多分試されてるんだと思う
ラッキースケベ。
幸運であり、エロチックな響きを兼ね備えた言葉である。
しかしそれは、目の前で胸元を緑茶で濡らした人物が、世間的に「女性」とみなされた場合のみ適用されるのであり、必ずしも「美少年」には使えないのである。
なぜなら、ここは全寮制の男子校であり、どんなに顔が「美少年」であろうが、濡れたワイシャツに透けたブラジャーが見えようが、「男」以外は存在し得ないし、していたら大問題だからである。
何が起こったのか分からなかった本人から目をそらせば、数分後にやっと自分の状態に気づき、美少年は慌ててお風呂場に走って行った。
緑茶が熱すぎてマグカップを掴み損ねたため、中身は飛び出し、美少年くんの制服にモロに被った為に起きた惨事だった。
おいおい勘弁してくれよ。どんだけドジっ子なんだよ。男装するならブラジャー隠せよっ!
もう何?何を考えてるのこの学校は。女子入れるなんてそんなことできんの?!
床に溢れた緑茶を拭きながら、女子を学校と寮に入れるのが可能な人物を特定する。
あ、理事長か。
普通だったらこの状況、いわゆる据え膳である。
だけど悲しいかな。彼女を襲う→何らかの形で理事長にバレる→俺退学のルートがありありと見える。
そしたら俺の苦しかった受験生時代は何になるのか、いや、なんにもなるまい!
なぜ、この青春真っ盛りの年に男しかいないむさ苦しい、しかも全寮制の高校に入ったのか!
簡単だ!姉たちからの解放だ!士農工商からの脱却だ!
顎で使われた毎日。触るのが恥ずかしくなる下着を干す俺を笑う女子大生、酒を飲めばまだ彼女はいないのかと絡み童貞!と叫び出すOL、駅で見かけて手を振ればゴミを見る目を返して来る女子高生。
様々な恐怖を植え付け、俺のメンタルを完膚なきまでにぶっ潰して来た我が家の悪魔たちに男装してるとはいえ、女子を襲ったとバレたら一体どうなるのか。
考えただけで全身鳥肌が立った。
これは無視だ。スルーだ。
16年間あの魔女に踏まれ、顎で使われ、鍛えられた俺の本能が呼びかけるんだ、惑わされるな、と。
そう、俺は見ていない。決してピンク色レース付きブラジャーなんて見てないのだとッ!!