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かわいいいきもの

『妹がいる』としか書かれていなかった妹回です!

主人公のメロメロ具合をお楽しみください!

 そんなことを考えていると。


「やっほ~、ジェラルドちゃん」


 母さんが水を入れたコップをお盆に乗せて姿を現した。その後ろには、妹のシエラもくっついている。


 二歳になってもまだ乳離れできないシエラだが、喋ったり歩いたりすることはもうできるようになっていた。


「あとはもう、おっぱいを卒業するだけなのにねえ」と時々母さんが苦笑しながら言っているが、今のところシエラがそんな母の期待にこたえることはなさそうだ。


「やっほ~、にいたん」


 にぱぁって笑う。

 超カワイイ。


 母さんが枯葉色の髪をしているのとはまた違い、シエラの髪は綺麗な栗色だ。鳶色のくりくりっとした瞳は好奇心を宿してよく動き、愛らしい口元では笑顔が輝いている。


 きっと、あどけない笑顔ってこういうもののことを言うんだろうな。

 見ているだけで、俺まで幸せになってくる。


「にーたん、にいた~ん」とか言いながらよちよち歩きでこっちまでよたよたと近寄ってくる姿は、守ってあげなければという庇護欲を掻き立てる。


 両手をこっちへ差し出しながら、右へよろよろ、左へよろよろ、ふらつきながらも近づいてくる様子は見ていて微笑ましい。


 こう、なんていうか、胸にこみ上げてくる温かさ、的な?


 その場にいるだけで空気が和むっていうか。ほんと、なんなんだろう。なんなんだろう、このかわいいいきものは。


 まじでちょうかわいい。


「シエラ、もう少しだ、兄ちゃんはここだぞ、頑張るんだ!」


 こちらへ歩み寄ってくるシエラに、待ち受ける俺の声も思わず熱が入る。

 軽く腰を屈めてシエラを応援していると、やがて彼女の顔が俺の胸元へぽすっと収まる。


 赤ちゃんみたいなミルクのかおり。


 うわあ、マジでちょうかわいいかわいい本気ですげえかわいい生き物だなコイツ。


「よーし、よくここまで来れたなシエラ! 凄いぞ!」


 盛大に褒めてやる。だって凄いだろ。二歳でこんなに歩けるんだぞ! しっかり俺のところまで来れるんだぞ!?


 これがかわいくなくて、他のなにがかわいいっていうんだ!


「えへー」


 にんまり。

 顔全体で笑う子ども特有の笑い方って、なんでこんなにとろけるようなんだろうな。


 ぎゅうってシエラを抱きしめる。

 ……うわあ、全身あますとこなくやぁらけえ……。


 なんていとしい生き物なんだろう。こうやって抱きしめたまま眠りてえ。


 こんな抱き枕発売されないかな。


「うー、にいたん、いたぁい」


「あ、すまん。強く抱きしめすぎたか?」


「んーん、もっとつよくてもいーお」


 だめだこれ。

 脳の回線切れそう。


 すっげえかわいい。さらに強くぎゅっとすると、シエラもぎゅうって抱きしめ返してきた。


 あー、コイツもうどこにも嫁にやれんわ。お兄ちゃんのお嫁さんになりなさいお兄ちゃんの。

 シエラのことは誰にも渡しませんからね。絶対だよ!?


