部、と第一印象を浮かべて、声を掛けようかと迷うくらいだ。
しかし、たまに例外もいるだろう。
なぜ、ここに、お前が。みたいな奴が。
「な、なんか見られてるんだけど。わた…、お、おれ何かしたかな?」
ご存知、俺の横を歩くドジっ子美少年のことである。
「あー、あれは、アイツはどんなやつなんだろうっていう、新入生にありがちな視線だ。気にするな。」
嘘だ。正解は、なんだあの美少年は。という視線である。
「そ、そっか。お、おれもどんなやつがいるか気になるしな」
自意識過剰かな、と照れる美少年に、周りが目を見開く。ズキュウゥン。
一体、何人の男たちが禁断の領域に踏み入れてしまうのだろう。元々無い罪を感じ、神に相談してしまうかもしれない。
まさにベーコンレタス世界の幕開け。
妹の部屋に積み上げられた薄い本が教えてくれた新しい領域、禁域。
身近な友達に、生徒会のあいつに、軍艦乗りのあの人に。
様々なシチュエーションがあるが、中でも男だらけ場所に発生しやすい領域かもしれない。
興味本意で読み、世の女性はこういうのが好きなのかと納得した。
まさか実際に自分の周りで、それもすぐ側で起こるとは予想だにしなかったが。
妹よ、ありがとう。
お兄ちゃんは強く生きていけそうです。
あと、トモエがベーコンレタス好きでもいいと思うよ。
まさかうちの子が、とは若干思っちゃったけどね。
ごめ、痛、ごめんて!
「お腹、痛いのか?」
読んだのがバレたときのトモエのボディーブローを思い出して、お腹をさすっていると、俺の腰までしかない美少年が、大きな猫目を潤ませて見上げる。
途端に、禁断の領域に踏み入れてしまった者たちから睨まれた。
おい、待てよ、俺は被害者だ。
「いやいや、違うよ。お腹空いただけ。」
「朝あんなに食べてたのに。大食いなんだな」
あはは、と笑い合いながら、下駄箱にローファーを入れて、上履きを履き替える間に、外野が増えていく。
これが、美少年のちからか。
先が思いやられる。
そっとため息を吐けば、外野の奥から鋭い声が聞こえた。
「なぜ昇降口に溜まっている!それぞれ教室はあてがわれているだろう。さっさと移動したまえ!」
群衆の中から一際背の高い男子生徒が怒鳴っていた。後ろにも、何人か男子生徒が侍っており、彼がリーダーのようである。
顔立ちが整っている分、眉間に皺が寄ると迫力あり、気圧されてか、渋々新入生が立ち去って行く。
彼は指示になれている様子から、生徒会だろうかと検討を立てれば、横の美少年がブルッと震えた。
「どうかしたのか…?」
猫目を釣り上げる様子は、明らかに何かを威嚇している。
気になって美少年の視線を辿れば、生徒会らしき男子生徒に行き当たった。
嫌な予感がする。