 と、シエラを猫かわいがりしていると。


「はい、お水。今日は随分頑張っていたみたいね」


「あ、うん。ありがとう。……色々呪文試したかったんだよ。ちゃんと使えるように」


 もうあんな失敗して迷惑かけたくないからさ、と続けると、母さんは優しげに微笑んだ。


「そうなってくれると嬉しいわ。わたし、あんまり食べ物を粗末にするのは好きじゃないのよね」


「……うん。俺も、もう母さんの作った料理は無駄にしたくない。せっかく、めちゃくちゃおいしいんだし」


「あらあら。まだまだお子様なのにお世辞が上手になっちゃって」


「こ、子どもって言うな!」


 でもさ。母さんの作る料理はほんとにおいしいんだよな。

 あんなおいしい料理、前世では食べたことがない。


 確かに前世と比べれば味付けとかは薄いと思うし、こんな農村だから凝った料理なんか出てきやしない。

 それでも、料理の味は素材や調理方法だけがすべてじゃない。作った人間が誰かってことも、凄く大事だと思うんだ。


 あのあったかい感じはさ。家政婦が作った料理じゃ出ないんだ。


 だから、俺はそんなあったかい料理を無駄にすることはもう二度としない。絶対に。


「しえらもぉ~、しえらもおみじゅ!」


 密かな誓いを胸に立てていると、シエラが横から口を出してきた。

 シエラ姫はお水をご所望らしい。


「ああ、はいはい。俺のやつ、半分やるぞ」


 言いながら、俺は水の半分残ったコップをシエラに手渡す。


 すると、水を飲もうとしたシエラが、手元からコップを落としてしまった。コップからこぼれた水が彼女の服をびしょびしょに濡らす。


「あっ」


「あらぁ……濡れちゃったわね」


 思わず俺と母さんは声をあげた。


「仕方ないわ。シエラ、お着替えしましょ」


「いや、大丈夫。今すぐ乾かせるから」


 俺はそう言って、シエラの服の湿ったところに手のひらを向けた。


 すると母さんが、心配するような目を向けてくる。


「……ジェラルドちゃん」


「はい」


「シエラはスープとは違うのよ。スープとは違って、わたし達にとってかけがえのない存在なの。もし万が一この子をあんな風にしたら……分かっているわね?」


「しないから大丈夫だからちゃんと今回は安全だって保証するから!」


「本当ね?」


「本当だって!」


「信じるわよ?」


「保証するって!」


「間違いないのね?」


「間違いないない!」


「……本当ね?」


「だから本当だって!」


「信じるわよ?」


「保証するって!」


「…………間違いないのね?」


「だから間違いないって言って――ってこのやり取りいつまで続くの!? 今完全に同じこと繰り返してたよね!? こわっ!」


 エンドレスループになる未来が一瞬垣間見えた。

 その未来を断ち切るように咳払いを一つして。


「ほんとに大丈夫だよ。見てて――『忌まわしくもまとわりつく湿りを拭い去れ』」


 俺の手のひらから、温かな風が放たれる。

 それはたちまちシエラの湿った服を乾かした。


 この微妙なセンスの呪文の効果は、『乾燥』だった。

 濡れたものを乾かす力。


 これがあれば、雨の日でも洗濯物を簡単に乾かすことができるだろう。

 部屋干しでも湿気がこもったりしないから、においだってつきにくいはずだ。


「凄いじゃない、ジェラルドちゃん! 必ずやってくれると信じてたわ!」


 わあと母さんが嬌声を上げる。少女みたいな無邪気な反応だったが、さっきさんざん疑われた俺としてはなんだか微妙に白々しい。


「にいたんすご~い」


 やっぱシエラは素直でかわいいな。愛してる。なんてすてきな生き物なんだろう。


「……さっき母さんには思い切り不信感向けられた気がするんだけど」


「気のせいよ」


「気のせいですか」


「ええ。わたしがジェラルドちゃんを疑うわけないわ。だってわたしとラッセルの子どもだもの!」


 そのあからさまな言葉に、俺は思わず苦笑を漏らしたけれど。

 まあ、これも母さんらしいなと思って簡単にごまかされてしまう辺り、俺が母さんに敵わないのも仕方ないのかもしれない。


「さ、お夕飯にしましょ、二人とも。わたし、もうお腹ぺっこぺこで」


「実は俺も」


「しえらもっ、しえらもごはんたべゆ!」


 家の中へと向かう母さんの後を、俺とシエラは手を繋いで追うのだった。

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